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2013年6月

2013年6月25日 (火)

公正取引の連載「米国反トラスト法実務講座」を紹介していただきました。

手前味噌ですが、雑誌『公正取引』に連載中の「米国反トラスト法実務講座」を、西村暢史「海外競争法・競争政策(欧米)の文献紹介と資料の探し方」(同誌750号43頁)で紹介していただきました。

以下に、その部分を引用させていただきます。

「次いで、法律実務家による文献として、本誌に連載されている(連載開始は735号)植村幸也「米国反トラスト法実務講座」も必読となる。

精力的に国内外において活動・発信を続けている著者による「反トラスト法民事訴訟」(本誌744号に掲載)は、日本企業が直面する米国競争法の実態を知る上で重要な文献となると考えられる。」

う~ん、身に余るお言葉です。

毎回書きたいことが多すぎて(それでも、実務で知っておくと役立つだろうな、というポイントに絞っているつもりですが)、どうしても上っ面を舐めただけの、知識の紹介になりがちなので、読み物としての面白みはないかもしれませんが、我慢して読んでいただければ(笑)、それなりに有益なのではないかと思います。

もちろん、「良くまとまってるけど面白みはないね」と、率直なご批判を頂くこともあり、むしろそのほうが、改善の糧になって有難かったりします。

「年をとるとだんだん叱ってくれる人が減っていく。」といいますが、そういう年の取り方はしたくないものです。

いずれにせよ、積極、消極、どちらであっても、読者のフィードバックがあるというのは、大変ありがたいものです。

このような連載をして思うのは、やっぱり雑誌や書籍を残すというのは大変な労力だなということですね。

細かい体裁や言葉遣いなど、労力をかけただけのベネフィットがあるのか疑問になるようなところに労力をかけないといけないのは、けっこう大変です。

その点、気分転換で自由奔放に書けるブログは良いです(間違いも後でこっそり直せるし。笑)。

でも、ちゃんと書いたものを残すことも大事なんでしょうね。

どちらも頑張っていきたいと思います。

(ちなみに隔月で、私の連載とは交互に、同僚の茂木龍平弁護士の「EU競争法実務講座」も公正取引に連載されています。こちらも西村先生の記事に紹介されています。)

2013年6月24日 (月)

広告宣伝から分かる競争の実態

企業結合審査で競争の実態を知る目安として、その商品がどのように広告宣伝されているか、というのが重視されることがあります。

例えば、競争が全国的に行われているのか、各地域(例えば店舗から半径10キロメートル以内とか)で行われているのか、を判断するために、価格に関する広告宣伝が全国規模で行われているのか、それとも各地域ごとにおこなわれているのか、が考慮される、という具合です。

もう少し具体的にいえば、例えばスーパーなどの価格広告は、店舗の近辺で配布する新聞折り込み広告で行われることが多いでしょう。

とすると、価格競争は店舗近辺を中心に行われているのだな、と考えるわけです。

逆に例えばコンビニエンスストアでは、「おにぎり全品20円引き」みたいなテレビCMを見ることが多いですが、そうすると、価格競争は全国規模で行われているのではないか(少なくとも事業者は、全国規模での競争圧力にのみ反応していて、一地方でライバルが安値競争をかけてきても反応しないのではないか)というふうに考えられます。

また例えば、携帯電話の料金プランも、全国統一料金で、広告も全国同一のものが行われていれば、競争は全国単位で行われているのだな、と理解できるわけです(日本の場合は、全国規模のキャリアが3社あるだけですので、こう書いても当たり前のように見えますが、アメリカでは地域限定のキャリアが存在したりするので、競争の地理的範囲というのは現実的な争点になったりします)。

ガソリンスタンドなどは、店頭での価格表示が広告宣伝の中心でしょうから、競争はスタンド近辺の地域ごとになされている、と理解できます。

またあるいは、ある金融商品と別の金融商品を、同じような見せ方で、同じような需要者層にアピールするようにウェブサイトで宣伝広告していると、両商品は同一の商品市場に属するのではないか、と考えたりします。

このように、宣伝広告の方法で競争の実態を推測することのメリットは、細かい価格変動のデータ(POSデータ等)を取らなくても、おおよその競争の実態が想像できる、ということです。

そして、宣伝広告というのは企業が競争上一番気を遣う要素の1つであり、どのようにアピールすれば最も需要者に受け入れられるかを綿密に考えて行っていることは間違いないですから、その意味でも、宣伝広告の方法というのは、競争の実態を知るための信頼性の高い指標になり得る、といえます。

そして、似たような商品でも、事業者の事業形態によって、広告宣伝の方法は異なり得ます。

例えば同じ例の繰り返しですが、同じ食料品を売る場合でも、コンビニの場合は、テレビCMで「20円引き」といった、具体的な価格まで宣伝することが多いように思われます。

これに対してスーパーでは、テレビCMでは「今週水曜日は大安売り。詳しくは明日の新聞折り込みチラシで」というにとどめる、ということが可能であるように思われます。

その理由としては、スーパーの主な顧客層である主婦は価格に敏感なので新聞チラシまでチェックすることが期待できるけれども、コンビニの主な顧客層はそんな手間をかけたりしない、という事情があることが予想できます。

別の例で、例えばマクドナルドが「100円バーガー」とかCMで宣伝することは考えられますが、「ハンバーガー割引。詳しくはウェブで。」とかいったCMでは、アピール力が弱いでしょうし、だれもわざわざ近所のマクドナルドの価格をウェブサイトでチェックしたりしないでしょう。

このように、同じ商品を売る場合でも、ターゲットにする需要者層によって宣伝広告の方法が変わり、そのために、全国統一価格にせざるを得ない(地域別価格を採用することが、著しくコスト高になる、あるいは非効率的な広告になる)ということが起こり得ます。

全国展開する小売店が、全国統一料金を取るか、地域別料金を取るのか、という選択をする際の考慮要素として、このような広告宣伝の効率性ということがかなり重視されているのではないかと思われます。(利益最大化だけを考えれば地域別料金の方が合理的である可能性が高いはず。ほかには、全国的な評判を重視するか、とか、地域別料金を管理する管理コストが大きいか小さいか、といった事情も考慮されるでしょう。)

というわけで、広告宣伝はもっともらしい経済分析よりも雄弁に競争の実態を語る、といえそうです。

2013年6月21日 (金)

