« FTAIA(外国取引反トラスト改善法)の適用範囲 | トップページ | 平成23年度相談事例集について »

2012年8月 8日 (水)

平成23年度企業結合事例集について

去る6月20日に公表された平成23年度の企業結合事例集について、気がついたことをメモしておきます。

事例1(入浴剤)は、入浴剤シェア15%(2位)のアース製薬が1位(25%)のバスクリンの全株を取得した事例ですが、参入が容易であるなどの理由で問題なしとしています。

結論はそれで良いと思いますが、「需要者からの競争圧力」のところの「需要者」は、小売店を指すことを前提に議論されています。

最終需要者である消費者が価格に敏感だからこそ小売事業者間で活発な競争が行われているのだと言えるのであれば、消費者が価格に敏感であることも「需要者からの競争圧力」の議論に間接的に取り込んでいると言えるのかもしれませんが、端的に、最終需要者である消費者の行動に着目した分析があっても良かったように思います。

例えば、入浴剤はブランドで差別化されていたり、そのブランド形成のためには多額の広告宣伝費が必要でそれが参入障壁になっているとかいう議論が思い浮かびますが、そういう議論も、消費者を思い浮かべてこそ可能だと思います。

事例2は、新日鐵と住金の合併ですね。

この事例では、「無方向性電磁鋼板」のところで、「日本の電機メーカー等の日本の需要者」を「国内ユーザー」と、さらっと定義しているのですが、企業がグローバルに活動する今日、何が「日本の」メーカーで、何が「日本の」需要者なのかは、なかなか難しい問題です。

また、事例集をよく読むと「国内ユーザー」の行動一般を問題にしているのではなく、国内ユーザーの「国内拠点」での活動に着目する態度が垣間見え、これはこれとして正しい態度だと思います(日本の独禁法は、日本国内での事業活動を規制するものなので)。

ただ細かいことを言うと、日本の拠点で調達している「海外ユーザー」がどういう調達行動をしているのかも見てみないと、市場全体の状況は分からない気がします。(おそらく、そういうユーザーは存在しなかったか、無視できるレベルだったのでしょう。)

問題解消措置では、住友商事へのコストベースでの引取権が認められましたが、興味深いのは、引取対象は住金の全グレードとしながら、ベースのコストは合併会社(新日鐵+住金)となっている点です。

住金のほうが高コストであるということなので、要するに、住商は、従来の住金以上に競争力のある競争者となる、という点が評価されています。

ただ一般論として仕方のないことですが、コストベースの引取権を設定すると、どうしても当事会社のコスト削減のインセンティブは減少します(コスト削減しても手元に利益が残らないので)。きっと引取量が限られているからインセンティブ減少の程度も相対的に限られる、という判断なのでしょう。

高圧ガス導管エンジニアリング業務については、UO管の供給や自動溶接の技術指導をするという問題解消措置が認められていますが、「現場監督の数がボトルネックとなって」いる(p16)と認定しながら、この点については問題解消措置では考慮していないのが、ちょっと不思議な感じがします。

鋼矢板の市場画定について、公取委は

「〔仮設用途の鋼矢板〕はリース品に用いるための製品として販売されるものであってリース品とは取引段階を異にしていることから・・・リース品と競合しない。」(p22)

と認定しています。

最初に見たときには、ずいぶん荒っぽい議論だなあと思ったのですが、おそらくリース品を使うような需要者(建設業者など)は、コスト面やメンテナンスの手間などから鋼矢板を購入するということはあり得ないのでしょう。その意味で、例えば新車とレンタカーが競合するかといったような場合とは異なるのでしょう(クルマの場合は、需要者から見て、新車とレンタカーは相互に代替的な選択肢になり得る)。

鋼矢板に関する実質的競争制限を否定する上で最も重要なのは、土留め工法全体に占める鋼矢板工法の割合が2割程度に過ぎない(p24)という事実なんだろうと思います。

似たような理屈が、スパイラル溶接鋼管と、その代替品である「既設コンクリート杭」と「場所打ちコンクリート杭」との関係でも可能だったはずですが、こちらの方はシェアのデータが無かったためか、事例集では触れられていません。

