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2013年5月

2013年5月23日 (木)

やらせの口コミに関する景表法ガイドラインの違反例について

2012年5月9日に改正された、「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」で、以下の違反例が追加されました。

「商品・サービスを提供する店舗を経営する事業者が、

口コミ投稿の代行を行う事業者に依頼し、

自己の供給する商品・サービスに関するサイトの口コミ情報コーナーに口コミを多数書き込ませ、

口コミサイト上の評価自体を変動させて、

もともと口コミサイト上で当該商品・サービスに対する好意的な評価はさほど多くなかったにもかかわらず、

提供する商品・サービスの品質その他の内容について、あたかも一般消費者の多数から好意的評価を受けているかのように表示させること。」

実は、上記違反例は本当に景表法違反なのかは、条文の解釈としてはけっこう微妙です。

(ちなみに、こういう、広告でないと見せかけて実は広告、みたいなのを、「ステルス・マーケティング(stealth marketing)」(ステルス戦闘機のステルスですね)というようですが、法律の議論をするときには、こういう外延が曖昧な用語はできるだけ使わないのが得策でしょう。)

というのは、景表法4条1項1号では、

「商品又は役務の品質、規格その他の内容について、

一般消費者に対し、

実際のものよりも著しく優良であると示し、

又は

事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示であつて、

不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの 」

をしてはならないとされています。

つまり、商品の「内容」について、「実際のものよりも著しく優良」であることを示す表示でなければなりません。

そして、上記違反例では、個々の口コミの中で述べられている商品の「内容」が、実際の商品の内容よりも「著しく優良」であることは要求されていません。(個々の口コミは景表法上の「表示」とは構成されていないので当然です。)

そうではなくて、上記違反例では、口コミサイトの評価(例えば、食べログの★の数)を上げることを問題にしており、口コミサイトの評価(★の数)を、景表法4条1項1号の「表示」とみています。

そのことは、違反例で、「あたかも一般消費者の多数から好意的評価を受けているかのように表示させること」と、「表示」という、景表法4条1項と同じ文言を、口コミサイトの評価を指す部分(★の数)を指すものとして用いていることからも明らかです。

しかしここで問題は、口コミサイトの★の数が、「商品又は役務の品質、規格その他の内容について」の表示であるといえるのか、ということです。

厳密にいえば、★の数は、商品の品質等を示しているとは言えないのではないでしょうか。

例えば、「国産」とか、「タラバガニ」とか、「放射能検査済み」といった表示は、商品の品質や内容を示していると言えるでしょう。

もっと抽象的に、「美味しい」とか、「マイナス5歳肌」(←化粧品)というのも、まあ、「品質」といっていいでしょう。

予備校の宣伝で「京大合格者○○人」という人数に模試を受けただけの人も入れるのも、講義というサービスの品質に関する優良誤認表示といえるでしょう。

やや微妙なのが、「何万本売れています。」とか、「売上ナンバーワン」みたいな、たくさん売れていることをアピールする宣伝文句ですが、やはり、たくさん売れているから品質が良いんだろうと思わせる表示ということで、商品の「内容」に関する表示といっていいと思います(といいますか、実務的には、この辺りは問題なく優良誤認表示ということで通っていると思います。)

さらに微妙なのが、たとえば、カーオブザイヤー(COTY)の選考委員を買収して受賞した自動車メーカーが、「カーオブザイヤー受賞」と表示するのは、受賞したこと自体は事実なので、優良誤認表示とはいえなないともいえますし、本来は受賞できない品質だったのに不正な方法でなく受賞したかのような表示をするという意味では、優良誤認であるといえなくもないような気もします(少数説でしょうが、あくまで理屈の問題としてお考えください)。

こうしていろいろ考えると、口コミサイトの★の数は、景表法の「品質、規格その他の内容」については何も触れておらず、優良誤認表示とはいえないのではないか、単に個々のレビュー者の付けた星の数を平均したデータに過ぎないのではないか、と思えてくるわけです。

あるいは、上記違反例が「表示」ととらえているのは、★の数だけであるという捉え方が狭すぎて、「たくさんの好意的レビューがあること」、あるいは、「個々の好意的なレビューをすべて合わせたもの」が、「表示」である、というふうに考えるべきなのかもしれません。

しかし、それでも、「たくさんの好意的レビューがあること」は、やはりたんなるレビューの数の問題であって、商品の「内容」ではないですし、個々のレビューのすべてを合わせたものが「表示」と考えると、結局、個々の表示が虚偽でなければ違反にならないのではないか、という最初の問題に戻ってしまいます。

