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2012年8月 2日 (木)

FTAIA(外国取引反トラスト改善法)の適用範囲

米国反トラスト法の域外適用については、「外国取引反トラスト改善法」(The Foreign Trade Antitrust Improvements Act, FTAIA)が、非常に凝った条文を置いていて目立つためか(笑)、この法律を中心に議論が展開しているような錯覚を覚えがちですが、必ずしもそうではありません。

というのは、「輸入取引」(←ただし、条文上の定義なし)にはFTAIAは適用されないからです。

まず、FTAIAの条文(シャーマン法6a条)を見てみましょう。

Sections 1 to 7 of this title [Sherman Act] shall not apply to conduct involving trade or commerce (other than import trade or import commerce) with foreign nations unless

(1) such conduct has a direct, substantial, and reasonably foreseeable effect

(A) on trade or commerce which is not trade or commerce with foreign nations, or on import trade or import commerce with foreign nations; or

(B) on export trade or export commerce with foreign nations, of a person engaged in such trade or commerce in the United States; and

(2) such effect gives rise to a claim under the provisions of sections 1 to 7 of this title, other than this section.
If sections 1 to 7 of this title apply to such conduct only because of the operation of paragraph (1)(B), then sections 1 to 7 of this title shall apply to such conduct only for injury to export business in the United States.

いつみても、目が回りそうになる条文ですね(苦笑)。

やや端折って、かつ意訳すると、以下のとおりです(ただし、条文解釈する上では、結局英語で読んだ方が分かり易いです。)

シャーマン法は、外国との取引(輸入取引を除く)をその内容として含む行為には適用されない。ただし、以下の(1)と(2)の両方を満たす場合は、シャーマン法が適用される。

(1)当該行為が、下記(A)または(B)の取引に対して、直接的、実質的、かつ合理的に予見可能な効果を及ぼす場合

(A)外国との取引ではない取引、もしくは外国との輸入取引、または

(B)米国内で輸出取引に従事する者の外国との輸出取引、

かつ

(2)当該効果が、シャーマン法上の請求権を発生させる場合。

シャーマン法が専ら上記(1)(B)を根拠に適用される場合、シャーマン法は米国内の輸出事業に対する損害についてのみ適用される。

( なお、「trade with foreign nations」は、「外国の人々や企業との取引」という意味であり、「外国政府との取引」という意味ではありません。)

さて、FTAIAの構造を理解するためのポイントをまず挙げておきます。

まず、FTAIAが適用されると、適用されない場合に比べて域外適用がされにくくなる、ということです。

というのは、FTAIAの

「直接的、実質的、かつ合理的に予測可能な効果」

という要件は、シャーマン法の一般判例法理(たとえばハートフォード火災保険事件など)の

「意図された実質的な効果」

よりもハードルが高いからです(とくに、「直接的」の部分)。

次に、FTAIAが適用されないとどうなるのかというと、シャーマン法が域外適用されなくなるのではなく、シャーマン法の域外適用に関する一般的な判例法理が適用されることになります。

FTAIAはシャーマン法の適用を排除する法律なので、FTAIAが適用されないということは、シャーマン法の適用排除が適用されない(ややこしいですね)、ということで、結局、原則通りシャーマン法が適用される(ただし、シャーマン法の一般的な域外適用の法理の下で)、ということです。

次に、FTAIAの条文の構造を理解する上では、「involving ...」というフレーズと、「(has) an effect on ...」というフレーズの違いを明確に意識することが必要です。

「involving ...」を、「~に関する」とか「~における」などと訳してしまっている例が見られますが、それだと明確なニュアンスが抜け落ちてしまいます。

「involve」というのは、Oxford Advanced Learners' Dictionaryによると、

「if ... an activity involves something, that thing is an important or necessary part or result of it.」

と説明されています。

なので、「conduct involving [trade]」というのは、「[取引]を重要な部分として含む行為」という意味になります。

ですので、「conduct involving trade with foreign nations」は、外国との取引を、その重要な部分として含むところの行為、(もっといえば、involving以下そのものを標的にした行為)といった感じになります。

そして、「conduct」は、シャーマン法上違法かどうかが問題となる行為のことですから、(カルテル合意に基づく輸入や売買などではなく)「合意(その他の結合)」です。(一応、シャーマン法1条を想定して下さい。)

結局、「conduct involving trade with foreign nations」は、「外国取引を重要な部分として含む合意などの行為」、ひらたくいえば「外国取引について行われるカルテル合意」という意味になります。

これに対して、「has an effect on [trade]」というのは、「(取引)に影響を与える」という意味ですから、たとえば、日本企業がエクアドルへの輸出取引についてカルテル合意を行った場合には、

「conduct involving trade with Ecuador」

であり、当該カルテル合意が米国での取引に影響(その因果関係のパターンは色々考えられます)があれば、

「conduct which has an effect on trade with the U.S.」

ということになります。

次に、FTAIAが「取引」の種類を国内取引か国外取引かといった視点からどのように分類しているのかをみると(物の売買をイメージして下さい)、

①米国→米国: 国内取引 (trade or commerce in the United States)

