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2013年2月

2013年2月28日 (木)

課徴金算定における「卸売業」と「小売業」の区別

カルテルや排除型私的独占の違反者が卸売業や小売業を営む者である場合、課徴金の軽減算定率が適用されます。

さて、卸売業と小売業は、物を造らない(メーカーではない)という点では共通しているものの、独禁法にはその定義がなく、両者の区別は今ひとつはっきりしません。

この点、白石忠志『独占禁止法〔第2版〕』p540では、

「小売業と卸売業の違いは、供給の相手方が最終需要者であるか否かによって決すると考えられているように見える。」

とされた上で、東燃ゼネラル石油東京高裁判決を引用されています。

(余談ですが、こういう細かい論点までカバーしているところが、この本のすごいところの1つだと思います。手元にあるいくつかの基本書やコンメンタールを見ましたが、製造業と小売・卸の区別には言及はあっても、卸と小売の区別に言及しているものは皆無でした。)

そこで東燃ゼネラル石油高裁判決の該当箇所(審決集p764~765)をみると、

「原告は,販売先の調達実施本部は最終需要家であるから,自社は小売業者であると主張する。」

「しかしながら,本件審決認定のとおり,自動車ガソリン,灯油,軽油及びA重油については,自社製油所で製造した商品を調達実施本部に販売していたものであり〔←つまり、自社で製造していたということ〕,

航空タービン燃料については,上記のとおり,自社製油所で製造したものと同視でき,これを調達実施本部に販売していたものであるから,

他社の製品を最終需要家に販売する小売業者であるとはいえず,この点に関する原告の主張は理由がなく,採用することはできない。」

とされており、最終需要家に販売するのが小売業であるとの考え方が読み取れます(ただし厳密には、小売業と製造業との区別の文脈ではあります)。

続けて白石先生の本では、

「最終需要者とは、消費者である必要はなく、当該商品役務を右から左に転売する者でなければ足りる、というイメージであろうが、その外延はなお検討を要する」(p540)

とされています。

私も、「最終需要者」というのは、

「商品を右から左に転売する者(典型的には、小売店)でない者」、

具体的には、

①商品を自ら費消する者(例、消費者や、LPGを燃やして発電する電力会社)

②商品を加工して(=「右から左に」ではなく)販売する者(例、部品を購入する自動車メーカー)

を意味すると考えるのが自然な気がします。

(ちなみに、

LPGを燃やして発電する電力会社が最終需要者なのに(なので、電力会社へLPGを販売する業者は小売業者)、

天然ガスを購入して転売するガス会社が最終需要者でない(なので、ガス会社へ天然ガスを販売する業者は卸売業者?)

というのは、何だかバランスが悪いような気はしますが、おそらく実際にはガス会社もガスを精製(加工)するので「最終需要者」なのでしょうね(なので天然ガス納入業者は小売業者)。

精製もしないで右から左に転売するだけのガスについて、ガス会社への納入業者間でカルテルが行われたら、ガス会社は小売業となり、納入業者は「卸売業者」となるかもしれません。)

公取委の考え方ははっきりしません。

例えば、原敏弘(公正取引委員会事務局審査部考査室長)「平成六年度における課徴金納付命令の概要」(公正取引534号p11)

では、

「・・・例えば、一般的な卸売業の取引は、いわば商品を右から左に流通させ、その流通サービスに対して収益を受けるという側面が強く、みかけ上の売上額に対する利益率が小さくなるということが考慮されて、卸売業の一定率が他の業種よりも定率とされたことから、卸売業かどうかの認定に当たっては、このような一般的な流通業者としての卸売業に該当するか否かにより判断されている。」

