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2013年6月20日 (木)

昨日の日経夕刊の再販に関する記事について

昨日(6月19日)の日経夕刊一面トップに「メーカーの価格指定容認」という記事が出ていました。

メーカーによる再販売価格拘束を認めることを経産省と公取委が検討し始めた、という内容ですが、日本と欧米の現状の紹介に、いくつか不正確な点があります。

まず、日本の現状として、

「メーカーが小売店に顧客情報の提供や販売地域の制限を求めることも、販売価格への介入につながるため違法。」

と説明されていますが、そんなことはありません。

顧客情報のメーカーへの提供が独禁法上の問題になるとは普通は思えませんし(せいぜい、優越的地位の濫用くらいでしょうか)、販売地域の制限は、流通取引慣行ガイドラインで一定の場合に違法になるとはされていますが、販売地域制限単独での摘発例は皆無です。

次に、「欧米ではメーカーにも価格指定を認めるように法規制の緩和が進んでいる。」としたうえで、

「米国では2007年以降、価格指定を一律に制限するのではなく、商品の供給不足など問題が生じる場合にのみ規制。」

と説明されています。

この部分は、おそらく2007年のリージン事件最高裁判決で再販売価格維持が当然違法から合理の原則に変更されたことを指しているのだと思いますが、「商品の供給不足など問題が生じる場合にのみ規制」というのは狭すぎます。典型的には価格が維持されることが問題なのであって、それを「のみ」に読み込むのはちょっと無理なように思います。

また、再販売価格維持で「商品の供給不足」が生じるというのも、よく分かりません。(そんなこと、あるんですかね?)

さらに、メーカーによる価格指定に関する欧州での現状として、

「欧州連合(EU)ではメーカーの市場占有率が30%未満の場合は違法としないなど、規制を緩和している。」

と説明されていますが、これも違います。

確かにEU垂直制限一括適用免除規則では市場シェア30%未満の垂直制限は原則として違法ではないというセーフハーバーが設けられていますが(規則3条)、再販売価格維持はいわゆるハードコア条項として市場シェアにかかわらず一括適用免除は受けられない(つまり、基本的には違法)とされています(規則4条(a))。

記事でも図表の方は、EUでの再販売価格維持について、

「原則違法だが、新製品を導入する際には容認」

と説明されていて、こちらの方は概ね正しいです。(垂直制限ガイドラインのパラグラフ225。「概ね」といったのは、新製品導入なら常に再販が合法になるわけではなく、ケースバイケースの判断になるからです)。

確かに再販については欧米と比べて日本が一番厳しいように思いますが、欧米並みに緩和するといっても、記事で紹介されているような「欧米並み」だと、逆にちょっと緩すぎるような気がします。

それにしても、流通取引慣行ガイドラインが改正されるらしいという話はありましたが、まさか再販から入るとは驚きですね。

その当否については、またこのブログでも書いていきたいと思います。

【6月28日追記】

上記日経の記事で、公取委が再販に関してガイドラインを見直す検討に入ったというのは、誤報のようですね。

6月26日付事務総長定例会見で、

「・・・公正取引委員会が,冒頭申し上げたとおり,欧米並みにメーカーによる価格指定を容認する方向で検討に入る旨,報道されたところですけれども,これは誤りでして,公正取引委員会としては,欧米でも厳しく規制されているメーカーによる価格指定につきまして,そうしたメーカーによる価格指定を容認する方向での見直しを行う考えはございません・・・」

と述べられています。

しかも、事務総長定例会見が公取委HPのトップニュースになっています。

(現在は公取委HPがリニューアルされて、トップページに事務総長会見へのリンクができましたが、以前は、定例会見は、該当箇所を探していかないと分からないような奥の方にあったものです。)

よっぽど、火消しに回らないといかんと思われたんでしょうね。

びっくりしてちょっと損しました(笑)。

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