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2012年6月

2012年6月19日 (火)

問題解消措置としての事業の廃止

統合後の市場シェアが高くなるなど、実質的な競争制限が生じる企業結合を行う場合に、公取委から統合を認めるための条件が付くことがあり、「問題解消措置」(英語では remedy)と呼ばれています。

この問題解消措置としては、事業を一部譲渡するなどがオーソドックスです。

では、「一方の事業を廃止する」というのはどうでしょうか。

もちろん、両社のコア事業でシェアが高くなるときは一方の事業を廃止するなんていうことはあり得ませんから、このような問題解消措置が思い浮かぶのは、非コア事業(買収者から見ると、どうでも良い事業)の両社の合計市場シェアが高くなってしまう場合、ということになります。

例えば、買収の目的であるコア事業ではない、非コア事業について、買収者Aのシェアが45%、被買収者(ターゲット)Tのシェアが10%とします。

このまま統合すると合計シェアが55%になるので、ちょっと問題かも知れません。

そこで、「どうせ要らない非コア事業なんだし・・・」ということで、T社の非コア事業を廃止することを問題解消措置として公取に提案してはどうか(そうすると、統合後の合計シェアは45%のまま)、という発想が出てくるわけですね。

でも、これはかなり問題です。おそらく、公取でもそういう問題解消措置は認めないと思います。

その理由の種明かしをすると、独禁法をやっている弁護士の頭の中には、

「ライバルを次々と買収してその工場を潰していくのは、独占企業の典型的な独占化戦略の一つである。」

という発想があるのです。

アルコアだったかUSスチールだったか名前は忘れましたが、アメリカでは実際にそういうことをやった例があると昔NYUのロースクールの授業で聞いたことがあります。

その話を初めて聞いたときは、

「わざわざお金を払って買収した企業を潰してしまうなんてもったいない。そんなこと、ほんとにあり得るの?」

と思ったものですが、実はあるんですね(この辺は、独占企業がどうやって超過利潤を上げるのかを経済学的に知っていると、すぐ分かります)。

簡単に言うと、

①ライバルを買収する

  ↓

②買収したライバルの事業を廃止する

  ↓

③事業廃止によって市場での供給量が減る

  ↓

④供給が減るので、価格が上がる

  ↓

⑤買収者の利益が増える

という理屈です。

なので、⑤で増える利益(当期の利益だけではなく、将来の利益も含みます)と、買収価格とを天秤にかけて、

買収価格 < 予測される増益幅(⑤)

であれば、お金を払ってでも買収して潰した方がいい、ということになります。

(より正確には、事業を潰してもスクラップ価格くらいは回収できるでしょうから、

買収価格 - スクラップ価格 < 予測される増益幅

であれば良いということになります。)

それでも、そのような条件を満たすような買収案件が本当になるのか?と疑問が生じるところですが、例えば赤字ギリギリで(高コストで)、かつ、そこそこの規模で操業しているターゲットであれば、買収価格は安くて(利益率が低いため)、かつ、事業廃止したときの市場価格へのインパクトはそれなりにある(生産規模は無視できないくらいに大きいため)、というケースは実際あります。

だいぶ回りくどくなりましたが、要するに、「一方の事業を廃止する」というのは、まさにそういう戦略と同等なので、問題解消措置としては認められないと思われるのです。

これに対しては、

「T社の事業(シェア10%)を廃止したら、買収後の合計シェアは45%で変わらないのだから、『競争の実質的制限』がないのではないか。」

という反論が一瞬頭をよぎりますが、それは間違いです。

なぜなら、業界からシェア10%の競争者が1社消えれば、A社のシェアは45%から50%(=45%÷0.9)に上がるからです。

(なお、競争の実質的制限はシェアだけで決まるものではないので、上の説明は物の譬えとお考え下さい。)

でもさらに踏み込んで考えると、シェアが上がる理由はT社の事業廃止なのであって、買収自体が理由なのではないのだから、事業の廃止自体を独禁法違反(例えば株式取得による買収なら独禁法10条1項)と捉えることはできません。

ですが、この場合は、2社で話し合って一方の事業を廃止することになるので、不当な取引制限(いわゆるカルテル。独禁法2条6項)に該当してしまいます。

問題解消措置を申し出るということは、そのまま何もしないと企業結合が独禁法違反になる(競争の実質的制限が生じる)からこそなのであって、そのような場合に両社で話し合って事業を廃止すれば、不当な取引制限における競争の実質的制限の要件も、ほぼ間違いなく満たしてしまうでしょう。

いわば2社で生産調整しているのだと考えれば、納得が行きやすいかも知れません。

さて、では事業の売却等のオーソドックスな問題解消措置が取れない場合どうするかですが、例えば、「T社に自主的に事業を廃止してもらったら良いのではないか」という考えが頭をよぎります。

コア事業を買い取ってもらうための条件であれば、T社も喜んで応じてくれるかもしれせん。

しかし、これもやはりカルテルのおそれがあります。

A社が非コア事業の廃止をT社に持ち掛けて(あるいは何となく匂わせて)、T社が任意にこれに応じる形にする(空気を読ませる)という形にしてもダメでしょう。そのようなものでもカルテル成立のための合意としては充分です。(←これはついやってしまいそうですね。気をつけましょう。)

なので、例えばT社が敵対的買収に遭っている場合に、ホワイトナイトとしてA社を見つけてきても、A社は決して非コア事業の廃止を仄めかしてはいけません。

「廃止」ではなく、第三者への「売却」を持ち掛けるなら理屈の上では問題ないはずですが、売却を模索したけど結果的に廃止になってしまったという場合には、A社は一体何を持ち掛けたのかが厳しく問われるような気がします。

場合によっては、

「売却っていったって、買手なんか簡単に見つからないよぉ(だから、廃止してしまう方が楽チンなのに・・・)」

という声が聞こえそうですが、1円でも良いから誰かに引き取ってもらうしかありません。

(「じゃあT社の社長個人に1円で引き取ってもらったら?」とか疑問が湧いてきそうですが、明らかに廃止を視野に形式的に売却する場合は、やっぱり問題があると思います。限界は微妙でしょうけれど。)

あるいは、あくまでT社の自主的な判断で事業廃止を決めた、という形が取れれば良いのですが、A社とコンタクトを開始した後では、それもなかなか難しいかもしれません。

結論としては、

①独禁法の懸念を理由に買収者がターゲットに非コア事業の廃止を持ち掛けることは避けるべき、

②後に廃止になってしまう可能性もある事業なら、売却を持ち掛けることも危ない、

ということになりますでしょうか。

2012年6月 8日 (金)

Business Week (Web版)にコメントを引用していただきました。

ブルームバーグの「Business Week」(Web版)に、私のコメントを引用していただきました。

TSE's Osaka Merger Gets 90% Odds as First Deal Since '10

現在公取委で二次審査中の、東証と大証の統合に関する記事です。

ご興味のある方は、ぜひご一読下さい。

(追記)

後で気付いたのですが、日本語版の記事もありました。

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