とされています(p15)。

つまり、ここでは、販売先が誰かが問題なのではなくて、「流通」サービスであるか否かが基準になっています。

言いたいことは何となく分かりますが、では「一般的な流通業者としての卸売業」とな何なのか、はなはだはっきりしないと言わざるを得ませんね。

また、小売業も卸売業も「流通」サービスを担うものだと考えると、

「一般的な流通業者としての卸売業」

「一般的な流通業者としての小売業」

との区別を別に考えないといけなくなりますが、上記解説では、その区別はまったく明らかではありません。

さらに、実際の事例としては、東京無線タクシー協同組合に対して課徴金納付を命じる審決(平成11年11月10日)があります。

同審決の「争いのない事実」では、

「 被審人は、東京都の区域において、オートガスを他から購入して被審人の組合員及び組合員以外の需要者に販売している事業者であり、需要者のほとんどはタクシー事業者等の産業用の使用者であるから、被審人のオートガス事業は、独占禁止法第七条の二第一項の卸売業に該当する。」

として、販売先が「産業用の使用者」であることが、(「小売業」ではなく)「卸売業」であるための基準であるとしているように読めます。

しかし、これはおかしいと思います。

これだと、いわゆるBtoBの販売(プロ相手の販売)は、全て卸売業になってしまい、「卸売業」というイメージからは程遠くなってしまいます。

やはり、

①タクシー事業者を「右から左に(オートガスを)転売する者でない者」、つまり最終需要者と考えて(白石説)、

あるいは、

②上記被審人のオートガス事業は、「一般的な流通業者としての卸売業」ではないので(考査室長説)、

上記被審人のオートガス事業は小売業となると考えるべきであったと思います。

ちなみに広辞苑では、

「小売」とは、

「物品を卸売から買い入れて、これを消費者に分けて売ること。」

と定義されており、

「卸売」とは、

「生産者・輸入商から大量の商品を仕入れて小売商人に売り渡すこと。」

と定義されています。

きわめてまともな定義ですが(広辞苑だから当たり前ですが)、悩ましいのは、この定義に従うと、小売業にも卸売業にも該当しない販売業というのが出てくる、ということですね。(上記被審人のオートガス販売事業など。)

でもそうすると、製造業(厳密には、「卸売業」でも「小売業」でもない事業)と同じ算定率が適用されてしまうので、いかにも不都合です。

身もふたもない言い方をすれば、立法論として「卸売業」と「小売業」という切り分けをしたのがそもそも具合が悪かったと思います。

まだ、「卸売業」、「卸売業を除く販売業」、「その他」、という分け方の方が良かったように思います。

2013年2月25日 (月)

カルテルと顧客の同意

カルテルは顧客が同意していても違法でしょうか。

・・・という問題の立て方をすると、いわゆる官製談合(工事を発注する役所の側が主導して談合させること)のことかと思われそうですが、ここで念頭に置いているのはそうではなくて(官製談合は、担当者が職務に違反して談合に「同意」しているので、そもそも有効な同意がない場合が多い)、本当に顧客が同意している場合です。

「そんなことが本当にあるのか?」と思われるかもしれませんが、実際にはけっこうあります。

そのようなことが起きる背景を考えると、

①顧客の方が交渉力が強くて、競争がなくても(カルテルがあっても)安く買えてしまえる場合、

②顧客が価格をあまり重視していない場合(品質や安定供給を重視している場合、値上がり分を川下市場に転嫁できる場合など)、

③供給者が協力(商品の規格統一など)することでコスト削減になる場合、

などが考えられます。

また、事務管理上の必要性から、顧客から納入価格を納入業者間で統一するよう指示されることもあります(一物一価)。

その背景には、品質の同じ製品を異なる価格で購入するわけにはいかない、という素朴な商売の感覚があるのでしょう。(ちなみに、結果的に価格が統一されること自体は、独禁法上何ら問題はありません。)

さて、前置きが長くなりましたが、要するに、本当に顧客が望んでカルテルさせられるということは、実は珍しいことではないのです。そのようなカルテルも違法でしょうか。

非常に難しい問題ですが、まず、「顧客の真正の同意があったからといって、当然にカルテルが違法でなくなるわけではない。」という点については、あまり異論はないと思われます。

