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2012年8月

2012年8月26日 (日)

流通・取引慣行ガイドラインにおける競争者間の総代理店に関する考え方の疑問

流通・取引慣行ガイドラインは第2部の流通分野に関する部分(再販売価格維持や地域制限)が注目されることが多いですが、第3部の総代理店に関する部分も、それなりに重要です。

ところが、この第3部は、タイトルが「総代理店に関する独占禁止法上の指針」となっているにもかかわらず、

第一 競争者間の総代理店契約

第二 総代理店契約の中で規定される主要な事項

第三 並行輸入の不当阻害

というように、バラバラな内容のものが一緒くたになっていて、統一感がありません。

そのような体系的美しさの問題は好みの問題ですからさておくとして、理論的に問題なのは第一の「競争者間の総代理店契約」です。

この第一では、競争者間の拘束の反競争性を論じているにもかかわらず、なぜか(不当な取引制限の問題ではなく)不公正な取引方法の問題として競争者間の総代理店契約を論じています。

しかも、公取委担当者による同ガイドラインの解説書である山田昭雄他編著「流通・取引慣行に関する独占禁止法ガイドライン」のp242では、

「なお、競争者間の総代理店契約は、水平的な販売提携として不当な取引制限の観点からも問題となりうるものであることはいうまでもない。」

とされています。

(ちなみに、この本の定価は3,600円ですが、いまアマゾンで中古の値段を見たら、8冊も出品があるのに最低11,750円もします!出品しようかな(←冗談です)。)

「いうまでもない」なんてもったいぶらずにガイドラインに書けば良いじゃないか(むしろ書いていないと、「競争者間の問題なのに、どうして不当な取引制限ではなくて不公正な取引方法なのだろう?」という疑問が湧くじゃないか)と思うのですが、上記解説本のさらに問題なのは、上記引用部分にさらにつづけて、

「ただ、通常は公正な競争を阻害するおそれがある段階で問題となるところから、指針では不公正な取引方法に関する規制の観点から考え方が示されているものである。」

と解説しています。

これは要するに、不公正な取引方法の「公正競争阻害性」のほうが、不当な取引制限の「競争の実質的制限」よりも、反競争性のレベルが低いので、先に問題になる(あるいは、不当な取引制限に該当する場合には常に不公正な取引方法にも該当する)といっているようです。

しかし、これは今日の標準的な独禁法解釈とは異なるものと言わざるを得ません。

ざっくりいえば、今日の標準的な解釈は、

競争者間の合意(ヨコの合意)→不当な取引制限

取引当事者間の合意(タテの合意)→不公正な取引方法

というものです。

もし、競争者間(←なので「ヨコ」的)でなされる取引(←取引なので「タテ」的)が、すべてこのガイドラインのような考えで処理されるとしたら、大いに問題です。

たとえば、競争者間のOEMは今日不当な取引制限として処理するのが公取の相談事例でも一般的な取扱いですが、これも不公正な取引方法として公正競争阻害性がないかをもう一度スクリーニングしないといけなくなります。

しかし、明らかに競争者間の競争停止が問題になっている事例なのに、たまたま総代理店契約という「タテ」的な要素があるというだけで、不公正な取引方法の問題にしてしまうのは、説得力がないと思います。

しかも、流通ガイドラインでは拘束条件付取引の問題だと整理されていますので、違反者は(供給業者を「拘束」する)総代理店の側だということになりそうです。

というのも、ガイドラインでは、競争者間の総代理店契約の問題点として、

「供給業者が自ら又は他の事業者を通じて参入すればより有効な競争単位としての機能を発揮し、市場における競争がより一層促進されることが期待されるところ、競争者間で総代理店契約が締結されると、これらの間の競争がなくなったり、・・・することにより、市場における競争が阻害されることがある。」

という点を挙げており、供給業者自らが参入しないという拘束(総代理店なので)を受けることが反競争的だと述べているからです。

しかし、これを一般化すると、典型的な競争者間(A社とB社とします)のカルテルでも、

①A社は、B社に値下げさせないという「拘束」をする、

②B社は、A社に値下げさせないという「拘束」をする、

というふうに分解されて、A社の拘束条件付取引と、B社の拘束条件付取引が成立する、というようになりはしないでしょうか。

しかも、反競争性は競争の実質的制限まで行かなくても、公正競争阻害性の段階で違法になる、というのです。

しかし、今日そのような考え方をする人はいないでしょう。

そもそも拘束条件付取引の独禁法上の根拠は、独禁法2条9項6号ニの

「相手方の事業活動を不当に拘束する条件をもって取引すること」

です。

なので、典型的なカルテルの場合には、「取引すること」が存在しないので(競争者間の総代理店契約の場合にはたまたま「取引」が存在してしまうのですが・・・)、形式的には独禁法2条9項6号ニと、それを受けた一般指定12項に該当しないという理屈も可能かもしれません。

しかし、カルテル当事者間にたまたまカルテルに何らかの意味で関係のある「取引」があるからという理由で不公正な取引方法になってしまう(取引が無い場合に比べて低い反競争性で違反になる)というのは、まともな法律論ではないと思います(流通ガイドラインもそのような問題意識すらないでしょう)。

