代理店の談合行為とメーカーの責任
複数のメーカーが、自社の代理店を通じて、自治体に商品を販売しているとしましょう。
よくあることですが、自治体の入札参加資格上、入札に参加できるのは代理店だけだとします。
さて、メーカーの法務部が、営業担当者から、「どうやらうちの代理店が、他社の代理店と、入札談合をやっているらしい」と聞いたとします。
この場合、法務部員はどうすればいいでしょうか。
常識的には、談合に関わらないのが良いに決まっているので、代理店に談合をやめさせるなり代理店を解約するなりすべきですが、売り上げの目標もあって、どうしたらいいか迷うこともありますよね。
(ちなみに、行政事件である独禁法違反では、刑法のような、幇助とか共犯とかいう概念はありません。被害者からの損害賠償請求(民事)では、共同不法行為者になる可能性も検討する必要はありますが。)
そこで、道義的・倫理的にはさておき、純粋に自社の独禁法リスクという観点から考えてみます。
一つの考え方としては、
「自社が談合をやっているわけではなくて、代理店が勝手にやっているだけなのだから、放っておいたらいい(おかげで商品も良い値段で売れているんだし)。」
という考え方も、あるかもしれません。
しかし、この考え方は、かなり危ないです。
少なくとも、徹底的に事実関係を調べるべきでしょう。
というのは、事実関係次第では、メーカー自身が談合をしていたと認定される可能性があるからです。
例えば、メーカーの営業担当者が、代理店の担当者から、
「今度の入札ではあそこが落札することになっていますけど、その次の入札ではうちが落札できることになってますから」
と聞かされていたり、さらにそれぞれの入札での各代理店の応札価格まで知らされていたりしたら、メーカー自身が代理店を通じて情報交換していたと認定される可能性が否定できません。
さらに、メーカー側から代理店に対して、
「今度の案件は何としてもうちが取らないといけないから、何とかしろ」
みたいにいうのも、通常の事業活動の文脈であれば、メーカーが代理店に「がんばって営業しろ」と発破をかけているだけ、とも言えますが、談合の存在を知りつつこういうことを言うと、受注調整を指示しているとも取られかねません。
感覚的には、メーカーがかなり深く談合のスキームに関与していない限り、メーカー自身が談合の主体となる可能性は低いと思いますが、それは、よくよく調べた末に分かることです。
なので、結論としては、
①メーカー自身が法的責任を問われるか否かにかかわらず、代理店の談合を止めさせる(場合によっては代理店契約を解約する)、
②いずれにせよ事実関係を詳細に調査する、
というのが正解でしょう。
自社が直接入札に参加していないケースでは、リニエンシーを申請するのかも悩ましいですが、これも一般論としては、「そこまではしない」ということが多いのでしょう(メーカー自身が違反者とは言えないことが多いので)。
リニエンシーを申請しない理由としては、いずれにせよメーカー自身は自治体に対する売上は無いので(ただし、メーカーから代理店への売り切りであることが前提)、そもそも課徴金がかからずリニエンシーを申請するメリットが乏しいからです(元々ゼロのものがゼロになるだけ)。
リニエンシーは、後でよく調べたら違反事実が無かった(上記説例では、「自社は違反者ではなかった」)という場合には事後的に取り下げることも可能ですが、いったん申請してしまうとどうしてもバイアスがかかりがちで、違反事実がなかったからといって取り下げると、虚偽のリニエンシー申請をしたといって減免自体が取り消される可能性も否定できないので、悩ましいところです。
もしこういう悩ましいケースがあったら、公取委にも柔軟に対応して欲しいと思います。
さて、上記説例のバリエーションとしては、
①複数のメーカーが同じ代理店(ディーラー)1社を使っていて、
②その代理店の下に、各メーカーの商品を扱う複数のサブ・ディーラーがぶら下がっていて、
③サブ・ディーラーが入札に参加しており、
④①のディーラーが談合を取り仕切っている、
というパターンもあります。
この場合も、メーカーが、ディーラーを通じて、他のメーカーの情報を入手していたりすると、ディーラーを通じてメーカーが談合をしていたと認定されかねません。
アメリカでは、車輪の形になぞらえて「ハブ・アンド・スポーク(hub and spoke)型」と呼ばれるようなカルテルですが、自社のやっていることはまさにこれにあたると理解できないこともあるので、注意が必要です。