つまり、刑法での「被害者の同意」のような理屈は通じない、ということです。

カルテルの場合には、直接の購入者だけが被害者とは限らないので(直接の購入者が川下市場へ値上げ分を転嫁できる場合など)、やはり直接の購入者の同意だけで当然に違法でなくなるとは言いにくいと思います。

ただし、顧客の同意(場合によっては指示)があったという事実は、実際には、様々な意味を持つことが考えられます。

まず分かりやすいところから行くと、顧客からの民事上の損害賠償請求は認められるべきではないでしょう。理由は、過失相殺でも信義則(クリーンハンズ)でも何でも良いですが、顧客が積極的にカルテルに関与しているような場合に損害賠償請求を認めるのは、やはりおかしいと思います。

また、顧客が同意している場合には、実際には、競争の実質的制限が生じていない場合が結構あると思います(その場合、排除措置命令や課徴金納付命令の対象とすべきではありません)。

前述のような、顧客の方が圧倒的に交渉力が強い場合を考えてみれば分かるでしょう。

日本ではカルテルは当然違法ではなく、競争の実質的制限が必要なのですから、直接の顧客が満足している場合には競争の実質的制限が生じていないのではないか、と疑ってかかってみる必要があるように思います。

また、課徴金については、カルテルの合意の範疇に属する商品・役務であっても、「合意の対象から明示的または黙示的に除かれると考えられる特段の事情がある場合」は課徴金の対象にならないことになっていますので(菅久他『独占禁止法』p213)、一般的にはカルテルの合意がある場合でも、一部の顧客が何らかの事情で同意していた場合には、当該顧客との関係では、そのような「特段の事情」が認められることもあり得るような気がします。

さらに、より現実的な効果としては、カルテルに顧客が同意している場合には、公取委が事件として取り上げない、あるいは、そもそも公取委に発覚しない、ということが、実際にはあると思われます。

実際、官製談合のケースを除けば顧客の同意が争点となったケースはなく、純粋に民・民の事件で顧客が同意している場合にはそもそも事件になりにくいということを示していると言えるかもしれません。

いずれにせよ、発注者の側も、自らが独禁法違反になるわけではないとはいえ(ただし、刑事上は、発注者の担当者がカルテルの共犯になることもあり得ます。前記菅久他p53)、取引先がカルテルで摘発されるというのはよろしくない事態でしょうから、カルテルに該当するような行為を積極的にさせるようなことは、避けるべきでしょう。

2013年2月14日 (木)

【ご紹介】菅久他『独占禁止法』(商事法務)

出ましたね。

菅久修一他『独占禁止法』(商事法務)

公取委の現役または元職員の方々による著作です。

まだ仕事ですぐに必要なところと、関心のあるところをちょっと読んだだけですが、すごい本が出たものです。

「はしがき」には、執筆方針として、

「中心的な読者として、独占禁止法について既にかなりの知識を持っているビジネス・パーソン(たとえば、法務部での経験の長い人)ではなく、むしろ、日頃は営業等に携わっているが、法務部門から示されるコンプライアンス・プログラムや報道等によって、独占禁止法について多少は知っている人たちを想定し、そのような人たちが独占禁止法の全体像を把握できるような入門書とする。」

と、とても控えめに書いてありますが、全然そんなことはことはありません。

もちろん、そのような想定読者が読んでも得るところは多いでしょうが、実は非常にプロ向きです。

例えば、不当な取引制限の課徴金について、

「違反者が違反者を通じて需要者に販売しているケース」(p212)

という、入門書としては相当マニアックな、でも実務的には極めて重要な論点に触れています。

同じ頁で、カルテルの課徴金算定の

「実行期間の終期については、違反行為の終了した日の前日となることが多い。」

との記載があり、言われれば当たり前ですが、「前日」とはっきり書いてあることや、「多い」と慎重な言い回しをしているところなど、読んでいてピリピリとした緊張感を感じさせます。

優越的地位の濫用に対する課徴金についても、複数の被害者がいる場合の違反行為期間は、濫用行為を

「一連の取引先を対象として行っていると評価される場合」には、「ある取引先に対して行い始めてから、一連の取引先に対する行為をすべてやめるまでの期間が1つの違反行為期間となる。」(p226)

