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2013年5月20日 (月)

再販売価格拘束の手段としての差別対価

メーカーが、インターネット販売をする業者(主に、ネット専業業者を想定しています。)には販売したくない、と考えることがあります。

その理由には色々なものが考えられますが、「ネット販売業者は安売りをするから。」というのが典型的でしょう。

そこでメーカーとしては、ネット業者に対しては、それ以外の業者に対してよりも、高い値段で商品を販売するということが考えられます(そうすることで、安売りを防止することを狙うわけです)。

このような、いわば再販売価格拘束(独禁法2条9項4号)を実現するための手段として差別対価(同項2号)を用いることは、独禁法違反になるでしょうか。

まず、ある独禁法違反行為(手段行為。ここでは差別対価)を用いて別の独禁法違反行為(目的行為。ここでは再販売価格拘束)を実現しようとする場合、違法性の判断は、目的行為(再販売価格拘束)の違法基準に従って行うべきです。

したがって、上記の例では、メーカーがした行為が再販売価格拘束として違法となるかどうかを検討することになります。

(差別対価には、

①安く売ることが競争者を排除することになる「不当廉売型」と、

②高く売ることが川下の競争者の排除につながる「取引拒絶型」

があるところ、上記設例を差別対価の枠組みで分析しようとすると、①②のどちらにもあたらず、

「③独禁法上違法な目的を達成するための差別対価」

みたいな、わけのわからない類型を考えないといけなくなってしまいます。)

そこで再販売価格拘束の要件に該当するかどうかを考える必要がありますが、ポイントは、再販売価格拘束における拘束の対象は、

「相手方の当該商品の販売価格の自由な決定」(2条9項4号イ)

である、ということです。

この、「拘束の対象」が何か、つまり、何を「拘束」しているのか、という視点は、極めて重要だと思います。

つまり、販売方法を拘束したことが、結果的に安売りの抑止につながったとしても、それは再販売価格拘束ではありません。

例えば、医薬品のネット販売禁止のような、安全性確保を目的とした措置は、たとえメーカーがホンネでは安売りを防止したいという意図を持っていたとしても、そのような内心の意図だけでは、再販売価格拘束には該当しないというべきでしょう。

とすると、上記設例のような、ネット業者には高い仕切り価格で販売するというのも、当然には再販売価格拘束にはならないというべきです。

ただ、値段の差を設けたときの安い方の価格で販売店に販売する条件として、「一定価格以上の小売価格で販売すること」というようなものを設定すると、再販売価格拘束に該当するとされてもしかたないと思います。

なぜなら、一定価格以上の小売価格で販売する明確な経済的インセンティブを小売店に与えることになるので、「拘束」の定義に該当するからです。

(別の切り口でいえば、高い価格と安い価格の差(リベートのケースなら、リベートの額)が問題なのではなくて、安い価格で販売する条件(リベートの条件)が問題なのです。)

これに対して、安い価格で販売店に販売する条件として「ネット販売をしないこと」という条件を設定したとしても、直接的には、小売店の販売価格の自由な決定を害したことにはなりません。

なぜなら、小売店は、ネット販売をしないとい条件を守って安い値段で仕入れた上で路面店で安く売ってもよいし、ネット販売をすると公言して高い値段で仕入れた上でネットで安く売ってもよいからです。

なので、メーカーが流通網をコントロールする場合には、いかに小売価格の拘束とみられないような仕組みを作るかに注意する必要があります。

また、仕組みをうまく作っても、実際の運用で、「安売りは困るんですよねぇ」みたいなことを伝えていたり、ネット業者すべてではなくネット業者でかつ安売りをしていた業者にだけ取引停止したり仕切り価格の引き上げをしていたりしたら、実質的には価格の拘束ではないか、と疑われかねません。

というように、運用には気をつけないといけないし、ホンネ(安売り禁止)をタテマエ(例えば安全性の確保)で塗り替えることもできないので、実際には細心の注意が必要なのですが、拘束の対象が、小売業者の「自由な価格決定の拘束」であるという点は、強調してもし過ぎることはないと思います。

結局、真の目的(客観的な経済的効果といってもいいかもしれません。両者は紙一重のはずなので)は何なのか、という事実認定が重要で、その際には、取引の実態にも配慮する必要があるでしょうし、その辺りが独禁法弁護士の腕の見せ所でしょう。

なお、再販売価格拘束の手段として差別対価が用いられたと疑われたのに結局再販売価格拘束ではないとの事実認定になった場合には、(再販売価格拘束であるとの事実認定になった場合と同様)差別対価(=手段)の部分は無視して、拘束条件付取引(販売方法の制限)として、違法性を判断することになります(ですので、資生堂判決に従えば、ネット販売禁止に「それなりの合理的な理由」があれば適法、ということになります)。

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