カルテルに途中から参加した者の違反行為の始期
あいかわらず、ページを開くたびに(良い意味で)痺れる菅久他『独占禁止法』ですが(笑)、カルテルの始期について、以下のような記述がありました。
「また、カルテルの合意に途中から参加する事業者が存在するが、こうした事業者のとっての違反行為の始期は、その合意を認識し、自らがその合意に従って事業活動を行うことを認容した時点である。」(p45)
私は、これはちょっと早すぎると思います。
この論点の背景として、不当な取引制限の既遂時期は、
①カルテルの合意時か(合意時説)、
②カルテルを実施した時か(実施時説)、
③実施に着手した時か(着手時説)、
で争いがあるわけですが、上記引用部分では、途中参加者について、最も早く既遂(=始期)を認める合意時説よりも早くカルテルが成立してしまうことにならないでしょうか。
つまり、途中参加者とはいえ、「合意」が成立していること、あるいは、「合意」に参加していることが必要であると思うのです。
とすると、途中参加者が、合意の既存メンバーの知らないところでこっそりと(あるいは一方的に)、「合意に従って事業活動を行うことを認容」しただけでは足りず、少なくとも、そのような「認容」を、既存メンバーが認識することが必要ではないでしょうか。
さらに、そのような既存メンバーの認識が生じるためには、途中参加者が明示的に参加の意思を既存メンバーに表明するということが必要な気がします。
ここで、黙示の表明でも足りるとすると(たとえば、値上げした価格で販売すること自体が「黙示の表明」だとか考えると)、大手のカルテル(=非参加者からみれば、ただの値上げ)にたんに追従している周辺的事業者まで、カルテルに問われて、妥当ではないでしょう。
執筆者の意図としては、「合意に従って」という部分に、合意による拘束を読み込む(たんなる追随値上げは独自に決定したものであって、「従って」に該当しない)という趣旨なのかも知れません。
また、このような規範がぴったり来る事例というのが念頭におありなのかもしれません(私には、ちょっと思いつきませんが。。)。
しかし、いずれにせよ、上記規範を文字通り適用すると、けっこう不都合なことが出てくるように思います。
ともあれ、こういう、実務上有益な、鋭い議論に切り込んでいる(しかも、A5版ソフトカバーで400頁少々のコンパクトさで!)というところが、この本のすごいところだと、改めて感心します。
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