なので、これをもって「品質、規格その他の内容」というのは、条文解釈としては相当無理があると思います。

結局、「売上ナンバーワン」という表示と、口コミサイトの★の数の違いは、実は相当微妙なものです。

なのに、「売上ナンバーワン」が問題なく優良誤認表示となり、★の数を優良誤認表示とすることに違和感が残るのは、

前者では明らかに内容が虚偽(実際は売上ナンバーワンではなかった)の事例が取り上げられるので「内容」に関する表示か否かはあまり吟味されずに違法とされる傾向がある

のに対して、

後者は何が虚偽なのかよくわからない(レビュー者の広告主からの独立性を偽っているというのが問題の本質だが、そのようなものは景表法の優良誤認が想定していない)

ということなのではないかと思います。

実はホンネのところで上記違反例が言いたいのは、

①代行業者は実際にはレストランに行っておらず、嘘のレビューであるのでけしからん、

②そもそもレストランからお金をもらってレビューを書いているのに一般消費者のふりをしてレビューを書くこと自体がけしからん(そういうところに依頼するのもけしからん)、

ということなのでしょうが、レビュー中の商品に関する記述が事実に反することを違反の要件にする(上記違反例が追加される前の違反例がそうでした)と、やらせレビューを違反に問うのはかなり難しくなってしまいます。

なので、上記違反例は、やらせレビューを取り締まるための苦肉の策であったように思われます。

私は、やらせはいけないと思うので、このガイドラインでやらせが無くなるなら結構なことだと思いますが、立法論としては、景表法4条1項3号で指定するのが筋なのでしょう。

つまり、4条1項3号なら、

「前二号に掲げるもののほか、商品又は役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認めて内閣総理大臣が指定するもの 」

というように、表示の対象が、

「取引に関する事項」

と、極めて広く取ってあるので、やらせを取り締まることも十分可能です。

この点、笠原編著『景品表示法(第2版)』p119では、

「優良誤認表示、有利誤認表示に該当するような表示は、実際のもの等と異なり著しく優良・有利でると一般消費者に誤認させるものであり、直ちに規制されるべきであることから、法律により禁止されている。しかし、複雑な経済社会においては、これらだけでは、消費者の適正な商品選択を妨げる表示に十分対応できない場合があると考えられたことから、第4条第1項第3号において、景品表示法の運用機関である消費者庁の主任の大臣たる内閣総理大臣に不当表示を指定する権限が付与されたものである。」

と解説されており、品質や取引条件を偽るのは消費者の適正な商品選択を妨げる表示であることが明らかだから法律で定めたけど、適正な選択を妨げる表示は他にもある、それを取り締まるのが4条1項3号だ、と明確に述べられています。

こうして眺めると、まさに「複雑な経済社会」における口コミサイトのようなものを想定していると、私の眼には見えます。

上記違反例のガイドラインへの追加は、食べログのスキャンダルがあって急ごしらえで作ったところがあるので、理論的な詰めが甘いのはやむを得ない気がしますし、積極的に問題表示を取り締まろうとする消費者庁の姿勢は十分評価すべきですが、何が問題なのかという本質をよく議論しないと、行き当たりばったりの規制になりかねません。

本質的には、広告主がレビュー者にお金を払ってレビューを書いてもらっている場合には、そのような事実を開示すべきではないか(開示をしない場合は、内容自体が虚偽とは言えなくても、非開示ということ自体が不当表示を構成するのではないか)、といったことを議論すべきなのでしょう。

このあたりは、2009年に改正された米国FTCの、

Guidelines Concerning Use of Endorsements and Testimonials in Advertising」

が参考になります。(特に、最後の方の例7と8)

2013年5月22日 (水)

【お知らせ】『ビジネス法務』7月号に寄稿しました。

法律実務雑誌『ビジネス法務』の7月号に、

「実務解説・消費税引き上げに伴う独禁法特別措置法への対応」

という論文を寄稿しました。

このテーマは独禁法の分野では最近一番話題のテーマなのですが、消費税増税という誰もが避けて通れない分野であるため、普段独禁法に馴染みのない企業にとっても独禁法に関心を持たざるを得ないという意味で、興味深いテーマではないかと思います。

ご興味のある方は、書店で手に取っていただけると嬉しいです。

2013年5月20日 (月)

