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2012年9月

2012年9月22日 (土)

下請事業者の合意(同意)と下請法違反

下請事業者との合意により下請法違反が回避できることはあるでしょうか。

例えば、納期を9月30日と定めていたのを、両者の合意で10月1日に変更して10月1日に受領しても、(9月30日に受領すべきものを受領しなかったので)受領拒否にならないのか、という問題です。

(ちなみに、この場合は同意があっても受領拒否で下請法違反になります。)

この点、公取委の下請法講習テキストQ58(p40)では、

「下請事業者から当月納入分を翌月納入分として扱ってほしいと頼まれ、下請代金も翌月納入されたものとみなして支払ったところ、支払遅延であるとの指摘を受けたが問題となるか。」

との質問に対して、

本法の適用については、下請事業者との合意は問題とならない。下請事業者との合意の有無に関係なく、下請代金は受領した日から起算して60日以内に定めた支払期日までに支払わなければならない。」

と回答されています。

この下線部を文字通り読めば、下請事業者の合意があっても下請法違反を免れることは一切できないということになりそうです。

しかし、実際には必ずしもそうではなく、下請法上、下請事業者の合意が問題となる場合が結構あります。

以下、下請法運用基準と下請法講習テキストを中心にまとめておきましょう。

(なお、この問題を考えるときには、契約時点での合意(事前の合意)と契約後の合意(事後の合意)の区別を意識しましょう。)

①双方合意で導入したジャストインタイムでの納期の微調整は可。(受領拒否、4条1項1号、テキストp36)

②製造委託において、下請事業者が倉庫に部品を預託し親事業者が倉庫から当該部品を出庫して使用する方式において、原則として倉庫預託日が支払期日の起算日だが、3条書面の納期日に所有権が親事業者に移転することがあらかじめ書面で合意されていれば、3条書面記載の納期日に受領があったものとして扱う。(支払遅延、4条1項2号、テキストp135、運用基準第4-2(2)

③情報成果物作成委託で、作成の過程で親事業者が作成内容の確認等のために注文品を一時預かる場合に、注文品が一定水準を満たしていることを確認した時点で受領とすることをあらかじめ合意している場合は、当該時点が受領日となる(支払遅延、4条1項2号、テキストp39【情報成果物作成委託における支払期日の起算日(受領日)】、テキストp41のQ65)

④下請代金支払日が金融機関の休業日にあたる場合は、支払日が順延する期間が2日以内であって、支払日を翌営業日に順延することについてあらかじめ合意・書面化されている場合は、受領後60日を超えても支払遅延にならない。(支払遅延、4条1項2号、テキストp39)

⑤金型の製造委託において、金型が下請事業者の元にとどまる場合には、親事業者が金型をいつ受領したのかが明確でないので、当該金型を使用した最初の試打ち品を受領した時点で金型を受領したこととすることをあらかじめ合意している場合には、当該時点を金型の受領日とみなすことができる。(テキストp40のQ61)

⑥役務提供委託の下請代金額の支払いについて、月単位で設定される締め切り対象期間の末日までに提供した役務に対して行われることが予め合意され、その旨が3条書面に明記されている場合には、支払期日の起算日は当該月末日となる。(支払遅延、4条1項2号、運用基準第4-2(4)、テキストp48のQ75)

⑦振込手数料の負担は合意があれば可。(下請代金の減額、4条1項3号、運用基準第4-3(1)、テキストp49)

⑧ボリュームディスカウント等(リベートを含む)は、あらかじめ当該割戻金の内容を取引条件とすることが合意され、書面化等の要件を満たせば可。(下請代金の減額、4条1項3号、運用基準第4-3(1))

⑨発注前に下請事業者の合意があれば、振込手数料を負担させることは可。(減額禁止、4条1項3号、テキストp48のQ75)

⑩ロット単位で抜き取り検査を行う場合、合格したロットの中の不良品を返品することはできないが、(ⅰ)継続的取引で、(ⅱ)直ちに発見できる不良品について返品できることがあらかじめ合意・書面化されており、(ⅲ)当該書面と3条書面が関連づけされているときに、(ⅳ)遅くとも受領後支払時までに返品することは可。(返品、4条1項4号、テキストp50、p53のQ81)

