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2013年4月

2013年4月30日 (火)

親事業者の増減資と下請法適用の有無

発注から納入までの一連の流れの中で、

A.親事業者でない発注者が増資して親事業者になった、

あるいは、

B.親事業者だった発注者が減資して親事業者でなくなった

という場合、下請法は、どの時点から適用される(Aの場合)、あるいは、適用されなくなる(Bの場合)のでしょうか。

この問題、とくに親事業者の減資(B)の場合については、

「取引開始後は下請事業者の下請法上の保護の期待を保護すべきなので、親事業者の減資後も引き続き下請法の規制を及ぼすべき。」

という議論もあり得そうですが、公取委の書面調査に関するFAQでは、

「Q1 当社はこの調査に回答する義務があるのですか。」

との質問に対する回答の中で、

「なお,貴社が,・・・「資本金又は出資の総額」を1000万円以下に減資等した場合・・・には,「第2 下請取引の状況」への回答は不要ですので,「第1 貴社の概要」の部分のみを記載し,提出してください。」

と回答されているので、その趣旨を酌み取れば、親事業者の資本金が1000万円以下に減資された場合には、その瞬間に、一律に下請法の適用がなくなる、というのが公取委の見解であろうと思われます。

(もしそうなら、「第1 貴社の概要」の部分も回答する義務はないはずですが、ひとまず置きます。)

私も、減資の場合には、基本的に公取委の見解が正しいと思うのですが、念のため、条文の解釈として妥当か、見てみましょう。

まず下請法の親事業者の定義は、たとえば1000万円が基準となっている2条7項2号を見てみると、

「資本金の額・・・が千万円を超え三億円以下の法人たる事業者・・・であつて、個人又は資本金の額若しくは出資の総額が千万円以下の法人たる事業者に対し製造委託等をするもの 」

となっているので、資本金の額が1000万円を「超え」なくなった瞬間、つまり、1000万円以下に減資した瞬間に、「親事業者」の定義に該当しなくなります。

ですので、1000万円以下に減資した瞬間に下請法の適用はなくなる(1000万円超に増資した瞬間に下請法が適用される)、ということになりそうですが、実はそう単純でもなさそうです。

以下、下請法の各規定の適用範囲を見てみましょう。

■ 下請法2条の2(下請代金の支払期日)

下請法2条の2の条文は、

下請代金の支払期日は、・・・親事業者が下請事業者の給付を受領した日・・・から起算して、六十日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内において、定められなければならない。」

となっています。

まず下請法2条の2では、「下請代金」が主語になっているので、「下請代金」の定義(2条10項)をみると、

親事業者が製造委託等をした場合に下請事業者の給付・・・に対し支払うべき代金をいう。 」

となっています。

この「下請代金」の定義の書きぶりからすると、製造委託等を「した」時点(つまり発注時点)で「親事業者」でない限り、「下請代金」の定義には該当しないと読むのが自然でしょう。製造委託等を「した」時点で発注者が親事業者でない場合には、「親事業者が製造委託等をした場合」に該当しないからです。

したがって、発注時点で親事業者の資本金要件を満たさない場合には、下請法2条の2は適用されない、ということになります。

(つまり、「発注時点で資本金要件を満たすこと」が、下請法2条の2の適用の要件(=必要条件)となります。)

そこで、発注前に減資して親事業者でなくなった場合には、2条の2は適用されません。(これは当然でしょう。)

また、発注後に増資して親事業者になった場合に、過去の当該発注に下請法2条の2が遡って適用されるのか、というと、これも適用されないと考えるべきでしょう。

理由は、上述の「下請代金」の定義から「発注時点で資本金要件を満たすこと」が下請法2条の2の適用の要件であるということと、遡及適用を肯定すると、たとえば発注時点では親事業者に該当しない発注者が給付受領日から70日後に支払期日を定めていた場合、親事業者に該当した瞬間に2条の2違反になってしまい、不都合だからです。

問題は、発注後に減資することにより発注者は2条の2の適用を免れることができるかです。

私は、免れることができると考えます。

理由は、下請法の適用は画一的であるべきだからです。親事業者が減資した場合の経過措置が下請法にない以上、発注者が「親事業者」でなくなった瞬間に、一律に下請法の適用がなくなると考えるのが自然です。

