« 弁護士意見書を審判の証拠とすることについて(JASRAC事件) | トップページ | 下取りセールと独禁法・景表法上の諸問題 »

2013年5月 2日 (木)

独禁法適用除外規定の不思議

監督官庁の認可を受けることによって独禁法の適用が除外されるという規定が、いくつかの法律に設けられています。

例えば、海上運送法(28条、29条)、道路運送法(18条、19条)、航空法(110条、111条)、保険業法(101条、102条)などです。

これらの法律はおおむね、①独禁法の適用除外に関する条文と、②協定の認可に関する条文からなっています。

しかし、これらの適用除外規定の読み方には、やや注意が必要です。

海上運送法を例に見てみましょう。

海上運送法28条私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の適用除外)では、

「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律・・・の規定は、

次条第一項の認可を受けて行う第一号から第三号までに掲げる行為

又は

第二十九条の二第一項の規定による届出をして行う第四号に掲げる行為

には、適用しない。

ただし、

不公正な取引方法を用いるとき、

一定の取引分野における競争を実質的に制限することにより利用者の利益を不当に害することとなるとき、

又は

第二十九条の三第四項・・・の規定による公示があつた後一月を経過したとき・・・

は、この限りでない。

(1号から4号省略。後述)」

と規定されています。

この規定の趣旨からすると、 「独禁法の適用除外を受けたかったら、1号から3号の協定については29条の認可を受けて、4号の協定については29条の2の届出をすれば良いのだな。」と考えるのが自然でしょう。

ところが、実際の条文はそのような建て付けになっていないのです。

つまり、海上運送法29条(協定の認可等) 1項では、

「一般旅客定期航路事業者又は貨物定期航路事業者は、前条〔28条〕第一号から第三号までの協定を締結し、又はその内容を変更しようとするときは、国土交通大臣の認可を受けなければならない。」

と規定されているのです。

つまり、「〔28条〕第一号から第三号までの協定を締結し、又はその内容を変更しようとするとき」には常に認可を受けなければならないとされているのであって、当事者が独禁法の適用除外を求めるつもりがあるか否か(当事者が独禁法の懸念を有しているか否か)とは、まったく関係がありません。

「第一号から第三号までの協定」と、はっきり書いてある以上、28条柱書きの、独禁法適用除外云々は、認可の要否とは関係がないわけです。

ちなみに海上運送法28条1号から4号は、

 輸送需要の減少により事業の継続が困難と見込まれる本邦の各港間の航路において地域住民の生活に必要な旅客輸送を確保するため、当該航路において事業を経営している二以上の一般旅客定期航路事業者が行う共同経営に関する協定の締結

 本邦の各港間の航路において旅客の利便を増進する適切な運航日程又は運航時刻を設定するため、同一の航路において事業を経営している二以上の一般旅客定期航路事業者が行う共同経営に関する協定の締結

 本邦の各港間の航路において貨物の運送の利用者の利便を増進する適切な運航日程を設定するため、同一の航路において事業を経営している二以上の一般旅客定期航路事業者又は貨物定期航路事業者が行う共同経営に関する協定の締結

 本邦の港と本邦以外の地域の港との間の航路において、船舶運航事業者が他の船舶運航事業者とする運賃及び料金その他の運送条件、航路、配船並びに積取りに関する事項を内容とする協定若しくは契約の締結又は共同行為」

となっているので、これらの協定を締結する以上は、認可または届出が必要、ということです。

この点、認可・届出が必要な行為の対象は、

上述の海上運送法では、「・・・共同経営に関する協定の締結」あるいは「・・・協定若しくは契約の締結又は共同行為」、

道路運送法18条では、「・・・共同経営に関する協定の締結」、

航空法110条では、「・・・共同経営に関する協定の締結」(1号)または、「・・・運輸に関する協定の締結」(2号)、

保険業法101条では、「・・・共同行為」、

となっていて、それぞれの条文で微妙に異なりますが、独禁法の懸念の有無にかかわらず届出・認可が必要になっているという点では、いずれも同じです。

しかしこれには2つの問題があります。

まず、認可・届出が必要な行為の対象が広くなりすぎる(独禁法とはおよそ無縁なものも認可届出が必要になる)可能性があります。

例えば航空法110条2号では、およそ運輸に関する協定が認可の対象となってしまいます。

次に、条文に掲げられている行為以外は、独禁法の適用除外の恩恵を受けられないことになります。

たとえば海上運送法の場合、「共同経営」とまではいえないような共同行為は、独禁法の適用除外を受けられない、ということになりそうです。

しかし、いずれの規定も、独禁法の適用除外だけが目的なのですから、独禁法におよそ関係ない場合には、認可の申請・届出をさせる理由はないはずです。

しかも、認可・届出なしに協定を締結した場合には、刑罰の罰則まであります。

競争者間の共同行為であっても独禁法には違反しない場合というのはいくらでもあるのであって、そのような、独禁法上「真っ白」な共同行為を届け出なかったからといって、刑罰まで科す必要が、果たしてあるのでしょうか?

端的にいって、これは立法のミスであって、本来は、「これこれの行為については、認可を受けた場合には、独禁法を適用しない。」とだけすれば良かったのです。

法律の作り方というのは難しく、また、一歩間違えると怖いですね。日々契約書を作成する弁護士としても、他山の石としたいと思います。

« 弁護士意見書を審判の証拠とすることについて(JASRAC事件) | トップページ | 下取りセールと独禁法・景表法上の諸問題 »

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 独禁法適用除外規定の不思議:

« 弁護士意見書を審判の証拠とすることについて(JASRAC事件) | トップページ | 下取りセールと独禁法・景表法上の諸問題 »

フォト
無料ブログはココログ