下請法3条の電磁的記録の提供を行うことができなかった場合と受領拒否

「下請取引における電磁的記録の提供に関する留意事項」の「4 電磁的記録の提供を行うことができなかったときの措置」には、

「親事業者が書面の交付に代えて電磁的記録の提供を行うに当たって,

電磁的記録を送信し又は下請事業者が閲覧した場合であっても,

下請事業者のファイルに記録されなかったときは,下請法第3 条に違反することとなるので,

親事業者において下請事業者のファイルに記録されたか否かを確認することが必要となる。」

と説明された後に続けて、

「また,書面の交付に代えて電磁的記録の提供を行うに当たって,

当該電磁的記録が下請事業者のファイルに記録されなかった場合において,

下請事業者が納期までに納品できないこと等を理由に,

受領を拒否したり,下請代金を減じることは,

下請法第4 条第1 項第1 号(受領拒否の禁止)及び第3 号(減額の禁止)に違反する。」

と説明されています。

しかし、これはおかいと思います。

まず、受領拒否を例に説明すると、3条書面を交付していなかったからといって、民法上の契約(合意)が成立していて、納期も合意されていれば、その納期が当事者を拘束するのは当然です。

(上記留意事項の説明は、基本的には電磁的記録の場合に関するものですが、書面の場合と区別する理屈はないでしょう。

むしろ、上記留意事項の説明は、電磁的記録が送信され又は閲覧可能な状態におかれたのに下請事業者のファイルに記録されなかったという、親事業者として何もしていなかったわけではないという意味でより罪の軽い場合ですら、受領拒否になるという点で、露骨な3条書面不交付の場合よりも親事業者に厳しいものになっているとすらいえます。)

また、下請法講習テキストでも、合意が3条書面に優先することを前提にした解説があります。

つまり、講習テキストp36では、受領拒否に関するQ&Aの中で、

「Q54: 下請事業者が、正式な発注に基づかず見込みで作成してしまった場合には、その受領を拒絶しても問題ないか。」

との設問に対して、

「A: 発注していないものについて受領を拒否することは問題ない。

ただし、3条書面を作成せず口頭発注にて下請事業者に一定数量を作成させている場合には、書面の交付義務違反にとどまらず、受領拒否にも該当する。」

と回答されています。

つまり、口頭発注も有効であって、かかる有効な発注であるにもかかわらず受領を拒否した場合には受領拒否になる、という、至極まっとうな説明がなされているのです。

この説明と、前述の「留意事項」の説明は、明らかに矛盾します。

なぜなら、「留意事項」の説明は、3条書面を交付しない限り(あるいは、3条書面に納期を記載しない限り)、納期の合意に下請事業者は縛られないことを前提としていると考えざるを得ないからです。

下請法の趣旨からすれば、理論的な整合性よりも、下請事業者の保護を優先する(いいとこどりをする)ことにも、ある程度の合理性は認められるべきなのかもしれませんが、上記「留意事項」の説明は、ちょっと行き過ぎではないでしょうか。

というのは、文字通り「留意事項」を読めば、

「当該電磁的記録が下請事業者のファイルに記録されなかった場合において」

という以上に何も限定を付けていないので、そのような場合であれば、納期に納入できない理由いかんにかかわらず、親事業者は受領拒否できない(しかも、下請事業者が親事業者のホームページを閲覧して納期を確認していたとしても!)ということになるからです。

下請法ももう少し、理論的な整合性を重視して解釈した方が良いと思います。

2013年6月20日 (木)

昨日の日経夕刊の再販に関する記事について

昨日(6月19日)の日経夕刊一面トップに「メーカーの価格指定容認」という記事が出ていました。

メーカーによる再販売価格拘束を認めることを経産省と公取委が検討し始めた、という内容ですが、日本と欧米の現状の紹介に、いくつか不正確な点があります。

まず、日本の現状として、

「メーカーが小売店に顧客情報の提供や販売地域の制限を求めることも、販売価格への介入につながるため違法。」

と説明されていますが、そんなことはありません。

顧客情報のメーカーへの提供が独禁法上の問題になるとは普通は思えませんし(せいぜい、優越的地位の濫用くらいでしょうか)、販売地域の制限は、流通取引慣行ガイドラインで一定の場合に違法になるとはされていますが、販売地域制限単独での摘発例は皆無です。

次に、「欧米ではメーカーにも価格指定を認めるように法規制の緩和が進んでいる。」としたうえで、

「米国では2007年以降、価格指定を一律に制限するのではなく、商品の供給不足など問題が生じる場合にのみ規制。」

と説明されています。

この部分は、おそらく2007年のリージン事件最高裁判決で再販売価格維持が当然違法から合理の原則に変更されたことを指しているのだと思いますが、「商品の供給不足など問題が生じる場合にのみ規制」というのは狭すぎます。典型的には価格が維持されることが問題なのであって、それを「のみ」に読み込むのはちょっと無理なように思います。

また、再販売価格維持で「商品の供給不足」が生じるというのも、よく分かりません。(そんなこと、あるんですかね?)

さらに、メーカーによる価格指定に関する欧州での現状として、

「欧州連合(EU)ではメーカーの市場占有率が30%未満の場合は違法としないなど、規制を緩和している。」

と説明されていますが、これも違います。

確かにEU垂直制限一括適用免除規則では市場シェア30%未満の垂直制限は原則として違法ではないというセーフハーバーが設けられていますが(規則3条)、再販売価格維持はいわゆるハードコア条項として市場シェアにかかわらず一括適用免除は受けられない(つまり、基本的には違法)とされています(規則4条(a))。

記事でも図表の方は、EUでの再販売価格維持について、

「原則違法だが、新製品を導入する際には容認」

と説明されていて、こちらの方は概ね正しいです。(垂直制限ガイドラインのパラグラフ225。「概ね」といったのは、新製品導入なら常に再販が合法になるわけではなく、ケースバイケースの判断になるからです)。

確かに再販については欧米と比べて日本が一番厳しいように思いますが、欧米並みに緩和するといっても、記事で紹介されているような「欧米並み」だと、逆にちょっと緩すぎるような気がします。

それにしても、流通取引慣行ガイドラインが改正されるらしいという話はありましたが、まさか再販から入るとは驚きですね。

その当否については、またこのブログでも書いていきたいと思います。

【6月28日追記】

上記日経の記事で、公取委が再販に関してガイドラインを見直す検討に入ったというのは、誤報のようですね。

6月26日付事務総長定例会見で、

「・・・公正取引委員会が,冒頭申し上げたとおり,欧米並みにメーカーによる価格指定を容認する方向で検討に入る旨,報道されたところですけれども,これは誤りでして,公正取引委員会としては,欧米でも厳しく規制されているメーカーによる価格指定につきまして,そうしたメーカーによる価格指定を容認する方向での見直しを行う考えはございません・・・」

