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2013年7月29日 (月)

特措法の「大規模小売事業者」と大規模小売業告示の「大規模小売業者」

消費税転嫁特措法では、大規模小売業者が取引先かのら消費税の転嫁を拒否することが禁止されています。

そして、「大規模小売業者」の定義は、「大規模小売業者による納入業者との取引における特定の不公正な取引方法」(大規模小売店舗告示)の「大規模小売業者」(こちらは、「事」が入っていません。)と同じで、

「一般消費者により日常使用される商品の小売業を行う者・・・であって、次の各号のいずれかに該当するものをいう。

一 前事業年度における売上高・・・が100億円以上である者

二 次に掲げるいずれかの店舗を有する者

イ 東京都の特別区の存する区域及び〔政令指定都市〕の区域内にあっては、店舗面積・・・が3000平方メートル以上の店舗

ロ イに掲げる市以外の市及び町村の区域内にあっては、店舗面積が1500平方メートル以上の店舗」

と定義されています(「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法第2条第1項第1号の大規模小売事業者を定める規則案」)。

さて、特措法の転嫁拒否禁止の規定と大規模小売業告示の規定は、似ているところもありますが、実は結構異なります。

まず、大規模小売業告示の場合は、相手方が「納入業者」に限られていて、「納入業者」は、

「大規模小売業者又はその加盟者が自ら販売し、又は委託を受けて販売する商品を当該大規模小売業者又は当該加盟者に納入する事業者(その取引上の地位が当該大規模小売業者に対して劣っていないと認められる者を除く。)」

と定義されています。

これに対して、特措法の転嫁拒否の場合、大規模小売事業者の取引の相手方である「特定供給事業者」は、

「事業者が大規模小売事業者に継続して商品又は役務を供給する場合における当該商品又は役務を供給する事業者」

というだけで、継続的な取引先であることと、事業者であるということ以外、何の限定もありません。

なので、特措法の転嫁拒否規定の方が、相手方がはるかに広いということです。

例えば、

本社社屋の賃料

本社で使用するシステム開発

本社の清掃

宣伝広告

本社の引っ越し

有価証券の売買の委託

企業年金の受託機関との契約

なども、すべて転嫁拒否規定の適用対象になるように思われます。

つまり、転嫁法の規定は店舗の購買担当者にだけ理解させたのでは足りない、別の言い方をすれば、特措法は購買部マターでも各店舗マターでもなく、法務部または総務部マターである、ということです。

さらに、転嫁拒否禁止については、大規模小売店舗告示の納入業者の定義のような、

「その取引上の地位が当該大規模小売業者に対して劣っていないと認められる者を除く。」

という絞りがないことにも注意が必要です。

この点に関連して、粕渕功著『大規模小売業告示の解説』(商事法務・2005年)p37に興味深い解説があって、そこでは、

「なお、小売業者の総売上高が100億円以上であるものなので、例えば、事業者が小売業と製造業を営んでいる場合に、小売部門の売上が1億円で、製造部門の売上高が99億円であっても、形式的には第1号に該当することとなる。

しかしながら、後述のとおり、この告示〔大規模小売店舗告示〕における納入業者には、取引上の地位が当該大規模小売業者に対して劣っていないと認められる者は除かれることとなっているところ、小売部門の売上が1億円しかない小売事業者と取引する納入業者が、当該小売業者に対して取引上の地位が劣っていないとは認められないような場合は考えにくいのではないかと思われる。

このように、大規模小売業者の主たる事業が小売業以外であって、たまたま別途小売業も営んでおり、その売上高が小規模な場合には、第2号〔店舗面積基準〕に該当する場合を除き、運用上は問題とならないであろう。

と説明されています。

つまり、大規模小売業告示の場合には、小売部門の売上が1億円の企業も定義上「大規模小売業者」に該当するけれど、納入業者に対して優越的地位にあるとは通常いえないのだから、運用上は問題ない、ということです。

逆にいえば、転嫁特措法には「その取引上の地位が当該大規模小売業者に対して劣っていないと認められる者を除く。」というような相手方の絞りがないので、製造業メインの会社がたまたま小売業を営んでいる場合でも、もろに転嫁拒否禁止規定の適用がある、ということです。

さらに同書p35では、

「通信販売業者のように店舗を有しない者であっても、〔大規模小売店舗告示の〕対象となる。」

とされています。

これが特措法の「大規模小売事業者」の定義にも当てはまるとしたら、大問題ではないでしょうか。

というのは、今日どのメーカーでもネット直販をやっているでしょうから、ほとんどのメーカー(たとえば家電メーカー)が、「大規模小売事業者」に該当してしまいそうだからです。

(この点、販売会社を本体から分社化していれば、大丈夫なのでしょうね。)

同書p35では、サービス業の会社が付随的に商品を販売している場合(例えば書道の通信教育講座の会社が毛筆や硯を販売する場合)や、ホテルがホテルの売店で土産を販売する場合には「小売業を営む者」に該当しないと説明されていますが、サービス業が主なら該当しないけど、製造業が主なら該当するとも読め、ますます混迷は深まります。。。

実務上、以上の問題点によって影響のある企業がどれだけあるのかは未知数ですし、公取委が、そういう場合は積極的に摘発しない(お目こぼしをする)ということは十分に考えられます。

でも、今まで大規模小売業告示は事実上無関係だと思ってスルーしていた企業も、一度転嫁特措法についてはチェックしてみる必要があるのではないでしょうか。

それにしても、法律が成立してしまって後の祭りですが、やっぱり「大規模小売事業者」についての転嫁拒否の適用範囲は、もう少し絞るべきだったのではないでしょうか。

相手方を納入業者に限るというのも1つですし、小売業を主として営む者に限るというのも1つだったでしょう。

あ、でも「大規模小売事業者」の定義は公取委の規則事項ですから、まだパブコメ中なので、何とかなるかもしれませんね。

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