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2013年4月30日 (火)

親事業者の増減資と下請法適用の有無

発注から納入までの一連の流れの中で、

A.親事業者でない発注者が増資して親事業者になった、

あるいは、

B.親事業者だった発注者が減資して親事業者でなくなった

という場合、下請法は、どの時点から適用される(Aの場合)、あるいは、適用されなくなる(Bの場合)のでしょうか。

この問題、とくに親事業者の減資(B)の場合については、

「取引開始後は下請事業者の下請法上の保護の期待を保護すべきなので、親事業者の減資後も引き続き下請法の規制を及ぼすべき。」

という議論もあり得そうですが、公取委の書面調査に関するFAQでは、

「Q1 当社はこの調査に回答する義務があるのですか。」

との質問に対する回答の中で、

「なお,貴社が,・・・「資本金又は出資の総額」を1000万円以下に減資等した場合・・・には,「第2 下請取引の状況」への回答は不要ですので,「第1 貴社の概要」の部分のみを記載し,提出してください。」

と回答されているので、その趣旨を酌み取れば、親事業者の資本金が1000万円以下に減資された場合には、その瞬間に、一律に下請法の適用がなくなる、というのが公取委の見解であろうと思われます。

(もしそうなら、「第1 貴社の概要」の部分も回答する義務はないはずですが、ひとまず置きます。)

私も、減資の場合には、基本的に公取委の見解が正しいと思うのですが、念のため、条文の解釈として妥当か、見てみましょう。

まず下請法の親事業者の定義は、たとえば1000万円が基準となっている2条7項2号を見てみると、

「資本金の額・・・が千万円を超え三億円以下の法人たる事業者・・・であつて、個人又は資本金の額若しくは出資の総額が千万円以下の法人たる事業者に対し製造委託等をするもの 」

となっているので、資本金の額が1000万円を「超え」なくなった瞬間、つまり、1000万円以下に減資した瞬間に、「親事業者」の定義に該当しなくなります。

ですので、1000万円以下に減資した瞬間に下請法の適用はなくなる(1000万円超に増資した瞬間に下請法が適用される)、ということになりそうですが、実はそう単純でもなさそうです。

以下、下請法の各規定の適用範囲を見てみましょう。

■ 下請法2条の2(下請代金の支払期日)

下請法2条の2の条文は、

下請代金の支払期日は、・・・親事業者が下請事業者の給付を受領した日・・・から起算して、六十日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内において、定められなければならない。」

となっています。

まず下請法2条の2では、「下請代金」が主語になっているので、「下請代金」の定義(2条10項)をみると、

親事業者が製造委託等をした場合に下請事業者の給付・・・に対し支払うべき代金をいう。 」

となっています。

この「下請代金」の定義の書きぶりからすると、製造委託等を「した」時点(つまり発注時点)で「親事業者」でない限り、「下請代金」の定義には該当しないと読むのが自然でしょう。製造委託等を「した」時点で発注者が親事業者でない場合には、「親事業者が製造委託等をした場合」に該当しないからです。

したがって、発注時点で親事業者の資本金要件を満たさない場合には、下請法2条の2は適用されない、ということになります。

(つまり、「発注時点で資本金要件を満たすこと」が、下請法2条の2の適用の要件(=必要条件)となります。)

そこで、発注前に減資して親事業者でなくなった場合には、2条の2は適用されません。(これは当然でしょう。)

また、発注後に増資して親事業者になった場合に、過去の当該発注に下請法2条の2が遡って適用されるのか、というと、これも適用されないと考えるべきでしょう。

理由は、上述の「下請代金」の定義から「発注時点で資本金要件を満たすこと」が下請法2条の2の適用の要件であるということと、遡及適用を肯定すると、たとえば発注時点では親事業者に該当しない発注者が給付受領日から70日後に支払期日を定めていた場合、親事業者に該当した瞬間に2条の2違反になってしまい、不都合だからです。

問題は、発注後に減資することにより発注者は2条の2の適用を免れることができるかです。

私は、免れることができると考えます。

理由は、下請法の適用は画一的であるべきだからです。親事業者が減資した場合の経過措置が下請法にない以上、発注者が「親事業者」でなくなった瞬間に、一律に下請法の適用がなくなると考えるのが自然です。

この点に対する異論としては、「3条書面に支払期日も記載して「直ちに」交付しなければならないとされている以上、発注後直ちに支払期日を定めないと3条違反になるので、3条を守る限りは2条の2の受領後60日以内という支払期日も(発注後直ちに)決まってしまうのではないか。」ということが考えられます。

