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2012年5月11日 (金)

景表法上のいわゆる「カード合わせ」について

2種類以上のカードの一定の組み合わせを揃えると景品がもらえる、という方法での景品提供(いわゆる「カード合わせ」)は、景表法上、一律に禁止されています。

例えば、

①ポテトチップス1袋に

②プロ野球選手のカードが1枚付いていて、

③プロ野球選手のカードを一定種類(2種類以上)揃えると、

④豪華(でなくてもいいですが・・・)景品、例えばトロフィーがもらえる、

というようなものです。

「カード合わせ」というのは、あくまで「景品類」の一種として規制されているもので、他の「景品類」の規制のように景品類の額によって規制するのではなく、「カード合わせ」という景品提供方法を一律に禁止する(提供方法の制限)であることが特徴です。

さて、この「カード合わせ」の仕組みは、どのモノが、どの要件に該当するのか、ちょっと分かりにくいので、条文に従って整理しておきます。

景表法3条(景品類の制限及び禁止)では、

「内閣総理大臣は、・・・景品類〔先取りすれば、設例では、これがトロフィー〕の提供に関する事項を制限し、又は景品類の提供を禁止することができる。 」

とされています。

つまり、内閣総理大臣は、基本的に自由に「景品類」を制限・禁止できるのです。

そこで重要になってくるのが、景表法3条における唯一の絞りである「景品類」の定義です。

景表法2条2項では、「景品類」を、

「①顧客を誘引するための手段として・・・

②事業者が自己の供給する商品又は役務の取引・・・に付随して相手方に提供する・・・

③経済上の利益であつて、

④内閣総理大臣が指定するもの」

と定義しています(これを先ず押さえて下さい)。

ポテトチップスの例では、まさにポテトチップスが「自己の供給する商品又は役務」です。

トロフィー(③経済的利益+④指定)をエサにして(①誘因手段)、ポテトチップス(②商品役務)を買わせる、という構図ですね。

ちなみに、④の指定については、

「不当景品類及び不当表示防止法第二条の規定により景品類及び表示を指定する件」(「定義告示」)

で、「景品類」を、

「一 物品及び土地、建物その他の工作物

二 金銭、金券、預金証書、当せん金附証票及び公社債、株券、商品券その他の有価証

三 きよう応(映画,演劇,スポーツ、旅行その他の催物等への招待又は優待を含む。)

四 便益、労務その他の役務」

に限定しています。

なので、例えば景品類として映画(電子データ)をインターネットで配信する、というような場合、一~四のどれにも当たらないという解釈もあり得ますが、電子データも「物品」に該当すると考えるべきでしょう。

電気も「財物」(刑法235条)に該当すると判示した、刑法で有名な電気窃盗事件というのもありますし。

では「プロ野球選手のカード」は、「カード合わせ」の中でどのように位置付けられるのかというと、「プロ野球選手のカード」自体は、「カード合わせ」の方法で提供されることが一律禁止されるところの「景品類」ではありません。

もちろん、プロ野球選手カードも「景品類」であることは間違いないのですが、ポテトチップス1袋に1枚必ずプロ野球選手カードが付いてくることを前提にすると、「プロ野球選手カード」自体は、「総付景品」(←くじなどでなく、商品購入者全員に付いてくる景品類、という意味)ということになるので、取引価格の20%(取引価格が200円未満の場合は200円)までOKです。

そして、ポテトチップスは1袋200円未満でしょうから、プロ野球選手カードの価値が200円未満である限り、OKということになります(カード自体はほとんどタダみたいなものでしょうから、総付景品として結論はOK)。

さて、ようやく「カード合わせ」の定義ですが、これについては、景表法3条を受けて

「懸賞による景品類の提供に関する事項の制限」(昭和52年3月1日公正取引委員会告示3号)(「懸賞制限告示」)

が定められており、同告示5項では、いわゆる「カード合わせ」について、

「・・・二以上の種類の文字、絵、符号等を表示した符票〔=プロ野球選手カード〕のうち、

異なる種類の符票の特定の組合せを提示させる方法を用いた懸賞による

景品類〔トロフィー〕の提供は、

してはならない。」

と、景品類の額にかかわらず一律禁止とされています。

ここで、「符票」という用語は、同告示には定義はなく、実は広辞苑にも載っていない言葉なのですが、「符票」というもの自体で何か「カード合わせ」の要件を限定する趣旨ではなく、要は、カード合わせで組み合わせるのに使えるような、絵とか文字とか符号が記載されるもの、というくらいの意味でしょう。

