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2012年9月 3日 (月)

情報の一方的提供とカルテル

競争者が、たとえば自分の価格やコストに関する情報を相互に交換することは、カルテルにつながる行為として独禁法上問題とされます。

(厳密に言うと、カルテル(日本では不当な取引制限)の有力な証拠になり、そのような情報交換後に一致した値上げ等の行為があればカルテルの存在を否定することは難しい、ということです。)

では、競争者Aが別の競争者Bに対して自分(A)の情報を提供するだけ(逆にBから同種の情報は受け取らない)ことは、独禁法上問題があるでしょうか。

(このような情報提供を、以下では変な日本語ですが、「一方的な情報提供」と呼ぶことにします。英語のunilateralなら構わないのですが、日本語で「一方的な」というと、「相手方に有無を言わせず」といったニュアンスが入ってくるためです。)

(また、事業者団体が情報をとりまとめて会員に配布するようなものは、実質的には情報交換(information exchange)なので、ここでの一方向的な情報提供(unilateral disclosure)には含めないものとします。)

結論から言うと、問題があり得るという点で、今日概ね見解の一致があるといえます。

代表的なところでは、欧州の2011年水平協力協定ガイドラインの62項で、1社だけが他の競争者に対して戦略的情報を提供することはEU条約101条の協調的行動(concerted practice)に該当する、とされています。

また近時とくに米国で話題のガンジャンピングも、基本的にはターゲットの情報を買収者が取得するだけ(反対に、買収者が自分の情報をターゲットに提供することはない)なのに反トラスト法違反になりうるという議論なので、情報の一方向的な提供でも問題であることを当然に前提にしているといえます。

日本の公取委の事前相談事例で、一方向的な(つまり、相互でない)OEMでも不当な取引制限の問題だとしているのも、一方向的な情報提供にも問題があり得ることを前提にしているといえます。

さて、結論として情報の一方向的な提供が問題あるとしても、それはなぜなのでしょうか。その理由を考えておくことは、情報の一方向的提供がどこまで許される(許されない)のか、許される(許されない)限界は(双方的な)情報交換(information exchange)と同じなのか違うのか、を考える上で重要だと思います。

この点について比較的まとまって論じているのは、OECDの

Unilateral Disclosure of Information with Anticompetitive Effects

という文書です。

ここでは、情報の一方向的提供でも、市場(あるいは競争者の行動)に関する不確実性(uncertainty)が失われるので問題なのだ、と整理されています(前記EUガイドラインと同じです)。

これはこれで正しい議論だと思いますが、私はもう一つ強調されるべき点があると思います。

何かというと、一方向的な情報提供(A→B)においては、

①Bが「Aの情報」を知っている、

というのみならず、

②『Bが「Aの情報」を知っている』ということを、Aが知っている、

さらには、

③【『Bが「Aの情報」を知っている』ということを、Aが知っている】ことを、Bが知っている(以下、無限に続く)

ということが重要なのではないか、と思うのです。

例えば、仮にB(情報受領者)が産業スパイを使ってAの情報を盗んだとしても、おそらく協調行為は生じず、独禁法の問題は生じない(あるいは、そのような結果生じた協調は、独禁法の問題ではない)、ということになると思います。

つまり、競争者の行動に対する不確実性が無くなるためには、情報受領者と情報提供者が、対象情報が両者で共有されていることを、お互いに認識していることが不可欠なのではないか、と思われます。

これは、競争者が相互に情報交換をする場合でも異なりません。

そして、情報交換であれ情報の一方向的提供であれ、競争者間での情報共有が有する反競争的な効果の根本的な原因は②(とそれ以下)にあると思われます。

ですので、相互的な情報交換と一方向的な情報提供との差は、共有される情報量の差ほどには大きくないのではないかと思われます。

(たとえば、相互的な情報交換で2の情報量が共有され、一方向的な情報提供では1の情報量が共有されるとした場合、一方向的な情報提供の反競争性は相互的な情報交換の反競争性の2分の1よりは大きい、というイメージです。)

比喩的に言えば、情報交換か一方的提供かが問題なのではなくて、情報共有(共有しているという相互了解も含む)が重要だ、ということです。

例えば、A社とB社の2社からなる市場において、大口顧客が3社(X社、Y社、Z社)いる場合に、A社が、

「X社の取引にはうちがコスト面での優位性がある(から絶対にうちが取引を獲得する)」

という情報(あるいは具体的なコスト情報)をB社に提供すれば、B社はX社の取引を獲得することを諦めてしまうのではないでしょうか。

(技術的な理由で需要者はAまたはBのどちらかからしか調達できないとします。)

似たような例で、ゲーム理論の教科書に出ているコンビニの逐次出店競争も、同じようなものですかね(理論的なことはよくわかりませんが、また考えてみようと思います)。

結論としては、情報の一方向的提供は、(相互的な)情報交換に比べれば独禁法上のリスクは低いけれども、一方向だからというだけで問題がないということはやはりできない、ということでしょう。

そういえば、同じ論点について以前このブログで書いたことを思い出しました。今思えばもっと厳しいことを言っても良かったように思いますが、ご参考まで。

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