販売方法の制限と「合理的な理由」
メーカーによる販売店の販売方法の拘束が拘束条件付取引(一般指定12項)に該当するか、という問題があります。
有名なところでは、化粧品メーカーが販売店に対面販売を義務づけるのが拘束条件付取引に該当しないとされた事件があります(資生堂事件・最高裁平成10年12月18日判決)。
平成23年度相談事例集でも、インターネット販売の制限(これも一種の販売方法の制限です)が問題になった事例が2つあります(事例1と2)。
平成24年7月4日の事務総長定例会見では、これら2つの相談事例がなぜ異なる結論になったのか、興味深い説明がなされています。
引用すると、事例1は、
「相談のあった医療機器は調整が必要な商品であり,通信販売では調整を行うことができないといった合理的な理由があること,
2点目として,全ての取引先に同等の制限を課すとしていること,
そして3点目に,取引先の販売価格について制限を行うものではなかったことが挙げられます。」
ということで問題なしとされています。
これに対して事例2は、
「相談のあった医薬品は,法令上,通信販売が禁止されるものではなく,通信販売でも十分な説明が可能であるなど,合理的な理由があるとは言えないこと。
2点目として,店舗販売を行っている取引先については,その商品説明を行わなかったとしても出荷を停止するつもりはないという説明がありまして,店舗販売と通信販売の方法で同等の制限が課されているとはいえないこと。
3点目に,現状において,この医薬品は相当数が通信販売で販売されておりまして,通信販売では,店舗販売に比べて,相当低い価格で販売されていることから,取引先の販売価格について制限を行うものである可能性が高かったということが挙げられます。」
ということで、問題ありとされました。
これは、事例集にも書いてあるとおり、流通取引慣行ガイドラインの
①安全性の確保などの合理的な理由があり、かつ、
②他の取引先に対しても同等の制限が課せられており、かつ
③販売方法の制限を手段として価格・販売地域等を制限するものでないこと(価格・販売地域等を制限する場合には、価格・販売地域等の制限に関するルールが適用される)、
の3つを満たせば適法、という基準に従ったものです。
しかし、私はこのガイドラインの基準自体、おかしいと考えています。
そして、公取のホンネも、ガイドラインの額面どおりではないと想像しています(実は③で勝負が決まっている)。
さらにいえば、同じようなことを述べている資生堂事件最高裁判例(それなりの合理的な理由+同等の制限)も、おかしいです。
根本的な理由としては、以下の点が挙げられます。
すなわち、公正競争阻害性の内容(3つの側面)は、一般論としては、
①競争減殺(=ミニ「競争の実質的制限」)
②競争手段の不公正(=不正手段)
③競争基盤の侵害(≒優越的地位濫用)
であると言われるのに、こと販売方法の制限に関しては、流通ガイドラインも最高裁も、この3つの内容をまったく無視してしまっているように見えるからです。
つまり、販売方法の制限は、(③に該当するリスクは限りなく低いので、ひとまず無視するとして)②でないのは明らかなので、該当するとすれば①〔競争減殺〕です。
だとすれば、価格に何の影響も無いのであれば、公正競争阻害性が認められるはずがありません。(メーカーが販売店に課す制限の文脈なので、品質への影響はとりあえず無視します。)
現に、拘束条件付取引として整理される地域制限も、取引先に関する制限も、煎じ詰めれば、「価格が維持されるおそれ」が、流通取引慣行ガイドライン上の違法性の要件になっています。
本来的に「価格が維持されるおそれ」の小さい(あるいは、価格安定を本来の目的とはしないことが多い)はずの販売方法の制限に対してだけ、どうして「合理的な理由」や「他の取引先にも同等の制限が課せられていること」といった、追加的な要件が必要になるのか、良識のある法律家なら疑問を持ってしかるべきです。
それなら、販売地域の制限や取引先の制限にも合理性や同等性の要件を明示的に賦課しないと、辻褄が合いません。
というわけで、販売方法の制限についても、「価格が維持されるおそれ」の一本でいくべきです。
それから、流通取引慣行ガイドラインでは、3つの要件(①合理的な理由、②条件の同等性、③価格・取引先の制限でないこと)が全て満たされないと違法になる(あるいは別途、価格・取引先の制限の考え方が適用される)かのような書きぶりになっているのも問題です。
