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2013年1月

2013年1月28日 (月)

「審査長」の訳語(Investigation Division)

公取委の組織図の英語版を見ると、「審査長」の訳語として、

「Investigation Division」(審査課?)

となっています。

「審査課」という課は公正取引委員会の本局にはありません(ちなみに、地方事務所には「審査課」という名の課があります。公正取引委員会事務総局組織規程3条。)

あるのは、「審査長」です。

公正取引委員会事務総局組織令17条1項では、

「審査局に、犯則審査部に置くもののほか、管理企画課及び審査長五人を置く。」

となっており、管理企画課と並列されているので、実質的には「審査課」みたいなものなのでしょうけれど、もちろん、「審査長」というのは人(あるいは人の役職名)なので、「審査長」を「Investigation Division」と訳すのは、なんとなくしっくり来ないものがありますね。

やはり「審査長」の訳語としては、

「Chief Investigator」

あたりが適切ではないでしょうか。

こっちの方が外国人に説明するとき、スムーズに行きそうです。

なお、公取委の職員の方によっては名刺の裏面に英語の職名が書いてあったりするので、手元にあった、ある審査長の方のお名刺を見てみましたが、英語の役職名は書いてありませんでした。

2013年1月23日 (水)

既往の下請法違反行為に対する勧告

独禁法では、違反行為が既になくなっている場合でも、公取委が「特に必要があると認めるとき」には排除措置命令を出すことができるという明文の規定があり(独禁法7条2項)、「既往の違反行為に対する排除措置命令」といわれたりします。

では、そのような明文の規定がない下請法の場合はどうでしょうか。下請法違反行為が既になくなっている場合にも、公取委は勧告を出すことができるのでしょうか。

何はともあれ、条文を見てみましょう。

勧告に関する条文は、7条の1項、2項、3項に分かれています。

下請法7条(勧告)の1項では、

「公正取引委員会は、

親事業者が第四条第一項第一号〔受領拒否〕、第二号〔支払い遅延〕又は第七号〔報復〕に掲げる行為をしていると認めるときは、

その親事業者に対し、速やかにその下請事業者の給付を受領し、その下請代金若しくはその下請代金及び第四条の二の規定による遅延利息を支払い、又はその不利益な取扱いをやめるべきことその他必要な措置をとるべきことを勧告するものとする。」

とされています。

違反行為を「している」なので、「していない」場合(=既往の違反行為)の場合には、勧告はできなさそうですね。

もう少し詳しく見てみましょう。問題は、7条1項で言及しているところの、4条1項各号の「行為」というのが何かです。

4条1項1号は、

「下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請事業者の給付の受領を拒むこと」

とされているので、7条で「1号・・・に掲げる行為」というのは、まさに「下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請事業者の給付の受領を拒むこと」であり、

したがって、7条の「1号・・・に掲げる行為をしている」とは、

「下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請事業者の給付の受領を拒み続けていること

を意味すると理解できます。

同様に、7条で「2号・・・に掲げる行為をしている」というのは、「下請代金をその支払期日の経過後なお支払わないままでい続けていること」、

7条で「7号に掲げる行為をしている」というのは、「〔公取委等への申告を理由に〕不利益な取扱いをし続けていること

を意味すると理解できます。

つまり、いずれの場合もそれらの行為が無くなった場合には、各行為を「している」(7条1項)とは認められないことになります。

具体的には、

1号であれば、給付の受領(受領拒否の後に下請事業者に責に帰すべき理由が生じるという場合も理論的には考えられますが、受領拒否が違法なのですから、その後の事情はすべて親事業者の責に帰すべき理由となる(事後的に下請事業者の帰責事由が生じることはない)と運用されるのでしょう)、

2号であれば、遅れていた下請代金を支払うこと(ただし、4条の2の遅延利息も支払う必要があります)、

7号であれば、報復措置をやめていること、

があれば、「している」(7条1項)には該当せず、勧告を出せないということになりそうです(長澤哲也『優越的地位濫用規制と下請法の解説と分析』p294も同旨)。

ですので、下請法7条1項の場合には、違反行為が上記の意味で終了している場合には、例えば取締役会で違反行為を確認することというような勧告もできないと考えられます。

問題は次の7条2項です。

下請法7条2項では、

「公正取引委員会は、

親事業者が第四条第一項第三号から第六号まで〔3号代金減額、4号返品、5号買い叩き、6号購入強制〕に掲げる行為をしたと認めるときは、

その親事業者に対し、速やかにその減じた額を支払い、その下請事業者の給付に係る物を再び引き取り、その下請代金の額を引き上げ、又はその購入させた物を引き取るべきことその他必要な措置をとるべきことを勧告するものとする。」

