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2012年5月10日 (木)

「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」の一部改定について

「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」(以下「インターネット広告ガイドライン」)が一部改正されました。

具体的には、

「商品・サービスを提供する店舗を経営する事業者が、

口コミ投稿の代行を行う事業者に依頼し、

自己の供給する商品・サービスに関するサイトの口コミ情報コーナーに口コミを多数書き込ませ、

口コミサイト上の評価自体を変動させて、

もともと口コミサイト上で当該商品・サービスに対する好意的な評価はさほど多くなかったにもかかわらず、

提供する商品・サービスの品質その他の内容について、

あたかも一般消費者の多数から好意的評価を受けているかのように表示させること。」

というのが、「問題となる事例」に加えられました。

今年に入ってから「食べログ」のやらせ投稿が大きく報道されたのを受けて改正したものですね。

さてこの問題については以前このブログで書いたことがあり、要するに、

「景表法は品質等の内容について優良と誤認させるさせることを禁止しているのであって、表示の主体が利害関係の無い第三者であると偽ること(「なりすまし」や「やらせ」)は景表法では禁止できないのではないか」

といったことを申しました。

今回の改正は、この問題に、ガイドラインレベルではありますが、正面から対応しようとするものと言えます。

私も、こういうガイドラインを定めることによりやらせ投稿が無くなるなら大いに結構なことであり、消費者庁の積極果敢な姿勢を大いに評価したいと思いますが、でも、法律の解釈としては、今回の改正はやっぱりちょっと無理があるかなぁと感じます。

では、今回の改正を分析してみましょう。

まず最初に言えるのは、追加された実例は、「やらせ請負業者」みたいな者に依頼する、まさに食べログのケースですが、やらせ業者に依頼することは問題の本質ではなく、自分で投稿を書き込んでも景表法上は同じ法的評価であるはずです。

次に、景表法の表示主体に関して(株)ベイクルーズによる審決取消請求事件(東京高判平成20年5月23日)では、(ちょっと長いですが引用すると)

「・・・〔景表〕法4条1項3号に該当する不当な表示を行った事業者(不当表示を行った者)の範囲について検討すると,

商品を購入しようとする一般消費者にとっては,通常は,商品に付された表示という外形のみを信頼して情報を入手するしか方法はないのであるから,

そうとすれば,そのような一般消費者の信頼を保護するためには,

「表示内容の決定に関与した事業者」

が法4条1項の「事業者」(不当表示を行った者)に当たるものと解すべきであり,

そして,「表示内容の決定に関与した事業者」とは,

「自ら若しくは他の者と共同して積極的に表示の内容を決定した事業者」のみならず,

「他の者の表示内容に関する説明に基づきその内容を定めた事業者」や

「他の事業者にその決定を委ねた事業者」

も含まれるものと解するのが相当である。

そして,上記の「他の者の表示内容に関する説明に基づきその内容を定めた事業者」とは,

他の事業者が決定したあるいは決定する表示内容についてその事業者から説明を受けてこれを了承しその表示を自己の表示とすることを了承した事業者をいい,

また,上記の「他の事業者にその決定を委ねた事業者」とは,

自己が表示内容を決定することができるにもかかわらず他の事業者に表示内容の決定を任せた事業者をいうものと解せられる。」

といっています。

この事例は、セレクトショップが仕入先の説明を信じたら虚偽だった、という気の毒な事例ですが、ここではまず、

「・・・「他の者の表示内容に関する説明に基づきその内容を定めた事業者」とは,

他の事業者が決定したあるいは決定する表示内容についてその事業者から説明を受けてこれを了承しその表示を自己の表示とすることを了承した事業者をい(う)」

という点に着目したいと思います。

ここで、「自己の表示とすること」というのは、表示を見る一般消費者の立場から見て商品を提供する事業者(「自己」)が主体となって行っている表示と受け取られる表示をすることを了解することを指すのではないでしょうか。

