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2012年8月 9日 (木)

平成23年度相談事例集について

7月4日に公表された平成23年度の相談事例集について、気がついたことをまとめておきます。

総じて今年は興味深い事例が多く、豊作だと思います。

事例1は、医療機器Aの通信販売の禁止が独禁法上問題ないとされた事例ですが、通信販売では行うことができない調整が必要な機器に限って通信販売を禁じるということなので、妥当な結論でしょう。

ところで本件では、Aを通信販売することをやめない販売業者には、Aの出荷を停止するとされていますが、販売契約を解除しても、結論は変わらない(独禁法上問題ない)と思います。(違いは、販売業者がAとは別の機器も取り扱っている場合に出てきます。)

なぜなら、少なくとも明示的に独禁法上の問題になっているのは、Aのみなので、他の機器が出荷停止になっても、独禁法上の問題とは関係ないからです(つまり、「より制限的でない他の手段はないか」といった議論をする必要はないということです)。

事例2は、第3類医薬品の対面販売を義務付ける(ネット販売業者には出荷停止する)ことは独禁法違反になるとした事例ですが、厳しいですね。

有名な資生堂事件最高裁判決では、化粧品の対面販売義務づけが独禁法上問題ないとされたのに、よりきちんと説明すべき医薬品の方が問題有りとなるのは、バランスが悪いような気がします。

ただ事例集では、「X社の医薬品Aの特徴は通信販売でも十分説明が可能である」と認定されているので、ひょっとしたら、化粧品よりも対面販売の必要性が低い製品だったのかもしれません。(医薬品だからきちんと説明すべき、化粧品はほどほどの説明で良い、とは必ずしも言えない、ということでしょう。)

むしろ、化粧品はお洒落な売場などでブランドイメージを維持する必要が高いのに対して、医薬品はそういったことはない、という事情も関係しているかも知れません。

あと、店舗販売の業者が積極的な説明をしなくても出荷停止にはしないことを捉えて、「同等の制限が課せられているとはいえない」と認定していますが、これも致し方ないでしょうね。

化粧品の場合は、「説明員がいてきちんとしているというブランドイメージが大事なのだ(現実に説明するかどうかは二の次だ)」と言いやすいですが、医薬品はそういうわけにはいかないので。

ただ、相当微妙な事案であることは間違いなく、少なくとも資生堂事件最高裁判決とは明らかに逆の結論になっていることから(事例集では、最高裁の「それなりの合理性」があればよいという基準には何ら言及されていません)、裁判で争ったら逆の結論になる可能性はあると思います。

あと事例集では、

「X社は、自社に寄せられた問い合わせが、店舗販売と通信販売のどちらの方法により購入した消費者からのものかについては把握していない」

とされており、通販で買った客からの問い合わせが(通販で購入する人の割合が多いことを考慮してもなお)多かったという事実があれば、結論が違っていた可能性があります。

顧客からのクレームをきちんと記録に取っておく(証拠化する)ことの大切さが分かります。

(ただ、本件ではおそらく、通販の顧客からの問い合わせが相対的に多いということは無いのでしょう。第3類の医薬品の説明なんて、店頭で買っても私は受けたことがほとんどありません。)

事例3は、プロ選手のトーナメントを主催する興行主が、同業他社のトーナメントへ自社登録プロ選手が参加することを禁止することが、取引妨害に該当するとされた事例です。

結論はそれでよいと思うのですが、こんなのまで取引妨害とするのは、(元々曖昧模糊とした)取引妨害の適用対象が広がりすぎて妥当でないと思います。

例えば、排他条件付取引と構成すると、必要なインプットの何割が囲い込まれるかといった点や、それと関連して、違反者の市場シェアなどが考慮されるのですが、取引妨害ではそういったことが基本的に不要です。(事例集でも、相談者Xのシェアや、登録プロの数には言及がありません。)