という、注目すべき記載もあります。

あと、混沌としていてとらえどころのない不公正な取引方法を、「取引拒絶型」、「不当対価型」、「拘束条件型」、「取引強制型」、「搾取濫用型」、「取引妨害型」というふうに整理しているのも斬新であり、こういう視点で公取委は考えているのだとすると、今まで不可解だった執行方針についても、なるほどと納得できるかもしれません。

例えば取引妨害について、

「競争者に対する妨害と評価できる行為であれば、不公正な取引方法の他の類型に該当するものであっても取引妨害として問題としうる」(p177)

との記載があり、妨害という悪い行為をしているから、排他条件付取引ではなく、取引妨害で立件するのだ(モバゲーの事件など)、という発想がよく見えます。

というわけで、地頭所他著『新しい独占禁止法の実務』(商事法務研究会・1993年)がさすがに古くなってきた今、間違いなくこの本が独禁法実務のバイブルです。

もちろん、当局に反論する立場にある在野法曹としては、この本だけで用が足りるわけではないのですが、これからの独禁法実務は、この本を目を皿のようにして読むことからスタートすることになりそうです。

400頁ちょっとで分量はそこそこですが、この内容で4000円(税別)は、バーゲンプライスです。

おそらく、絶版になった後には値上がりするのではないかと予想します。

2013年2月 6日 (水)

企業結合規制違反の契約の効力

独禁法に違反する契約は、公序良俗に反するので無効である、と解するのが一般的です(と言い切ると言い過ぎですが、まず、無効とされる可能性が高いです)。

では、独禁法上の企業結合規制に違反する契約も、同じように無効と考えて良いでしょうか。

例えば、買収対象会社の株式の譲渡契約を、売主と買主との間で締結したあとで、売主または買主が、「この契約は競争を制限するので無効である。」と主張して、譲渡契約の履行を拒めるか、という形で問題となります。

まず、公取委が調査を開始する前の段階でする無効主張について考えてみましょう。(つまり、公的判断は出ていないけれど、客観的に見れば独禁法違反の場合。)

単純に考えると、カルテルの合意などと同様に、「独禁法違反の譲渡契約は無効」といって良いような気もします。

しかし、企業結合の場合は、話はそれほど単純ではありません。

まず、カルテルなどと違って、企業結合は競争に与える影響が間接的(株式譲渡がなされたから必然的に競争制限が生じるわけではなく、その後に具体的な競争制限行為が必要)であり、公序良俗違反と言って目くじら立てるほどのこともない気がします。

それに、買収対象会社の商品のほんの一部についてだけ、競争制限が生じるために独禁法違反になる、という場合もあり、そのような場合に、譲渡契約全部を無効とするのは行き過ぎに思われます。

少なくとも、このような一部の商品にだけ競争制限が生じる場合には、譲渡契約自体は有効とすべきです。

この点、考え方としては、問題のある一部の商品に関する部分に限って無効(一部無効)という考え方もあるかもしれません。

しかし、一部無効になったから当該無効部分の商品を譲渡の対象から除く、ということは、少なくとも株式譲渡の場合にはできそうにありません。

株式譲渡ではなく、事業譲渡契約の場合であっても、一部が譲渡対象から除かれれば、対価の再設定とかいろいろな問題があり、一言「無効」といって片付けるには無理があります。

というわけで、やはり全部有効と考えるべきです。

また、買収対象会社の商品が1つで、その商品市場でまさに競争制限が生じる、という単純な場合であっても、企業結合規制に違反するからといって譲渡契約が当然に無効になるというのは行き過ぎのように思います。

というのは、買収対象会社と買主との間に商品の競合がある場合、譲渡をしないという選択肢だけではなく、買主側の事業を売却することで独禁法違反を回避するという選択肢もあるからです。

