カーブアウト対象者のplea agreementでの特定
米国ではカルテルについて被疑企業と司法省反トラスト局との間で司法取引が行われ、plea agreementが締結されるのが一般的ですが、そのplea agreementの中で、当該司法取引でカバーされない(つまり、別途起訴される可能性がある)従業員が個人名で特定されます。
これを実務上、カーブアウト(carve out)と呼んでいます。
典型的には、plea agreementの中の「Government's Agreement」の章で、従業員も原則として起訴しないと述べた後で、
「... except that the protections granted int this paragraph shall not apply to [個人名]...」
と、カーブアウトされる従業員の名前が記載されます。
しかも、plea agreementは反トラスト局のサイトで閲覧可能です。
このような実務は昔から行われており、私自身、とくに疑問に思ったことは正直なかったのですが(最初にみたときは、個人名をあからさまに書いてしまうのがいかにもアメリカっぽいと感じたのは事実ですが)、この実務には米国内でも強い批判があり、私もなるほどと思いましたので、現行の実務を批判する論文を紹介させて頂きます。
それは、元司法省エンロン・タスクフォースのディレクターであるLeslie R. Caldwell氏による、
「DOJ's Inconsistent Publicising of Suspects (Not Accused)」
という論文です。
同論文によると、そもそも正式起訴前の個人の名前を公表することは(カルテルでは、会社の司法取引がなされてから、カーブアウトされた個人の司法取引がなされることが多いので、カーブアウトで特定された個人は多くの場合起訴前ということになります)、司法省の一般的な取扱い(US Attorneys Manualにも明記されている)とは異なり、司法省の中でも反トラスト局だけの独自の実務だということです。
その上で同論文は、正式起訴前の個人名を公表することは適正手続や社会的烙印の関係から大いに問題であると主張しています。
まったく同感であり、良識のある法律家であれば異論の余地はまったくないと思います。
独禁法だけを扱っていると、その狭い世界で行われていることがさも当たり前であるかのような錯覚に陥ることがありますが、改めて気をつけたいと感じました。
【2013年4月12日追記】
本日、司法省が従前の方針を変更し、カーブアウト対象者の名前は公表されないことになりました。
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