再販売価格拘束の手段としての差別対価

メーカーが、インターネット販売をする業者(主に、ネット専業業者を想定しています。)には販売したくない、と考えることがあります。

その理由には色々なものが考えられますが、「ネット販売業者は安売りをするから。」というのが典型的でしょう。

そこでメーカーとしては、ネット業者に対しては、それ以外の業者に対してよりも、高い値段で商品を販売するということが考えられます(そうすることで、安売りを防止することを狙うわけです)。

このような、いわば再販売価格拘束(独禁法2条9項4号)を実現するための手段として差別対価(同項2号)を用いることは、独禁法違反になるでしょうか。

まず、ある独禁法違反行為(手段行為。ここでは差別対価)を用いて別の独禁法違反行為(目的行為。ここでは再販売価格拘束)を実現しようとする場合、違法性の判断は、目的行為(再販売価格拘束)の違法基準に従って行うべきです。

したがって、上記の例では、メーカーがした行為が再販売価格拘束として違法となるかどうかを検討することになります。

(差別対価には、

①安く売ることが競争者を排除することになる「不当廉売型」と、

②高く売ることが川下の競争者の排除につながる「取引拒絶型」

があるところ、上記設例を差別対価の枠組みで分析しようとすると、①②のどちらにもあたらず、

「③独禁法上違法な目的を達成するための差別対価」

みたいな、わけのわからない類型を考えないといけなくなってしまいます。)

そこで再販売価格拘束の要件に該当するかどうかを考える必要がありますが、ポイントは、再販売価格拘束における拘束の対象は、

「相手方の当該商品の販売価格の自由な決定」(2条9項4号イ)

である、ということです。

この、「拘束の対象」が何か、つまり、何を「拘束」しているのか、という視点は、極めて重要だと思います。

つまり、販売方法を拘束したことが、結果的に安売りの抑止につながったとしても、それは再販売価格拘束ではありません。

例えば、医薬品のネット販売禁止のような、安全性確保を目的とした措置は、たとえメーカーがホンネでは安売りを防止したいという意図を持っていたとしても、そのような内心の意図だけでは、再販売価格拘束には該当しないというべきでしょう。

とすると、上記設例のような、ネット業者には高い仕切り価格で販売するというのも、当然には再販売価格拘束にはならないというべきです。

ただ、値段の差を設けたときの安い方の価格で販売店に販売する条件として、「一定価格以上の小売価格で販売すること」というようなものを設定すると、再販売価格拘束に該当するとされてもしかたないと思います。

なぜなら、一定価格以上の小売価格で販売する明確な経済的インセンティブを小売店に与えることになるので、「拘束」の定義に該当するからです。

(別の切り口でいえば、高い価格と安い価格の差(リベートのケースなら、リベートの額)が問題なのではなくて、安い価格で販売する条件(リベートの条件)が問題なのです。)

これに対して、安い価格で販売店に販売する条件として「ネット販売をしないこと」という条件を設定したとしても、直接的には、小売店の販売価格の自由な決定を害したことにはなりません。

なぜなら、小売店は、ネット販売をしないとい条件を守って安い値段で仕入れた上で路面店で安く売ってもよいし、ネット販売をすると公言して高い値段で仕入れた上でネットで安く売ってもよいからです。

なので、メーカーが流通網をコントロールする場合には、いかに小売価格の拘束とみられないような仕組みを作るかに注意する必要があります。

また、仕組みをうまく作っても、実際の運用で、「安売りは困るんですよねぇ」みたいなことを伝えていたり、ネット業者すべてではなくネット業者でかつ安売りをしていた業者にだけ取引停止したり仕切り価格の引き上げをしていたりしたら、実質的には価格の拘束ではないか、と疑われかねません。

というように、運用には気をつけないといけないし、ホンネ(安売り禁止)をタテマエ(例えば安全性の確保)で塗り替えることもできないので、実際には細心の注意が必要なのですが、拘束の対象が、小売業者の「自由な価格決定の拘束」であるという点は、強調してもし過ぎることはないと思います。

結局、真の目的(客観的な経済的効果といってもいいかもしれません。両者は紙一重のはずなので)は何なのか、という事実認定が重要で、その際には、取引の実態にも配慮する必要があるでしょうし、その辺りが独禁法弁護士の腕の見せ所でしょう。

なお、再販売価格拘束の手段として差別対価が用いられたと疑われたのに結局再販売価格拘束ではないとの事実認定になった場合には、(再販売価格拘束であるとの事実認定になった場合と同様)差別対価(=手段)の部分は無視して、拘束条件付取引(販売方法の制限)として、違法性を判断することになります(ですので、資生堂判決に従えば、ネット販売禁止に「それなりの合理的な理由」があれば適法、ということになります)。