この点に対する異論としては、「3条書面に支払期日も記載して「直ちに」交付しなければならないとされている以上、発注後直ちに支払期日を定めないと3条違反になるので、3条を守る限りは2条の2の受領後60日以内という支払期日も(発注後直ちに)決まってしまうのではないか。」ということが考えられます。

理屈の上では確かにそのとおりですが、発注者が親事業者でなくなった後に事後的に支払期日を変更(延長)することは、下請法上は何ら禁止されていないのですから、やはり、減資により2条の2の適用を免れると考えることに問題はないと思われます。

■ 3条書面の交付(下請法3条)

下請法3条1項は、

親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、直ちに、公正取引委員会規則で定めるところにより下請事業者の給付の内容、下請代金の額、支払期日及び支払方法その他の事項を記載した書面を下請事業者に交付しなければならない。」

と規定しています。

ここでも、「親事業者」が製造委託等を「した場合」と定められているので、製造委託等をした時点(発注時点)で発注者が親事業者である必要があるでしょう。

ですので、発注前の段階で親事業者であっても、発注時までに減資すれば、3条書面の交付義務は生じません。これは当然でしょう。

次に、発注時に親事業者であった発注者が発注後に減資する場合を考えると、3条書面の交付は発注後直ちにしなければならないので、発注後に3条書面を交付しないまま減資した場合には(「直ちに」交付しなかったものとして)3条違反になる可能性が高いように思われます。

しかし、2条の2の場合と同様に、いったん交付した3条書面の内容を減資後に撤回(あるいは合意解除)することは下請法上何ら禁止されていないので、発注者が3条書面の記載内容から免れることは不可能ではないと言えるでしょう(ただし、3条書面記載の内容に発注者が一方的に違反した場合には、民法上の債務不履行が成立する可能性が高い者と思われます)。

■ 親事業者の遵守事項(下請法4条1項)

下請法4条1項柱書きは、

親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、次の各号・・・に掲げる行為をしてはならない。」

と規定しているので、やはり、製造委託等を「した」時点(発注時点)で「親事業者」であることが4条1項適用の要件であると考えられます。

ただし、各号に掲げる行為を「してはならない」のは、「親事業者」だけなので、各号に掲げる行為をした時点でも、「親事業者」である必要があると考えられます。

たとえば受領拒否(4条1項1号)では、

「下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請事業者の給付の受領を拒むこと」

が禁止事項なので、同号適用のためには、受領を拒んだ時点(≒下請事業者が弁済の提供をした時点)で、発注者が親事業者である必要があります。

支払遅延(4条1項2号)では、

「下請代金をその支払期日の経過後なお支払わないこと」

が禁止事項ですが、前述のとおり「下請代金」の定義に該当するためには発注時点で発注者が親事業者でなければなりません。前述の通り、柱書きからも同様の結論が導かれます。

そして、ここでは「支払わないこと」が禁止行為で、当該禁止行為(不作為)は、支払期日の翌日に直ちに成立することになります。

なので、発注時点でも支払期日の翌日にも親事業者であった発注者は、支払遅延をすると、その後減資をしても、下請法違反自体は成立する、ということになると思われます。

代金減額(4条1項3号)では、

「下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請代金の額を減ずること」

が禁止事項なので、柱書きより、「減ずる」という行為をした時点で発注者が親事業者である必要があります。(さらに、「下請代金」の定義より、発注時点でも親事業者である必要があります。)

ですので、減資後に下請代金を「減ずる」という行為をした場合には、下請法違反にはなりません。

4条については、返品(4条1項4号)以下も同様です。

■ 遅延利息(下請法4条の2)

下請法4条の2は、

親事業者は、下請代金の支払期日までに下請代金を支払わなかつたときは、下請事業者に対し、下請事業者の給付を受領した日・・・から起算して六十日を経過した日から支払をする日までの期間について、その日数に応じ、当該未払金額に公正取引委員会規則で定める率を乗じて得た金額を遅延利息として支払わなければならない。 」

と規定しています。

ここでは、主語が「親事業者は」なので、「支払わなければならない。」というのも親事業者に限られる(親事業者でなくなった以上、4条の2の遅延利息の支払い義務はない)という考え方もあり得そうです。

