「消費税還元セール」という表示には景表法の適用がないことについて
消費者庁の「規制の事前評価書 消費税の円滑かつ適正な転嫁を阻害する表示への対応」という文書によると、「消費税還元セール」といった、消費税の転嫁を阻害する表示には、景表法の適用がないことが明言されています。
つまり、同文書では、
「・・・景品表示法は、実際のものより著しく優良・有利と一般消費者に誤認される表示を不当表示として禁止するものであり、特定の表現について一律に禁止するものではない。そのため、消費税率の引上げ時に行われる消費税の負担等に係る不適切な表示が、一般消費者に誤認を与えるものではない場合(※)、景品表示法で対応することができない・・・という問題点がある。」
「※ 景品表示法で規制できない消費税率の引上げ時に行われる消費税の負担等についての不適切な表示の例としては、消費税引上げ後において事業者が『消費税還元セール』と表示し、通常税込み108 円で販売されるものを実際に100 円で販売する場合がある。」
と現状の問題点を説明した上で、
「消費税率引上げ時に行われる消費税の負担等についての不適切な表示は、消費税の円滑かつ適正な転嫁を阻害するものであるところ、上記・・・のとおり現状の規制では対応できない場合があり、この点を踏まえると、消費税の円滑かつ適正な転嫁を確保するため、規制を新設し、消費税の円滑かつ適正な転嫁を阻害する表示を禁止する必要性が高いと考えられる。」
と述べています。
要するに、「消費税還元セール」という表示は、消費税転嫁特措法には違反するけれども、景表法には違反しないというのが消費者庁の公式見解だ、ということです。
しかし、特措法の仕組みに照らすとこれは驚くべきことです。
なぜなら、特措法では消費税転嫁阻害表示に対して消費者庁ができるのは勧告を出すことですが、勧告の意味(効果)というのは、勧告に従った場合には景表法の排除命令は出しませんよ、ということだからです。
勧告に違反したこと自体には、罰則はありません。
なので、条文の仕組みとしては、「勧告に任意に従わなかったら、景表法上の排除命令が待ってるぞ」という、いわば間接的な脅しによって、勧告を守らせようとしているわけです。
しかし、消費税転嫁阻害表示が景表法に反しないとすると、景表法の排除命令による間接的な強制というものが、そもそも存在しないことになります。
つまり、特措法上の勧告は、純粋に、法的拘束力を有しない行政指導に過ぎない、ということになります。
いわば、景表法上の排除命令は「空脅し」に過ぎないわけです。
もちろん、行政指導であっても、名前も公表されるし、多くの企業は任意に従うでしょうから、景表法による間接的な強制がなくても、勧告には十分意味があるということもできるでしょう。
しかしそれにしても、特措法の仕組みを素直に眺めれば、消費税転嫁阻害表示は景表法の有利誤認表示にも該当するという前提で法律はできていると考えるのが普通でしょう。
そういう意味で、特措法の消費税転嫁阻害表示に関する規定は、何ともちぐはぐな感じはします。
なお念のため、上記事前評価書では、
「※ 景品表示法で規制できない消費税率の引上げ時に行われる消費税の負担等についての不適切な表示の例としては、消費税引上げ後において事業者が『消費税還元セール』と表示し、通常税込み108 円で販売されるものを実際に100 円で販売する場合がある。」
といっているので、例えば、消費税引上げ後において事業者が「消費税還元セール」と表示しながら、通常税込み108 円で販売されるものを108 円で販売すると、景表法違反になる、ということには注意が必要です(ただし、そのような分かりやすい違反のケースは実際には少ないのではないかと思われます)。
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