熱延鋼板の地理的市場では、国境を越えて地理的市場が画定される可能性もあったけれど当事者が国内市場と主張するのでそれに従った、みたいな認定になっていますが(p28。H形鋼について同様にp33)、こうあからさまに言われると、やっぱり高めのボールを投げとこうかなぁという気になりますね。でも余り高めのボールを投げて審査を長引かせるのもお互い無益ですし、この辺は微妙な判断が要求されます。

熱延鋼板の輸入圧力について、「〔韓国製品や中国製品の〕品質は、国内の需要者が海外拠点において採用するなど、国内の需要者にとって使用可能なレベルにある」と認定されていますが(p30)、それは一面の真実ではあるものの、ではなぜ国内拠点では採用されないのか(採用されないとすれば、それを競争法上どのように評価すべきか)という面に対する配慮も必要でしょう。

H型鋼の市場シェアについて、新日鉄グループのシェアにトピー工業(議決権20.5%、1位)と合同製鉄(同15.7%、1位)を含めたのは、議論のあり得るところでしょう。

この、少数持分のグループ会社をどう扱うかは、本件の最も悩ましい点の1つだっただろうと思います。でもこの程度で「結合関係あり」とされるのは、やや腑に落ちない感はあります(とくに15.7%の合同製鉄)。

ひょっとしたら、これら2社をグループ外と判断するとセーフハーバーに該当してしまう事案だったのかも知れませんが(そうすると、実質判断が原則できなくなる)、それが「結合関係」を認めた理由だとしたら本末転倒です。

2社が「新日鉄と価格戦力を共有していない」とか、「顧客の奪い合いが見られる」とか認定しながら(p34)、にもかかわらず結合関係があるというのも、矛盾しているか、控えめに言っても、分かりにくいです。

少なくとも、こういう処理をするならグループ合算のシェアだけでなく個社のシェアも示すべきでしょう。

事例4(産業ガス容器)は、ちょっと変わった事例です。

事実の記載をみると、岩谷産業、岩谷瓦斯(岩谷産業の子会社)、日本エア・リキードの3社(以下「3社」)の合弁会社であるエーテックが、産業ガス容器を製造し、3社がそれを販売する、という構図です。

つまり、3社の合弁であるエーテックがメーカーで、3社はその販売店という位置付けです。

その上で、日本エア・リキードが販売から撤退し(販売事業はエーテックへ譲渡)、エーテックの持株も岩谷側に譲渡する、というのが本件です。

ですので、本件は、「エーテック製産業ガス容器」という同一ブランド内での販売店間の事業譲渡、ということになります。

事例集では、日本エア・リキードの販売シェアが40%、岩谷産業の販売シェアが5%、合算すると45%、ということで分析が進んでいますが、そもそも販売店レベルでの同一ブランド内での競争を、ブランド間競争と同じ様に分析する(少なくとも事例集からはそう見える)のは疑問です。

この理屈だと、メーカー主導で(同一ブランド内で)販売店を統廃合する場合にも、異なるブランド間での販売店の統合と同様に企業結合審査を受ける必要があることになってしまわないでしょうか?

あと、本件では日本エア・リキードのエーテックに対する持株割合も明示されていないのも、ちょっと不思議な感じがします。例えば、持株割合が過半数だったか少数だったかで、競争分析は変わってきたのではないでしょうか。

事例5(LPガスメーター販売)は、LPガス用マイコンメーターを製造販売する当事会社が、その販売事業を新会社に統合する、というものですが、販売事業のみの統合であるにもかかわらず、あたかも製造販売事業すべてを統合するかのような前提で分析が進んでいます。

時々、「販売だけの統合なら、製造販売全部の統合よりも、公取委の審査を通りやすいのではないか」という質問を受けることがありますが、そういうことはないという一つの例でしょう。需要者の目から見れば購入先が1つ減るので、当然でしょう。

« FTAIA(外国取引反トラスト改善法)の適用範囲 | トップページ | 平成23年度相談事例集について »

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 平成23年度企業結合事例集について:

« FTAIA(外国取引反トラスト改善法)の適用範囲 | トップページ | 平成23年度相談事例集について »

フォト
無料ブログはココログ