あるいは、対象会社の事業の一部(例えば工場のラインの1つ分だけ)を売却する、というので問題が解消されることもあるかもしれません。

そして、以上の理屈は公取委の排除措置命令が出た場合でも異ならず、譲渡契約は無効にならない(私法上は完全に有効)と考えてよいと思います。

では、公取委の申し立てによる裁判所の緊急停止命令や、公取委の排除措置命令が出た場合は結論は異なるでしょうか。

異ならないと思います。

緊急停止命令や排除措置命令は、対象となる行為が存在する(私法上有効である)ことを前提に、独禁法上、その実行を阻止するものと考えれば足ります。私法上の効力(契約当事者間の権利義務関係)には、当然には影響しないと考えればよいでしょう。

もちろん、緊急停止命令や排除措置命令があったときには契約は失効するとか,解除できるという規定を契約に入れておくことは、何ら問題ありません。

2013年2月 4日 (月)

販売方法の制限と「合理的な理由」

メーカーによる販売店の販売方法の拘束が拘束条件付取引(一般指定12項)に該当するか、という問題があります。

有名なところでは、化粧品メーカーが販売店に対面販売を義務づけるのが拘束条件付取引に該当しないとされた事件があります(資生堂事件・最高裁平成10年12月18日判決)。

平成23年度相談事例集でも、インターネット販売の制限(これも一種の販売方法の制限です)が問題になった事例が2つあります(事例1と2)。

平成24年7月4日の事務総長定例会見では、これら2つの相談事例がなぜ異なる結論になったのか、興味深い説明がなされています。

引用すると、事例1は、

「相談のあった医療機器は調整が必要な商品であり,通信販売では調整を行うことができないといった合理的な理由があること,

2点目として,全ての取引先に同等の制限を課すとしていること,

そして3点目に,取引先の販売価格について制限を行うものではなかったことが挙げられます。」

ということで問題なしとされています。

これに対して事例2は、

「相談のあった医薬品は,法令上,通信販売が禁止されるものではなく,通信販売でも十分な説明が可能であるなど,合理的な理由があるとは言えないこと。

2点目として,店舗販売を行っている取引先については,その商品説明を行わなかったとしても出荷を停止するつもりはないという説明がありまして,店舗販売と通信販売の方法で同等の制限が課されているとはいえないこと。

3点目に,現状において,この医薬品は相当数が通信販売で販売されておりまして,通信販売では,店舗販売に比べて,相当低い価格で販売されていることから,取引先の販売価格について制限を行うものである可能性が高かったということが挙げられます。」

ということで、問題ありとされました。

これは、事例集にも書いてあるとおり、流通取引慣行ガイドラインの

①安全性の確保などの合理的な理由があり、かつ、

②他の取引先に対しても同等の制限が課せられており、かつ

③販売方法の制限を手段として価格・販売地域等を制限するものでないこと(価格・販売地域等を制限する場合には、価格・販売地域等の制限に関するルールが適用される)、

の3つを満たせば適法、という基準に従ったものです。

しかし、私はこのガイドラインの基準自体、おかしいと考えています。

そして、公取のホンネも、ガイドラインの額面どおりではないと想像しています(実は③で勝負が決まっている)。

さらにいえば、同じようなことを述べている資生堂事件最高裁判例(それなりの合理的な理由+同等の制限)も、おかしいです。

根本的な理由としては、以下の点が挙げられます。

すなわち、公正競争阻害性の内容(3つの側面)は、一般論としては、

①競争減殺(=ミニ「競争の実質的制限」)

②競争手段の不公正(=不正手段)

③競争基盤の侵害(≒優越的地位濫用)

であると言われるのに、こと販売方法の制限に関しては、流通ガイドラインも最高裁も、この3つの内容をまったく無視してしまっているように見えるからです。

つまり、販売方法の制限は、(③に該当するリスクは限りなく低いので、ひとまず無視するとして)②でないのは明らかなので、該当するとすれば①〔競争減殺〕です。

だとすれば、価格に何の影響も無いのであれば、公正競争阻害性が認められるはずがありません。(メーカーが販売店に課す制限の文脈なので、品質への影響はとりあえず無視します。)