と述べられています。

しかも、事務総長定例会見が公取委HPのトップニュースになっています。

(現在は公取委HPがリニューアルされて、トップページに事務総長会見へのリンクができましたが、以前は、定例会見は、該当箇所を探していかないと分からないような奥の方にあったものです。)

よっぽど、火消しに回らないといかんと思われたんでしょうね。

びっくりしてちょっと損しました(笑)。

2013年6月19日 (水)

消費税転嫁特措法の勧告対象行為が時限立法であることの不思議

消費税転嫁特措法は、2017年(平成29年)3月31日までの時限立法です(特措法附則2条1項)。

ただ、ちょっと考えてみると、これは不思議なことです。

というのは、転嫁・表示カルテルが時限立法なのはまだ説明がつくのですが、転嫁拒否の禁止や、転嫁を阻害する表示(「消費税還元セール」など)の禁止は、エンフォースメントが勧告であることとの説明がつかないと思われます。

例えば転嫁拒否をした場合、公取委から勧告を受けることになり(特措法6条1項)、勧告に従った場合には優越的地位の濫用による排除措置命令および課徴金納付命令を受けないという仕組みになっています(特措法7条)。

つまり、転嫁拒否行為に関する特措法の規定は、独禁法の優越的地位の濫用の特則であり、いわば、転嫁拒否行為は優越的地位の濫用にも該当する(少なくとも、その可能性が高い)ということが、当然の前提にされているといえます。

そして、転嫁法が失効しようとしまいと、独禁法の優越的地位の濫用の要件は変わるはずがないのですから(独禁法自体の改正はなされていないので)、もし転嫁拒否行為が優越的地位の濫用にも該当する(あるいは、その可能性が高い)ということなのであれば、転嫁法が失効した後であっても、引き続き、転嫁拒否行為は優越的地位の濫用にも該当する(あるいは、その可能性が高い)はずです。

とすると、転嫁法の本質は、(下請法と同様、簡易迅速に処理するということもありますが)むしろ、独禁法の排除措置命令や課徴金よりも軽い処分である勧告というエンフォースメントで済ませてあげる、ということにあることになりそうです(同様のことは、下請法の勧告についてもいえます)。

とすると、転嫁法が失効したあとは、同法の軽いエンフォースメントではなくて、むしろ、独禁法の重いエンフォースメントしか用いられない、ということになります。

しかし、これは転嫁法を時限立法とした趣旨とは明らかに異なります。

転嫁法を時限立法としたのは、消費税の増税のインパクトというのは一時的なものなのだから、いつまでも法律として残しておくのはよくない、ということでしょう。

この趣旨は、転嫁・表示カルテルの容認については、良く当てはまります。総額表示義務の緩和についても、そうかもしれません。

転嫁拒否の禁止と転嫁阻害表示の禁止についても、おそらく立案者の意図としては、同じ趣旨(消費税の増税のインパクトは一時的なので時限立法とする)なのでしょう。

でもそうすると、転嫁法が失効したあとは転嫁拒否や転嫁阻害表示は適法であるという仕組みにしないと、つじつまが合わないはずです。

ところが、転嫁法の仕組みはそうなっていないと言わざるをえません。

一つの説明の仕方としては、転嫁拒否と転嫁阻害表示は、そのエンフォースメントをみれば優越的地位の濫用と景表法の特別法という位置づけになっているように見えるけれど、実はそうではなく、優越的地位の濫用と景表法とはまったく別の違反類型であって、特措法はそういうあらたな違反類型を期間を区切って違法としたのだ、という説明が考えられます。

でも、転嫁拒否と転嫁阻害表示が、優越的地位の濫用と景表法の有利誤認表示とはまったく別の違反類型だと正面から認めてしまうと、もし転嫁法で勧告を受けても、勧告に応じなければ、一から優越的地位の濫用や有利誤認への該当性を立証しなければならなくなる(なぜなら、両者は別の行為類型だから、あるいは似たような理屈ですが、転嫁法違反によっては優越的地位の濫用や有利誤認は推定されないから)、ということになりそうです。

別の切り口から言えば、下請法の勧告の場合には、それに従わないと独禁法の排除措置命令や課徴金がありうるというということが勧告に従うことを間接的に強制していると素直に言いやすいのですが、転嫁法の場合には、(そもそも転嫁拒否や転嫁阻害表示が優越的地位の濫用や有利誤認といえるのかという本質的な問題のほかに)転嫁法が時限立法である(=転嫁法は恒久的に転嫁拒否や転嫁阻害表示を優越的地位の濫用や有利誤認と推定するものではありえない)ために、下請法の勧告と同様の説明が、ますますしにくいように思われます。

おそらく公取委と消費者庁のタテマエとしては、時限立法であることに意味があるのはエンフォースメントの部分だけであって、違反要件については現行法上の優越的地位の濫用と有利誤認を確認したもの(あるいは、それらの枠内で画一性を持たせる観点から類型化したもの)であって時限立法であることに本来は意味がない(なので、転嫁法失効後も、ひき続きそれらの行為は違法である)ということなのかもしれません。

しかし、ホンネではそんなことを考えているはずはありません。

(おそらくホンネは、勧告のレピュテーション効果など、事実上の効果に期待しているのでしょう。)

もし転嫁法失効後も同法所定の行為を取り締まるつもりであるなら、そのことを国民に積極的にアピールしていかないと、国民への不意打ちになるでしょう。

というのは、普通の国民は、転嫁法が時限立法だと聞けば、「失効後は、転嫁法所定の行為はやっても構わないんだな」と思うに違いないからです。

どうも転嫁法を時限立法にしたのは、消費税導入時に転嫁・表示カルテルの容認を時限立法で容認したことを、あまり考えずに踏襲したのではないか、と疑われます。

しかし、転嫁拒否と転嫁阻害表示が時限立法であること(恒久立法でないこと)の意味というのは、よく考えてみる必要があるでしょう。

おそらくこれらの勧告対象行為も増税直後だけ問題になり得るので、これらの行為に関する転嫁法の規定にも増税直後のショックを緩和する役割しか持たせるべきではない、というのが時限立法である趣旨なのでしょう。

(つまり、転嫁拒否については、ショック緩和のために中小企業に短期的に下駄をはかせてあげる、転嫁阻害表示については、そもそも「消費税還元セール」は増税直後しか効き目がないので、2年も3年もしてから「消費税還元セール」をやる事業者はおらず、規制の必要性がない。)