2013年5月13日 (月)

コルゲート・ドクトリンに関する気になる記述

米国では再販売価格維持に「コルゲート・ドクトリン」というものが認められています。

これは、シャーマン法1条(合意による競争制限)に該当するためには合意が必要であることを前提に、

①メーカーが価格に関する方針を一方的に表明し、

②これに違反する販売店との契約を一方的に解除する、

という場合には、「合意」が認められないのでシャーマン法1条違反は成立しない、という法理です。

この法理は、米国では最低再販売価格維持が長らく当然違法とされていたため(2007年のリージン事件判決で合理の原則に変更)、形式的に最低再販売価格維持に該当する限りは、市場に対するインパクトに関わらず(例えば極めて市場シェアの小さいメーカーでも)違法となってしまうため、辻褄合わせで認められたようなフシがあります。

なのでこの法理をあまり突き詰めて考えても意味はなく、こういうもんだと考えるほかありません。

さて、このコルゲート・ドクトリンが今日どの程度意味があるのかに関して、松下満雄・渡邉泰秀編『アメリカ独占禁止法(第2版)』p240では、

「現在では、ある程度の事業規模を有するメーカーは卸売・小売となんらかの形で協力しながら流通活動を行うことが常態であるので、コルゲート判決を抗弁となしうる事例は実際上少ないものと思われる。」

と解説されています。

しかし、個人的には、これはちょっと言い過ぎではないかという気がします(元々がおかしな法理ですし、同じ日本人として、気持ちはよく分かるのですが)。

というのは、まず理屈の問題として、メーカーと卸売・小売の間に協力関係(≒合意)があるとしても、それが再販売価格維持のような競争制限的合意であるとは限りません。合意の有無はもちろん大事ですが、合意の中身も大事です。

また事実の問題として、コルゲート・ドクトリンを適用している裁判例は、2000年以降だけでもけっこうあります(ABA Sectin of Antitrust, Antitrust Law Developments 7th ed. vol. 1の23頁に挙げられています)。

比較的メジャーと思われる書籍ですし(少なくとも松下先生単著による初版には類書がなく、米国反トラスト法はこれで勉強したという諸先輩方のお話はよく聞きます)、参照される方も多いと思うので、一言記す次第です。

(なお蛇足ですが、同書p54で、「trade-in allowances」を「取引開始料」と訳されていますが、これは中古車の下取り料のことですね。判決原文に当たりたい方は、こちらをどうぞ。)

2013年5月 8日 (水)

【閑話休題】複雑な条文の読み方・再論

このブログを書き始めて間もないころ、このような記事を書いておりました。

その当時はアクセス数も少なかったし(笑)、今では一橋大ロースクールで学生さんに教えていたりして、多くの学生さん(に限りませんが)に読んでもらえないかなぁと思い、自分の記事で恐縮ですが、ここで再度紹介させていただきます。

若干補足しますと、このマーカーの仕方の大前提にあるのは、六法の条文を、(普通の本を読むように)上から下に読んでいくのではなくて、条文中のまとまったかたまりをブロックとして画像として頭に焼き付ける、というイメージがあります。

たとえて言えば、条文を右脳で読むイメージです。

(なかなか文章ではうまく表現できないのですが、この着想は、以前受講した「フォトリーディング」という速読セミナーから得たものです。寺下和也先生、お元気にされているでしょうか。)

このイメージは、条文が長ければ長いほど、有効です。

また、上記の記事の中で、「『及び』と『又は』をハイライトする」といっている個所がありますが、もし「並びに」が出てくるような条文だったら、「並びに」と「又は」をハイライトすべきでしょう。

というのは、(条文の書き方の決まりですが)「並びに」と「及び」が両方出てくる場合には、「並びに」が一番大きな括りになるからです。

なので、「並びに」をマークすると、「並びに」の前後で大きな並列関係がある、ということがはっきりとイメージできます。

「並びに」と「及び」が出てくるときに、「及び」もマークすると、どの語とどの語が並列関係にあるのか、分かりにくくなってしまうので、お勧めしません。

これに対して、「又は」と「若しくは」が両方出てくる場合には、「又は」の方が大きな括りなので、「又は」だけをマークします。

さらに1つポイントを追加しますと、条文の中で他の条文に言及しているものって、よくありますよね。

こういうときは、言及されている条文のページを開いて、その数字の部分だけでもマークしておきましょう。そうすると、六法の中で迷子にならずに済みます(笑)。

他にもいろいろあるのですが、例で示した方が分かりやすいでしょうね。例えば金商法27条の2(発行者以外の者による株券等の公開買付け)をマークすると、このようになります。