今日では、拘束条件付取引の反競争性は、排他条件付取引のような他者排除性と、再販売価格拘束のような競争停止性に求めるのが一般的です(白石『独占禁止法(第2版)』p258)。

再販売価格拘束の競争停止というのも、あくまで、メーカーが販売店間の競争をやめさせる点(タテの関係)に求められるのであって、まさに取引当事者間で競争停止がなされる場合(ヨコの関係)とは、わけが違います。

やはり、ガイドラインの競争者間の総代理店の規定は、標準的な解釈から相当ずれていると言わざるを得ません。

この点、2010年の欧州の垂直制限一括適用免除規則では、

非競争者間の垂直的制限は市場シェア30%の閾値に達しない限り、原則として(=4条のハードコア制限に該当しない限り)101条3項の一括適用免除の対象になる(=101条1項違反にならない)、

としているのに対して(3条)、

競争者間の垂直的制限の場合には、

①当該垂直的制限が双方向的でなく(non-reciprocal)、

かつ

②-1 供給者側(supplier)が製造業者兼販売業者で、代理店側(buyer)が販売業者だけれども製造レベルでは競合していないか(つまり、販売レベルのみの競合)、または、

②-2 供給者側がいくつかの流通段階での役務の供給者で、代理店側は小売レベルでは商品役務を提供するけれども契約対象役務の購入段階では競合していない(小売レベルのみの競合)

に限って一括適用免除の対象としており(2条4項)、非競争者間の垂直合意と競争者間の垂直合意を、内容は異なるとはいえ、同じ規則の中で取り扱っています。

しかし、こういう柔軟な処理が可能なのは、そもそも欧州では垂直合意も水平合意も101条1項という同じ条文の問題だからなのであり、垂直合意と水平合意を条文上書き分けてしまっている日本では、競争者間の合意を不公正な取引方法(ヨコの問題)とするのは、相当無理があると思います。

(しかも、欧州でも競争者間の双方的垂直合意は一括適用除外の対象外なのであり、カルテル的なものは垂直合意としては取り扱わないという態度が見て取れます。)

結局、流通ガイドラインは「取引」があるという形式面だけに依拠して、本来不当な取引制限として処理すべきものを拘束条件付取引と整理しており(しかも、拘束条件付取引であるために市場シェアの閾値が異様に低い)、妥当ではないと思います。

2012年8月25日 (土)

競争者間の取引(OEMなど)は全て不当な取引制限の問題か?

OEMなど、競争者間で取引がなされる場合、公取委の相談事例集などでは、わりとあっさりと「不当な取引制限が問題となる」と分析しています。

競争者間なのでカルテル(=不当な取引制限)の問題だ、という発想自体は割と一般的なものなのですが、「条文に照らして本当にそんなに単純に考えて良いのか?」、より具体的には、「相互拘束があるといえるのか?」という問題提起をしたい、というのが今回のお題です。

事例としては、例えば有名なヤフーとグーグルの業務提携に関する平成22年相談事例でもこのこと(競争者というだけで「相互拘束」か?)が問題になるのですが、数として多いのはOEMの事例です。

例えば平成22年度相談事例集事例3は、相談者X社が一部の検査機器について自社による製造をとりやめ、その全量を競争者Y社からOEM供給をうけることが問題になった事例(結論は問題なし)ですが、

「本件は,X社が,検査機器Aの販売市場において競争関係にあるY社から検査機器Aの全量OEM供給を受けるものであり,このような取組によって,一定の取引分野における競争が実質的に制限される場合には,不当な取引制限(独占禁止法第2条第6項,第3条)として問題となる。」

と、あっさりと不当な取引制限の問題だと位置付けています。

しかし、「相互拘束」(独禁法2条6項)といえるためには、文字通り、「相互」の「拘束」である必要があるはずです。

例えばこの事例で、Y社からOEM供給を受けるに際して、X社が「自分では今後検査機器Aは作らない」という合意をしたら、明らかに「相互拘束」でしょう。

確かにOEMでは、OEMを受ける側が「自分では作らない」ことが含意されていることが多いでしょうが(そうでなければ、普通はOEMを受ける必要がない)、そうでない場合もあるのではないでしょうか。

また、「含意されている」といっても、OEMを受ける側が一方的にそう思っているというだけで「相互拘束」といえるのかといえば、少なくとも文言解釈としてはかなり微妙な問題だと思います。むしろ、OEM供給側としては、相手が買ってくれるなら自前で製造しようがしまいが関心はない、というのがホンネではないでしょうか。

上で引用した相談事例集の問題設定でも、不当な取引制限の問題であると位置付ける理由としては、

「競争関係にあるY社」

との取引であるという点しか挙げられていないように読めます。

同様の例として、平成21年度相談事例集事例4は、化学製品の原料メーカーである相談者X社が、新規に開発した添加剤の販売拡大を図るため、競争業者であるY社に当該添加剤をOEM供給することが問題となった事例(結論は問題なし)ですが、