しかし、いったん生じた遅延利息の支払い義務が、その後の減資によって消滅するというのも、いかにもバランスが悪い解釈のように思われます。

そこで、4条の2の遅延利息の始期(つまり、受領日から起算して60日を経過した日)に親事業者に該当した注文者は、その後減資により親事業者でなくなった期間について、4条の2の遅延利息を支払う義務を負う、と解すべきではないでしょうか。すでに(日割りで)発生した義務なので、4条の2の主語が「親事業者」であることとも、それほど矛盾しないように思います。

■ 書類等の作成・保管(下請法5条)

下請法5条は、

親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、公正取引委員会規則で定めるところにより、下請事業者の給付、給付の受領・・・、下請代金の支払その他の事項について記載し又は記録した書類又は電磁的記録・・・を作成し、これを保存しなければならない。」

と規定しています。

まず、ここでの書類保管義務の期間は、「下請代金支払遅延等防止法第五条の書類又は電磁的記録の作成及び保存に関する規則」の3条により、必要事項の記載・記録が終わった日から2年間と定められています。

とすると、減資して親事業者でなくなった場合も、親事業者でなくなった日から2年間は保存義務が続くと考えるのが自然なような気もしますが、ここでも下請法5条の主語が「親事業者は」となっているので、当該作成・保存義務は、減資により親事業者でなくなった瞬間に消滅すると考えるほかないと思います。(経過規定も無いですし。)

記録をとどめておくという趣旨からすれば減資後も2年間は義務が続くと考えた方がよいような気もしますが、文言上、致し方ありません。また、減資後は保存義務は無くなると考えた方が、下請法運用の画一性という観点からは望ましいのかもしれません。

■ 勧告(下請法7条)

以上の通り、下請法の実体規定については、増減資があった場合の適用関係についていろいろと細かい問題があり得ますが、エンフォースメントの場面では、結論ははっきりしています。

つまり、下請法7条では、

「公正取引委員会は、親事業者が第四条第一項第一号、第二号又は第七号に掲げる行為をしていると認めるときは、その親事業者に対し、速やかにその下請事業者の給付を受領し、その下請代金若しくはその下請代金及び第四条の二の規定による遅延利息を支払い、又はその不利益な取扱いをやめるべきことその他必要な措置をとるべきことを勧告するものとする。 」(7条1項)、

「公正取引委員会は、親事業者が第四条第一項第三号から第六号までに掲げる行為をしたと認めるときは、その親事業者に対し、速やかにその減じた額を支払い、その下請事業者の給付に係る物を再び引き取り、その下請代金の額を引き上げ、又はその購入させた物を引き取るべきことその他必要な措置をとるべきことを勧告するものとする。」(7条2項) 、

「公正取引委員会は、親事業者について第四条第二項各号のいずれかに該当する事実があると認めるときは、その親事業者に対し、速やかにその下請事業者の利益を保護するため必要な措置をとるべきことを勧告するものとする。 」(7条3項)、

と、勧告の名宛て人がいずれも親事業者に限ることが、文言上明らかだからです。

とくに、過去の行為についての勧告を定める7条2項などは、もともと過去の行為に対する勧告が予定されているのですから、事後的に親事業者でなくなったからといって勧告を出せなくなるというのはいかにもバランスが悪いような気がしないでもないですが、これほどはっきりと条文に「親事業者に対し」と書き込まれている以上、どうしようもありません。

しかし、これも好意的に見れば、エンフォースメントの場面まで画一的な運用を徹底するのが立法者の意図である、ということでしょうか。

なお、勧告は受けなくても、警告とか注意は受けるかもしれません。

■ 報告および検査(下請法9条)

前述の公取委のFAQからも、条文の文言からも、報告・検査の対象になるのは親事業者だけであり、親事業者でなくなった瞬間に、報告・検査の義務も消滅すると考えられます。

■ 刑罰(下請法10条)

3条書面を交付しなかった場合や、書類の保存義務に違反した場合には、

「その違反行為をした親事業者の代表者、代理人、使用人その他の従業者は、五十万円以下の罰金に処する。 」

とされています(下請法10条)。

ここでは、違反行為を「した」ときに発注者が「親事業者」であれば、代表者等の個人が罰金に処せられることが明らかなので、違反行為後に親事業者が減資しても、これら個人は処罰を免れません。

