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2013年6月 3日 (月)

消費税特措法案3条(特定事業者の遵守事項)について

「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法案」が国会で審議中ですが、法案3条(特定事業者の遵守事項)について、気になる点を記しておきます。

まず法案3条1号の減額・買いたたきについてですが、同号では、

商品若しくは役務の対価の額を減じ、

又は

商品若しくは役務の対価の額を当該商品若しくは役務と同種若しくは類似の商品若しくは役務に対し通常支払われる対価に比し低く定めることにより、

特定供給事業者による消費税の転嫁を拒むこと。

が禁止されています。一目で、前段が下請法4条1項3号(代金減額)と、後段が同項5号(買いたたき)を参考にしたのだとわかります。

(なお、参考にしたといっても両者はまったく別物で、下請法は製造委託等の極めて狭い取引に適用されるのに対して、特措法は消費税が関係する場合にはおよそ適用されます。)

ところで、下請法の代金減額と買いたたきの解釈としては、一般的には、下請事業者の同意があっても違反となると解釈されています(振り込み手数料の負担など、一定の場合に限って認められるとの立場が、公取委の下請法講習テキスト等で示されています。)。

これとパラレルに考えると、特措法案3条1号の減額・買いたたきにおいても、相手方の同意は問題にならず、大規模小売事業者が消費税増税後も納入業者に価格を据え置かせると常に違法になる、ということになりそうです。

しかし、それでは、もし納入業者の同意(真の同意であることが前提)があっても、常に3%分上乗せしなければならないことになり、あまりにも不合理だと思います。

そして、このように考えるのには条文の根拠もあります。

つまり、特措法3条1号は下請法と異なり、

「特定供給事業者による消費税の転嫁を拒むこと」

というのが条文の要件になっていますが、「拒んだ」といえるためには、最低限、転嫁の申し出が納入業者からある必要があると考えるのが自然でしょう。申し出があってこそ、その拒絶がありうるわけです。

まして、納入業者から据え置きを申し出てきたときまで「転嫁を拒んだ」というのは、合理的な文言解釈を超えていると思います。

実質的にいっても、下請法の場合は親事業者が下請事業者に対して類型的に強い立場にあることが前提とされているのに対して、特措法の場合は、とくに特定事業者(消費税の転嫁を受ける側)が大規模小売事業者でない場合には、特定供給事業者(消費税を転嫁する側)のほうが規模が大きい場合も普通にありうるのですから、下請法と特措法を、条文が似ているからというだけで同じに解釈する必要もないと思われます。

もし、納入業者の同意は問題にならないという結論を取りたいのであれば、

「消費税増税後の価格は、消費税増税前の価格に3%加えた価格としなければならない。」

とでもすべきでしょう(消費税導入時の公取委の解説などをみると、公取委はそのように考えているフシがありますが)。

いずれにせよ、この点についてはパブコメ回答やガイドラインで公取委の見解が示されることになるような気がします。

次に、下請法4条1項5号の買いたたきでは、

「通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること」

となっているのに対して、特措法3条1号後段の買いたたきでは、

通常支払われる対価に比し低く定めること

となっていて、「著しく」と「不当に」という文言が抜けています。

「著しく」が抜けているのは、3%くらいで「著しく」というのが気が引けたからではなくて(笑)、おそらくこれは「不当に」がないのとセットで考えるべきで、3%程度の「著しく低い」とはいえない代金を定めただけでも、消費税転嫁の文脈では当然に、「不当」であるという意味が込められているのでしょう。

なお、

特措法3条1号の減額・買いたたきの禁止も、下請法4条1項3号・5号と同様、優越的地位の濫用の特則なので、消費税3%の転嫁を拒んだだけで「濫用」となるのかと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、問題なく「濫用」になり得ます。

というのは、濫用行為というのは、たとえば映画のチケットを買わせるというような、経済的には微々たるものでも成立するのであり、3%も減額すれば、「濫用」というには十分だからです。

次に、法案3条3号では、

「商品又は役務の供給の対価に係る交渉において消費税を含まない価格を用いる胸の特定供給事業者からの申出を拒むこと」

が禁止されています。

これは、消費税抜きでの価格交渉を促進して、妥結後に8%上乗せされることによって消費税が円滑に転嫁されることを期待したものでしょう。

税抜き価格での交渉を強制することにどれだけ意味があるのか(電卓があれば、税込み価格をにらみながら税抜き価格で交渉できるのではないか)、という立法論的な問題はあり得ますが、それはさておき、気になるのは、特措法が税抜き価格での交渉拒否を優越的地位の濫用と位置付けていることです(このことは、3条違反の勧告の効果が、優越的地位の濫用の排除措置命令と課徴金納付命令の排除にあることから明らかです)。

しかし、税抜き価格での交渉を拒否しただけで、本当に優越的地位の濫用になるのでしょうか。

優越的地位の濫用の行為要件は、煎じ詰めれば、

「取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施すること」(独禁法2条9項5号ハ)

ですが、税抜き価格での交渉拒否は、取引の条件の「設定」でも「変更」でも、取引の「実施」でもないことは明らかでしょう。

また、税抜き価格での交渉を拒否しただけで本当に勧告がなされるのかも疑問で、おそらく、転嫁拒否があった場合についでに勧告の一部に加えられるのが関の山ではないかと予想します。

立法論としては、税抜き価格での交渉禁止を3条に入れたのがそもそも問題なのであって、転嫁拒否とは独立の特措法上の新たな義務として、別の条文で規定したうえで、エンフォースメントも特措法上の排除命令みたいなものを定めないと、意味がないのではないかと思います。(私は、税抜き価格での交渉禁止自体が、あまり意味がないと考えていることは前述のとおりです。)

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