構造的問題解消措置の実行期限
企業結合における問題解消措置としての構造的措置(事業譲渡など)をいつまでに実行すればいいのか、とくに、企業結合自体のクローズ前に問題解消措置も済ませておく必要があるのか、という視点から、最近の例を以下にまとめておきます。
なお、行動的措置(ライセンスの付与など)は、普通は当事者がやろうと思えばいつでもできるので、実務上問題になることが多い構造的措置に絞ってまとめておくものです。
事例を眺めるときのポイントは、問題解消措置の実行が企業結合の実行後でも良いのか、という点です。
ちなみに、企業結合ガイドラインでは、
「問題解消措置は,原則として,当該企業結合が実行される前に講じられるべきものである。
やむを得ず,当該企業結合の実行後に問題解消措置を講じることとなる場合には,問題解消措置を講じる期限が適切かつ明確に定められていることが必要である。
また,例えば,問題解消措置として事業部門の全部又は一部の譲渡を行う場合には,当該企業結合の実行前に譲受先等が決定していることが望ましく,そうでないときには,譲受先等について公正取引委員会の事前の了解を得ることが必要となる場合がある。」
ということになっています。
【H23(2011)事例6:ハードディスク】
この事例では、
①問題解消措置としての事業譲渡の契約締結(と、そのコピーの公取への提出)がなければ、本件株式取得の実行は行わない、
②問題解消措置の契約締結の3ヶ月以内に問題解消措置を実行する、
とされています。
ですので、順番としては、
①結合契約締結→②問題解消措置契約締結→③結合実行→④(②から3ヶ月以内に)問題解消措置実行
ということになります。
つまり、短期間(最大3ヶ月)ですが、問題解消措置の実行が結合実行より後でも良い、とされています。
【H21(2009)事例1:三菱ケミカルによる三菱レイヨン完全子会社化】
この事例では、三菱レイヨンのアクリルアミド販売事業を第三者に譲渡することが問題解消措置として申し出られています。実行時期については明示されていません。
各種ネット情報によれば、
2009年11月19日 三菱ケミカルの三菱レイヨン完全子会社化公表
2010年3月 三菱レイヨン、三菱ケミカルと経営統合
2010年9月28日 三菱レイヨン上場廃止
ということが分かりますが、あいにくアクリルアミド販売事業がいつ譲渡されたのかは分かりませんでした。
【H21(2009)事例2:新日本石油・新日鉱(JX)ニードルコークス】
この事例では、当事会社のいずれかのニードルコークス事業を別会社に分離し、当該別会社に対する議決権を10%以下にする、という問題解消措置が申し出られました。
問題解消措置のスケジュールは、
①結合が問題ないとの公取委の回答後6ヶ月以内に問題解消措置に係る契約を締結する、
②当該契約締結後6ヶ月以内に問題解消措置を完了する、
ということになっています。
つまり、公取回答後速やかに結合を実行するなら、問題解消措置の実行は統合実行後最大1年後でもよい、という条件だったことになります。
各種ネット情報によれば、
2008(H20)年12月 新日鉱Hと新日本石油、経営統合基本覚書締結
2010(H22)年4月 JXホールディングス設立により、新日本石油と新日鉱ホールディングスがJXHの子会社になる、
2010年6月 ジャパンエナジー(=JX日鉱日石)、住商へニードルコークス製造販売事業譲渡で合意
2010年10月 ニードルコークス事業譲渡完了(当時の予定)
ということで、予定どおり問題解消措置が実行されています。
【H21(2009)事例7:パナソニック・三洋(円筒形二酸化マンガンリチウム電池)】
この事例では、
①平成22(2010)年3月末までに三洋の鳥取工場を譲渡する契約を締結し、
②当該契約締結後3ヶ月以内に譲渡を実行する、
という問題解消措置が認められました。
公取委事例集では三洋買収と問題解消措置の前後は明示されていないのですが、実際には、各種ネット情報によると、
2009(H21)年10月28日 三洋、富士通子会社(FDK)に鳥取工場譲渡する基本合意書を締結
2009年11月5日 パナソニック、三洋TOB開始
2009年12月10日 TOB成立、三洋子会社化
2010(H22)年1月12日 FDK、三洋鳥取工場(三洋エナジー鳥取(株))取得
ということですので、TOB完了後に問題解消措置が完了しています。
【H20(2008)年事例1:キリン・協和発酵工業(ノイアップ)】
この事例は、キリンホールディングスが協和発酵工業の株式の過半数を取得するものでしたが、
①平成21(2009)年9月末までに、協和発酵キリンが製造しているノイアップ固有の研究開発・製造販売に関する権利を第三者に譲渡する契約を締結し、
②平成22(2010)年3月末までに、当該譲渡を実行する
という問題解消措置が認められました。
実際には、
2008(H20)年4月1日 協和発酵工業、キリンホールディングスの連結子会社に(28.49%→50.77%)
2008(H20)年12月19日 協和発酵キリン、ノイアップ事業を第三者に譲渡すると発表
2009(H21)年10月15日 協和発酵キリン、ノイアップ事業を2010年3月1日付でヤクルトに譲渡すると発表
2010(H22)年3月1日(予定) ヤクルトがノイアップ販売開始
となっていますので、予定どおり、2008年4月の子会社化後に問題解消措置が実行されていることになります。
【H20(2008)年事例3:Westinghouse・原子燃料工業】
この事例は、東芝子会社であるウエスティングハウス(WH)が原子燃料工業の株式を取得するものですが、
①東芝がGNF-Hに対する出資22%から得られる経済的利益を、2年以内に15%未満まで引き下げる
という問題解消措置が認められました。
実際には、
2009(H21)年4月30日 WH、原燃工の株式取得契約締結
2009年5月 WHが原子燃料工業の筆頭株主(52%)に
ということになっていますが、当然、問題解消措置の実行は株式取得後になっているのでしょう。
【H19(2007)年事例2:三菱ウェルファーマ・田辺製薬合併】
この事例では、
①三菱ウェルファーマの特定全身止血剤の製造承認・商標を第三者に承継させる基本合意を合併実行日前までに締結し、
②その後可能な限り速やかに承継を実行する、
という問題解消措置が認められています。
つまり、問題解消措置の基本合意だけは合併実行前に締結し、問題解消措置の実行は合併後になっています。
【H19(2007)年事例10:メディパル・コバショウ】
この事例は、メディセオ・パルタックホールディングスがコバショウの株式を取得した事例ですが、コバショウが、中国地方を事業エリアとする同社子会社の株式を複数の第三者に譲渡するという問題解消措置が認められています。
公取委の事例集では、問題解消措置の実施時期は明示されていません。