■ まとめ

以上の通り、下請法は注文者に増減資があった場合については、かなり割り切った考え方をしているといえるでしょう。

似たような立法例に目を向けると、例えば会社法の「大会社」は、

「大会社 次に掲げる要件のいずれかに該当する株式会社をいう。

 最終事業年度に係る貸借対照表・・・に資本金として計上した額が五億円以上であること。

 最終事業年度に係る貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が二百億円以上であること。」(会社法2条6号)」

と定義されており、最終事業年度の貸借対照表(それが確定するのは、会社法439条前段の場合(会計監査人設置会社の特則が適用される場合)には定時株主総会への報告の時、それ以外の会社の場合は株主総会の承認の時です。会社法2条24号)が基準になっているため、期中に増資しても突然大会社になったりしません。

このような経過措置的な定義を「親事業者」について採用していない下請法においては、やはり、減資した瞬間に親事業者でなくなる(増資した瞬間に親事業者になる)と解すべきなのでしょう。

2013年4月25日 (木)

カルテルに途中から参加した者の違反行為の始期

あいかわらず、ページを開くたびに(良い意味で)痺れる菅久他『独占禁止法』ですが(笑)、カルテルの始期について、以下のような記述がありました。

「また、カルテルの合意に途中から参加する事業者が存在するが、こうした事業者のとっての違反行為の始期は、その合意を認識し、自らがその合意に従って事業活動を行うことを認容した時点である。」(p45)

私は、これはちょっと早すぎると思います。

この論点の背景として、不当な取引制限の既遂時期は、

①カルテルの合意時か(合意時説)、

②カルテルを実施した時か(実施時説)、

③実施に着手した時か(着手時説)、

で争いがあるわけですが、上記引用部分では、途中参加者について、最も早く既遂(=始期)を認める合意時説よりも早くカルテルが成立してしまうことにならないでしょうか。

つまり、途中参加者とはいえ、「合意」が成立していること、あるいは、「合意」に参加していることが必要であると思うのです。

とすると、途中参加者が、合意の既存メンバーの知らないところでこっそりと(あるいは一方的に)、「合意に従って事業活動を行うことを認容」しただけでは足りず、少なくとも、そのような「認容」を、既存メンバーが認識することが必要ではないでしょうか。

さらに、そのような既存メンバーの認識が生じるためには、途中参加者が明示的に参加の意思を既存メンバーに表明するということが必要な気がします。

ここで、黙示の表明でも足りるとすると(たとえば、値上げした価格で販売すること自体が「黙示の表明」だとか考えると)、大手のカルテル(=非参加者からみれば、ただの値上げ)にたんに追従している周辺的事業者まで、カルテルに問われて、妥当ではないでしょう。

執筆者の意図としては、「合意に従って」という部分に、合意による拘束を読み込む(たんなる追随値上げは独自に決定したものであって、「従って」に該当しない)という趣旨なのかも知れません。

また、このような規範がぴったり来る事例というのが念頭におありなのかもしれません(私には、ちょっと思いつきませんが。。)。

しかし、いずれにせよ、上記規範を文字通り適用すると、けっこう不都合なことが出てくるように思います。

ともあれ、こういう、実務上有益な、鋭い議論に切り込んでいる(しかも、A5版ソフトカバーで400頁少々のコンパクトさで!)というところが、この本のすごいところだと、改めて感心します。

2013年4月24日 (水)

消費税の転嫁に関する誤解

2014年4月の消費税の増税に向けて、消費税の円滑な転嫁のための特別措置法が国会で審議されています。

内容は公取委の3月22日付プレスリリースをご覧いただければと思いますが、消費税の転嫁については、世の中に根本的な誤解があるような気がしてなりません。

例えば、消費税導入時のちょっと古い文献ですが、公正取引委員会事務局官房企画課長高橋祥次「消費税の転嫁と独占禁止法」(商事法務1171号11頁・1989年)にある、以下のような記述が典型例だと思われます。