「その株券、新株予約権付社債券その他の有価証券で政令で定めるもの(以下この章及び第二十七条の三十の十一(第四項を除く。)において「株券等」という。)について有価証券報告書を提出しなければならない発行者又は特定上場有価証券(流通状況がこれに準ずるものとして政令で定めるものを含み、株券等に限る。)の発行者の株券等につき、当該発行者以外の者が行う買付け等(株券等の買付けその他の有償の譲受けをいい、これに類するものとして政令で定めるものを含む。以下この節において同じ。)であつてのいずれかに該当するもの、公開買付けによらなければならない。ただし、新株予約権(会社法第二百七十七条 の規定により割り当てられるものであつて、当該新株予約権が行使されることが確保されることにより公開買付けによらないで取得されても投資者の保護のため支障を生ずることがないと認められるものとして内閣府令で定めるものを除く。以下この項において同じ。)を有する者が当該新株予約権を行使することにより行う株券等の買付け等及び株券等の買付け等を行う者がその者の特別関係者(第七項第一号に掲げる者のうち内閣府令で定めるものに限る。)から行う株券等の買付け等その他政令で定める株券等の買付け等は、この限りでない。

 取引所金融商品市場外における株券等の買付け等(取引所金融商品市場における有価証券の売買等に準ずるものとして政令で定める取引による株券等の買付け等及び著しく少数の者から買付け等を行うものとして政令で定める場合における株券等の買付け等を除く。)の後におけるその者の所有(これに準ずるものとして政令で定める場合を含む。以下この節において同じ。)に係る株券等の株券等所有割合(その者に特別関係者(第七項第一号に掲げる者については、内閣府令で定める者を除く。)がある場合にあつては、その株券等所有割合を加算したもの。以下この項において同じ。)が百分の五を超える場合における当該株券等の買付け等

 取引所金融商品市場外における株券等の買付け等(取引所金融商品市場における有価証券の売買等に準ずるものとして政令で定める取引による株券等の買付け等を除く。第四号において同じ。)であつて著しく少数の者から株券等の買付け等を行うものとして政令で定める場合における株券等の買付け等の後におけるその者の所有に係る株券等の株券等所有割合三分の一を超える場合における当該株券等の買付け等

 取引所金融商品市場における有価証券の売買等であつて競売買の方法以外の方法による有価証券の売買等として内閣総理大臣が定めるもの(以下この項において「特定売買等」という。)による買付け等による株券等の買付け等の後におけるその者の所有に係る株券等の株券等所有割合三分の一を超える場合における特定売買等による当該株券等の買付け等

 六月を超えない範囲内において政令で定める期間内に政令で定める割合を超える株券等の取得を株券等の買付け等又は新規発行取得(株券等の発行者が新たに発行する株券等の取得をいう。以下この号において同じ。)により行う場合(株券等の買付け等により行う場合にあつては、政令で定める割合を超える株券等の買付け等を特定売買等による株券等の買付け等又は取引所金融商品市場外における株券等の買付け等(公開買付けによるものを除く。)により行うときに限る。)であつて、当該買付け等又は新規発行取得の後におけるその者の所有に係る株券等の株券等所有割合三分の一を超えるときにおける当該株券等の買付け等(前三号に掲げるものを除く。)

 当該株券等につき公開買付けが行われている場合において、当該株券等の発行者以外の者(その者の所有に係る株券等の株券等所有割合が三分の一を超える場合に限る。)が六月を超えない範囲内において政令で定める期間内に政令で定める割合を超える株券等の買付け等を行うときにおける当該株券等の買付け等(前各号に掲げるものを除く。)

 その他前各号に掲げる株券等の買付け等に準ずるものとして政令で定める株券等の買付け等

なお、政令委任事項の「期間」とか「割合」をマークしているのは、政令に目をやったときに目が迷子にならないためです。

なので、「政令」をマークしてもよいのですが、同じ項に政令委任事項が複数あると、「政令で定める期間」とか「政令で定める割合」の中の、「場合」や「期間」の部分で特定するしかないので、「場合」や「期間」の方をマークしています。でもこれは好みの問題でしょう。

