企業結合規制違反の契約の効力
独禁法に違反する契約は、公序良俗に反するので無効である、と解するのが一般的です(と言い切ると言い過ぎですが、まず、無効とされる可能性が高いです)。
では、独禁法上の企業結合規制に違反する契約も、同じように無効と考えて良いでしょうか。
例えば、買収対象会社の株式の譲渡契約を、売主と買主との間で締結したあとで、売主または買主が、「この契約は競争を制限するので無効である。」と主張して、譲渡契約の履行を拒めるか、という形で問題となります。
まず、公取委が調査を開始する前の段階でする無効主張について考えてみましょう。(つまり、公的判断は出ていないけれど、客観的に見れば独禁法違反の場合。)
単純に考えると、カルテルの合意などと同様に、「独禁法違反の譲渡契約は無効」といって良いような気もします。
しかし、企業結合の場合は、話はそれほど単純ではありません。
まず、カルテルなどと違って、企業結合は競争に与える影響が間接的(株式譲渡がなされたから必然的に競争制限が生じるわけではなく、その後に具体的な競争制限行為が必要)であり、公序良俗違反と言って目くじら立てるほどのこともない気がします。
それに、買収対象会社の商品のほんの一部についてだけ、競争制限が生じるために独禁法違反になる、という場合もあり、そのような場合に、譲渡契約全部を無効とするのは行き過ぎに思われます。
少なくとも、このような一部の商品にだけ競争制限が生じる場合には、譲渡契約自体は有効とすべきです。
この点、考え方としては、問題のある一部の商品に関する部分に限って無効(一部無効)という考え方もあるかもしれません。
しかし、一部無効になったから当該無効部分の商品を譲渡の対象から除く、ということは、少なくとも株式譲渡の場合にはできそうにありません。
株式譲渡ではなく、事業譲渡契約の場合であっても、一部が譲渡対象から除かれれば、対価の再設定とかいろいろな問題があり、一言「無効」といって片付けるには無理があります。
というわけで、やはり全部有効と考えるべきです。
また、買収対象会社の商品が1つで、その商品市場でまさに競争制限が生じる、という単純な場合であっても、企業結合規制に違反するからといって譲渡契約が当然に無効になるというのは行き過ぎのように思います。
というのは、買収対象会社と買主との間に商品の競合がある場合、譲渡をしないという選択肢だけではなく、買主側の事業を売却することで独禁法違反を回避するという選択肢もあるからです。
あるいは、対象会社の事業の一部(例えば工場のラインの1つ分だけ)を売却する、というので問題が解消されることもあるかもしれません。
そして、以上の理屈は公取委の排除措置命令が出た場合でも異ならず、譲渡契約は無効にならない(私法上は完全に有効)と考えてよいと思います。
では、公取委の申し立てによる裁判所の緊急停止命令や、公取委の排除措置命令が出た場合は結論は異なるでしょうか。
異ならないと思います。
緊急停止命令や排除措置命令は、対象となる行為が存在する(私法上有効である)ことを前提に、独禁法上、その実行を阻止するものと考えれば足ります。私法上の効力(契約当事者間の権利義務関係)には、当然には影響しないと考えればよいでしょう。
もちろん、緊急停止命令や排除措置命令があったときには契約は失効するとか,解除できるという規定を契約に入れておくことは、何ら問題ありません。
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