ただそうすると、繰り返しになりますが、エンフォースメントを勧告としたこと(と、勧告の担保手段が排除措置命令と課徴金、あるいは措置命令しかないこと)は、理論的には誤りであった、と言わざるをえません。

むしろ端的に、転嫁法の勧告対象に対しては、排除措置命令を出すというエンフォースメントにすべきだったように思われます(そうなかったのは、おそらく、下請法に引きずられたためでしょう)。

簡易迅速な処理を目指して勧告にした、というのは説明にならず、行為類型が明確であれば排除措置命令も簡易迅速に出せるはずです(とくに現行の独禁法の排除措置命令と同様、勧告も審判もなくいきなり排除措置命令を出せる建て付けにした場合は、そうです。)。

以上のような矛盾や不都合は、企業が任意に勧告に従う限り顕在化しないのでしょうが、もし勧告に従わなかった場合には、きっとこの問題が顕在化するでしょう。

その時に、転嫁拒否が本当に優越的地位の濫用といえるのか(転嫁拒否は、たんに市場環境の変化に対応した企業の合理的な(=利益最大化)行動に過ぎないのではないか、下請けいじめに比肩するような悪質な行為と言えるのか。転嫁阻害表示で、本当に消費者が誤認するのか)ということが、問われることになるのでしょう。

2013年6月18日 (火)

3条書面の仕様の記載と受領拒否における下請事業者の帰責事由との関係

「下請事業者との取引に関する調査について」の平成25年度版が、中小企業庁のホームページで公開されています。受領された企業の方も多いと思います。

さて、その中で「質問10 返品について」として、

「10-1 下請事業者に責任(不良品)がないのに返品したことがありましたか(やり直しのための一時的な返品は含みません。)。

返品したことがある場合、返品した理由は何ですか。」

という質問があり、その回答の選択肢として、

「ウ 仕様に記載のない事項(色むら、しみ等)に問題があったため」

というものがあります。

アの、「返品したことはない。」という選択肢であれば問題ないことは一目瞭然なので、それとの対比で、上記ウを選択した場合、何か問題があるのか(中小企業庁に問題視されるのか)という疑問がわき、色むら、しみ等があったために返品した場合にはすなおにウを選択していいのか、迷うところです。

しかし、これは回答の選択肢の立て方がややおかしい(論理的でない)のであって、実は、色むら、しみ等があったために返品があったとしても、必ずしもウを選択しなければならないわけではないと考えられます。

というのは、質問10-1では、

「下請事業者に責任(不良品)がないのに」

という限定がついているので、ウの「色むら、しみ等」というのは、不良品とはいえないような「色むら、しみ等」に限られる、と解釈できるからです。

したがって、不良品といえるような「色むら、しみ等」(そのような場合が多いでしょう。)を理由に返品した場合には、ウを選択する必要はなく、

「ア 返品したことはない」

を選択しておけばよいことになります。

(この選択肢もやや不親切で、設問と併せて読めば、趣旨としては、「責任(不良品)がないのに返品したことはない」という意味と考えられます。)

さて、ウの選択肢が「仕様に記載のない事項」であることを問題にしていることとの関係で、解釈論として問題となるのは、3条書面に「仕様」として記載されているところと異なる理由で返品することは一切許されないのか、という点です。

結論としては、「仕様」(3条書面規則1条1項2号の用語でいえば、「給付・・・の内容」)として記載していなかった事実を理由として返品をしても、下請事業者に責任(不良品など)がある限り、問題はないと考えるべきでしょう。

理由はまず、3条書面の「給付・・・の内容」の記載のみが下請事業者の責任の範囲を画すると考える条文上の根拠がありません。取引の実情に照らして明らかに不良品である場合には、3条書面に記載しなくても、不良品といえるのが当然です。

また、「給付・・・の内容」を3条書面に記載させる趣旨は、

「下請取引において口頭による発注は、発注内容・支払条件が不明確でトラブルが生じやすく、トラブルが生じた場合、下請事業者が不利益を受けることが多い。このため・・・下請取引に係るトラブルを未然に防止するためこの規定〔下請法3条〕が設けられた。」(講習テキスト23頁)

ということなので、明らかな不良品の場合まで「給付・・・の内容」として記載しておかないと下請事業者の責任を問えなくなるというのは、3条書面の趣旨を超えています。

さらに、「給付・・・の内容」として、漠然と「不良品でないものを給付すること」と書くことには意味がありませんし(書かなくても当たり前)、反対に、考え得るありとあらゆる欠陥を列挙しないといけないというのも不合理です。

実際、講習テキストp24の「下請事業者の給付の内容の記載」でも、

「3条書面に記載する『下請事業者の給付の内容』とは、親事業者が下請事業者に委託する行為が遂行された結果、下請事業者から提供されるべき物品・・・の品目、品種、数量、規格、仕様、・・・である。」

と解説されており、「等」というのが気持ち悪いですが、あらゆる瑕疵がないことまで書くべきとの趣旨は伺えません。

また、さらに続けて、

「3条書面を交付するに当たっては、下請事業者が作成・提供する委託の内容が分かるよう、これらを明確に記載する必要がある。」

と解説されており、要は、委託の内容が分かるように明確に記載すればいいので、明らかな不良品ではだめなことは書かなくても分かる(委託の内容が明確であるといえる)といえます。

結局、上記選択肢ウが、「色むら、しみ等」があっても、3条書面の仕様に記載していないと返品できないかのような書きぶりになっているのが、やや誤解を招くのであって、もう少し適切な選択肢はないものかという気がします。

もちろん、不良品とはいえないような「色むら、しみ等」を理由に返品してはいけないわけで、どの程度の「色むら、しみ等」まで許されるのか明確でない場合には、どの程度まで許されるのか3条書面に記載しておくのが望ましいとはいえるでしょう。

しかし、だからといって、3条書面に「色むら、しみ」についての記載がないから「色むら、しみ」を理由に返品することは許されないと考えるのは、明らかに誤りだと思います。

なお、下請法運用基準第4の4では、

「なお、次のような場合には委託内容と異なること又は瑕疵等があることを理由として下請事業者にその給付に係るものを引き取らせることは認められない。

ア 三条書面に委託内容が明確に記載されておらず、又は検査基準が明確でない等のため、下請事業者の給付の内容が委託内容と異なることが明らかでない場合」

との考え方が示されており、3条書面の記載が返品の可否の基準になるかのように説明されていますが、確かに3条書面の記載は返品の可否を判定する一つの要素にはなるものの、唯一の要素ではないというべきでしょう。運用基準が、「又は検査基準が明確でない」といっているのも、返品の可否を決める要素は様々であるということを認める趣旨でしょう。

