コルゲート・ドクトリンに関する気になる記述
米国では再販売価格維持に「コルゲート・ドクトリン」というものが認められています。
これは、シャーマン法1条(合意による競争制限)に該当するためには合意が必要であることを前提に、
①メーカーが価格に関する方針を一方的に表明し、
②これに違反する販売店との契約を一方的に解除する、
という場合には、「合意」が認められないのでシャーマン法1条違反は成立しない、という法理です。
この法理は、米国では最低再販売価格維持が長らく当然違法とされていたため(2007年のリージン事件判決で合理の原則に変更)、形式的に最低再販売価格維持に該当する限りは、市場に対するインパクトに関わらず(例えば極めて市場シェアの小さいメーカーでも)違法となってしまうため、辻褄合わせで認められたようなフシがあります。
なのでこの法理をあまり突き詰めて考えても意味はなく、こういうもんだと考えるほかありません。
さて、このコルゲート・ドクトリンが今日どの程度意味があるのかに関して、松下満雄・渡邉泰秀編『アメリカ独占禁止法(第2版)』p240では、
「現在では、ある程度の事業規模を有するメーカーは卸売・小売となんらかの形で協力しながら流通活動を行うことが常態であるので、コルゲート判決を抗弁となしうる事例は実際上少ないものと思われる。」
と解説されています。
しかし、個人的には、これはちょっと言い過ぎではないかという気がします(元々がおかしな法理ですし、同じ日本人として、気持ちはよく分かるのですが)。
というのは、まず理屈の問題として、メーカーと卸売・小売の間に協力関係(≒合意)があるとしても、それが再販売価格維持のような競争制限的合意であるとは限りません。合意の有無はもちろん大事ですが、合意の中身も大事です。
また事実の問題として、コルゲート・ドクトリンを適用している裁判例は、2000年以降だけでもけっこうあります(ABA Sectin of Antitrust, Antitrust Law Developments 7th ed. vol. 1の23頁に挙げられています)。
比較的メジャーと思われる書籍ですし(少なくとも松下先生単著による初版には類書がなく、米国反トラスト法はこれで勉強したという諸先輩方のお話はよく聞きます)、参照される方も多いと思うので、一言記す次第です。
(なお蛇足ですが、同書p54で、「trade-in allowances」を「取引開始料」と訳されていますが、これは中古車の下取り料のことですね。判決原文に当たりたい方は、こちらをどうぞ。)
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