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2012年3月

2012年3月28日 (水)

代理店の談合行為とメーカーの責任

複数のメーカーが、自社の代理店を通じて、自治体に商品を販売しているとしましょう。

よくあることですが、自治体の入札参加資格上、入札に参加できるのは代理店だけだとします。

さて、メーカーの法務部が、営業担当者から、「どうやらうちの代理店が、他社の代理店と、入札談合をやっているらしい」と聞いたとします。

この場合、法務部員はどうすればいいでしょうか。

常識的には、談合に関わらないのが良いに決まっているので、代理店に談合をやめさせるなり代理店を解約するなりすべきですが、売り上げの目標もあって、どうしたらいいか迷うこともありますよね。

(ちなみに、行政事件である独禁法違反では、刑法のような、幇助とか共犯とかいう概念はありません。被害者からの損害賠償請求(民事)では、共同不法行為者になる可能性も検討する必要はありますが。)

そこで、道義的・倫理的にはさておき、純粋に自社の独禁法リスクという観点から考えてみます。

一つの考え方としては、

「自社が談合をやっているわけではなくて、代理店が勝手にやっているだけなのだから、放っておいたらいい(おかげで商品も良い値段で売れているんだし)。」

という考え方も、あるかもしれません。

しかし、この考え方は、かなり危ないです。

少なくとも、徹底的に事実関係を調べるべきでしょう。

というのは、事実関係次第では、メーカー自身が談合をしていたと認定される可能性があるからです。

例えば、メーカーの営業担当者が、代理店の担当者から、

「今度の入札ではあそこが落札することになっていますけど、その次の入札ではうちが落札できることになってますから」

と聞かされていたり、さらにそれぞれの入札での各代理店の応札価格まで知らされていたりしたら、メーカー自身が代理店を通じて情報交換していたと認定される可能性が否定できません。

さらに、メーカー側から代理店に対して、

「今度の案件は何としてもうちが取らないといけないから、何とかしろ」

みたいにいうのも、通常の事業活動の文脈であれば、メーカーが代理店に「がんばって営業しろ」と発破をかけているだけ、とも言えますが、談合の存在を知りつつこういうことを言うと、受注調整を指示しているとも取られかねません。

感覚的には、メーカーがかなり深く談合のスキームに関与していない限り、メーカー自身が談合の主体となる可能性は低いと思いますが、それは、よくよく調べた末に分かることです。

なので、結論としては、

①メーカー自身が法的責任を問われるか否かにかかわらず、代理店の談合を止めさせる(場合によっては代理店契約を解約する)、

②いずれにせよ事実関係を詳細に調査する、

というのが正解でしょう。

自社が直接入札に参加していないケースでは、リニエンシーを申請するのかも悩ましいですが、これも一般論としては、「そこまではしない」ということが多いのでしょう(メーカー自身が違反者とは言えないことが多いので)。

リニエンシーを申請しない理由としては、いずれにせよメーカー自身は自治体に対する売上は無いので(ただし、メーカーから代理店への売り切りであることが前提)、そもそも課徴金がかからずリニエンシーを申請するメリットが乏しいからです(元々ゼロのものがゼロになるだけ)。

リニエンシーは、後でよく調べたら違反事実が無かった(上記説例では、「自社は違反者ではなかった」)という場合には事後的に取り下げることも可能ですが、いったん申請してしまうとどうしてもバイアスがかかりがちで、違反事実がなかったからといって取り下げると、虚偽のリニエンシー申請をしたといって減免自体が取り消される可能性も否定できないので、悩ましいところです。

もしこういう悩ましいケースがあったら、公取委にも柔軟に対応して欲しいと思います。

さて、上記説例のバリエーションとしては、

①複数のメーカーが同じ代理店(ディーラー)1社を使っていて、

②その代理店の下に、各メーカーの商品を扱う複数のサブ・ディーラーがぶら下がっていて、

③サブ・ディーラーが入札に参加しており、

④①のディーラーが談合を取り仕切っている、

というパターンもあります。

この場合も、メーカーが、ディーラーを通じて、他のメーカーの情報を入手していたりすると、ディーラーを通じてメーカーが談合をしていたと認定されかねません。

アメリカでは、車輪の形になぞらえて「ハブ・アンド・スポーク(hub and spoke)型」と呼ばれるようなカルテルですが、自社のやっていることはまさにこれにあたると理解できないこともあるので、注意が必要です。

2012年3月23日 (金)

一部商品だけ拘束している場合と「市場における有力なメーカー」基準

流通取引慣行ガイドラインでは、以下の場合について、「市場における有力なメーカー(あるいは、製造業者)」が行う場合には違法、という基準を採用しています。

①単独の直接取引拒絶(第1部第三)

②排他条件付取引(第1部第四、第2部第二2)

③相互取引(第1部第五)

④対抗的価格設定による競争者との取引制限(第1部第六)

⑤株式取得(第1部第七2(1)①)