やはり、本件は排他条件付取引として扱うべき事案だと思います。

あと細かいことをいうと、事例集ではプロ選手が「事業者」であると認定していますが、取引妨害では、被害者である競業者は「事業者」である必要がありますが(一般指定14項)、競業者の取引の相手方は事業者である必要はないので、なぜプロ選手が「事業者」であることをことさら認定しているのか、よく分かりません。

事例4は、花の品種開発業者が育成者権のライセンスをするにあたり農協からラベルを購入することを義務付けることが拘束条件付取引に該当しないとした事例です。

これも結論はこれで良いと思いますが、ぱっと見た感じは、抱き合わせとして処理することもできそうな事案に思えます(使用権が主たる商品で、ラベルが従たる商品)。

ただ、そうすると、「ラベル市場」なるものの想定・分析が必要になり、事案にそぐわないので、やはり拘束条件付取引で行くのが穏当なのでしょう。

事例5は、共同研究開発終了後3年間、同一テーマの開発業務を禁じることが独禁法上問題ないとされた事例です。

契約終了後の開発禁止は反競争性が強いと一般的に考えられているので、この判断はけっこう思い切った判断だと思います。

本件で特徴的なのは、同一テーマの開発を禁止されるのが、当該共同研究開発を担当した技術者に限られる点ですね。当該研究開発のノウハウが個人に蓄積する性質のものであるという特殊性はあったのかもしれませんが、この事例集の判断をきっかけに、今後こういうプラクティスが定着するかもしれませんね。

事例6は、新聞記事で取り上げられた取材先が新聞を一括大量購入する場合に値引販売をしても、値引販売を原則禁止する新聞販売特殊指定に違反しないとされた事例です。新聞特殊指定の文言に照らしても、問題ない事例でしょう。

事例7は、被災地の仮設住宅向け住宅設備の最低販売数量をメーカー間で割り当てる行為が独禁法上問題ないとされた事例です。

こういう被災地支援の取組は歓迎すべきですが、理論的に興味深いのは、「最低」数量の義務付けでもカルテルに該当しうると読める点です。

カルテルは通常、「最高」数量を制限することにより生産量を削減し値段をつり上げるというものなので、「最低」数量制限というのはそもそもめったにないか、あるとしてもこの事例のようにカルテル以外の別の目的で行われる場合なのでしょうが、「最低」数量も違法になりうるという点は、それが経済学的に見て正しいか否かはさておき、法律解釈としては注意すべき点だと思います。

事例9は、単位農協が構成する社団法人が、生産管理等を記録しない生産者からの販売委託を拒否するガイドラインを作成することが独禁法上問題ないとされた事例ですが、これもなかなか思い切った判断ですね。

文面上は、単なるガイドラインの作成で強制力はないことも理由に挙げられていますが、単位農協が生産管理記録を有しない農家の販売委託を拒否すること自体も(そしておそらくは、複数の単位農協で共同しても)、独禁法上問題ないという趣旨であると読めます。

そうすると、法律上義務付けられていない生産管理記録を共同ボイコットの方法で事実上強制することができることを認めたことになります。

しかし一般的には、そのような取り決めに合理的な理由があるのかが慎重に検討されるべきところであり(たとえば、食品の安全性確保のために、「生産設備の洗浄」が必須なのは理解できるとしても、「温度管理」が安全性確保に必須と言えるのか、など)、あまり一般化はできない判断だろうと思います。

事例13は、農協の連合会が加工品メーカーとの間で農作物の取引条件の交渉を行って、その結果を「組合員の経済的地位の改善のためにする団体協約」(農業協同組合法10条)として連合会と加工品メーカー間で締結することが、独禁法22条の組合の行為の適用除外の要件(「小規模の事業者又は消費者の相互扶助を目的とすること」)を満たさないので独禁法違反であるとした事例です。

ここでは、単位農協の交渉力は加工品メーカーに劣らないなどの理由で、当該交渉や協約締結が「小規模の事業者又は消費者の相互扶助を目的とすること」に該当しないと判断されており、独禁法22条1号の要件を満たすかどうかは具体的事実に依存する(農協法上の「団体協約」に該当するか否かは関係ない)ということが明らかにされており、興味深いです。

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