課徴金算定における「卸売業」と「小売業」の区別
カルテルや排除型私的独占の違反者が卸売業や小売業を営む者である場合、課徴金の軽減算定率が適用されます。
さて、卸売業と小売業は、物を造らない(メーカーではない)という点では共通しているものの、独禁法にはその定義がなく、両者の区別は今ひとつはっきりしません。
この点、白石忠志『独占禁止法〔第2版〕』p540では、
「小売業と卸売業の違いは、供給の相手方が最終需要者であるか否かによって決すると考えられているように見える。」
とされた上で、東燃ゼネラル石油東京高裁判決を引用されています。
(余談ですが、こういう細かい論点までカバーしているところが、この本のすごいところの1つだと思います。手元にあるいくつかの基本書やコンメンタールを見ましたが、製造業と小売・卸の区別には言及はあっても、卸と小売の区別に言及しているものは皆無でした。)
そこで東燃ゼネラル石油高裁判決の該当箇所(審決集p764~765)をみると、
「原告は,販売先の調達実施本部は最終需要家であるから,自社は小売業者であると主張する。」
「しかしながら,本件審決認定のとおり,自動車ガソリン,灯油,軽油及びA重油については,自社製油所で製造した商品を調達実施本部に販売していたものであり〔←つまり、自社で製造していたということ〕,
航空タービン燃料については,上記のとおり,自社製油所で製造したものと同視でき,これを調達実施本部に販売していたものであるから,
他社の製品を最終需要家に販売する小売業者であるとはいえず,この点に関する原告の主張は理由がなく,採用することはできない。」
とされており、最終需要家に販売するのが小売業であるとの考え方が読み取れます(ただし厳密には、小売業と製造業との区別の文脈ではあります)。
続けて白石先生の本では、
「最終需要者とは、消費者である必要はなく、当該商品役務を右から左に転売する者でなければ足りる、というイメージであろうが、その外延はなお検討を要する」(p540)
とされています。
私も、「最終需要者」というのは、
「商品を右から左に転売する者(典型的には、小売店)でない者」、
具体的には、
①商品を自ら費消する者(例、消費者や、LPGを燃やして発電する電力会社)
や
②商品を加工して(=「右から左に」ではなく)販売する者(例、部品を購入する自動車メーカー)
を意味すると考えるのが自然な気がします。
(ちなみに、
LPGを燃やして発電する電力会社が最終需要者なのに(なので、電力会社へLPGを販売する業者は小売業者)、
天然ガスを購入して転売するガス会社が最終需要者でない(なので、ガス会社へ天然ガスを販売する業者は卸売業者?)
というのは、何だかバランスが悪いような気はしますが、おそらく実際にはガス会社もガスを精製(加工)するので「最終需要者」なのでしょうね(なので天然ガス納入業者は小売業者)。
精製もしないで右から左に転売するだけのガスについて、ガス会社への納入業者間でカルテルが行われたら、ガス会社は小売業となり、納入業者は「卸売業者」となるかもしれません。)
公取委の考え方ははっきりしません。
例えば、原敏弘(公正取引委員会事務局審査部考査室長)「平成六年度における課徴金納付命令の概要」(公正取引534号p11)
では、
「・・・例えば、一般的な卸売業の取引は、いわば商品を右から左に流通させ、その流通サービスに対して収益を受けるという側面が強く、みかけ上の売上額に対する利益率が小さくなるということが考慮されて、卸売業の一定率が他の業種よりも定率とされたことから、卸売業かどうかの認定に当たっては、このような一般的な流通業者としての卸売業に該当するか否かにより判断されている。」
とされています(p15)。
つまり、ここでは、販売先が誰かが問題なのではなくて、「流通」サービスであるか否かが基準になっています。
言いたいことは何となく分かりますが、では「一般的な流通業者としての卸売業」とな何なのか、はなはだはっきりしないと言わざるを得ませんね。
また、小売業も卸売業も「流通」サービスを担うものだと考えると、
「一般的な流通業者としての卸売業」
と
「一般的な流通業者としての小売業」
との区別を別に考えないといけなくなりますが、上記解説では、その区別はまったく明らかではありません。
さらに、実際の事例としては、東京無線タクシー協同組合に対して課徴金納付を命じる審決(平成11年11月10日)があります。
同審決の「争いのない事実」では、
「 被審人は、東京都の区域において、オートガスを他から購入して被審人の組合員及び組合員以外の需要者に販売している事業者であり、需要者のほとんどはタクシー事業者等の産業用の使用者であるから、被審人のオートガス事業は、独占禁止法第七条の二第一項の卸売業に該当する。」
として、販売先が「産業用の使用者」であることが、(「小売業」ではなく)「卸売業」であるための基準であるとしているように読めます。
しかし、これはおかしいと思います。
これだと、いわゆるBtoBの販売(プロ相手の販売)は、全て卸売業になってしまい、「卸売業」というイメージからは程遠くなってしまいます。
やはり、
①タクシー事業者を「右から左に(オートガスを)転売する者でない者」、つまり最終需要者と考えて(白石説)、
あるいは、
②上記被審人のオートガス事業は、「一般的な流通業者としての卸売業」ではないので(考査室長説)、
上記被審人のオートガス事業は小売業となると考えるべきであったと思います。
ちなみに広辞苑では、
「小売」とは、
「物品を卸売から買い入れて、これを消費者に分けて売ること。」
と定義されており、
「卸売」とは、
「生産者・輸入商から大量の商品を仕入れて小売商人に売り渡すこと。」
と定義されています。
きわめてまともな定義ですが(広辞苑だから当たり前ですが)、悩ましいのは、この定義に従うと、小売業にも卸売業にも該当しない販売業というのが出てくる、ということですね。(上記被審人のオートガス販売事業など。)
でもそうすると、製造業(厳密には、「卸売業」でも「小売業」でもない事業)と同じ算定率が適用されてしまうので、いかにも不都合です。
身もふたもない言い方をすれば、立法論として「卸売業」と「小売業」という切り分けをしたのがそもそも具合が悪かったと思います。
まだ、「卸売業」、「卸売業を除く販売業」、「その他」、という分け方の方が良かったように思います。
