下取りセールと独禁法・景表法上の諸問題
ゴールデンウィークにテレビを見ていたら、テレビ通販番組で、「古いエアコンを2万円で下取りします。」というセールをやっていました。
そこでふと思ったのは、「古いエアコンなんて2万円もしない(むしろ工賃が余計にかかる)だろうに、どうしてこんなセールをするんだろうか。」ということです。
これは考えてみると簡単なことで、エアコンを付けている家庭に、買い替えを促すためですね。
「下取り」は単なる名目で、本当は、本体から2万円を引いても良いはずです。
ではなぜ本体を2万円引かないのかというと、家を新築する人はいずれにしてもエアコンは必要なので、2万円引く必要がない(高くても買う)からです。
もし本体価格から2万円を引けば、高くても買うはずの家を新築した人たちにも2万円を引かねばならず、その分売上が下がってしまいますよね。
ところが、既にエアコンが付いている家庭は、「10万円払うくらいなら今のエアコンでも間に合っているから買い替えないけど、8万円なら買い替えてもいいかな。」となるわけです。
産業組織論の言葉でいえば、顧客の支払い意欲によって価格を変える、いわゆる価格差別ですね。
(以上は、経済的に合理的な説明で、実際には、
「あら、この古いエアコンが2万円で買い取ってもらえるの?お得ね!!」
と考える人もいるかもしれません。つまり、新品のエアコンが2万円安く買えるより、古いエアコンを2万円で売れる方が得だ、と考えるわけです。分からないではありませんね。)
いずれにせよ、通販番組では本体価格と下取り価格の内訳をいくらにするか、相当入念に(どういう内訳にすれば利益が最大になるか)考えているはずです。
さて、このような下取りセールの独禁法・景表法上の問題について考えてみたいと思います。
まず、不公正な取引方法の差別対価に該当しないか、つまり、エアコンを買い替える人と、新規にエアコンを取り付ける人との間で、実質的に価格差を設けていることが差別対価に該当しないか(下取りの価値は本当は2万円もしないので)が問題となりますが、基本的には問題ありません。
というのは、差別対価が違法になるためには、競争者の事業活動を困難にするおそれがあることが必要ですが(独禁法2条9項2号)、通常、そのようなことはないからです(あるとすれば、10万円で下取りするなど、実質的に不当廉売に該当するような、極端な場合でしょう)。
次に、価値のない古いエアコンを2万円で引き取るというのは、本当は本体価格を2万円引いているだけなのに事実と異なる表示をしている、ということで、景表法の有利誤認(景表法4条1項2号)に該当するかが問題になりますが、これも問題ありません。
というのは、上に述べたようにこの下取りセールは実質的には価格差別の手段であるという側面があるとはいえ、2万円で下取りすると表示して現に2万円で下取りしているのですから、そもそも、
「商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの・・・よりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示」
に該当しないからです。
実は、このような「下取りセール」的な販売方法については、時々相談を受けることがあります。
例えば、ライバル会社の使用済み商品(タイヤでもテニスボールでも、なんでも良いのですが)を持参した人には、自社の新品の商品と無料で交換する、という具合です。
通常、これらの販売方法は、上記の下取りセールと同じで、問題ない(あるいは、新商品のプロモーションのための宣伝で、短期間なので問題ない)のですが、シェア5割を超えるような企業がこれをやると、場合によっては私的独占に該当することがあるかもしれません。
有線ブロードバンドの私的独占の事件などが、その例ですね。
また、ライバル会社のどの商品でも交換するのと、特定のライバルだけを狙い撃ちするのとでは、後者の方が問題になる確率は高いでしょうね。
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「下取り」は景品表示法の景品類には該当しないということでしょうか?
該当する場合には景品の価額に制限が課せられることになると思いますが、もしご存じでしたらお教え下さい。
投稿: 流浪の知財部員 | 2015年2月19日 (木) 21時21分