⑪支払手段の変更には下請事業者の合意が必要。(買いたたき、4条1項5号、テキストp55のQ82)

⑫人員派遣には下請の同意その他の要件が必要。(経済上の利益の提供、4条2項3号、テキストp64のQ97)

⑬情報成果物作成委託で、下請事業者が納期を守れないのを防ぐために合意により給付内容を変更することは、下請事業者に実質的損害が無く、下請事業者の要請により給付内容を変更することは、不当な給付内容の変更にならない。(給付内容の変更、4条2項4号、テキストp68のQ101)

⑭電子的記録を受信するために要する通信費を代金から減額することは、あらかじめ下請事業者の承諾を受けていれば可。(減額禁止、4条1項3号、テキストp96,電子的記録留意事項第2-2-(3))

⑮3条書面の電子化は下請事業者の承諾があれば可。(3条2項)

⑯「サプライチェーン・マネジメントに関する考え方」(テキストp151資料13)に定められている様々な合意。

2012年9月13日 (木)

液晶(LCD)パネルカルテル事件で司法省が罰金10億ドル求刑

昨日、公正取引協会さんの月例定例会で米国カルテル規制について講演をさせていただいたのですが、その時に触れた液晶パネルのカルテル事件について、びっくりするようなニュースが飛び込んできました。

無罪を争っていた台湾のAU Optronics Corporation(友達光電股份有限公司)に対して、今年3月に有罪判決が下されて量刑手続中なのですが、9月11日に、司法省が罰金10億ドルを勧告したということです。

アメリカのカルテルの罰金額の歴代トップはビタミンカルテルのホフマン・ラ・ロシュ社の5億ドルでしたので、もしこのままの罰金額を裁判所が認めると、今までの記録を大幅に塗り替えることになります。

司法省の量刑メモランダムをみると、一応、量刑ガイドラインのレンジ(9億3600万ドル~18億7200万ドル)には入っているようですが、それにしても、とてつもない金額です。

シェアトップであったLGですら4億ドルだったことや、司法取引に応じて捜査に協力した場合にはガイドラインのレンジを下回る額で和解が成立することも多いことを考えると、いかに厳しいかが分かります。

しかも、個人の被告2名についても禁固10年が求刑されています。こちらの方が衝撃かも知れませんね。

ちなみに、5名起訴されて3名は無罪になっています。天と地ほどの差ですね。

司法取引に応じると応じないとでこんなに量刑に差が出るとなると、カルテルで摘発された企業(と個人)は、怖くって争えないのではないでしょうか。

裁判所の判決に注目です。

【9月21日追記】

5億ドルの判決が出たようです。求刑の半額になりましたが、それでも多額ですね。

2012年9月 3日 (月)

情報の一方的提供とカルテル

競争者が、たとえば自分の価格やコストに関する情報を相互に交換することは、カルテルにつながる行為として独禁法上問題とされます。

(厳密に言うと、カルテル(日本では不当な取引制限)の有力な証拠になり、そのような情報交換後に一致した値上げ等の行為があればカルテルの存在を否定することは難しい、ということです。)

では、競争者Aが別の競争者Bに対して自分(A)の情報を提供するだけ(逆にBから同種の情報は受け取らない)ことは、独禁法上問題があるでしょうか。

(このような情報提供を、以下では変な日本語ですが、「一方的な情報提供」と呼ぶことにします。英語のunilateralなら構わないのですが、日本語で「一方的な」というと、「相手方に有無を言わせず」といったニュアンスが入ってくるためです。)

(また、事業者団体が情報をとりまとめて会員に配布するようなものは、実質的には情報交換(information exchange)なので、ここでの一方向的な情報提供(unilateral disclosure)には含めないものとします。)