とされています。

さらに、「4条1項3号・・・に掲げる行為」というのは、「下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請代金の額を減ずること」なので、4条1項3号に掲げる行為を「した」とは、「下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請代金の額を減じた」ことであると理解できます。

同様に、4条1項4号に掲げる行為を「した」とは、「下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請事業者の給付を受領した後、下請事業者にその給付に係る物を引き取らせた」ことを意味し、

4条1項5号に掲げる行為を「した」とは、「下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めた」ことを意味し、

4条1項6号に掲げる行為を「した」とは、「・・・正当な理由がある場合を除き、自己の指定する物を強制して購入させ、又は役務を強制して利用させた」ことを意味すると理解できます。

ですので、7条2項については、いったん下請法違反の行為(例えば代金減額)を「した」以上、その後違反を解消しても(例えば、減額した代金を満額支払う)、勧告をできるという解釈も、文言上は可能なように見えます。

実際、公取委の実務では、減額された代金を違反企業が任意に支払った場合でも、今後違反しないことを取締役会で決議するなど、「その他必要な措置」として命じています。

(事例は、公取委HPの「下請法勧告一覧」にたくさんありますが、例えば平成24年11月24日の藤久に対する件など。)

しかし、これは形式的解釈に過ぎて妥当ではなく、7条2項の場合も、1項の場合と同様、既往の違反行為に対しては勧告は出せないと解するべきではないかと思います。

理由の1つめはまず、7条1項と2項とで異なる扱いをする合理的な理由がありません。

この点、公取委担当官による粕渕他『下請法の実務(第3版)』p186では、7条が1項から3項まで3つに分かれているのは、

「受領拒否のように当初の行為の後も違反行為が継続するものについては『行為をしている』ものとして類型化し(第1項)、減額のように行為の時点で違反が完了するものについては『行為をした』ものとして類型化し(第2項)しているほか、違反か否かを判断するに際し『下請事業者の利益を不当に害し』たことが要件とされる違反(第4条2項)についても一つの類型と整理されているからである。」

としています。

要するに、継続的な行為は1項、単発の行為は2項、4条2項は7条3項という整理です(たとえていえば、刑法の継続犯的なものが1項で、状態犯的なものが2項、4条2項については3項ということでしょうか)。つまり、行為が継続的か否かで分けているだけで、それ以上でも、それ以下でもありません。

(それに、そもそも違反行為を継続的か否かで分けるのが合理的かも疑問がないではありません。例えば受領拒否(4条1項1号)が、「受領を拒むこと」を違反行為としているから非継続的な行為なのであって、「受領を拒み続けること」と規定すれば継続的にもなりそうです。支払い遅延(4条1項2号)が、「支払期日の経過後なお支払わないこと」としているのも、継続的行為として7条1項に乗っかりますが、支払期日の経過によって行為が完了する非継続的な行為と整理することもできるような気がします。)

7条2項の場合は既往の行為でも勧告をする公取委の実務は、7条2項の「その他必要な措置」というのを根拠にしているのではないかと想像しますが、同じ文言は7条1項にもあるので理由になりませんし、そもそも「その他必要な措置」というのは、どういう勧告をできるのかという効果の問題であって、どのような場合に勧告ができるのかという要件の問題ではありません。

3つめの理由は、下請法の勧告には、独禁法7条2項(20条2項で不公正な取引方法にも準用)のような既往の行為に対する明文の規定がないことです。「とくに必要があるとき」という加重要件もなしに、さらに明文の規定もなしに、下請法だけ既往の行為に勧告ができるというのは、立法論としても解釈論としても不合理だと思います。