②外国→米国: 輸入取引 (import trade or import commerce)

③米国→外国: 輸出取引 (export trade or export commerce)

④外国→外国: 外国間の取引 (条文には言及なし。あえていえば、trade or commerce among foreign nations)

の4種類に限られることになります。

そして、この①~④の取引が、カルテル合意のまさに対象である取引(conduct involving trade)と、影響を受ける対象としての取引(conduct which has an effect on trade)の2通りのものとして顔を出します。この点を理解することが重要です。

ここで、A取引を対象とするカルテル合意がB取引に影響を及ぼすことを、

(conduct involving A,conduct which has an effect on B)=(A,B)

と表すと、論理的なパターンとしては、

(国内,国内)、(国内,輸入)、(国内,輸出)、(国内,外国間)

(輸入,国内)、(輸入,輸入)、(輸入,輸出)、(輸入,外国間)

(輸出,国内)、(輸出,輸入)、(輸出,輸出)、(輸出、外国間)

(外国間,国内)、(外国間,輸入)、(外国間,輸出)、(外国間,外国間)

の16通りとなります。

さて、ようやくFTAIAの文言解釈です。

まず、柱書きでFTAIAのカバーする範囲が、「conduct involving trade or commerce ... with foreign nations」と設定されているので、国内取引をその内容として含む合意等の行為(conduct involving trade in the United States)はFTAIAでカバーされません(国内取引なので当然ですね)。

つまり、上記16パターンのうちの1行目、

(国内,国内)、(国内,輸入)、(国内,輸出)、(国内,外国間)

の部分は、そもそもFTAIAの対象ではありません。

次に、冒頭述べましたように、柱書きでのかっこ書きで「輸入取引をその内容として含む(合意等の)行為(conduct)」が除外されているので(other than import trade or import commerce)、輸入取引をその内容として含む行為にはFTAIAは適用されません。

つまり、上記16パターンのうち、2行目、

(輸入,国内)、(輸入,輸入)、(輸入,輸出)、(輸入,外国間)

には、FTAIAが適用さないことになります(シャーマン法の原則論に戻ります)。

そして、残った8パターン(3行目と4行目)については、(1)(A)か(1)(B)の要件を満たして初めて、シャーマン法が適用されることになります((2)は、めんどうなので解説を省略します。)

(1)(A)の前段は、国内取引に影響がある場合(has an effect on)です(trade or commerce with is not trade or commerce with foreign nationsと、否定形で書かれていますが、要するに国内取引のことです)。

よって(1)(A)でカバーされるのは、

(輸出,国内

(外国間,国内

の2パターンになります。

次に、(1)(A)の後段は、輸入取引に影響がある場合(has an effect on import trade or import commerce with foreign nations)です。

よって、(1)(B)でカバーされるのは、

(輸出,輸入

(外国間,輸入

の2パターンになります。

最後に、(1)(B)は、米国輸出業者の輸出取引に影響がある場合ですから、

(輸出,輸出)、(外国間,輸出

の2パターンになります。

(1)(A)(B)をまとめると、

(輸出,国内)、(外国間,国内)、(輸出,輸入)、(外国間,輸入)、(輸出,輸出)、(外国間,輸出

の6パターンについては、太字の取引に、「直接的、実質的、かつ合理的に予見可能な効果」が及ぶ場合に限り、シャーマン法が適用されるということになります。

(なお、厳密には「シャーマン法が適用される」結果、シャーマン法の域外適用に関する一般法理も適用されるので、二重に適用されることになるのですが、FTAIAの絞りの方がきついので、実際には、二重に絞る必要はないわけです。)

さて、冒頭で「輸入取引」の定義がないことに触れましたが、司法省と連邦取引委員会の「国際事業活動に関する反トラスト法執行ガイドライン(1995年)」(The Antitrust Enforcement Guidelines for International Operations)では、被告が第三者を通じて米国へ輸出する行為は輸入取引に関する行為に該当しないとされています(同ガイドライン3.121)。

そのほうが、絞りのきついFTAIAの適用範囲が広がるので(柱書きかっこ書きによる除外部分が狭くなるため)、日本企業にはけっこうなことでしょうが、結果の妥当性を考えると、第三者を通せばすべてFTAIAの厳しい基準となってしまうのは行き過ぎで、たとえば第三者とはいえ完全にカルテル参加者がコントロールしているような場合には、「輸入取引をその内容として含む行為」といわれても仕方ないような気がします。

【参考判例・文献】

Minn-Chem, Inc. v. Agrium. Inc. et al., v. Agrium Inc., et al.,

No. 10-1712,

United States of Court of Appeals, 7th Circuit (Decided June 27, 2012)

(Please search "Leagle.com")

同判決に対する司法省とFTCの意見書

(今回の記事は、この意見書にかなりの部分を負っています。)

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