2013年6月17日 (月)

総額表示義務の緩和を利用した「消費税還元セール」禁止の回避

消費税転嫁特措法が6月5日に成立しました。

同法8条では、

「一 取引の相手方に消費税を転嫁していない旨の表示

二 取引の相手方が負担すべき消費税に相当する額の全部又は一部を対価の額から減ずる旨の表示であって消費税との関連を明示しているもの

三 消費税に関連して取引の相手方に経済上の利益を提供する旨の表示であって前号に掲げる表示に準ずるものとして内閣府令で定めるもの

が禁止されることになりました。(いわゆる、「消費税還元セール」という表示の禁止)

それとともに、同法10条では、

事業者(消費税法(昭和六十三年法律第百八号)第六十三条に規定する事業者をいう。以下この条において同じ。)は、

自己の供給する商品又は役務の価格を表示する場合において、

今次の消費税率引上げに際し、消費税の円滑かつ適正な転嫁のため必要があるときは、

現に表示する価格が税込価格・・・であると誤認されないための措置を講じているときに限り、

同法第六十三条の規定にかかわらず、税込価格を表示することを要しない

ということで、消費税法63条の総額表示義務が緩和されました。

そこで、この総額表示義務の緩和を利用して、例えば本体価格10,000円の商品の価格を、

「10,000円+5%」

という表示をすることは、問題ないでしょうか。

まず、特措法8条の「還元セール」禁止との関係では、国会審議の過程で、「であって消費税との関連を明示しているもの」の部分が加わったことから、「消費税」というコトバを用いない限りはOKという方向に落ち着きそうです(消費者庁のガイドライン待ち)。

なので、「10,000円+5%」という表現も、OKとなるのでしょう。

やや問題なのが、特措法10条との関係でしょう。

つまり、特措法10条では、総額表示義務が緩和される要件として、

現に表示する価格が税込価格・・・であると誤認されないための措置を講じているときに限り

という絞りがかかっています。

つまり、消費税引上げ後に、

「10,000円(税抜)」

と表示しておけば、「現に表示する価格」(=「10,000円」)が、「税込価格・・・であると誤認」されないことは明らかでしょうから、10条の要件を満たしてOKということになるでしょう。

さらに、

「10,000円+税」

という表示も、「+税」という部分が、「現に表示する価格」(=「10,000円」)を「税込価格・・・であると誤認」させないための措置と認められるのでOKといって良いでしょう。

そこで、上記設例の、

「10,000円+5%」

ですが、結局この問題は、消費税が8%に上がったあとに「+5%」という表示を加える措置をとることで、現に表示する価格」(=「10,000円」)が、「税込価格・・・であると誤認されないための措置」という要件を満たすか、という問題に帰着します。

私は、厳しく見れば、「現に表示する価格が税込価格・・・であると誤認されないための措置」という要件を満たさないのではないかという気がします。

常識的に(=一般消費者の目から)見れば、「10,000円+5%」という表示は、

「1万円のものに、本当は8%の消費税がかかるところを5%だけにして、3%の増税分は転嫁していないのだな。」

と理解できるように思うのですが、そうでないと考える人もいるかもしれません。

別の切り口から説明すれば、「還元セール」に関する特措法8条は景表法の特則なので一般消費者の目が基準になりますが、総額表示義務の緩和は消費税法の特則なので、一般消費者の目が基準にならない可能性があります。

なのでせめて、

「10,000円(税抜)+5%」

という表示をすべきでしょう。

というのは、

「10,000円(税抜)」

だけでもOKなのは前述のとおりなので、それに、

「+5%」

という表示を加えても、「(税抜)」という表現が「現に表示する価格が税込価格・・・であると誤認されないための措置」という要件を満たさなくなるはずはないと考えられるからです。

要は、

「10,000円+5%」

という表示をすると、「10,000円」の部分が税抜価格なのか何なのか、消費税法の観点からは疑義が生じるおそれがあるかもしれない、ということです。

ま、「消費税」というコトバを使わないとセールス上のインパクトは弱いでしょうから、わざわざ「10,000円+5%」という表現を使う事業者もいないかもしれませんが、困った時は常に条文に遡る姿勢は持ちたいものです。

2013年6月13日 (木)

下請代金の減額と3条書面記載の下請代金との関係

下請法講習テキストp44には、

「・・・歩引き、リベート、システム利用料など発注前に下請事業者と協議して合意した金額であったとしても、その内容が下請事業者の責任のない理由により3条書面に記載された下請代金から減じるものであれば〔4条1項3号の〕減額として問題となり得る・・・」

と記載されています。

これを文字通り読むと、代金減額(4条1項3号)の場面では、下請代金の額は3条書面で決まる(3条書面が決定的)というように読めます。

さらに輪をかけて、粕渕他『下請法の実務(第3版)』p130では、

「例えば、親事業者が下請事業者の同意を得て、今後は3条書面に記載された下請代金から一定比率を値引くこととして発注する場合であっても、3条書面に記載された下請代金をそのまま変更しなければ、減額として問題になるという趣旨である。

3条書面は、下請取引において発注内容、下請代金、下請条件等を明確に記載し、それを証する重要な書面であり、あらかじめ値引くことに合意したのであれば、それを3条書面に記載する『下請代金』の額に反映させる必要がある。」

と記載されています。

つまりここでも、代金減額の場面では3条書面記載の下請代金の額が決定的である、と説明されています。

しかし、これらの記述を文字通り受け取るのは疑問で、これらの記述は、「合意した金額を3条書面に記載するという、本来あるべき姿を前提にすれば」という限定付きで読むべきでしょう。

例えば、辻他『詳解下請代金支払遅延等防止法(改訂版)』p132では、

「3条書面が交付されず、あるいは〔3条〕書面に下請代金の額が記載されていない場合でも、いったん取り決めた下請代金の額を減額することは・・・認められない・・・」

と、至極まっとうな説明がなされています。

講習テキストのほうはまだしも、粕渕他の記述は、さすがに言い過ぎでしょう。

つまり、

「親事業者が下請事業者の同意を得て、今後は3条書面に記載された下請代金から一定比率を値引くこととして発注する」

ということは、発注前には減額の合意ができているわけで、発注後に減額する4条1項3号の場面とは根本的に異なるように思われます。

つまり、時系列でいえば、

①3条書面記載の請負代金から減額することを合意したにもかかわらず、

②減額後の金額を記載した新たな3条書面を交付しないまま、

③減額後の請負代金で発注した、

という場合には、3条書面の不交付の罪(下請法10条1号)が成立することはあっても、4条1項3号違反は成立しないと考えるべきです。

実際、公取委も、3条書面の金額と現実の合意金額が異なる場合には現実の合意金額を基準にする(現実の合意金額から減額すれば4条1項3号違反が成立する)と考えていることは、竹田印刷に対する勧告(2005年9月21日。公正取引661号49頁)からもうかがえます。