結論から言うと、問題があり得るという点で、今日概ね見解の一致があるといえます。

代表的なところでは、欧州の2011年水平協力協定ガイドラインの62項で、1社だけが他の競争者に対して戦略的情報を提供することはEU条約101条の協調的行動(concerted practice)に該当する、とされています。

また近時とくに米国で話題のガンジャンピングも、基本的にはターゲットの情報を買収者が取得するだけ(反対に、買収者が自分の情報をターゲットに提供することはない)なのに反トラスト法違反になりうるという議論なので、情報の一方向的な提供でも問題であることを当然に前提にしているといえます。

日本の公取委の事前相談事例で、一方向的な(つまり、相互でない)OEMでも不当な取引制限の問題だとしているのも、一方向的な情報提供にも問題があり得ることを前提にしているといえます。

さて、結論として情報の一方向的な提供が問題あるとしても、それはなぜなのでしょうか。その理由を考えておくことは、情報の一方向的提供がどこまで許される(許されない)のか、許される(許されない)限界は(双方的な)情報交換(information exchange)と同じなのか違うのか、を考える上で重要だと思います。

この点について比較的まとまって論じているのは、OECDの

Unilateral Disclosure of Information with Anticompetitive Effects

という文書です。

ここでは、情報の一方向的提供でも、市場(あるいは競争者の行動)に関する不確実性(uncertainty)が失われるので問題なのだ、と整理されています(前記EUガイドラインと同じです)。

これはこれで正しい議論だと思いますが、私はもう一つ強調されるべき点があると思います。

何かというと、一方向的な情報提供(A→B)においては、

①Bが「Aの情報」を知っている、

というのみならず、

②『Bが「Aの情報」を知っている』ということを、Aが知っている、

さらには、

③【『Bが「Aの情報」を知っている』ということを、Aが知っている】ことを、Bが知っている(以下、無限に続く)

ということが重要なのではないか、と思うのです。

例えば、仮にB(情報受領者)が産業スパイを使ってAの情報を盗んだとしても、おそらく協調行為は生じず、独禁法の問題は生じない(あるいは、そのような結果生じた協調は、独禁法の問題ではない)、ということになると思います。

つまり、競争者の行動に対する不確実性が無くなるためには、情報受領者と情報提供者が、対象情報が両者で共有されていることを、お互いに認識していることが不可欠なのではないか、と思われます。

これは、競争者が相互に情報交換をする場合でも異なりません。

そして、情報交換であれ情報の一方向的提供であれ、競争者間での情報共有が有する反競争的な効果の根本的な原因は②(とそれ以下)にあると思われます。

ですので、相互的な情報交換と一方向的な情報提供との差は、共有される情報量の差ほどには大きくないのではないかと思われます。

(たとえば、相互的な情報交換で2の情報量が共有され、一方向的な情報提供では1の情報量が共有されるとした場合、一方向的な情報提供の反競争性は相互的な情報交換の反競争性の2分の1よりは大きい、というイメージです。)

比喩的に言えば、情報交換か一方的提供かが問題なのではなくて、情報共有(共有しているという相互了解も含む)が重要だ、ということです。

例えば、A社とB社の2社からなる市場において、大口顧客が3社(X社、Y社、Z社)いる場合に、A社が、

「X社の取引にはうちがコスト面での優位性がある(から絶対にうちが取引を獲得する)」

という情報(あるいは具体的なコスト情報)をB社に提供すれば、B社はX社の取引を獲得することを諦めてしまうのではないでしょうか。

(技術的な理由で需要者はAまたはBのどちらかからしか調達できないとします。)

似たような例で、ゲーム理論の教科書に出ているコンビニの逐次出店競争も、同じようなものですかね(理論的なことはよくわかりませんが、また考えてみようと思います)。

結論としては、情報の一方向的提供は、(相互的な)情報交換に比べれば独禁法上のリスクは低いけれども、一方向だからというだけで問題がないということはやはりできない、ということでしょう。

そういえば、同じ論点について以前このブログで書いたことを思い出しました。今思えばもっと厳しいことを言っても良かったように思いますが、ご参考まで。

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