同論文では、消費税導入時に認められた消費税の転嫁カルテル(今回の消費税率引き上げでも同様に認められる予定です)について、以下のように説明されています。

「第一は、〔転嫁カルテルは〕消費税の上乗せ分に限ってのみカルテルを認めていることである。したがって、本体価格に関する限りは、いかなるカルテルも認められない。本体価格はあくまで市場における自由競争によって決まるものであり、その市場において決まった価格に3%分消費税として上乗せされるというのが基本的考え方である。」

しかし、上記の下線部の記述は、経済合理性から考えると、明らかにおかしいです。

というのは、自由競争によって決まるのは、(消費税抜きの)本体価格ではなく、消費税込の価格であるからです。需要者にとって意味があるのは、実際に支払う価格(税込価格)がいくらか、なのであって、そのうち消費税が5%か8%かはどうでもよい話なのですから、「消費税」と「本体価格」を区別するのは、本来意味がありません。

(ひょっとしたら、消費税の名目で支払う場合と、本体価格の名目で支払う場合とで、需要者の支払意思が変わる、つまり、消費税だったら「仕方ないな~」と思っいつつも買う(=支払意思が高い)のに対して、本体価格だと「高いな~」と思って買わない(=支払意思が低い)ということがあるかもしれませんが、ここでの議論の本質には関係ありません。→この辺りに詳しい方は、ぜひ教えて下さい。)

つまり、こういうことです。

今、税率引き上げ前に105円(税込)の商品があるとします。

単純計算では、税率引き上げ後は108円(税込)になりますね。

上記論文が言っているのは、「100円の部分は市場における自由競争で決まり、それに5%または8%の消費税が上乗せされる」ということです。

しかし実際には、話はそう単純ではありません。

つまり、105円から108円に値上げすると、通常、売れる個数は減ります(経済学的にいえば、需要曲線は右下がりだということです)。

これに対して、売上(=価格×個数)は、増えるかもしれませんし、減るかもしれません(105円で売手の利益が最大化されていたいのであれば、108円では通常は減るでしょう)。

以上は需要者側の事情ですが、供給者側の事情としては、消費税の増税は供給者のコストアップになるので、同じ(税込)価格での供給量が減るかもしれません(供給曲線が左にシフトする)。

結局売手としては、税率引き上げ後、税込価格をいくらで売ったら利益が最大になるのかを探りながら、値段を設定することになるでしょう。

ですので、単純に105円が108円になるというわけではありません。

税率引き上げ直後は108円になるかもしれませんが、それで売上が落ちたら、企業はすぐに値下げするでしょう。

あるいは、売上が落ちることが予想されたら、最初から値上げしないでしょう。

つまり、「105円を108円にしたら、売上が落ちるかもしれないので、値上げはしないでおこう。」というのは、極めて経済合理的な考え方であり、このこと自体を批判するのは、本来的外れなはずです。

ところが、今回の改正法案では、これがまさに消費税を転嫁しないということであると捉えられ、それ自体否定的評価を受けることになります。

しかし、経済原則に従えば、これはおかしなことです。

たしかに、本体価格は自由に決められるのに対して、消費税は5%または8%と決まっているので、企業は勝手に決められません(それでも、本体価格を下げれば消費税分も下がるので、まったく自由に決められないわけではありません)。上記論文が言いたいのも、そういうことかもしれません。

しかし、売手はあくまで全体価格で勝負しているのであって、その事実自体は否定のしようがありません。総額表示(今回の改正案で、一部緩和されますが)が義務となった現在では、なおさらです。

上記論文でも、本体価格についてのカルテルが認められない(この点は今回の改正の転嫁カルテルでも同様でしょう)ことが強調されていますが、大規模小売店と中小納入業者の間の価格交渉でも、本体価格の交渉は、買い叩きなどに該当しない限り、自由にできるはずです。

少なくとも、本体価格の交渉は、今回の特別法の適用範囲外です。

今回の改正法も、以前の消費税納入時の改正も、本体価格と消費税分を明確に分けられるという前提に立っているように見えますし、その発想の背後にあるのは、上記論文のように、「本体価格は市場競争で決まり、それに消費税分を上乗せした価格が販売価格になる。」という発想ではないかと思います。