この事案は、竹田印刷が、

①その100%子会社を自社の下請取引での発注業務に関与させることの対価として、

②「事務手数料」の名目で、

③下請事業者と合意した下請代金の5%を下請事業者から徴収することとし、

③合意した下請代金から5%差し引いた額を3条書面の下請代金として記載していた、

という事案です。

公取委担当者の解説では、

「・・・合意金額と発注書面〔3条書面〕上の金額が異なっているとしても、本来、下請事業者の給付に対して支払うべき下請代金は、竹田印刷と下請事業者との間で発注内容の対価として取り決めた合意金額であるため、本件では合意金額を下請代金と認め(た)」(公正取引661号50頁)

と、合意金額が基準となると説明されています。極めて妥当だと思います。

むしろこの解説で興味深いのは、

「本件では、外形上、発注書面どおりの金額が支払われているため、合意金額と発注書面上の金額のどちらが『下請代金』に該当するのかという点が問題となる。」

という問題の立て方をしていることです(同号p50)。

普通の法律(民法)の発想であれば、「合意金額が「下請代金」なのは当たり前じゃん。」という感じがしますし、下請法2条10項の、

「この法律で「下請代金」とは、親事業者が製造委託等をした場合に下請事業者の給付・・・に対し支払うべき代金をいう」

という定義に3条書面のことが一言も出てこないことからしても、合意金額が「下請代金」の額と考えるほかないと思うのですが、上記の問題の立て方からも、公取委には3条書面を基準にするという発想が根強くあるんだろうなあということがうかがえます。

3条書面と伝票を突き合わせている公取委の調査の様子が目に浮かびます。

2013年6月12日 (水)

下請代金減額の限界(不当な利益提供要請との違い)

下請法4条1項3号では、

「下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請代金の額を減ずること。」

が、親事業者の禁止行為とされています(下請代金減額の禁止)。

そして、「下請代金」は、下請法2条9項で、

「親事業者が製造委託等をした場合に下請事業者の給付・・・に対し支払うべき代金」

と定義されているので、下請代金というのは、製造委託等の対価(「・・・に対し支払うべき代金」)のことだと分かります。

とすると、4条1項3号の「下請代金の額を減ずること」というのは、製造委託等の対価を減額することだと読むのが自然であるように思われます。

つまり、製造委託等の(役務の)対価を差し引くことであって、その他の名目及び実質により差し引く場合は、「下請代金の額を減ずること」には該当しない(別途、4条2項3号の、利益の提供に該当する)と読むのが自然に思われます。

しかし、現実の公取委の運用は、そうはなっていません。

つまり、公取委の運用では、差し引きの名目および実質(歩引き、システム利用料、など)にかかわらず、ともかく、下請代金から差し引く方法で下請事業者に負担させる行為は、「下請代金の額を減ずること」に該当することになっています。

例えば、下請法講習テキストp44では、

「つまり、歩引き、リベートシステム利用料など発注前に下請事業者と協議して合意した金額であったとしても、・・・3条書面に記載された下請代金から減じるものであれば減額として問題となり得る・・・」

とされているのです。

さらに、同テキストでは、ここでの「下請代金」は、3条書面の記載によるということも明らかにされているので、「システム利用料」等も、3条書面の下請代金の額として記載する必要があるということになります。(具体的には、下請代金から差し引かれる旨、記載することになります。)

次に、「下請代金の額を減ずること」(下請法4条1項3号)というのは、文言上、いったん決まった額を減額すること、と考えるのが自然ですから(下請代金の額が決まっていないのであれば、そもそもその減額ということは問題になり得ないので)、代金が決定する時点で合意していれば、そもそも「下請代金の額を減ずること」には該当しないと考えるのが自然に見えます。

ところが、この点も、公取委の運用は、そうはなっていません。

つまり、上記下請法講習テキストにあるように、

「歩引き、リベートシステム利用料など発注前に下請事業者と協議して合意した金額であったとしても、・・・減額として問題となり得る・・・」

ということなのです。

しかしその一方で、下請代金(製造委託等の対価)そのものについては、下請代金合意前に「減額」(というのも変ですが、例えば、前年度の下請代金からの減額をイメージすればよいでしょうか・・・)の合意をして、それを3条書面に記載していれば、当然、その「減額」後の金額こそが「下請代金」(下請法2条10項)になるわけですから、製造役務等の対価自体を減額することを事前に合意していた場合には、「下請代金の額を減ずること」になるはずがありません。(ただし、別途、買いたたき(下請法4条1項5号)になる可能性はあります。)

このように、差し引く名目および実質が何かによって、事前の合意により免責されるか否かが異なるということになります。

例えば比較的最近代金減額と利益提供の両方が問題になった日本生活協同組合連合会の勧告(平成24年9月25日)では、

「会員〔個々の生協のこと〕が実施する店舗間の売上高を競うコンテストの賞品費用を確保するため〔=つまり、製造委託等の対価とは関係ない名目および実質で〕,

下請事業者に対し,「販促コンテスト協賛費用」として,一定額を負担するよう要請し,

この要請に応じた〔文面上区別していないので、論理的に、下請代金の支払い前であることはもちろん、下請代金額決定前に合意があった(本来最も罪の軽い)ケースも含まれると思われます。〕下請事業者について,

平成22年9月から平成23年11月までの間に,下請代金の額から当該金額を差し引いていた。」

という行為を4条1項3号(下請代金の減額の禁止)で処理しているのに対して、

「日本生協連は,自らの商品開発のために実施するテストの費用を確保するため〔=つまり、製造委託等の対価とは関係ない名目および実質で〕,

下請事業者に対し,「商品の組合員テスト費用」として,一定額を負担するよう要請し,

この要請に応じた〔同じく、事前の合意があった〕下請事業者について,

平成22年9月から平成24年4月までの間に,当該金額を提供させることにより,

当該下請事業者の利益を不当に害していた。」

という行為を4条第2項第3号(不当な経済上の利益の提供要請の禁止)で処理しています。

つまり、両者とも、製造委託等という役務の対価とは無関係という点では共通しているにもかかわらず、下請代金から差し引く形にすると4条1項3号になり、別途支払わせると4条2項3号になる、ということです。