「本件は,X社が,添加剤Bの販売市場において競争関係にあるY社に対して添加剤B3をOEM供給するものであり,このような取組によって,一定の取引分野における競争が実質的に制限される場合には,不当な取引制限(独占禁止法第3条)として問題となる。」

という問題の設定をしています。

ここでも同様に、「競争関係」という事実から一足飛びに「不当な取引制限」の問題と位置付けられてしまっており、「このような取組によって」一定の取引分野における競争が実質的に制限される場合に不当な取引制限になるという理屈であり、「相互拘束」が認められるのか否かについて言及がありません。

「相互拘束」の合意というのは、明確に契約書の中に書いている必要はなく、暗黙の了解でも認められるので、OEMを受ける側が自社生産は止めることが両当事者で暗黙の了解になっている限りは、「相互拘束」を認めて差し支えありません。

しかし、そのようなことが暗黙の了解にすらなっていない場合は現にあり得るわけで、この点を意識していないと、「競争者間の取引」が即「不当な取引制限」の問題であるとの論理になってしまい、「相互拘束」の要件を見落としてしまいがちです。

実際、上記の相談事例集では、「相互拘束」の存在はまったく意識されていない(OEM供給という、通常の売買取引に近いものが、たんに「ヨコの関係」で結ばれるだけで、カルテルの問題になると錯覚している)ような気がしてなりません。

とはいえ、このような実務が定着している以上、競争者間の契約は「ヨコの拘束」(=不当な取引制限)と性格付けられてしまうことを前提に考えるのが無難といわざるを得ないと思います(もちろん、原材料の売買や、競合しない商品の売買など、不当な取引制限の問題とは関係ないケースも多いでしょうが)。

例えば、競争者間の代理店契約の場合には、独占的代理店契約(総代理店契約)の場合は、メーカー側が自ら直接販売しないという合意を代理店側とすることになるので「相互拘束」といえますが、非独占の代理店契約の場合には、本来は微妙なはずです。

同じ議論がOEMの場合にも可能なはずで、その意味で、OEMは競争者間でなされるから常に(相互拘束があることを前提に)不当な取引制限の問題だとするのは、理論的には疑問に思われます。

こういう点を意識すると見えてくる問題として、例えばOEMの各事例で、もし

「OEMを受ける側は将来にわたって同種製品を製造しない」

なんていう条項を契約書に入れたら、本当にセーフだったのか、という点です。

逆に言えば、そのような合意が、明示的にも黙示的にも存在しない(少なくとも潜在的、将来的には、OEMを受ける側の再参入(自前での製造)の可能性がある)という点が、反競争性を否定する上で実はかなり重要な要素なのではないか、と思うのです。

2012年8月21日 (火)

カーブアウト対象者のplea agreementでの特定

米国ではカルテルについて被疑企業と司法省反トラスト局との間で司法取引が行われ、plea agreementが締結されるのが一般的ですが、そのplea agreementの中で、当該司法取引でカバーされない(つまり、別途起訴される可能性がある)従業員が個人名で特定されます。

これを実務上、カーブアウト(carve out)と呼んでいます。

典型的には、plea agreementの中の「Government's Agreement」の章で、従業員も原則として起訴しないと述べた後で、

「... except that the protections granted int this paragraph shall not apply to [個人名]...」

と、カーブアウトされる従業員の名前が記載されます。

しかも、plea agreementは反トラスト局のサイトで閲覧可能です。

このような実務は昔から行われており、私自身、とくに疑問に思ったことは正直なかったのですが(最初にみたときは、個人名をあからさまに書いてしまうのがいかにもアメリカっぽいと感じたのは事実ですが)、この実務には米国内でも強い批判があり、私もなるほどと思いましたので、現行の実務を批判する論文を紹介させて頂きます。

それは、元司法省エンロン・タスクフォースのディレクターであるLeslie R. Caldwell氏による、

DOJ's Inconsistent Publicising of Suspects (Not Accused)

という論文です。

同論文によると、そもそも正式起訴前の個人の名前を公表することは(カルテルでは、会社の司法取引がなされてから、カーブアウトされた個人の司法取引がなされることが多いので、カーブアウトで特定された個人は多くの場合起訴前ということになります)、司法省の一般的な取扱い(US Attorneys Manualにも明記されている)とは異なり、司法省の中でも反トラスト局だけの独自の実務だということです。

その上で同論文は、正式起訴前の個人名を公表することは適正手続や社会的烙印の関係から大いに問題であると主張しています。

まったく同感であり、良識のある法律家であれば異論の余地はまったくないと思います。

独禁法だけを扱っていると、その狭い世界で行われていることがさも当たり前であるかのような錯覚に陥ることがありますが、改めて気をつけたいと感じました。

【2013年4月12日追記】

本日、司法省が従前の方針を変更し、カーブアウト対象者の名前は公表されないことになりました。

2012年8月 9日 (木)

平成23年度相談事例集について

7月4日に公表された平成23年度の相談事例集について、気がついたことをまとめておきます。

総じて今年は興味深い事例が多く、豊作だと思います。

事例1は、医療機器Aの通信販売の禁止が独禁法上問題ないとされた事例ですが、通信販売では行うことができない調整が必要な機器に限って通信販売を禁じるということなので、妥当な結論でしょう。

