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2013年5月 1日 (水)

弁護士意見書を審判の証拠とすることについて(JASRAC事件)

公取委側(審査官)が「敗訴」したJASRACの私的独占事件で、審査官は、JASRACが以前に弁護士から取った意見書を、排除の意図を立証する証拠として審判に提出しました(審決2012年6月14日)。

審決書中の関連する審査官の主張(「本件行為及びその効果についての被審人の認識」)を引用すると、以下の通りです。

「独占禁止法検討会議のメンバーである弁護士から平成15年3月に被審人に提出された意見書では,包括使用料の定めが私的独占(独占禁止法第3条前段)となるおそれがあること,他の管理事業者が出現したことを受けて使用料を減額する必要はないものの,私的独占等にならないかを十分注意して使用料制度を運営することが肝要であることが指摘された。」(p31)

つまり、包括使用料の定めが私的独占になるおそれがあることをJASRACが認識していたことの証拠として、弁護士の意見書が提出されているわけです。

これは、あまりにひどい立証活動ではないでしょうか。

そもそも、排除の効果を違反者が認識していたこと(あるいは、排除の意図)が私的独占の要件なのか疑問ですが、それは置くとしても、このような場合の弁護士の意見書は、もともと証明力が極めて低いと思います。

被審人も、上記審査官の主張に対して、

「審査官の主張ア(エ)について,弁護士の意見書の内容は,被審人の業務全般と独占禁止法との関係を述べたものであって,そのごく一部に包括徴収と独占禁止法との関係について論じた部分はあるが,放送等利用割合を反映しない包括徴収に言及したものではない。」(p33)

と反論しており、証明力が低いものであったことが伺えます。

(あと一つ細かいことを言えば、本件でイーライセンスが放送等利用に係る管理事業への新規参入をしたのは平成18年4月であり(p10)、それより3年も前の意見書を持ち出してくるのもどうかと思います。3年前の意見書を持ち出すなら、3年前から排除行為があったとしないと辻褄が合わないでしょう。本件の排除措置命令では、そもそも違反行為の始期がいつだったのか(審査官はいつと考えていたのか)、よくわかりませんが、そういうちぐはぐなところが、排除措置命令の取り消しの背景になっているような気がします。)

さらに問題なのは、このような立証を許すと、企業が弁護士に対して率直に意見を求めることができなくなってしまうことです。

欧米で弁護士依頼者秘匿特権が認められているのも、まさにそのような趣旨に基づくもので、こういう立証活動がまかりとおると、日本でも秘匿特権を認める必要がないか、真剣に議論すべきような気がします。

確かに、秘匿特権は広範な証拠開示と切り離しては議論できないし、独禁法の世界でだけ秘匿特権を認める理由はなかなか見つからないので、難しい問題ではありますが、本件のような、違法かどうかの評価が人によって大きく分かれる事案では、とくに、弁護士の意見を率直に求めることができることは大事だと思います。

上記弁護士意見書に限らず、本件では審査官が勝つためになりふり構わず主張立証を行った感がありますが(そして、それが的外れだった(あるいは、狙った「的」が、本当の「的」ではなかった)ために排除措置命令が取り消されたわけですが)、審査官には公益の代表者として、節度ある立証活動を行って欲しいのものです。

・・・というようなことを、弁護士である私が言っても、利害関係があるので説得力がないのかもしれませんね。

私は、公に物を言うときは、できるだけ自分の立場を離れて、中立的な立場で言うように心がけているつもりですが、それでも、バイアスはあるのでしょうね。

ただ、そのバイアスを割り引いても、やっぱり弁護士意見書を証拠として提出するのは、メリット(←証明力はほとんどない)に比べてデメリット(←法律家の意見が求めにくくなる)が大き過ぎると思います。

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