3条書面の仕様の記載と受領拒否における下請事業者の帰責事由との関係
「下請事業者との取引に関する調査について」の平成25年度版が、中小企業庁のホームページで公開されています。受領された企業の方も多いと思います。
さて、その中で「質問10 返品について」として、
「10-1 下請事業者に責任(不良品)がないのに返品したことがありましたか(やり直しのための一時的な返品は含みません。)。
返品したことがある場合、返品した理由は何ですか。」
という質問があり、その回答の選択肢として、
「ウ 仕様に記載のない事項(色むら、しみ等)に問題があったため」
というものがあります。
アの、「返品したことはない。」という選択肢であれば問題ないことは一目瞭然なので、それとの対比で、上記ウを選択した場合、何か問題があるのか(中小企業庁に問題視されるのか)という疑問がわき、色むら、しみ等があったために返品した場合にはすなおにウを選択していいのか、迷うところです。
しかし、これは回答の選択肢の立て方がややおかしい(論理的でない)のであって、実は、色むら、しみ等があったために返品があったとしても、必ずしもウを選択しなければならないわけではないと考えられます。
というのは、質問10-1では、
「下請事業者に責任(不良品)がないのに」
という限定がついているので、ウの「色むら、しみ等」というのは、不良品とはいえないような「色むら、しみ等」に限られる、と解釈できるからです。
したがって、不良品といえるような「色むら、しみ等」(そのような場合が多いでしょう。)を理由に返品した場合には、ウを選択する必要はなく、
「ア 返品したことはない」
を選択しておけばよいことになります。
(この選択肢もやや不親切で、設問と併せて読めば、趣旨としては、「責任(不良品)がないのに返品したことはない」という意味と考えられます。)
さて、ウの選択肢が「仕様に記載のない事項」であることを問題にしていることとの関係で、解釈論として問題となるのは、3条書面に「仕様」として記載されているところと異なる理由で返品することは一切許されないのか、という点です。
結論としては、「仕様」(3条書面規則1条1項2号の用語でいえば、「給付・・・の内容」)として記載していなかった事実を理由として返品をしても、下請事業者に責任(不良品など)がある限り、問題はないと考えるべきでしょう。
理由はまず、3条書面の「給付・・・の内容」の記載のみが下請事業者の責任の範囲を画すると考える条文上の根拠がありません。取引の実情に照らして明らかに不良品である場合には、3条書面に記載しなくても、不良品といえるのが当然です。
また、「給付・・・の内容」を3条書面に記載させる趣旨は、
「下請取引において口頭による発注は、発注内容・支払条件が不明確でトラブルが生じやすく、トラブルが生じた場合、下請事業者が不利益を受けることが多い。このため・・・下請取引に係るトラブルを未然に防止するためこの規定〔下請法3条〕が設けられた。」(講習テキスト23頁)
ということなので、明らかな不良品の場合まで「給付・・・の内容」として記載しておかないと下請事業者の責任を問えなくなるというのは、3条書面の趣旨を超えています。
さらに、「給付・・・の内容」として、漠然と「不良品でないものを給付すること」と書くことには意味がありませんし(書かなくても当たり前)、反対に、考え得るありとあらゆる欠陥を列挙しないといけないというのも不合理です。
実際、講習テキストp24の「下請事業者の給付の内容の記載」でも、
「3条書面に記載する『下請事業者の給付の内容』とは、親事業者が下請事業者に委託する行為が遂行された結果、下請事業者から提供されるべき物品・・・の品目、品種、数量、規格、仕様等、・・・である。」
と解説されており、「等」というのが気持ち悪いですが、あらゆる瑕疵がないことまで書くべきとの趣旨は伺えません。
また、さらに続けて、
「3条書面を交付するに当たっては、下請事業者が作成・提供する委託の内容が分かるよう、これらを明確に記載する必要がある。」
と解説されており、要は、委託の内容が分かるように明確に記載すればいいので、明らかな不良品ではだめなことは書かなくても分かる(委託の内容が明確であるといえる)といえます。
結局、上記選択肢ウが、「色むら、しみ等」があっても、3条書面の仕様に記載していないと返品できないかのような書きぶりになっているのが、やや誤解を招くのであって、もう少し適切な選択肢はないものかという気がします。
もちろん、不良品とはいえないような「色むら、しみ等」を理由に返品してはいけないわけで、どの程度の「色むら、しみ等」まで許されるのか明確でない場合には、どの程度まで許されるのか3条書面に記載しておくのが望ましいとはいえるでしょう。
しかし、だからといって、3条書面に「色むら、しみ」についての記載がないから「色むら、しみ」を理由に返品することは許されないと考えるのは、明らかに誤りだと思います。
なお、下請法運用基準第4の4では、
「なお、次のような場合には委託内容と異なること又は瑕疵等があることを理由として下請事業者にその給付に係るものを引き取らせることは認められない。
ア 三条書面に委託内容が明確に記載されておらず、又は検査基準が明確でない等のため、下請事業者の給付の内容が委託内容と異なることが明らかでない場合」
との考え方が示されており、3条書面の記載が返品の可否の基準になるかのように説明されていますが、確かに3条書面の記載は返品の可否を判定する一つの要素にはなるものの、唯一の要素ではないというべきでしょう。運用基準が、「又は検査基準が明確でない等」といっているのも、返品の可否を決める要素は様々であるということを認める趣旨でしょう。
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