ところで本件では、Aを通信販売することをやめない販売業者には、Aの出荷を停止するとされていますが、販売契約を解除しても、結論は変わらない(独禁法上問題ない)と思います。(違いは、販売業者がAとは別の機器も取り扱っている場合に出てきます。)

なぜなら、少なくとも明示的に独禁法上の問題になっているのは、Aのみなので、他の機器が出荷停止になっても、独禁法上の問題とは関係ないからです(つまり、「より制限的でない他の手段はないか」といった議論をする必要はないということです)。

事例2は、第3類医薬品の対面販売を義務付ける(ネット販売業者には出荷停止する)ことは独禁法違反になるとした事例ですが、厳しいですね。

有名な資生堂事件最高裁判決では、化粧品の対面販売義務づけが独禁法上問題ないとされたのに、よりきちんと説明すべき医薬品の方が問題有りとなるのは、バランスが悪いような気がします。

ただ事例集では、「X社の医薬品Aの特徴は通信販売でも十分説明が可能である」と認定されているので、ひょっとしたら、化粧品よりも対面販売の必要性が低い製品だったのかもしれません。(医薬品だからきちんと説明すべき、化粧品はほどほどの説明で良い、とは必ずしも言えない、ということでしょう。)

むしろ、化粧品はお洒落な売場などでブランドイメージを維持する必要が高いのに対して、医薬品はそういったことはない、という事情も関係しているかも知れません。

あと、店舗販売の業者が積極的な説明をしなくても出荷停止にはしないことを捉えて、「同等の制限が課せられているとはいえない」と認定していますが、これも致し方ないでしょうね。

化粧品の場合は、「説明員がいてきちんとしているというブランドイメージが大事なのだ(現実に説明するかどうかは二の次だ)」と言いやすいですが、医薬品はそういうわけにはいかないので。

ただ、相当微妙な事案であることは間違いなく、少なくとも資生堂事件最高裁判決とは明らかに逆の結論になっていることから(事例集では、最高裁の「それなりの合理性」があればよいという基準には何ら言及されていません)、裁判で争ったら逆の結論になる可能性はあると思います。

あと事例集では、

「X社は、自社に寄せられた問い合わせが、店舗販売と通信販売のどちらの方法により購入した消費者からのものかについては把握していない」

とされており、通販で買った客からの問い合わせが(通販で購入する人の割合が多いことを考慮してもなお)多かったという事実があれば、結論が違っていた可能性があります。

顧客からのクレームをきちんと記録に取っておく(証拠化する)ことの大切さが分かります。

(ただ、本件ではおそらく、通販の顧客からの問い合わせが相対的に多いということは無いのでしょう。第3類の医薬品の説明なんて、店頭で買っても私は受けたことがほとんどありません。)

事例3は、プロ選手のトーナメントを主催する興行主が、同業他社のトーナメントへ自社登録プロ選手が参加することを禁止することが、取引妨害に該当するとされた事例です。

結論はそれでよいと思うのですが、こんなのまで取引妨害とするのは、(元々曖昧模糊とした)取引妨害の適用対象が広がりすぎて妥当でないと思います。

例えば、排他条件付取引と構成すると、必要なインプットの何割が囲い込まれるかといった点や、それと関連して、違反者の市場シェアなどが考慮されるのですが、取引妨害ではそういったことが基本的に不要です。(事例集でも、相談者Xのシェアや、登録プロの数には言及がありません。)

やはり、本件は排他条件付取引として扱うべき事案だと思います。

あと細かいことをいうと、事例集ではプロ選手が「事業者」であると認定していますが、取引妨害では、被害者である競業者は「事業者」である必要がありますが(一般指定14項)、競業者の取引の相手方は事業者である必要はないので、なぜプロ選手が「事業者」であることをことさら認定しているのか、よく分かりません。

事例4は、花の品種開発業者が育成者権のライセンスをするにあたり農協からラベルを購入することを義務付けることが拘束条件付取引に該当しないとした事例です。

これも結論はこれで良いと思いますが、ぱっと見た感じは、抱き合わせとして処理することもできそうな事案に思えます(使用権が主たる商品で、ラベルが従たる商品)。

ただ、そうすると、「ラベル市場」なるものの想定・分析が必要になり、事案にそぐわないので、やはり拘束条件付取引で行くのが穏当なのでしょう。

事例5は、共同研究開発終了後3年間、同一テーマの開発業務を禁じることが独禁法上問題ないとされた事例です。

契約終了後の開発禁止は反競争性が強いと一般的に考えられているので、この判断はけっこう思い切った判断だと思います。

本件で特徴的なのは、同一テーマの開発を禁止されるのが、当該共同研究開発を担当した技術者に限られる点ですね。当該研究開発のノウハウが個人に蓄積する性質のものであるという特殊性はあったのかもしれませんが、この事例集の判断をきっかけに、今後こういうプラクティスが定着するかもしれませんね。