以上の理屈は、粕渕他『下請法の実務(第3版)』p131でも、

「例えば、親事業者が下請事業者に対し決算対策協力金等の支払〔=つまり、役務の対価そのものとは関係ない名目および実質での支払〕を行わせるとき、

これを親事業者が下請代金から差し引くことにより支払わせる場合には減額に該当するが、下請代金の支払とは独立して下請事業者に支払わせる場合には、不当な経済上の利益の提供に該当するものとして扱われる。」

というふうに説明されています。

しかし、以上の取り扱いには問題がないわけではありません。

というのは、代金減額の方が不当な利益提供よりもはるかにハードルが低い(違反になりやすい)からです。

つまり、代金減額の方は、名目も、金額も、合意の有無も、一切問わず、違法になります(ただし、役務の対価そのものを事前に交渉して減額することは、4条1項3号には該当しません。)

これに対して、不当な利益提供の場合には、「下請事業者の利益を不当に害し」(下請法4条2項柱書き)という要件があるために、

①下請事業者の直接の利益になり、かつ、

②下請事業者が自由な意思により提供する、

場合には、違反になりません(講習テキストp63)。

このように、下請事業者に負担させる方法(下請代金からの差し引きか、別途支払か)によって違反の要件が変わるというのは、おかしい気もしますが、あえて説明すれば、

①下請代金というのは下請事業者にとって生命線であって、とくに強く保護する必要があるから、

②下請代金から差し引くのは、有無を言わせぬ点があり悪性が強い(別途支払の場合は、一応任意の可能性もある)、

といったところでしょうか。

・・・と、ここまで説明して、いきなり前言撤回のようで恐縮ですが、必ずしも以上のような考えに沿わない勧告もあります。

例えば、西鉄ストアに対する勧告(平成23年3月30日)では、

「自社の発注業務等の効率化を図るために導入した電子受発注等に係るシステムの運用費用を確保するため,

下請事業者に対し,「EDI処理料」として下請代金の額に一定率を乗じて得た額及び一定額を負担するよう要請し,この要請に応じた下請事業者に対し,平成21年10月から平成22年11月までの間,

下請代金の額に一定率を乗じて得た額及び一定額をそれぞれ差し引き又は別途支払わせることにより

下請事業者に責任がないのに,当該下請事業者に支払うべき下請代金の額を減じていた」

という行為が、代金減額(4条1項3号)として処理されています。

つまり、たんなる差し引きでなく、別途支払わせる場合も、代金減額とされています。

同様に、イズミヤに対する勧告(←勧告のプレスリリースはリンク切れですね。。)(平成18年10月27日)では、

「プライベートブランド商品の製造委託に関し,「基本割戻金」等と称して下請代金の額に一定率を乗じて得た額を差し引き又は別途支払わせることにより,下請代金の額を減じていた」

という行為が、代金減額になっています。

しかもこの事件については独占禁止懇話会(平成19年6月21日)でも、

「・・・通常その下請代金からの減額といいますと,下請代金との相殺によって行うケースが多いのですが,これはイズミヤの銀行口座に別途支払わせるというような形で減額したものです。こういった形で減額したケースは,平成16 年度以降では初めてとなっております。」(石垣室長)

という説明がされており、珍しいケースであったことの認識は公取委にもあったようです。

このイズミヤと西鉄ストアのケースの理屈を忖度すると、代金減額(相殺)と同じ名目および実質で別途支払をさせていた場合には、ひとまとめにして代金減額にする、という運用なのではないかと想像されます。

なので、西鉄ストアの「EDI処理料」などは、もっぱら下請代金とは別途支払わせていた場合には、不当な利益提供の要請として処理されていたのではないかという気がします。

このように、下請法というのは細かく見ていくと理論的にすっきり説明できないところがあり、理屈を重視する人には「下請法はよくわからん」という評価になるのでしょう。

あと最後に1つ付け加えると、製造委託等の対価そのものの減額の趣旨で、別途、下請事業者に払い戻しをさせることは(そういうケースはあまりないと思いますが)、やはり、不当な利益提供の要請ではなく、代金減額(4条1項3号)に該当するというべきでしょう。

その方が条文の文言に忠実ですし、下請代金の保護という下請法の趣旨にもかなうと思います。

2013年6月 6日 (木)

事業者団体が複数の事業者に取引拒絶をさせる場合の適用条文

事業者団体が、複数の事業者に対して、特定の取引先との取引をさせないようにすることは、独禁法8条5号に該当します。

つまり8条では、

「第8条 事業者団体は、次の各号のいずれかに該当する行為をしてはならない。

(1号~4号省略)

5 事業者に不公正な取引方法に該当する行為をさせるようにすること」

とされています。

では、「不公正な取引方法に該当する行為」とは、ここでは何条の行為なのでしょうか。

例えば、

①メーカーを構成員とする事業者団体Tが、

②小売店R1~R9に、

③特定のメーカーVとの取引を禁止した、

という場合はどうでしょう(遊戯銃事件のような場合ですね)。

この場合、複数の事業者R1~R9に取引を拒絶させているので、共同購入ボイコットの一般指定1項1号が思いつきます。

しかし、必ずしも1項1号は適用されないように思われます。

つまり、一般指定1項1号では、

1 正当な理由がないのに、自己と競争関係にある他の事業者(以下「競争者」という。)と共同して、次の各号のいずれかに掲げる行為をすること。

一 ある事業者から商品若しくは役務の供給を受けることを拒絶し、又は供給を受ける商品若しくは役務の数量若しくは内容を制限すること。」

とされています。

つまり、

①行為者(R1)が、

②自己の競争者である他の事業者(R2~R9)と共同して、

③ある事業者(V)から商品の供給を受けることを拒絶すること、

が、不公正な取引方法に該当するわけです。

つまり、②競争者との共同性(R1~R9の横のつながり)が、必要なのです。

ですので、もしTが、

①R1~R9を一堂に会させて、「Vと取引するなよ」と言ったり、

②R1に、「R2~R9と共同してVとの取引をやめるようにしろ」と言ったりすれば、

「競争者との共同性」の要件が満たされて、一般指定1項1号が成立しそうです。

これに対して、例えばTがR1~R9に個別に「Vとは取引するな」という手紙を出したような場合には、「競争者との共同性」の要件が満たされません。

なのでこの場合は、一般指定2項前段(単独の取引拒絶)が適用されます。

つまり一般指定2項前段では、

「〔R1、R2・・・またはR9が〕不当に、ある事業者〔V〕に対し取引を拒絶し若しくは取引に係る商品若しくは役務の数量若しくは内容を制限(すること)。」

が不当な取引制限に該当するとされています。

ですので、TがR1~R9に個別に手紙を出した場合には、8条5号の、

「事業者に不公正な取引方法に該当する行為をさせるようにすること」

にあてはめると、

「R1にVとの取引拒絶をさせるようにすること」、

「R2にVとの取引拒絶をさせるようにすること」、

・・・・・

「R9にVとの取引拒絶をさせるようにすること」、

という、Tの9つの行為が併存している、ととらえるのが正しいと思われます。

まあ、どの条文を適用しても結論は変わらないですし、説明の問題にすぎないともいえますが、一応注意しておくべき点だと思います。

2013年6月 3日 (月)