さすがに現在では、上記論文ほど経済合理性を無視した論考が公取委から出るとは考えにくいですが、話題の論点であるため、注意喚起させていただく次第です。

・・・と、以上が理屈の話ですが、現実の世界では、何らかの事情で本体価格は下げられない(あるいは下げにくい)ということがあるかもしれませんね。

そのような場合には、今回の立法措置は、意味があることになるでしょう。

そして、そんな場合が世の中にはけっこうあるのかもしれません。

あるいは、今回の法改正で、業界全体に値上げの雰囲気が醸成されるということには、一定の意味があるのかもしれません(それが競争政策として望ましいか否かはさておき)。

あるいは、売上が落ちるのを嫌って本体価格を下げたい(それにともない納入価格も引き下げさせたい)し、本来、本体価格の引き下げは問題ないはずなのだけれど、消費者庁から警告を受けたくないので、敢えて値下げしない、という結果になる、というのが大半のケースの落ち着きどころかもしれませんし、実はそれが法改正の狙いなのかもしれません。

2013年4月13日 (土)

ABA Spring Meeting 2013

今週は、ABAのAntitrust Spring Meeting に参加するためにワシントンDCに来ています。

参加したセッションの概要をメモしておきます。

【4月10日】

"Negotiating a Plea Agreement with DOJ"

・違反をした従業員を解雇しても会社の司法取引が有利になるわけではない。

・量刑上有利にはたらく「substantial cooperatoin」は、とても費用がかかる。

・2nd-Inという呼び方は誤解を招く表現で、例えば立ち入りの翌朝に3社が電話してくれば、3社とも2nd-Inとして有利に扱われる。

・カーブアウト予定者には会社とは別の弁護士をつけるよう求められる。

・スコット・ハモンドが面談に応じるのはまれ。(ちなみにこの点が翌日のGCRのウェブサイトでは、司法省が方針変更したというのでトップニュースになっていましたが、こんな「豆知識」をトップで扱うのもどうかと思います。)

・司法取引の交渉では情報は双方向であり、とくに司法省が手持ちの証拠と当事者の主張が異なる場合、司法省から一定の示唆(情報提供)がある。

・アムネスティ・プラスの特典はケースバイケースで、どれだけ大きな別件を持ち込んだか次第。罰金減額幅は5~10%のこともあれば、最大40~45%のこともある。

・先に報告された者の内容に従って司法省の心証ができてしまうので、その意味でも協力は早いほうがよい。

・当事者の申告により司法省が初めて知った部分はbase fineから除外される。

"Two-Sided Market"

このセッションでは、このテーマの第一人者であるDavid Evans氏の話が聞けて、ちょっと嬉しかったです。

・二面市場は、取引費用の削減がポイント("Open Table"のようなサイト)。

・限界費用より小さい価格(場合によっては負)で均衡する。

・需要の外部性がある。

・Π=(P1-C1)D1(P1,Q)+(P2-C2)D2(P2,Q

・Lerner Indexも、SSNIPも、critical loss analysisも通用しない。

・二面市場は市場力を固定化する可能性。

・DOJ: VISA事件、マイクロソフト事件、NASDAQ&ICE事件、MS-Yahoo事件、不動産仲介業者の事件。

・EUでは、問題は認識されているものの、従来の考え方の応用で解決されている。

・Bottin Cartography v. Google (オンラインマッピング。2012)、MasterCard-MIF(2012)。

【4月11日】

"Allocationg Merger Antitrust Risk"

・どの資産がvalue driverであるかの見極めが重要。

・クライアントが置かれている立場(文脈)が重要。しぶしぶ売るのか。ベアハグか、別の買主はいるのか。

・時間がかかると資産価値が劣化する。

・文書管理の重要性。(会議で使うノートパッドの冒頭に、「親愛なる陪審員のみなさまへ・・・」という定型文を入れるくらいのつもりで、陪審員の目に触れることを意識)。

・双方弁護士間の信頼関係が重要。しかし、馴れ合い(collude)はダメ。

・一番のポイントは、顧客が満足しているか。

・「priviledge」と冒頭に書いておくと秘匿特権の対象文書を見落とさずにすむ。

・reverse termination feeの問題。

・joint defense agreement

"Chair's Show Case"(独禁法への政治の影響)

このセッションは、元FTC委員長も含めて、独禁法への政治の影響を議論するという、なかなか渋いセッションでした。

"Hot Topics"

・FTC法5条についてはガイドラインが必要。

・DOJ:シクエスターの影響?