理屈の上では確かにそのとおりですが、発注者が親事業者でなくなった後に事後的に支払期日を変更(延長)することは、下請法上は何ら禁止されていないのですから、やはり、減資により2条の2の適用を免れると考えることに問題はないと思われます。

■ 3条書面の交付(下請法3条)

下請法3条1項は、

親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、直ちに、公正取引委員会規則で定めるところにより下請事業者の給付の内容、下請代金の額、支払期日及び支払方法その他の事項を記載した書面を下請事業者に交付しなければならない。」

と規定しています。

ここでも、「親事業者」が製造委託等を「した場合」と定められているので、製造委託等をした時点(発注時点)で発注者が親事業者である必要があるでしょう。

ですので、発注前の段階で親事業者であっても、発注時までに減資すれば、3条書面の交付義務は生じません。これは当然でしょう。

次に、発注時に親事業者であった発注者が発注後に減資する場合を考えると、3条書面の交付は発注後直ちにしなければならないので、発注後に3条書面を交付しないまま減資した場合には(「直ちに」交付しなかったものとして)3条違反になる可能性が高いように思われます。

しかし、2条の2の場合と同様に、いったん交付した3条書面の内容を減資後に撤回(あるいは合意解除)することは下請法上何ら禁止されていないので、発注者が3条書面の記載内容から免れることは不可能ではないと言えるでしょう(ただし、3条書面記載の内容に発注者が一方的に違反した場合には、民法上の債務不履行が成立する可能性が高い者と思われます)。

■ 親事業者の遵守事項(下請法4条1項)

下請法4条1項柱書きは、

親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、次の各号・・・に掲げる行為をしてはならない。」

と規定しているので、やはり、製造委託等を「した」時点(発注時点)で「親事業者」であることが4条1項適用の要件であると考えられます。

ただし、各号に掲げる行為を「してはならない」のは、「親事業者」だけなので、各号に掲げる行為をした時点でも、「親事業者」である必要があると考えられます。

たとえば受領拒否(4条1項1号)では、

「下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請事業者の給付の受領を拒むこと」

が禁止事項なので、同号適用のためには、受領を拒んだ時点(≒下請事業者が弁済の提供をした時点)で、発注者が親事業者である必要があります。

支払遅延(4条1項2号)では、

「下請代金をその支払期日の経過後なお支払わないこと」

が禁止事項ですが、前述のとおり「下請代金」の定義に該当するためには発注時点で発注者が親事業者でなければなりません。前述の通り、柱書きからも同様の結論が導かれます。

そして、ここでは「支払わないこと」が禁止行為で、当該禁止行為(不作為)は、支払期日の翌日に直ちに成立することになります。

なので、発注時点でも支払期日の翌日にも親事業者であった発注者は、支払遅延をすると、その後減資をしても、下請法違反自体は成立する、ということになると思われます。

代金減額(4条1項3号)では、

「下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請代金の額を減ずること」

が禁止事項なので、柱書きより、「減ずる」という行為をした時点で発注者が親事業者である必要があります。(さらに、「下請代金」の定義より、発注時点でも親事業者である必要があります。)

ですので、減資後に下請代金を「減ずる」という行為をした場合には、下請法違反にはなりません。

4条については、返品(4条1項4号)以下も同様です。

■ 遅延利息(下請法4条の2)

下請法4条の2は、

親事業者は、下請代金の支払期日までに下請代金を支払わなかつたときは、下請事業者に対し、下請事業者の給付を受領した日・・・から起算して六十日を経過した日から支払をする日までの期間について、その日数に応じ、当該未払金額に公正取引委員会規則で定める率を乗じて得た金額を遅延利息として支払わなければならない。 」

と規定しています。

ここでは、主語が「親事業者は」なので、「支払わなければならない。」というのも親事業者に限られる(親事業者でなくなった以上、4条の2の遅延利息の支払い義務はない)という考え方もあり得そうです。

しかし、いったん生じた遅延利息の支払い義務が、その後の減資によって消滅するというのも、いかにもバランスが悪い解釈のように思われます。

そこで、4条の2の遅延利息の始期(つまり、受領日から起算して60日を経過した日)に親事業者に該当した注文者は、その後減資により親事業者でなくなった期間について、4条の2の遅延利息を支払う義務を負う、と解すべきではないでしょうか。すでに(日割りで)発生した義務なので、4条の2の主語が「親事業者」であることとも、それほど矛盾しないように思います。

■ 書類等の作成・保管(下請法5条)

下請法5条は、

親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、公正取引委員会規則で定めるところにより、下請事業者の給付、給付の受領・・・、下請代金の支払その他の事項について記載し又は記録した書類又は電磁的記録・・・を作成し、これを保存しなければならない。」