②〔条件の同等性〕を満たすのは、(理屈はさておき)メーカーにとってそれほど難しくはないので、実務的な弊害は限定的です。
しかし、③〔合理的な理由〕については、きわめて曖昧で、弊害が大きいと言わざるを得ません。
しかもここで言う「合理的な理由」は、競争の観点から見た合理性ではなくて、素朴な意味での合理性なので、判断者の露骨な価値判断が出てしまいます。
公取委だって、競争上の観点からは不要な「合理的な理由」という判断をしなければいけないのは、ホンネのところでは重荷のはずです。
しかも、今回の事例集のように医薬品の対面の説明まで合理的でないとされたら(最高裁は化粧品でも合理的と言っているのに!)、いったいどこまでが合理的なのか、判断に迷うケースが増えるのは間違いありません。
最近、市販の風邪薬でも失明など重篤な後遺症が出ることがあるというNHKの番組がありましたが、こういう話を聞くと、何が合理的で何が合理的でないかは、とても微妙な問題です。
平成23年度の事例集が、NHKの番組よりも後だったら、結論が変わっていたかもしれません。(というのは半分冗談ですが、半分は本気です。)
そんな微妙な判断を、競争法上の違法性の一般的な判断に持ち込むべきではありません。価格が維持されるおそれがあるかどうかだけで判断すべきです。
そして、対面販売の義務づけが合理的か否かと言った問題は、価格維持のおそれ(公正競争阻害性)が認められたあとに、例外的な正当化事由として考慮すべきでしょう。
資生堂事件の最高裁が、「それなりの合理的理由」という、あまり意味の無い基準を立ててしまったのは、きっと当事者が対面販売の合理性を一生懸命主張したのに引きずられたのでしょう。
それでも最高裁が「それなりの」と、かなりフリーパスに近い(少なくともそう見える)基準を示してくれたおかげで、メーカーが販売方法の制限に気を遣わなければならない負担が軽減され、これはこれで意味がありました。
ところが今回公取委が、合理性を厳しく見る立場を示したことで、もともと「合理性」という基準が競争法にそぐわないものであることが露骨に見えてしまった、ということだと思います。
さらに最高裁判例やガイドラインの問題点は、メーカーの市場シェアが何ら問題とされていないことです。
ということは、市場シェアの極めて低いメーカーでも、こと販売方法の制限に関する限り、独占企業と同じ注意を払わなければならないことを意味します。
そんなことを本気で公取委が考えているとは思えません。
結局、現在の公取委の運用は、ホンネとタテマエを使い分けていると言わざるを得ず、法律解釈として望ましいとは言えません。
私が申し上げたことは、おそらく競争法の実務家の感覚としては概ね違和感のないところかと思うのですが、そういうことをはっきり書いてある文献もあまりないし、公取委がますますタテマエを全面に打ち出すような事例集を出しているので、「本当のところはこうなんだ」と多くの人に分かって頂きたく、私見を述べた次第です。
« 「審査長」の訳語(Investigation Division) | トップページ | 企業結合規制違反の契約の効力 »
コメント
« 「審査長」の訳語(Investigation Division) | トップページ | 企業結合規制違反の契約の効力 »

突然のコメント失礼します。
近く司法試験を控えている者です。
私は、最高裁・公取委ガイドラインの言っている「それなりの合理性」「他の者にも同等の制限」という基準の位置づけがよく分からず、答案政策上は自由競争減殺が認められる場合の正当化事由の中で論じることにしておりました。
ただ、今月号(5月号)のジュリストを読んで、そのような書き方で本当に良いのか再び不安になり、基本書や判例解説等に立ち返ってみたところ、上記基準の位置づけについて書かれているものがなく、困ってしまいました。
そんな中、最終手段としてインターネットに頼り、植村先生のブログにたどり着いたので、読ませていただきました。
非常に明快な解説で、悩みを解消することができました!
どうもありがとうございます!
独禁法の実務家として最前線で活躍されている植村先生のブログは、私のような司法試験受験生のみならず独禁法を学ぶすべての方々にとって、理解の助けになるものだと思います。
なので、これからもどうぞブログを続けていっていただければと思います。
投稿: | 2014年5月 9日 (金) 12時51分