消費税特措法案3条(特定事業者の遵守事項)について

「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法案」が国会で審議中ですが、法案3条(特定事業者の遵守事項)について、気になる点を記しておきます。

まず法案3条1号の減額・買いたたきについてですが、同号では、

商品若しくは役務の対価の額を減じ、

又は

商品若しくは役務の対価の額を当該商品若しくは役務と同種若しくは類似の商品若しくは役務に対し通常支払われる対価に比し低く定めることにより、

特定供給事業者による消費税の転嫁を拒むこと。

が禁止されています。一目で、前段が下請法4条1項3号(代金減額)と、後段が同項5号(買いたたき)を参考にしたのだとわかります。

(なお、参考にしたといっても両者はまったく別物で、下請法は製造委託等の極めて狭い取引に適用されるのに対して、特措法は消費税が関係する場合にはおよそ適用されます。)

ところで、下請法の代金減額と買いたたきの解釈としては、一般的には、下請事業者の同意があっても違反となると解釈されています(振り込み手数料の負担など、一定の場合に限って認められるとの立場が、公取委の下請法講習テキスト等で示されています。)。

これとパラレルに考えると、特措法案3条1号の減額・買いたたきにおいても、相手方の同意は問題にならず、大規模小売事業者が消費税増税後も納入業者に価格を据え置かせると常に違法になる、ということになりそうです。

しかし、それでは、もし納入業者の同意(真の同意であることが前提)があっても、常に3%分上乗せしなければならないことになり、あまりにも不合理だと思います。

そして、このように考えるのには条文の根拠もあります。

つまり、特措法3条1号は下請法と異なり、

「特定供給事業者による消費税の転嫁を拒むこと」

というのが条文の要件になっていますが、「拒んだ」といえるためには、最低限、転嫁の申し出が納入業者からある必要があると考えるのが自然でしょう。申し出があってこそ、その拒絶がありうるわけです。

まして、納入業者から据え置きを申し出てきたときまで「転嫁を拒んだ」というのは、合理的な文言解釈を超えていると思います。

実質的にいっても、下請法の場合は親事業者が下請事業者に対して類型的に強い立場にあることが前提とされているのに対して、特措法の場合は、とくに特定事業者(消費税の転嫁を受ける側)が大規模小売事業者でない場合には、特定供給事業者(消費税を転嫁する側)のほうが規模が大きい場合も普通にありうるのですから、下請法と特措法を、条文が似ているからというだけで同じに解釈する必要もないと思われます。

もし、納入業者の同意は問題にならないという結論を取りたいのであれば、

「消費税増税後の価格は、消費税増税前の価格に3%加えた価格としなければならない。」

とでもすべきでしょう(消費税導入時の公取委の解説などをみると、公取委はそのように考えているフシがありますが)。

いずれにせよ、この点についてはパブコメ回答やガイドラインで公取委の見解が示されることになるような気がします。

次に、下請法4条1項5号の買いたたきでは、

「通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること」

となっているのに対して、特措法3条1号後段の買いたたきでは、

通常支払われる対価に比し低く定めること

となっていて、「著しく」と「不当に」という文言が抜けています。

「著しく」が抜けているのは、3%くらいで「著しく」というのが気が引けたからではなくて(笑)、おそらくこれは「不当に」がないのとセットで考えるべきで、3%程度の「著しく低い」とはいえない代金を定めただけでも、消費税転嫁の文脈では当然に、「不当」であるという意味が込められているのでしょう。

なお、

特措法3条1号の減額・買いたたきの禁止も、下請法4条1項3号・5号と同様、優越的地位の濫用の特則なので、消費税3%の転嫁を拒んだだけで「濫用」となるのかと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、問題なく「濫用」になり得ます。

というのは、濫用行為というのは、たとえば映画のチケットを買わせるというような、経済的には微々たるものでも成立するのであり、3%も減額すれば、「濫用」というには十分だからです。

次に、法案3条3号では、

「商品又は役務の供給の対価に係る交渉において消費税を含まない価格を用いる胸の特定供給事業者からの申出を拒むこと」

が禁止されています。

これは、消費税抜きでの価格交渉を促進して、妥結後に8%上乗せされることによって消費税が円滑に転嫁されることを期待したものでしょう。

税抜き価格での交渉を強制することにどれだけ意味があるのか(電卓があれば、税込み価格をにらみながら税抜き価格で交渉できるのではないか)、という立法論的な問題はあり得ますが、それはさておき、気になるのは、特措法が税抜き価格での交渉拒否を優越的地位の濫用と位置付けていることです(このことは、3条違反の勧告の効果が、優越的地位の濫用の排除措置命令と課徴金納付命令の排除にあることから明らかです)。

しかし、税抜き価格での交渉を拒否しただけで、本当に優越的地位の濫用になるのでしょうか。

優越的地位の濫用の行為要件は、煎じ詰めれば、

「取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施すること」(独禁法2条9項5号ハ)

ですが、税抜き価格での交渉拒否は、取引の条件の「設定」でも「変更」でも、取引の「実施」でもないことは明らかでしょう。

また、税抜き価格での交渉を拒否しただけで本当に勧告がなされるのかも疑問で、おそらく、転嫁拒否があった場合についでに勧告の一部に加えられるのが関の山ではないかと予想します。

立法論としては、税抜き価格での交渉禁止を3条に入れたのがそもそも問題なのであって、転嫁拒否とは独立の特措法上の新たな義務として、別の条文で規定したうえで、エンフォースメントも特措法上の排除命令みたいなものを定めないと、意味がないのではないかと思います。(私は、税抜き価格での交渉禁止自体が、あまり意味がないと考えていることは前述のとおりです。)

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