事例6は、新聞記事で取り上げられた取材先が新聞を一括大量購入する場合に値引販売をしても、値引販売を原則禁止する新聞販売特殊指定に違反しないとされた事例です。新聞特殊指定の文言に照らしても、問題ない事例でしょう。

事例7は、被災地の仮設住宅向け住宅設備の最低販売数量をメーカー間で割り当てる行為が独禁法上問題ないとされた事例です。

こういう被災地支援の取組は歓迎すべきですが、理論的に興味深いのは、「最低」数量の義務付けでもカルテルに該当しうると読める点です。

カルテルは通常、「最高」数量を制限することにより生産量を削減し値段をつり上げるというものなので、「最低」数量制限というのはそもそもめったにないか、あるとしてもこの事例のようにカルテル以外の別の目的で行われる場合なのでしょうが、「最低」数量も違法になりうるという点は、それが経済学的に見て正しいか否かはさておき、法律解釈としては注意すべき点だと思います。

事例9は、単位農協が構成する社団法人が、生産管理等を記録しない生産者からの販売委託を拒否するガイドラインを作成することが独禁法上問題ないとされた事例ですが、これもなかなか思い切った判断ですね。

文面上は、単なるガイドラインの作成で強制力はないことも理由に挙げられていますが、単位農協が生産管理記録を有しない農家の販売委託を拒否すること自体も(そしておそらくは、複数の単位農協で共同しても)、独禁法上問題ないという趣旨であると読めます。

そうすると、法律上義務付けられていない生産管理記録を共同ボイコットの方法で事実上強制することができることを認めたことになります。

しかし一般的には、そのような取り決めに合理的な理由があるのかが慎重に検討されるべきところであり(たとえば、食品の安全性確保のために、「生産設備の洗浄」が必須なのは理解できるとしても、「温度管理」が安全性確保に必須と言えるのか、など)、あまり一般化はできない判断だろうと思います。

事例13は、農協の連合会が加工品メーカーとの間で農作物の取引条件の交渉を行って、その結果を「組合員の経済的地位の改善のためにする団体協約」(農業協同組合法10条)として連合会と加工品メーカー間で締結することが、独禁法22条の組合の行為の適用除外の要件(「小規模の事業者又は消費者の相互扶助を目的とすること」)を満たさないので独禁法違反であるとした事例です。

ここでは、単位農協の交渉力は加工品メーカーに劣らないなどの理由で、当該交渉や協約締結が「小規模の事業者又は消費者の相互扶助を目的とすること」に該当しないと判断されており、独禁法22条1号の要件を満たすかどうかは具体的事実に依存する(農協法上の「団体協約」に該当するか否かは関係ない)ということが明らかにされており、興味深いです。

2012年8月 8日 (水)

平成23年度企業結合事例集について

去る6月20日に公表された平成23年度の企業結合事例集について、気がついたことをメモしておきます。

事例1(入浴剤)は、入浴剤シェア15%(2位)のアース製薬が1位(25%)のバスクリンの全株を取得した事例ですが、参入が容易であるなどの理由で問題なしとしています。

結論はそれで良いと思いますが、「需要者からの競争圧力」のところの「需要者」は、小売店を指すことを前提に議論されています。

最終需要者である消費者が価格に敏感だからこそ小売事業者間で活発な競争が行われているのだと言えるのであれば、消費者が価格に敏感であることも「需要者からの競争圧力」の議論に間接的に取り込んでいると言えるのかもしれませんが、端的に、最終需要者である消費者の行動に着目した分析があっても良かったように思います。

例えば、入浴剤はブランドで差別化されていたり、そのブランド形成のためには多額の広告宣伝費が必要でそれが参入障壁になっているとかいう議論が思い浮かびますが、そういう議論も、消費者を思い浮かべてこそ可能だと思います。

事例2は、新日鐵と住金の合併ですね。

この事例では、「無方向性電磁鋼板」のところで、「日本の電機メーカー等の日本の需要者」を「国内ユーザー」と、さらっと定義しているのですが、企業がグローバルに活動する今日、何が「日本の」メーカーで、何が「日本の」需要者なのかは、なかなか難しい問題です。

また、事例集をよく読むと「国内ユーザー」の行動一般を問題にしているのではなく、国内ユーザーの「国内拠点」での活動に着目する態度が垣間見え、これはこれとして正しい態度だと思います(日本の独禁法は、日本国内での事業活動を規制するものなので)。

ただ細かいことを言うと、日本の拠点で調達している「海外ユーザー」がどういう調達行動をしているのかも見てみないと、市場全体の状況は分からない気がします。(おそらく、そういうユーザーは存在しなかったか、無視できるレベルだったのでしょう。)

問題解消措置では、住友商事へのコストベースでの引取権が認められましたが、興味深いのは、引取対象は住金の全グレードとしながら、ベースのコストは合併会社(新日鐵+住金)となっている点です。

住金のほうが高コストであるということなので、要するに、住商は、従来の住金以上に競争力のある競争者となる、という点が評価されています。

ただ一般論として仕方のないことですが、コストベースの引取権を設定すると、どうしても当事会社のコスト削減のインセンティブは減少します(コスト削減しても手元に利益が残らないので)。きっと引取量が限られているからインセンティブ減少の程度も相対的に限られる、という判断なのでしょう。