⑥厳格な地域制限(第2部第二3)

⑦リベート(第2部第三)

これをさらに整理すると、

A.他者排除行為(①②③④⑤⑦)

B.競争停止行為(⑥)

に分けられます。

どのようなものが「市場における有力なメーカー」になるのかというと、

①シェアが10%以上または

②順位が上位3位以内であること、

が、一応の目安とされています。

さて、メーカーが、その製造する一部の商品について拘束を行っている場合、①の「シェア」、あるいは②の「順位」は、当該一部の商品のシェアや順位と考えるべきでしょうか、それとも、同一商品市場に属する限りは全商品を含めたシェアや順位になるのでしょうか。

例えば、スポーツシューズも紳士靴も婦人靴も作っている総合靴メーカーが、一部の人気スポーツシューズについて拘束条件付取引を行った場合、(独禁法上の市場は「全ての靴」になりそうですが)上記①の「10%」にカウントされるのは、

①拘束対象の当該人気スポーツシューズのシェアなのか、それとも

②同メーカーが製造する全商品を合算したシェアなのか、

という問題です。

この問題は、問題となる行為が他者排除行為なのか、競争停止行為なのか、によって答えが異なるように思われます。

まず、分かりやすい競争停止行為(厳格な地域制限だけですが・・・)について考えてみましょう。

厳格な地域制限の反競争性というのは、要するに、小売店がテリトリー外で商品を販売することを禁じることによって小売店間の競争が無くなる、ということです。

ですので、メーカーが商品の一部(例えば、人気スポーツシューズ)についてだけ厳格な地域制限を行っている場合、競争が停止されるのは当該人気スポーツシューズだけですので(他の商品については地域制限していないので「価格が維持されるおそれ」があるはずがない)、①(当該人気スポーツシューズのシェア)と考えるのが正しいと考えられます。

つまり、拘束対象の人気スポーツシューズの市場(靴全部の市場)におけるシェアが1%なら、「有力なメーカー」基準には該当しない、ということになります。

なお、これに対しては、「地域制限の対象商品のシェアが小さくても(例えば1%)、全商品のシェアが大きければ(例えば40%)、小売店はそのメーカーの言うことを聞かざるを得ないのだから、全商品のシェアをカウントすべきではないか。」という異論があり得ますが、競争停止行為の場合は小売店に対する強制性というのは問題にすべきでないので、そのような見解はおかしいと思います。

この点、ガイドラインは、「メーカーが厳格な地域制限をする限りは、自分の製造する全商品について拘束するだろう」という発想で作られているような気がしないでもないですが、現実の世の中では一部の商品について拘束する(拘束するメリットのある商品だけ拘束する)ということは、いくらでもあります。

では、他者排除行為についてはどうでしょうか。

例えば競争者との取引の制限については、

「市場における有力な製造業者・・・が、取引先販売業者に対し、自己の競争者と取引しないようにさせることによって、競争者の取引の機会が減少し、他に代わり得る取引先を容易に見いだすことができなくなるようにするとともに、その実効性を確保するため、これに従わない販売業者との取引を拒絶すること」

は、不公正な取引方法に該当するとしています(その他の取引拒絶、排他条件付取引)。

まさに、「他に代わりうる取引先を容易に見出すことができなくなること」、つまり流通網を閉鎖(独り占め)してしまうことが問題です。

例えば、シェア40%の靴メーカーが排他条件付取引をすると、単純に考えて、40%の靴小売店については他のメーカーはアクセスすることができなくなります(「まだ60%あるからいいじゃないか」という気もしますが、他のメーカーも排他条件付取引をしているかもしれないので。。)。

そこで、このシェア40%の靴メーカーが、シェア1%相当の人気スポーツシューズについてだけ排他条件付取引をすれば、どうなるでしょう。

具体的には、

①全取引先小売店に対して自社の人気スポーツシューズを取り扱わせている場合に、競合他社のスポーツシューズの取扱いを禁止する、

②自社の人気スポーツシューズを取り扱わせているのは一部の小売店(スポーツシューズ専門店)である場合に、当該専門店に、競合他社のスポーツシューズの取扱いを禁止する、

というパターンがあると思います(他にもあるかも知れません。少なくとも、①と②の中間はありそう)。

①の場合には、単純計算で流通網の40%が閉鎖されるので、排除されるのはスポーツシューズメーカーだけである(紳士靴や婦人靴は排除されない)にもかかわらず、当該メーカーの全商品のシェアを基準に「有力なメーカー」か否かを判定するのが合理的なように思われます。

これに対して②の場合には、閉鎖されるのは当該専門店だけなので、当該人気スポーツシューズのシェアに基づいて「有力なメーカー」か否かを判定するのが合理的なように思われます。