パソコンの画面で打つと、この方法のご利益が今一つよくわからないかもしれませんが、六法で試してみて下さい。条文が速く読めて、しかも読み間違えが減ること請け合いです。

また、この方法は、長い条文を読むときだけではなくて、長文の契約書(英文契約書を含む。)を読むときにも有効だと思います。

その他に、3色のマーカーで色分けしたり、括弧の部分を線で囲んだりする方法もありますが、手間がかかります。

上の方法だと、イエローのマーカー一本あれば、用が足ります。

そして、イエローのマーカーは、向きを縦にしたり横にしたりすることによって、細い線も太い線も引けるので、使い分けをするのもよいでしょう(細字と太字の両方の線が引ける商品もありますが、持ちかえたり、キャップを着けたり外したりするのが面倒です)。

みなさんも、いろいろ工夫してみて下さい。

2013年5月 7日 (火)

下取りセールと独禁法・景表法上の諸問題

ゴールデンウィークにテレビを見ていたら、テレビ通販番組で、「古いエアコンを2万円で下取りします。」というセールをやっていました。

そこでふと思ったのは、「古いエアコンなんて2万円もしない(むしろ工賃が余計にかかる)だろうに、どうしてこんなセールをするんだろうか。」ということです。

これは考えてみると簡単なことで、エアコンを付けている家庭に、買い替えを促すためですね。

「下取り」は単なる名目で、本当は、本体から2万円を引いても良いはずです。

ではなぜ本体を2万円引かないのかというと、家を新築する人はいずれにしてもエアコンは必要なので、2万円引く必要がない(高くても買う)からです。

もし本体価格から2万円を引けば、高くても買うはずの家を新築した人たちにも2万円を引かねばならず、その分売上が下がってしまいますよね。

ところが、既にエアコンが付いている家庭は、「10万円払うくらいなら今のエアコンでも間に合っているから買い替えないけど、8万円なら買い替えてもいいかな。」となるわけです。

産業組織論の言葉でいえば、顧客の支払い意欲によって価格を変える、いわゆる価格差別ですね。

(以上は、経済的に合理的な説明で、実際には、

「あら、この古いエアコンが2万円で買い取ってもらえるの?お得ね!!」

と考える人もいるかもしれません。つまり、新品のエアコンが2万円安く買えるより、古いエアコンを2万円で売れる方が得だ、と考えるわけです。分からないではありませんね。)

いずれにせよ、通販番組では本体価格と下取り価格の内訳をいくらにするか、相当入念に(どういう内訳にすれば利益が最大になるか)考えているはずです。

さて、このような下取りセールの独禁法・景表法上の問題について考えてみたいと思います。

まず、不公正な取引方法の差別対価に該当しないか、つまり、エアコンを買い替える人と、新規にエアコンを取り付ける人との間で、実質的に価格差を設けていることが差別対価に該当しないか(下取りの価値は本当は2万円もしないので)が問題となりますが、基本的には問題ありません。

というのは、差別対価が違法になるためには、競争者の事業活動を困難にするおそれがあることが必要ですが(独禁法2条9項2号)、通常、そのようなことはないからです(あるとすれば、10万円で下取りするなど、実質的に不当廉売に該当するような、極端な場合でしょう)。

次に、価値のない古いエアコンを2万円で引き取るというのは、本当は本体価格を2万円引いているだけなのに事実と異なる表示をしている、ということで、景表法の有利誤認(景表法4条1項2号)に該当するかが問題になりますが、これも問題ありません。

というのは、上に述べたようにこの下取りセールは実質的には価格差別の手段であるという側面があるとはいえ、2万円で下取りすると表示して現に2万円で下取りしているのですから、そもそも、

「商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの・・・よりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示」

に該当しないからです。

実は、このような「下取りセール」的な販売方法については、時々相談を受けることがあります。

例えば、ライバル会社の使用済み商品(タイヤでもテニスボールでも、なんでも良いのですが)を持参した人には、自社の新品の商品と無料で交換する、という具合です。

通常、これらの販売方法は、上記の下取りセールと同じで、問題ない(あるいは、新商品のプロモーションのための宣伝で、短期間なので問題ない)のですが、シェア5割を超えるような企業がこれをやると、場合によっては私的独占に該当することがあるかもしれません。

有線ブロードバンドの私的独占の事件などが、その例ですね。

また、ライバル会社のどの商品でも交換するのと、特定のライバルだけを狙い撃ちするのとでは、後者の方が問題になる確率は高いでしょうね。

2013年5月 2日 (木)