高圧ガス導管エンジニアリング業務については、UO管の供給や自動溶接の技術指導をするという問題解消措置が認められていますが、「現場監督の数がボトルネックとなって」いる(p16)と認定しながら、この点については問題解消措置では考慮していないのが、ちょっと不思議な感じがします。

鋼矢板の市場画定について、公取委は

「〔仮設用途の鋼矢板〕はリース品に用いるための製品として販売されるものであってリース品とは取引段階を異にしていることから・・・リース品と競合しない。」(p22)

と認定しています。

最初に見たときには、ずいぶん荒っぽい議論だなあと思ったのですが、おそらくリース品を使うような需要者(建設業者など)は、コスト面やメンテナンスの手間などから鋼矢板を購入するということはあり得ないのでしょう。その意味で、例えば新車とレンタカーが競合するかといったような場合とは異なるのでしょう(クルマの場合は、需要者から見て、新車とレンタカーは相互に代替的な選択肢になり得る)。

鋼矢板に関する実質的競争制限を否定する上で最も重要なのは、土留め工法全体に占める鋼矢板工法の割合が2割程度に過ぎない(p24)という事実なんだろうと思います。

似たような理屈が、スパイラル溶接鋼管と、その代替品である「既設コンクリート杭」と「場所打ちコンクリート杭」との関係でも可能だったはずですが、こちらの方はシェアのデータが無かったためか、事例集では触れられていません。

熱延鋼板の地理的市場では、国境を越えて地理的市場が画定される可能性もあったけれど当事者が国内市場と主張するのでそれに従った、みたいな認定になっていますが(p28。H形鋼について同様にp33)、こうあからさまに言われると、やっぱり高めのボールを投げとこうかなぁという気になりますね。でも余り高めのボールを投げて審査を長引かせるのもお互い無益ですし、この辺は微妙な判断が要求されます。

熱延鋼板の輸入圧力について、「〔韓国製品や中国製品の〕品質は、国内の需要者が海外拠点において採用するなど、国内の需要者にとって使用可能なレベルにある」と認定されていますが(p30)、それは一面の真実ではあるものの、ではなぜ国内拠点では採用されないのか(採用されないとすれば、それを競争法上どのように評価すべきか)という面に対する配慮も必要でしょう。

H型鋼の市場シェアについて、新日鉄グループのシェアにトピー工業(議決権20.5%、1位)と合同製鉄(同15.7%、1位)を含めたのは、議論のあり得るところでしょう。

この、少数持分のグループ会社をどう扱うかは、本件の最も悩ましい点の1つだっただろうと思います。でもこの程度で「結合関係あり」とされるのは、やや腑に落ちない感はあります(とくに15.7%の合同製鉄)。

ひょっとしたら、これら2社をグループ外と判断するとセーフハーバーに該当してしまう事案だったのかも知れませんが(そうすると、実質判断が原則できなくなる)、それが「結合関係」を認めた理由だとしたら本末転倒です。

2社が「新日鉄と価格戦力を共有していない」とか、「顧客の奪い合いが見られる」とか認定しながら(p34)、にもかかわらず結合関係があるというのも、矛盾しているか、控えめに言っても、分かりにくいです。

少なくとも、こういう処理をするならグループ合算のシェアだけでなく個社のシェアも示すべきでしょう。

事例4(産業ガス容器)は、ちょっと変わった事例です。

事実の記載をみると、岩谷産業、岩谷瓦斯(岩谷産業の子会社)、日本エア・リキードの3社(以下「3社」)の合弁会社であるエーテックが、産業ガス容器を製造し、3社がそれを販売する、という構図です。

つまり、3社の合弁であるエーテックがメーカーで、3社はその販売店という位置付けです。

その上で、日本エア・リキードが販売から撤退し(販売事業はエーテックへ譲渡)、エーテックの持株も岩谷側に譲渡する、というのが本件です。

ですので、本件は、「エーテック製産業ガス容器」という同一ブランド内での販売店間の事業譲渡、ということになります。

事例集では、日本エア・リキードの販売シェアが40%、岩谷産業の販売シェアが5%、合算すると45%、ということで分析が進んでいますが、そもそも販売店レベルでの同一ブランド内での競争を、ブランド間競争と同じ様に分析する(少なくとも事例集からはそう見える)のは疑問です。

この理屈だと、メーカー主導で(同一ブランド内で)販売店を統廃合する場合にも、異なるブランド間での販売店の統合と同様に企業結合審査を受ける必要があることになってしまわないでしょうか?

