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2012年7月

2012年7月19日 (木)

構造的問題解消措置の実行期限

企業結合における問題解消措置としての構造的措置(事業譲渡など)をいつまでに実行すればいいのか、とくに、企業結合自体のクローズ前に問題解消措置も済ませておく必要があるのか、という視点から、最近の例を以下にまとめておきます。

なお、行動的措置(ライセンスの付与など)は、普通は当事者がやろうと思えばいつでもできるので、実務上問題になることが多い構造的措置に絞ってまとめておくものです。

事例を眺めるときのポイントは、問題解消措置の実行が企業結合の実行後でも良いのか、という点です。

ちなみに、企業結合ガイドラインでは、

「問題解消措置は,原則として,当該企業結合が実行される前に講じられるべきものである。

やむを得ず,当該企業結合の実行後に問題解消措置を講じることとなる場合には,問題解消措置を講じる期限が適切かつ明確に定められていることが必要である。

また,例えば,問題解消措置として事業部門の全部又は一部の譲渡を行う場合には,当該企業結合の実行前に譲受先等が決定していることが望ましく,そうでないときには,譲受先等について公正取引委員会の事前の了解を得ることが必要となる場合がある。」

ということになっています。

【H23(2011)事例6:ハードディスク】

この事例では、

①問題解消措置としての事業譲渡の契約締結(と、そのコピーの公取への提出)がなければ、本件株式取得の実行は行わない、

②問題解消措置の契約締結の3ヶ月以内に問題解消措置を実行する、

とされています。

ですので、順番としては、

①結合契約締結→②問題解消措置契約締結→③結合実行→④(②から3ヶ月以内に)問題解消措置実行

ということになります。

つまり、短期間(最大3ヶ月)ですが、問題解消措置の実行が結合実行より後でも良い、とされています。

【H21(2009)事例1:三菱ケミカルによる三菱レイヨン完全子会社化】

この事例では、三菱レイヨンのアクリルアミド販売事業を第三者に譲渡することが問題解消措置として申し出られています。実行時期については明示されていません。

各種ネット情報によれば、

2009年11月19日 三菱ケミカルの三菱レイヨン完全子会社化公表

2010年3月 三菱レイヨン、三菱ケミカルと経営統合

2010年9月28日 三菱レイヨン上場廃止

ということが分かりますが、あいにくアクリルアミド販売事業がいつ譲渡されたのかは分かりませんでした。

【H21(2009)事例2:新日本石油・新日鉱(JX)ニードルコークス】

この事例では、当事会社のいずれかのニードルコークス事業を別会社に分離し、当該別会社に対する議決権を10%以下にする、という問題解消措置が申し出られました。

問題解消措置のスケジュールは、

①結合が問題ないとの公取委の回答後6ヶ月以内に問題解消措置に係る契約を締結する、

②当該契約締結後6ヶ月以内に問題解消措置を完了する、

ということになっています。

つまり、公取回答後速やかに結合を実行するなら、問題解消措置の実行は統合実行後最大1年後でもよい、という条件だったことになります。

各種ネット情報によれば、

2008(H20)年12月 新日鉱Hと新日本石油、経営統合基本覚書締結

2010(H22)年4月 JXホールディングス設立により、新日本石油と新日鉱ホールディングスがJXHの子会社になる、

2010年6月 ジャパンエナジー(=JX日鉱日石)、住商へニードルコークス製造販売事業譲渡で合意

2010年10月 ニードルコークス事業譲渡完了(当時の予定)

ということで、予定どおり問題解消措置が実行されています。

【H21(2009)事例7:パナソニック・三洋(円筒形二酸化マンガンリチウム電池)】

この事例では、

①平成22(2010)年3月末までに三洋の鳥取工場を譲渡する契約を締結し、

②当該契約締結後3ヶ月以内に譲渡を実行する、

という問題解消措置が認められました。

公取委事例集では三洋買収と問題解消措置の前後は明示されていないのですが、実際には、各種ネット情報によると、

2009(H21)年10月28日 三洋、富士通子会社(FDK)に鳥取工場譲渡する基本合意書を締結

2009年11月5日 パナソニック、三洋TOB開始

2009年12月10日 TOB成立、三洋子会社化

2010(H22)年1月12日 FDK、三洋鳥取工場(三洋エナジー鳥取(株))取得

ということですので、TOB完了後に問題解消措置が完了しています

【H20(2008)年事例1:キリン・協和発酵工業(ノイアップ)】

この事例は、キリンホールディングスが協和発酵工業の株式の過半数を取得するものでしたが、

①平成21(2009)年9月末までに、協和発酵キリンが製造しているノイアップ固有の研究開発・製造販売に関する権利を第三者に譲渡する契約を締結し、

②平成22(2010)年3月末までに、当該譲渡を実行する

という問題解消措置が認められました。

実際には、

2008(H20)年4月1日 協和発酵工業、キリンホールディングスの連結子会社に(28.49%→50.77%)