現に、拘束条件付取引として整理される地域制限も、取引先に関する制限も、煎じ詰めれば、「価格が維持されるおそれ」が、流通取引慣行ガイドライン上の違法性の要件になっています。

本来的に「価格が維持されるおそれ」の小さい(あるいは、価格安定を本来の目的とはしないことが多い)はずの販売方法の制限に対してだけ、どうして「合理的な理由」や「他の取引先にも同等の制限が課せられていること」といった、追加的な要件が必要になるのか、良識のある法律家なら疑問を持ってしかるべきです。

それなら、販売地域の制限や取引先の制限にも合理性や同等性の要件を明示的に賦課しないと、辻褄が合いません。

というわけで、販売方法の制限についても、「価格が維持されるおそれ」の一本でいくべきです

それから、流通取引慣行ガイドラインでは、3つの要件(①合理的な理由、②条件の同等性、③価格・取引先の制限でないこと)が全て満たされないと違法になる(あるいは別途、価格・取引先の制限の考え方が適用される)かのような書きぶりになっているのも問題です。

②〔条件の同等性〕を満たすのは、(理屈はさておき)メーカーにとってそれほど難しくはないので、実務的な弊害は限定的です。

しかし、③〔合理的な理由〕については、きわめて曖昧で、弊害が大きいと言わざるを得ません。

しかもここで言う「合理的な理由」は、競争の観点から見た合理性ではなくて、素朴な意味での合理性なので、判断者の露骨な価値判断が出てしまいます。

公取委だって、競争上の観点からは不要な「合理的な理由」という判断をしなければいけないのは、ホンネのところでは重荷のはずです。

しかも、今回の事例集のように医薬品の対面の説明まで合理的でないとされたら(最高裁は化粧品でも合理的と言っているのに!)、いったいどこまでが合理的なのか、判断に迷うケースが増えるのは間違いありません。

最近、市販の風邪薬でも失明など重篤な後遺症が出ることがあるというNHKの番組がありましたが、こういう話を聞くと、何が合理的で何が合理的でないかは、とても微妙な問題です。

平成23年度の事例集が、NHKの番組よりも後だったら、結論が変わっていたかもしれません。(というのは半分冗談ですが、半分は本気です。)

そんな微妙な判断を、競争法上の違法性の一般的な判断に持ち込むべきではありません。価格が維持されるおそれがあるかどうかだけで判断すべきです。

そして、対面販売の義務づけが合理的か否かと言った問題は、価格維持のおそれ(公正競争阻害性)が認められたあとに、例外的な正当化事由として考慮すべきでしょう。

資生堂事件の最高裁が、「それなりの合理的理由」という、あまり意味の無い基準を立ててしまったのは、きっと当事者が対面販売の合理性を一生懸命主張したのに引きずられたのでしょう。

それでも最高裁が「それなりの」と、かなりフリーパスに近い(少なくともそう見える)基準を示してくれたおかげで、メーカーが販売方法の制限に気を遣わなければならない負担が軽減され、これはこれで意味がありました。

ところが今回公取委が、合理性を厳しく見る立場を示したことで、もともと「合理性」という基準が競争法にそぐわないものであることが露骨に見えてしまった、ということだと思います。

さらに最高裁判例やガイドラインの問題点は、メーカーの市場シェアが何ら問題とされていないことです。

ということは、市場シェアの極めて低いメーカーでも、こと販売方法の制限に関する限り、独占企業と同じ注意を払わなければならないことを意味します。

そんなことを本気で公取委が考えているとは思えません。

結局、現在の公取委の運用は、ホンネとタテマエを使い分けていると言わざるを得ず、法律解釈として望ましいとは言えません。

私が申し上げたことは、おそらく競争法の実務家の感覚としては概ね違和感のないところかと思うのですが、そういうことをはっきり書いてある文献もあまりないし、公取委がますますタテマエを全面に打ち出すような事例集を出しているので、「本当のところはこうなんだ」と多くの人に分かって頂きたく、私見を述べた次第です。

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