あと、本件では日本エア・リキードのエーテックに対する持株割合も明示されていないのも、ちょっと不思議な感じがします。例えば、持株割合が過半数だったか少数だったかで、競争分析は変わってきたのではないでしょうか。

事例5(LPガスメーター販売)は、LPガス用マイコンメーターを製造販売する当事会社が、その販売事業を新会社に統合する、というものですが、販売事業のみの統合であるにもかかわらず、あたかも製造販売事業すべてを統合するかのような前提で分析が進んでいます。

時々、「販売だけの統合なら、製造販売全部の統合よりも、公取委の審査を通りやすいのではないか」という質問を受けることがありますが、そういうことはないという一つの例でしょう。需要者の目から見れば購入先が1つ減るので、当然でしょう。

2012年8月 2日 (木)

FTAIA(外国取引反トラスト改善法)の適用範囲

米国反トラスト法の域外適用については、「外国取引反トラスト改善法」(The Foreign Trade Antitrust Improvements Act, FTAIA)が、非常に凝った条文を置いていて目立つためか(笑)、この法律を中心に議論が展開しているような錯覚を覚えがちですが、必ずしもそうではありません。

というのは、「輸入取引」(←ただし、条文上の定義なし)にはFTAIAは適用されないからです。

まず、FTAIAの条文(シャーマン法6a条)を見てみましょう。

Sections 1 to 7 of this title [Sherman Act] shall not apply to conduct involving trade or commerce (other than import trade or import commerce) with foreign nations unless

(1) such conduct has a direct, substantial, and reasonably foreseeable effect

(A) on trade or commerce which is not trade or commerce with foreign nations, or on import trade or import commerce with foreign nations; or

(B) on export trade or export commerce with foreign nations, of a person engaged in such trade or commerce in the United States; and

(2) such effect gives rise to a claim under the provisions of sections 1 to 7 of this title, other than this section.
If sections 1 to 7 of this title apply to such conduct only because of the operation of paragraph (1)(B), then sections 1 to 7 of this title shall apply to such conduct only for injury to export business in the United States.

いつみても、目が回りそうになる条文ですね(苦笑)。

やや端折って、かつ意訳すると、以下のとおりです(ただし、条文解釈する上では、結局英語で読んだ方が分かり易いです。)

シャーマン法は、外国との取引(輸入取引を除く)をその内容として含む行為には適用されない。ただし、以下の(1)と(2)の両方を満たす場合は、シャーマン法が適用される。

(1)当該行為が、下記(A)または(B)の取引に対して、直接的、実質的、かつ合理的に予見可能な効果を及ぼす場合

(A)外国との取引ではない取引、もしくは外国との輸入取引、または

(B)米国内で輸出取引に従事する者の外国との輸出取引、

かつ

(2)当該効果が、シャーマン法上の請求権を発生させる場合。

シャーマン法が専ら上記(1)(B)を根拠に適用される場合、シャーマン法は米国内の輸出事業に対する損害についてのみ適用される。

( なお、「trade with foreign nations」は、「外国の人々や企業との取引」という意味であり、「外国政府との取引」という意味ではありません。)

さて、FTAIAの構造を理解するためのポイントをまず挙げておきます。

まず、FTAIAが適用されると、適用されない場合に比べて域外適用がされにくくなる、ということです。

というのは、FTAIAの

「直接的、実質的、かつ合理的に予測可能な効果」

という要件は、シャーマン法の一般判例法理(たとえばハートフォード火災保険事件など)の

「意図された実質的な効果」

よりもハードルが高いからです(とくに、「直接的」の部分)。

次に、FTAIAが適用されないとどうなるのかというと、シャーマン法が域外適用されなくなるのではなく、シャーマン法の域外適用に関する一般的な判例法理が適用されることになります。

FTAIAはシャーマン法の適用を排除する法律なので、FTAIAが適用されないということは、シャーマン法の適用排除が適用されない(ややこしいですね)、ということで、結局、原則通りシャーマン法が適用される(ただし、シャーマン法の一般的な域外適用の法理の下で)、ということです。

次に、FTAIAの条文の構造を理解する上では、「involving ...」というフレーズと、「(has) an effect on ...」というフレーズの違いを明確に意識することが必要です。

「involving ...」を、「~に関する」とか「~における」などと訳してしまっている例が見られますが、それだと明確なニュアンスが抜け落ちてしまいます。

「involve」というのは、Oxford Advanced Learners' Dictionaryによると、

「if ... an activity involves something, that thing is an important or necessary part or result of it.」

と説明されています。

なので、「conduct involving [trade]」というのは、「[取引]を重要な部分として含む行為」という意味になります。

ですので、「conduct involving trade with foreign nations」は、外国との取引を、その重要な部分として含むところの行為、(もっといえば、involving以下そのものを標的にした行為)といった感じになります。

そして、「conduct」は、シャーマン法上違法かどうかが問題となる行為のことですから、(カルテル合意に基づく輸入や売買などではなく)「合意(その他の結合)」です。(一応、シャーマン法1条を想定して下さい。)

結局、「conduct involving trade with foreign nations」は、「外国取引を重要な部分として含む合意などの行為」、ひらたくいえば「外国取引について行われるカルテル合意」という意味になります。

これに対して、「has an effect on [trade]」というのは、「(取引)に影響を与える」という意味ですから、たとえば、日本企業がエクアドルへの輸出取引についてカルテル合意を行った場合には、