以上の通り、既往の行為に対して勧告は出せない(法律上の根拠がない)と考えるべきだと思いますが、実はちょっと悩ましい問題があります。

それは勧告の効果ともかかわります。

勧告の効果は、勧告に従った場合には独禁法20条の不公正な取引方法に対する排除措置命令がなされないということです。

ということは、既往の行為について勧告が出せないとすると、一足飛びに、独禁法20条の排除措置命令に行ってしまうのではないか、という疑問がわきます。(ただし、独禁法20条の場合には「特に必要がある」(20条2項で準用する7条2項)という加重要件が必要ではありますが。)

これはこれで、違反企業にとっては難儀だなぁという感じですね。

ただ、さらに考えると、減額した代金を既に支払った親事業者が、勧告で命じられた取締役会の決議や取引先への周知をしなかったからといって、「特に必要がある」としてそれらの行為を命じる排除措置命令がなされるというのもちょっと考えにくいので、やはり、既往の行為に勧告はできないと考えてよいと思います。

公取委の立場からすれば、既往の行為でも勧告を出す必要性がある場合がある、ということなのでしょうが、やはり法律に書いていないことをしてはいけません。

最後に、残った下請法7条3項ですが、同項では、4条2項1号〔有償支給材の早期決済〕、2号〔割引困難手形〕、3号〔不当な利益提供要請〕、4号〔不当な給付内容の変更〕の「事実がある」ときには勧告できることになっています。

「事実がある」なので、なくなっていたら勧告できないことは明文上明らかです。

ただ、4条2項各号の違反行為は継続的か非継続的かよく分からないものもあるので、各号の「事実がある」というのが何を指すのか、ちょっとよく分からないところもあります。

例えば4条2項1号の「控除し」というのは、「控除」というのは非継続的な行為にみえますが、そうすると、控除という事実があった以上、控除した分を払っても「事実がある」に該当するのか(たぶん、該当しないのでしょう)。同号の「支払わせる」も同様です。

4条2項2号の「手形を交付すること」も、どうなんでしょう。手形の交付という「事実がある」というのを否定するためには、手形を返してもらうのではもちろん意味がなくて、割り引きできる手形や現金で支払って初めて「事実がある」といえなくなる、といえそうです。

2013年1月 9日 (水)

下位事業者のシェアが不明の場合のHHIの計算

企業結合ガイドラインでセーフハーバーとして用いられているハーフィンダールハーシュマンインデックス(HHI)を計算しようとする場合、上位の企業のシェアは分かるものの、下位の企業のシェアが分からない、ということがよくあります。

この場合、HHIはどのように計算すればよいでしょうか。

結論から言えば、シェア不明の企業のシェアは、最大でも、シェアが判明している内で最下位の企業のシェアよりは小さいはずである、という前提で計算することになります。

例えば、A社(40%)、B社(20%)、C社(10%)のシェアは分かっているけれども、それ以下の企業のシェアが分からないとします。

この場合、4位以下の企業のシェアは、3位のC社よりも小さいはずですから、最大でも10%ということになります。

ですので、

1位:40%

2位:20%

3位:10%

4位:(10%)

5位:(10%)

6位:(10%)

という想定で計算することになり、結局、

HHI=40^2+20^2+(10^2)×4=2400

ということになります。

実際には、4位以下はこの想定のとおりである保証はないのですが、このような想定をした場合にHHIが一番大きくなるので(逆に、シェアが多数の企業に散らばっている方がHHIは小さくなる)、この方法によると、いわば保守的に(=大きめに)HHIが算出できるのです。

日本のガイドラインではHHIはセーフハーバーの意味しかありませんので、セーフハーバーに該当するかしないか(白か黒か)だけがはっきりすればいいので、保守的に(大きめに)算定したHHIでもセーフハーバーに該当するなら、それ以上に細かい数字を出す必要はないわけです。

なお企業結合ガイドラインでは、下位事業者のシェアが分からないときのHHIの算定方法として、

「HHI=最上位企業の市場シェア(%)の2乗×0.75+上位3社累積市場シェア(%)×24.5-466.3」

という算定式を使うことになっていますが、私自身、この式を使ったことはないですし、公取委から使うように求められたこともありません。

ちなみに上記説例(40%、20%、10%)の場合にガイドラインの算定式を使うと、

HHI=40^2×0.75+(40+20+10)×24.5-466.3=2448.7

と、まあまあ近い値になります。

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