・Libor事件:volume of commerceが膨大、クラスアクション

・AUO(LCDカルテル):経済分析の利用

・Municipal Bondカルテル、自動車部品カルテル

・民事執行:電子書籍、クレジットカード

・FTCによるグーグルの調査

・最恵国待遇(MFN):もはやホットではない。

・私訴:ダウ・ケミカル事件、コムキャスト事件(損害否定)

・合併で、協調効果の活用:HerzとDollar Thrifty、アンハイザーブッシュとモデーロ

・グーグルのモトローラ買収:垂直合併の理論、インセンティブの変化

・Bosch v FTC

・シャーマン法2条:Shelf space discount

・リバースペイメント(EUではby object)

・EUの企業結合届出:簡略化された届出。選択的市場画定を認める?

・EU:JVの親会社の責任(Chloroprene rubber, Spanish Tobacco)

"RPM"

・"resale"か?(デジタル商品、imaginaryな商品、channel conflict)

・コルゲート理論

・ドクターマイルズ事件(委託理論、agency理論)

・州は、リージン後もRPMには否定的:成文法ベース。

・カナダでは2009年に非刑罰化。(従前も、実際には刑罰は課されなかった。)

・VISA/MasterCard事件:"resale"が無い?(ジェット燃料のようなもの。)

・広告上のRPM→実際のRPMの隠れ蓑?

・サムスン/ベストバイ:店舗内のキオスクはfirst salesか?

【4月12日】

"When Merge is Merger?"

・米国:少数株式の取得は、①買収者がターゲットへ及ぼす影響、②ターゲットのインセンティブ、③情報共有の観点から分析。

・米国では支配や直接の影響の有無は違反と無関係。ポイントはeffect。(Southern Belle)

・EUでは①買収者のインセンティブ、②ターゲットのインセンティブ、③情報共有の観点から分析。垂直合併でも問題。

・支配のための「decisive influence」は、可能性があれば足りる。

・フィリップモリス事件(1984年):101条

・ジレット事件(1992年):102条

・ドイツ:significant competitive influence。25%または50%の基準。

・英国:material influence(ドイツと同じ)

・ブラジル:influenceテスト(CNS-ウラジミナス)。届出は、①5%、②20%、③筆頭株主(知らぬ間に届け出が必要になる恐れ)。

"Enforcers' Round Table"

・司法省:電子書籍(和解後1冊11ドルから8ドルへ値下がり)、MFN

・カーブアウトの方針の変更:対象者は被疑者のみ。氏名は非開示。

・FTC:2つの最高裁判例(state action、reverse payment...11th Cir.を破棄するか?)ヘルスケアは引き続き注視。製薬では、ジェネリック製薬によるサンプルへのアクセス。標準化。

・消費者保護:子供のプライバシー、グーグル(クッキー)、データ保護ポリシー、last dollar fraud、モバイルのセキュリティ(スマートフォン)、データブローカー、債権回収業。

・EU:Liborなど金融分野のカルテル。注目分野は、テレコム、エネルギー。

・合併:UPSとTNT、Estrata、グーグル。

・ドイツ:リニエンシー、柔軟な和解。垂直制限を重点執行(小売の再販、デジタル商品、オンライン販売の制限、best price guarantyの問題、アマゾン、ホテル業)、企業結合の届出は簡単(5~10頁で済む)。

・米国の州:重点は、ヘルスケア(州は被害者でもある。基本的に地方の問題)。法律事務所への業務委託は、監督できていれば問題ない。

・不景気による予算削減の影響は?:DOJはあまりない。州は大いにあり。欧州委員会はあまりない(多額の制裁金を徴収しているので、予算獲得が容易→アルムニアさんの発言ですが、すごいことをいうもんです。)

2013年4月 1日 (月)

【移籍のお知らせ】

この度、7年間お世話になったアンダーソン・毛利・友常法律事務所(内4年間はパートナー)を退職し、以前在籍していた大江橋法律事務所の東京事務所に復帰いたしました。

心機一転、また新たな気持ちで職務を全うしていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

本ブログも、引き続きよろしくお願いいたします。

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