独禁法適用除外規定の不思議

監督官庁の認可を受けることによって独禁法の適用が除外されるという規定が、いくつかの法律に設けられています。

例えば、海上運送法(28条、29条)、道路運送法(18条、19条)、航空法(110条、111条)、保険業法(101条、102条)などです。

これらの法律はおおむね、①独禁法の適用除外に関する条文と、②協定の認可に関する条文からなっています。

しかし、これらの適用除外規定の読み方には、やや注意が必要です。

海上運送法を例に見てみましょう。

海上運送法28条私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の適用除外)では、

「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律・・・の規定は、

次条第一項の認可を受けて行う第一号から第三号までに掲げる行為

又は

第二十九条の二第一項の規定による届出をして行う第四号に掲げる行為

には、適用しない。

ただし、

不公正な取引方法を用いるとき、

一定の取引分野における競争を実質的に制限することにより利用者の利益を不当に害することとなるとき、

又は

第二十九条の三第四項・・・の規定による公示があつた後一月を経過したとき・・・

は、この限りでない。

(1号から4号省略。後述)」

と規定されています。

この規定の趣旨からすると、 「独禁法の適用除外を受けたかったら、1号から3号の協定については29条の認可を受けて、4号の協定については29条の2の届出をすれば良いのだな。」と考えるのが自然でしょう。

ところが、実際の条文はそのような建て付けになっていないのです。

つまり、海上運送法29条(協定の認可等) 1項では、

「一般旅客定期航路事業者又は貨物定期航路事業者は、前条〔28条〕第一号から第三号までの協定を締結し、又はその内容を変更しようとするときは、国土交通大臣の認可を受けなければならない。」

と規定されているのです。

つまり、「〔28条〕第一号から第三号までの協定を締結し、又はその内容を変更しようとするとき」には常に認可を受けなければならないとされているのであって、当事者が独禁法の適用除外を求めるつもりがあるか否か(当事者が独禁法の懸念を有しているか否か)とは、まったく関係がありません。

「第一号から第三号までの協定」と、はっきり書いてある以上、28条柱書きの、独禁法適用除外云々は、認可の要否とは関係がないわけです。

ちなみに海上運送法28条1号から4号は、

 輸送需要の減少により事業の継続が困難と見込まれる本邦の各港間の航路において地域住民の生活に必要な旅客輸送を確保するため、当該航路において事業を経営している二以上の一般旅客定期航路事業者が行う共同経営に関する協定の締結

 本邦の各港間の航路において旅客の利便を増進する適切な運航日程又は運航時刻を設定するため、同一の航路において事業を経営している二以上の一般旅客定期航路事業者が行う共同経営に関する協定の締結

 本邦の各港間の航路において貨物の運送の利用者の利便を増進する適切な運航日程を設定するため、同一の航路において事業を経営している二以上の一般旅客定期航路事業者又は貨物定期航路事業者が行う共同経営に関する協定の締結

 本邦の港と本邦以外の地域の港との間の航路において、船舶運航事業者が他の船舶運航事業者とする運賃及び料金その他の運送条件、航路、配船並びに積取りに関する事項を内容とする協定若しくは契約の締結又は共同行為」

となっているので、これらの協定を締結する以上は、認可または届出が必要、ということです。

この点、認可・届出が必要な行為の対象は、

上述の海上運送法では、「・・・共同経営に関する協定の締結」あるいは「・・・協定若しくは契約の締結又は共同行為」、

道路運送法18条では、「・・・共同経営に関する協定の締結」、

航空法110条では、「・・・共同経営に関する協定の締結」(1号)または、「・・・運輸に関する協定の締結」(2号)、

保険業法101条では、「・・・共同行為」、

となっていて、それぞれの条文で微妙に異なりますが、独禁法の懸念の有無にかかわらず届出・認可が必要になっているという点では、いずれも同じです。

しかしこれには2つの問題があります。

まず、認可・届出が必要な行為の対象が広くなりすぎる(独禁法とはおよそ無縁なものも認可届出が必要になる)可能性があります。

例えば航空法110条2号では、およそ運輸に関する協定が認可の対象となってしまいます。

次に、条文に掲げられている行為以外は、独禁法の適用除外の恩恵を受けられないことになります。

たとえば海上運送法の場合、「共同経営」とまではいえないような共同行為は、独禁法の適用除外を受けられない、ということになりそうです。

しかし、いずれの規定も、独禁法の適用除外だけが目的なのですから、独禁法におよそ関係ない場合には、認可の申請・届出をさせる理由はないはずです。

しかも、認可・届出なしに協定を締結した場合には、刑罰の罰則まであります。

競争者間の共同行為であっても独禁法には違反しない場合というのはいくらでもあるのであって、そのような、独禁法上「真っ白」な共同行為を届け出なかったからといって、刑罰まで科す必要が、果たしてあるのでしょうか?