つまり、他人が自己の商品についてああだこうだということを了承することではなく、表示の責任主体となることを了解することを指すのではないか、と思われます。

そして、「自己の表示とすること」というのは、論理的に考えて、上記判決の

「他の者の表示内容に関する説明に基づきその内容を定めた事業者」

だけに必要な要件ではなくて、潜在的には

「自ら若しくは他の者と共同して積極的に表示の内容を決定した事業者」

や、

「他の事業者にその決定を委ねた事業者」

にも、当然の前提として要求される要件であると考えざるを得ないと思うのです。

そうすると、口コミサイトへのやらせ投稿が「自己の表示」というのは、相当無理があると思うのです。

次に注目したいのは、

「・・・「他の事業者にその決定を委ねた事業者」とは,

自己が表示内容を決定することができるにもかかわらず他の事業者に表示内容の決定を任せた事業者をいうものと解せられる。」

という部分です。

ここでの、「自己が表示内容を決定することができるにもかかわらず」というのは、自己の表示として表示することを当然の前提としているのではないでしょうか。

つまり、他人がああだこうだということを、事業者が「決定」することは本来できないはずです。

そして、「やらせ投稿」の場合には、「自己が表示内容を決定すること」が、本来できないはずのものであるわけです(本来できないことを、他人になりすまして、できたかのような外観を作出するところが問題なわけです)。

以上のような分析からすると、やっぱり「やらせ投稿」を事業者の「自己の表示」というのには、相当無理があると思うのです。

(なお、判決の「不当表示を行った者」の究極的な定義である、「表示内容の決定に関与した事業者」という字面(じづら)だけを見れば、やらせ投稿も「表示内容の決定に関与」していることは明らかではないか、という議論がありえますが、それは形式論に過ぎるのであって、やはり「自己の表示」であることは当然の前提となっていると読むべきです。)

このように、今回のガイドライン改正は、解釈論としてはちょっと難があるのですが、繰り返しになりますが、こういう積極果敢な態度は大いに評価されるべきです(消費者庁も、こういう微妙な解釈論が気になるからこそ、改正前ガイドラインでは一番大きな問題には踏み込まないような、奥歯に物が挟まったようなガイドラインになってしまったのでしょう)。

なぜなら、やらせ投稿が無くなることで困る人なんて、世の中に一人もいないからです。

この点、法律の委任を超えた運用をすることで誰かが得をして誰かが損をする、医薬品のネット販売禁止のような場合とは違います。

さて、最後に今回の改正の中身をちょっと詳しく見ておくと、追加された違反事例は、書き込みが

「多数」

であることを強調しています。

あくまで例の一つなので断定はできませんが、1つだけ書き込みをしたに過ぎないような場合には違反に問わない、というホンネが透けて見えます。

(でも理屈の上では、表示主体を偽るのも不当表示になる、あるいは、

「自己の表示」ではなくても、「自己の商品に関する表示」であれば不当表示になる、

という見解(今回、消費者庁が立ったと思われる見解)に立つ限り、1つだけの書き込みでも多数の書き込みでも、区別する理由は無いと思います。区別するとすれば、書き込みが1つだと、「著しく優良」とは認められない、ということでしょうか。でも、例えば、そもそもコメントが少ない本の書評とかだと、1つのやらせ投稿でも、それにつられて消費者が買ってしまうことはあるので、書き込みが1つだから「著しく」ではないとは、必ずしもいえないと思います。)

また、改正案は、第三者からの「評価」を誤認させる点を強調しています。

この点も面白い点ですが、直接的には「評価」を誤認させるものでも、間接的には「品質」を誤認させることは明らかですから、これは解釈論上問題ないのでしょう。

昔、白石先生の「独禁法講義」に、ケーキ屋が「ミスター(←長嶋茂雄さんのことです)も絶賛」と表示するのが不当表示にあたる、という例が挙げられていましたが、それを思い出します。

といったことを考えると、

①「ミスターも絶賛」と店が主体になって(ウソの)広告する

のと、

②口コミサイトに「私(投稿者)が絶賛」と多数(ウソの)投稿をする

のとを比べて、①は違法だけど②はそうでない、というのは、確かに、如何にもバランスが悪い気はします。

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