(ちょっと調べたところ、唯一、「鉄道運輸規程」40条に、

「鉄道ハ運送ノ為手荷物ヲ受取リタルトキハ手荷物符票ヲ交付スベシ」

という条文がありました。あと42条。)

なので、「符票」は、カードのような有体物である必要はなく、電子データ等でもまったく構わないと考えられます。

さらに、上記のポテトチップスの例では、

①お店が買わせたい商品=ポテトチップス

②2種類以上組み合わされる符票=プロ野球選手カード

③景品類=トロフィー

でしたが、商品(①)そのものが符票(②)であっても(比喩的に書けば、「商品/符票」(しょうひん・スラッシュ・ふひょう))、「カード合わせ」に該当すると考えられます。

つまり、符票そのものをお金を出して買ってもらう、というパターンです。

この場合、「符票そのもの」に経済的価値が全く無いのであれば、そもそも「符票そのもの」が、事業者が買わせたい「商品」といえるのか、

つまり、

「符票そのもの」は、むしろ景品類を当てるためのクジみたいなものではないのか、

とすると、翻って、

「商品を買わせるために付けるオマケ」という、景品類の概念に入らないのではないか、

という議論があり得るように思います。

しかし、

①「符票/商品」自体に価値を見出してお金を出すのか、

それとも、

②もっぱら「景品類」欲しさにお金を出すのか、

というのは紙一重ですから、仮に②の場合でも、「景品類」の概念に入るといって差し支えないでしょう。

(景品に引き換えられるスクラッチカードが欲しくて、元の商品(例えばハンバーグ)は捨ててしまう、という人がいても、ハンバーグはあくまで「商品」でしょう。)

なお、どの種類の文字・絵・記号等の「符票」を購入できるかを、購入者自身が選択できる場合には、「カード合わせ」には該当しません。

というのは、符票の購入者自分が自分で符票の種類を選べるなら、景品類(トロフィー)がもらえる特定の組み合わせも自由に揃えることができるでしょうから、カード合わせの定義中の、

「・・・二以上の種類の文字、絵、符号等を表示した符票のうち、異なる種類の符票の特定の組合せを提示させる方法を用いた懸賞による景品類の提供」

の、

「懸賞〔=くじなど〕による」

の部分を満たさないからです(笠原編「景品表示法(第2版)」p185)。

なお、

「懸賞による景品類の提供に関する事項の制限」の運用基準について」(「懸賞運用基準」)

の4(1)では、

「異なる種類の符票の特定の組合せの提示を求めるが、取引の相手方が商品を購入する際の選択によりその組合せを完成できる場合(カード合わせ以外の懸賞にも当たらないが、「一般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限」その他の告示の規制
を受けることがある。)」

はカード合わせには該当しないと明記されていますが、所詮運用基準(=法的拘束力無し)とはいえ、当然のことです。

あと、特にどこで課金しているのかよく分からないたぐいの商品・役務の場合、カード合わせの仕組みによっては、何が本来お店が買わせたい「商品」なのかがよく分からない、ということがあり得ますが、事業者は何かを対価にお金を得ているはずなので、お客さんが対価を支払っているところのモノを、「商品」あるいは「商品/符票」と捉えれば良いと思います。

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コメント

詳細な解説ありがとうございます。
非常に参考になります。

景品類等の指定の告示の運用基準について
5 「物品,金銭その他の経済上の利益」について
(1) 事業者が,そのための特段の出費を要しないで提供できる物品等であっても,又は市販されていない物品等であっても,提供を受ける者の側からみて,通常,経済的対 価を支払って取得すると認められるものは,「経済上の利益」に含まれる。
ただし,経 済的対価を支払って取得すると認められないもの(例 表彰状,表彰盾,表彰バッジ, トロフィー等のように相手方の名誉を表するもの)は,「経済上の利益」に含まれない。

と但し書きでトロフィーは経済上の利益に含まれないと明記されておりますので、カードあわせで貰える景品の例はトロフィー以外のほうが良いのではないでしょうか?

コメントありがとうございます。なるほど、確かに混乱を招く設例でした。設例で景品をトロフィーにしたのは、選手カード付きポテトチップの景品としては実際にありそうかなと考えただけでそれ以上の深い意味はありません。
ただ、景品類等の指定の告示の運用基準のポイントは、トロフィーが「相手方の名誉を表するもの」である点にあると思います。
つまり、ポテトチップの景品としてのトロフィーは、「相手方の名誉を表するもの」ではない(たんに、子供にポテトチップを買わせる手段に過ぎない)ことは明らかだと思われます。
なので、標記の設例であれば、消費者庁も、トロフィーは景品であると考えると思われます。
いずれにせよ、面白い論点に気付くことができました。どうもありがとうございます。

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