と規定しています。

まず、ここでの書類保管義務の期間は、「下請代金支払遅延等防止法第五条の書類又は電磁的記録の作成及び保存に関する規則」の3条により、必要事項の記載・記録が終わった日から2年間と定められています。

とすると、減資して親事業者でなくなった場合も、親事業者でなくなった日から2年間は保存義務が続くと考えるのが自然なような気もしますが、ここでも下請法5条の主語が「親事業者は」となっているので、当該作成・保存義務は、減資により親事業者でなくなった瞬間に消滅すると考えるほかないと思います。(経過規定も無いですし。)

記録をとどめておくという趣旨からすれば減資後も2年間は義務が続くと考えた方がよいような気もしますが、文言上、致し方ありません。また、減資後は保存義務は無くなると考えた方が、下請法運用の画一性という観点からは望ましいのかもしれません。

■ 勧告(下請法7条)

以上の通り、下請法の実体規定については、増減資があった場合の適用関係についていろいろと細かい問題があり得ますが、エンフォースメントの場面では、結論ははっきりしています。

つまり、下請法7条では、

「公正取引委員会は、親事業者が第四条第一項第一号、第二号又は第七号に掲げる行為をしていると認めるときは、その親事業者に対し、速やかにその下請事業者の給付を受領し、その下請代金若しくはその下請代金及び第四条の二の規定による遅延利息を支払い、又はその不利益な取扱いをやめるべきことその他必要な措置をとるべきことを勧告するものとする。 」(7条1項)、

「公正取引委員会は、親事業者が第四条第一項第三号から第六号までに掲げる行為をしたと認めるときは、その親事業者に対し、速やかにその減じた額を支払い、その下請事業者の給付に係る物を再び引き取り、その下請代金の額を引き上げ、又はその購入させた物を引き取るべきことその他必要な措置をとるべきことを勧告するものとする。」(7条2項) 、

「公正取引委員会は、親事業者について第四条第二項各号のいずれかに該当する事実があると認めるときは、その親事業者に対し、速やかにその下請事業者の利益を保護するため必要な措置をとるべきことを勧告するものとする。 」(7条3項)、

と、勧告の名宛て人がいずれも親事業者に限ることが、文言上明らかだからです。

とくに、過去の行為についての勧告を定める7条2項などは、もともと過去の行為に対する勧告が予定されているのですから、事後的に親事業者でなくなったからといって勧告を出せなくなるというのはいかにもバランスが悪いような気がしないでもないですが、これほどはっきりと条文に「親事業者に対し」と書き込まれている以上、どうしようもありません。

しかし、これも好意的に見れば、エンフォースメントの場面まで画一的な運用を徹底するのが立法者の意図である、ということでしょうか。

なお、勧告は受けなくても、警告とか注意は受けるかもしれません。

■ 報告および検査(下請法9条)

前述の公取委のFAQからも、条文の文言からも、報告・検査の対象になるのは親事業者だけであり、親事業者でなくなった瞬間に、報告・検査の義務も消滅すると考えられます。

■ 刑罰(下請法10条)

3条書面を交付しなかった場合や、書類の保存義務に違反した場合には、

「その違反行為をした親事業者の代表者、代理人、使用人その他の従業者は、五十万円以下の罰金に処する。 」

とされています(下請法10条)。

ここでは、違反行為を「した」ときに発注者が「親事業者」であれば、代表者等の個人が罰金に処せられることが明らかなので、違反行為後に親事業者が減資しても、これら個人は処罰を免れません。

■ まとめ

以上の通り、下請法は注文者に増減資があった場合については、かなり割り切った考え方をしているといえるでしょう。

似たような立法例に目を向けると、例えば会社法の「大会社」は、

「大会社 次に掲げる要件のいずれかに該当する株式会社をいう。

 最終事業年度に係る貸借対照表・・・に資本金として計上した額が五億円以上であること。

 最終事業年度に係る貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が二百億円以上であること。」(会社法2条6号)」

と定義されており、最終事業年度の貸借対照表(それが確定するのは、会社法439条前段の場合(会計監査人設置会社の特則が適用される場合)には定時株主総会への報告の時、それ以外の会社の場合は株主総会の承認の時です。会社法2条24号)が基準になっているため、期中に増資しても突然大会社になったりしません。

このような経過措置的な定義を「親事業者」について採用していない下請法においては、やはり、減資した瞬間に親事業者でなくなる(増資した瞬間に親事業者になる)と解すべきなのでしょう。

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