情報成果物作成委託の定義の疑問
情報成果物作成委託の第1類型は、
「事業者が業として行う提供・・・の目的たる情報成果物の作成の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること」
というものであり、第2類型は、
「事業者が・・・業として請け負う作成の目的たる情報成果物の作成の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること
というものですが(下請法2条3項)、実はこの2つの区別には意味がありません。
なぜなら、第2類型は第1類型に完全に含まれるので、第1類型だけで事足りるからです。
式で示すと、
「提供」(第1類型)>「作成」(第2類型)・・・①
ということです。
そのことは定義の文言だけからみて明らかで、「作成」(第2類型)を業として行っている場合は、「提供」(第1類型)も業として行っているからです(逆に、「提供」(第1類型)だけ行っているけど製造はしていない、ということはいくらでもあります。)。
なお、「作成」は行っているけれど「提供」は行っていない、という場合は、自己使用のために作成していることになりますが、その場合は、次の第3類型に落ちていきますので、いずれにせよ、「作成」(第2類型)を独立して切り出す必要はありません。
式で表すと、
「作成」(第2類型に限らない)≡提供目的の「作成」(第2類型)+自己使用目的の「作成」(第3類型)・・・②
といったところでしょうか。
第2類型は第1類型に含まれることは、下請法運用基準の具体例をみてもよくわかります。
つまり、下請法運用基準では、第1類型(提供)の例として、
「ソフトフェア開発業者が、ユーザーに提供する汎用アプリケーションソフトの一部の開発を他のソフトウェア開発業者に委託すること」
というのがあるのに対して、第2類型(作成)の例として、
「ソフトウェア開発業者が、ユーザーから開発を請け負うソフトウェアの一部の開発を他のソフトウェア開発業者に委託すること」
というのがありますが、両者は下線部が異なるだけで、他は同じです。
そして、第2類型の意味を実質的に変えずに少し加筆して、
「ソフトウェア開発業者が、ユーザーから開発を請け負った上で当該ユーザーに提供するソフトウェアの一部の開発を他のソフトウェア開発業者に委託すること」
としてやれば、第2類型の行為があら不思議、第1類型にも当てはまることが分かるはずです。
強いて第1類型(提供)と第2類型(作成)の違いをいえば、親事業者の顧客が、
①汎用品(あるいは親事業者が内容を決めた製品)を購入するような顧客であるのか(一般消費者は、すべてこちらに含まれるでしょう)→第1類型(提供)、
②親会社の顧客自身が中身を決めるようなオーダーメイドの商品を購入するような顧客であるのか(通常このような顧客は事業者でしょう。スーツのオーダーメイドが思いつきますが、そもそも「情報成果物」ではないですね。)→第2類型(作成)、
という区別となりますが、下請法の立法目的実現(下請保護)のためにこの区別に意味があるとは思えません。
なので、第1類型と第2類型の区別で悩む必要は、まったくありません(論理パズルとしては面白いかもしれませんが)。
このように、第2類型(作成)を削除して第1類型(提供)にまとめてしまった上に、さらに第3類型も整理すれば、情報成果物作成委託の定義も、
「事業者が、業として行う提供の目的たる情報成果物、又は業として作成する自己使用の情報成果物の作成の行為の全部又は一部を他の事業者に委託することをいう。」
というように、だいぶすっきりするのではないかと思います。
« 『独占禁止法の経済学』の気になる記述(資生堂花王事件) | トップページ | 自己使用目的情報成果物の作成委託の「業として」に関する公取委解釈の疑問 »
「下請法」カテゴリの記事
- 下請法のボリュームディスカウントの利益増加要件について(2024.12.09)
- 下請法の3条書面の代理交付(2024.08.08)
- やり直しに対する初の勧告(大阪シーリング印刷2024年6月19日)(2024.07.02)
- フリーランス適正化法の3条通知の時期に関する疑問(2024.06.28)
- 代金支払期日を定める義務に関する下請法2条の2の民事上の効力(2024.06.26)
« 『独占禁止法の経済学』の気になる記述(資生堂花王事件) | トップページ | 自己使用目的情報成果物の作成委託の「業として」に関する公取委解釈の疑問 »
コメント