「conduct involving trade with Ecuador」

であり、当該カルテル合意が米国での取引に影響(その因果関係のパターンは色々考えられます)があれば、

「conduct which has an effect on trade with the U.S.」

ということになります。

次に、FTAIAが「取引」の種類を国内取引か国外取引かといった視点からどのように分類しているのかをみると(物の売買をイメージして下さい)、

①米国→米国: 国内取引 (trade or commerce in the United States)

②外国→米国: 輸入取引 (import trade or import commerce)

③米国→外国: 輸出取引 (export trade or export commerce)

④外国→外国: 外国間の取引 (条文には言及なし。あえていえば、trade or commerce among foreign nations)

の4種類に限られることになります。

そして、この①~④の取引が、カルテル合意のまさに対象である取引(conduct involving trade)と、影響を受ける対象としての取引(conduct which has an effect on trade)の2通りのものとして顔を出します。この点を理解することが重要です。

ここで、A取引を対象とするカルテル合意がB取引に影響を及ぼすことを、

(conduct involving A,conduct which has an effect on B)=(A,B)

と表すと、論理的なパターンとしては、

(国内,国内)、(国内,輸入)、(国内,輸出)、(国内,外国間)

(輸入,国内)、(輸入,輸入)、(輸入,輸出)、(輸入,外国間)

(輸出,国内)、(輸出,輸入)、(輸出,輸出)、(輸出、外国間)

(外国間,国内)、(外国間,輸入)、(外国間,輸出)、(外国間,外国間)

の16通りとなります。

さて、ようやくFTAIAの文言解釈です。

まず、柱書きでFTAIAのカバーする範囲が、「conduct involving trade or commerce ... with foreign nations」と設定されているので、国内取引をその内容として含む合意等の行為(conduct involving trade in the United States)はFTAIAでカバーされません(国内取引なので当然ですね)。

つまり、上記16パターンのうちの1行目、

(国内,国内)、(国内,輸入)、(国内,輸出)、(国内,外国間)

の部分は、そもそもFTAIAの対象ではありません。

次に、冒頭述べましたように、柱書きでのかっこ書きで「輸入取引をその内容として含む(合意等の)行為(conduct)」が除外されているので(other than import trade or import commerce)、輸入取引をその内容として含む行為にはFTAIAは適用されません。

つまり、上記16パターンのうち、2行目、

(輸入,国内)、(輸入,輸入)、(輸入,輸出)、(輸入,外国間)

には、FTAIAが適用さないことになります(シャーマン法の原則論に戻ります)。

そして、残った8パターン(3行目と4行目)については、(1)(A)か(1)(B)の要件を満たして初めて、シャーマン法が適用されることになります((2)は、めんどうなので解説を省略します。)

(1)(A)の前段は、国内取引に影響がある場合(has an effect on)です(trade or commerce with is not trade or commerce with foreign nationsと、否定形で書かれていますが、要するに国内取引のことです)。

よって(1)(A)でカバーされるのは、

(輸出,国内

(外国間,国内

の2パターンになります。

次に、(1)(A)の後段は、輸入取引に影響がある場合(has an effect on import trade or import commerce with foreign nations)です。

よって、(1)(B)でカバーされるのは、

(輸出,輸入

(外国間,輸入

の2パターンになります。

最後に、(1)(B)は、米国輸出業者の輸出取引に影響がある場合ですから、

(輸出,輸出)、(外国間,輸出

の2パターンになります。

(1)(A)(B)をまとめると、

(輸出,国内)、(外国間,国内)、(輸出,輸入)、(外国間,輸入)、(輸出,輸出)、(外国間,輸出

の6パターンについては、太字の取引に、「直接的、実質的、かつ合理的に予見可能な効果」が及ぶ場合に限り、シャーマン法が適用されるということになります。

(なお、厳密には「シャーマン法が適用される」結果、シャーマン法の域外適用に関する一般法理も適用されるので、二重に適用されることになるのですが、FTAIAの絞りの方がきついので、実際には、二重に絞る必要はないわけです。)

さて、冒頭で「輸入取引」の定義がないことに触れましたが、司法省と連邦取引委員会の「国際事業活動に関する反トラスト法執行ガイドライン(1995年)」(The Antitrust Enforcement Guidelines for International Operations)では、被告が第三者を通じて米国へ輸出する行為は輸入取引に関する行為に該当しないとされています(同ガイドライン3.121)。

そのほうが、絞りのきついFTAIAの適用範囲が広がるので(柱書きかっこ書きによる除外部分が狭くなるため)、日本企業にはけっこうなことでしょうが、結果の妥当性を考えると、第三者を通せばすべてFTAIAの厳しい基準となってしまうのは行き過ぎで、たとえば第三者とはいえ完全にカルテル参加者がコントロールしているような場合には、「輸入取引をその内容として含む行為」といわれても仕方ないような気がします。

【参考判例・文献】

Minn-Chem, Inc. v. Agrium. Inc. et al., v. Agrium Inc., et al.,

No. 10-1712,

United States of Court of Appeals, 7th Circuit (Decided June 27, 2012)

(Please search "Leagle.com")

同判決に対する司法省とFTCの意見書

(今回の記事は、この意見書にかなりの部分を負っています。)

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