端的にいって、これは立法のミスであって、本来は、「これこれの行為については、認可を受けた場合には、独禁法を適用しない。」とだけすれば良かったのです。

法律の作り方というのは難しく、また、一歩間違えると怖いですね。日々契約書を作成する弁護士としても、他山の石としたいと思います。

2013年5月 1日 (水)

弁護士意見書を審判の証拠とすることについて(JASRAC事件)

公取委側(審査官)が「敗訴」したJASRACの私的独占事件で、審査官は、JASRACが以前に弁護士から取った意見書を、排除の意図を立証する証拠として審判に提出しました(審決2012年6月14日)。

審決書中の関連する審査官の主張(「本件行為及びその効果についての被審人の認識」)を引用すると、以下の通りです。

「独占禁止法検討会議のメンバーである弁護士から平成15年3月に被審人に提出された意見書では,包括使用料の定めが私的独占(独占禁止法第3条前段)となるおそれがあること,他の管理事業者が出現したことを受けて使用料を減額する必要はないものの,私的独占等にならないかを十分注意して使用料制度を運営することが肝要であることが指摘された。」(p31)

つまり、包括使用料の定めが私的独占になるおそれがあることをJASRACが認識していたことの証拠として、弁護士の意見書が提出されているわけです。

これは、あまりにひどい立証活動ではないでしょうか。

そもそも、排除の効果を違反者が認識していたこと(あるいは、排除の意図)が私的独占の要件なのか疑問ですが、それは置くとしても、このような場合の弁護士の意見書は、もともと証明力が極めて低いと思います。

被審人も、上記審査官の主張に対して、

「審査官の主張ア(エ)について,弁護士の意見書の内容は,被審人の業務全般と独占禁止法との関係を述べたものであって,そのごく一部に包括徴収と独占禁止法との関係について論じた部分はあるが,放送等利用割合を反映しない包括徴収に言及したものではない。」(p33)

と反論しており、証明力が低いものであったことが伺えます。

(あと一つ細かいことを言えば、本件でイーライセンスが放送等利用に係る管理事業への新規参入をしたのは平成18年4月であり(p10)、それより3年も前の意見書を持ち出してくるのもどうかと思います。3年前の意見書を持ち出すなら、3年前から排除行為があったとしないと辻褄が合わないでしょう。本件の排除措置命令では、そもそも違反行為の始期がいつだったのか(審査官はいつと考えていたのか)、よくわかりませんが、そういうちぐはぐなところが、排除措置命令の取り消しの背景になっているような気がします。)

さらに問題なのは、このような立証を許すと、企業が弁護士に対して率直に意見を求めることができなくなってしまうことです。

欧米で弁護士依頼者秘匿特権が認められているのも、まさにそのような趣旨に基づくもので、こういう立証活動がまかりとおると、日本でも秘匿特権を認める必要がないか、真剣に議論すべきような気がします。

確かに、秘匿特権は広範な証拠開示と切り離しては議論できないし、独禁法の世界でだけ秘匿特権を認める理由はなかなか見つからないので、難しい問題ではありますが、本件のような、違法かどうかの評価が人によって大きく分かれる事案では、とくに、弁護士の意見を率直に求めることができることは大事だと思います。

上記弁護士意見書に限らず、本件では審査官が勝つためになりふり構わず主張立証を行った感がありますが(そして、それが的外れだった(あるいは、狙った「的」が、本当の「的」ではなかった)ために排除措置命令が取り消されたわけですが)、審査官には公益の代表者として、節度ある立証活動を行って欲しいのものです。

・・・というようなことを、弁護士である私が言っても、利害関係があるので説得力がないのかもしれませんね。

私は、公に物を言うときは、できるだけ自分の立場を離れて、中立的な立場で言うように心がけているつもりですが、それでも、バイアスはあるのでしょうね。

ただ、そのバイアスを割り引いても、やっぱり弁護士意見書を証拠として提出するのは、メリット(←証明力はほとんどない)に比べてデメリット(←法律家の意見が求めにくくなる)が大き過ぎると思います。

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