2008(H20)年12月19日 協和発酵キリン、ノイアップ事業を第三者に譲渡すると発表

2009(H21)年10月15日 協和発酵キリン、ノイアップ事業を2010年3月1日付でヤクルトに譲渡すると発表

2010(H22)年3月1日(予定) ヤクルトがノイアップ販売開始

となっていますので、予定どおり、2008年4月の子会社化後に問題解消措置が実行されていることになります。

【H20(2008)年事例3:Westinghouse・原子燃料工業】

この事例は、東芝子会社であるウエスティングハウス(WH)が原子燃料工業の株式を取得するものですが、

①東芝がGNF-Hに対する出資22%から得られる経済的利益を、2年以内に15%未満まで引き下げる

という問題解消措置が認められました。

実際には、

2009(H21)年4月30日 WH、原燃工の株式取得契約締結

2009年5月 WHが原子燃料工業の筆頭株主(52%)に

ということになっていますが、当然、問題解消措置の実行は株式取得後になっているのでしょう。

【H19(2007)年事例2:三菱ウェルファーマ・田辺製薬合併】

この事例では、

①三菱ウェルファーマの特定全身止血剤の製造承認・商標を第三者に承継させる基本合意を合併実行日前までに締結し、

②その後可能な限り速やかに承継を実行する、

という問題解消措置が認められています。

つまり、問題解消措置の基本合意だけは合併実行前に締結し、問題解消措置の実行は合併後になっています。

【H19(2007)年事例10:メディパル・コバショウ】

この事例は、メディセオ・パルタックホールディングスがコバショウの株式を取得した事例ですが、コバショウが、中国地方を事業エリアとする同社子会社の株式を複数の第三者に譲渡するという問題解消措置が認められています。

公取委の事例集では、問題解消措置の実施時期は明示されていません。

2012年7月17日 (火)

【お知らせ】NBLに寄稿しました。

(株)商事法務の出版する法律雑誌『NBL』の981号(2012年7月15日)に、

「JASRAC私的独占事件の排除措置命令取消審決について」

という解説記事を書きました。

今年の6月14日に公取委から、

「一般社団法人日本音楽著作権協会に対する審決について(音楽著作物の著作権に係る著作権等管理事業者による私的独占)」

というタイトルで報道発表のあった件に対する解説です。

この事件についてはこれからもたくさん評釈がなされるでしょうが、自分なりの意見を書けたのではないかと思っておりますので、興味のある方はぜひご一読下さい。

このような機会を与えて下さったNBL編集部の方に感謝いたします。

2012年7月16日 (月)

加入者数に格差がある電話会社間の接続料の収支

ある電話会社S社の加入者が別の電話会社N社の加入者に電話をかける場合、かける側の電話会社(S社)は、受ける側の電話会社(N社)に対して接続料(アクセス・チャージ)を支払います。逆の場合もまたしかりです。

ここで、N社の加入者数がS社の加入者数よりもずっと多い場合、接続料の受け取り総額はどちらの電話会社の方が多くなるでしょうか。

接続料は受信側の電話会社が受け取るので、直感的には、契約者数が多いN社の方が、たくさん通話を受ける分、接続料もたくさん受け取るような気がします。

しかし、ちょっと考えると、両社が受け取る接続料の総額には、基本的に差がないことが分かります。

理由は簡単で、確かにS社の方は受信する人数は少ないのですが、少ない契約者に対してかけてくるN社加入者の数が圧倒的に多いので、受信回数のトータルで見るとN社とバランスするからです。

このことを数式で示しましょう。

N社の契約者数をP人、S社の契約者数をp人とします。(P >> p)

そして、一定期間中(たとえば1年)に、N社とS社のすべての加入者が、自分を除く他のすべての加入者(N社の加入者かS社の加入者かを問わず)に、1回だけ電話をかけると仮定します。

この前提で、N社が受け取る接続料を計算してみましょう。

N社の加入者は、1人あたりp回、S社の加入者から電話を受けることになります。(S社の加入者がp人なので、当然ですね。)

(なお当然ですが、N社の加入者が、自分以外の他のN社加入者から受ける電話については、接続料の支払いは生じません。)

N社の加入者数はP人なので、N社が受け取る接続料の総額は、

接続料総額 = N社加入者1人あたりのS社からの着信数 × N社の加入者数

=p×P ・・・①

となります。

同様に、S社が受け取る接続料の総額は、

S社加入者1人あたりのN社からの着信数 × S社の加入者数

=P×p ・・・②

となります。

このように、①=②なので、加入者数の格差にもかかわらず、両社が受け取る接続料は同額になります。

ただし、以上の議論には、各契約者が同じ数だけ受信と着信をすることなど、一定の前提があります。

たとえば、インターネットサービスプロバイダー(ISP)はほとんどもっぱら受信するだけなので、そういう契約者を多数かかえる電話会社は、接続料もたくさん受け取ることになります。

(参考: ABA Telecom Antitrust Handbook p52)

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