しかし、ガイドラインはたぶんそのような細かいことは考えていなくて、当然に、全商品のシェアを基準に「有力なメーカー」かどうかを判定すると考えているのでしょう。

なぜなら、②の場合に全商品のシェアを基準に「有力なメーカー」に該当するとしても、次の「他に代わり得る取引先を容易に見いだすことができなくなる」という要件を満たさないので、違反でないという結論はいずれにせよ導けるからです。

こう考えると、そもそも「有力なメーカー」基準というのは意味があるのか(代わりうる取引先を見つけることの容易性一本でいいのではないか)、という至極まともな疑問が湧いてきます。

しかし、ガイドラインというのはあくまで独禁法の素人にも分かりやすくなければならないので、「有力」という、分かりやすいイメージに働きかけることも、意味があることなのでしょう。

少なくとも、全商品のシェアで10%に行かないメーカーは、間違いなく違反を免れる(10%はあくまで「目安」ではありますが。。)という意味ではセーフハーバー的な意味もあるので、まったく無意味というわけではないのでしょう。

いずれにせよ、10%という数字が有力性の基準として低すぎるというのは、大方の意見が一致するところです。

最近では昔に比べて流通業者の方が力が強いので、ますます10%という数字に妥当性は見いだせないような気がします。

2012年3月 5日 (月)

カルテルの合意のグレーゾーン

カルテルの合意があったのか無かったのか、微妙なケースというのが時々生じます。

例えば、業界団体の分科会に出席したら、公式のアジェンダの討議が終わった後に1社が値上げの話を始めた、というような場合に、それを黙って聞いているだけでも、カルテルの合意があったと認定されるおそれが充分にあります。

なので、こういうことが起こったら、直ちに異議を述べてその場から立ち去る必要があります。

その他には、例えば同業者のゴルフコンペで、4人で回っていたら、自分以外の3人がグリーン上で値上げの話を始めたのが聞こえたが、自分は話には加わらなかった、というのでも、相当危ないです。

この場合は、プレーを即刻止めるくらいの覚悟が必要でしょう。

あと、カルテルの会合に出席した社員の言い訳として時々あるのが、

自分は同業他社の動向を探るために、情報収集目的で出席していただけで、カルテルの話し合いには加わっていない。」

というものです。これは、ほぼ間違いなくアウトです。

会合ではなくても、例えば値上げに関する情報交換のメールのやりとり(メールでこういうやりとりをすることは通常無いでしょうけれど)のccに入っていた、というのでもアウトでしょう。

なぜ黙って聞いているだけでもカルテルの合意が認定されるのかを理屈で説明すれば、カルテルの「合意」というのは、そもそも民法上の合意と全く違うもので、カルテルの「合意」のほうが遙かに広く緩やかに認定されるものだからです。

もう少し具体的に言えば、契約の場合は両当事者の利益が基本的に相反します。

例えば、売主はできるだけ高く売りたいのに対して、買主はできるだけ安く買いたい、という具合です。

利益が相反する相手方を縛るには、合意は明確なものでなければいけません。

これに対してカルテルの合意の場合は、基本的に合意参加者の利益が同じ方向を向いていることが多いのです。

つまり、他社が値上げをするなら自分も値上げする方が利益になることが多いということです(ゲーム理論をご存知の方は、繰り返しゲームのナッシュ均衡の話をイメージしてください)。

(もちろん理屈の上では、他社が値上げするなら却って自社は値下げした方がシェアが延びてマージンの減少分を帳消しにしてネットで利益になる、ということもあり得ますが、そういう市場環境では一般的にカルテルは不安定なので、そもそもカルテルが試みられにくいといえます。結局、カルテルが試みられる市場では、「他社が値上げをするなら自分も値上げする方が利益になる」という状況にあるのが一般的、ということになります。)

なので、カルテルではお互いを縛り合う必要はなく、極論すれば、お互いに「値上げしたいなぁ」という意向を伝え合うだけで充分に望む成果が達成されることが多いのです。

「カルテルはウィンク一つで成立する。」なんて言われたりします。

婚姻において戸籍法に基づく届出が必要とされている(民法739条1項)のも、両当事者の利益が著しく反することが理由と思われます(←もちろん冗談です)。

あと、黙って聞いているだけでも危ない実務上の理由としては、カルテルの合意は実務上、事前の情報交換と事後の行為の一致によって立証できるとされているためです。

なので、「事後の行為の一致」、つまり他社と同時に値上げをすることをしなければ良いのですが、通常は値上げすることが利益の最大化になるので、それにもかかわらず値上げしないというのは企業としてなかなか難しいものです。

もちろん理屈の上では、「値上げは自社の独自の判断であって、カルテルに基づくものではない」という反論も可能なのですが、実際には難しいでしょう。

このように、カルテルの合意が成立するのは、「合意」という語感からイメージするよりもかなり広い、ということを理解しておく必要があります。

普通の人がグレーゾーンと思うものは、たいてい真っ黒だといって良いでしょう。

企業の法務部の方々が社内研修をするときも、「カルテルの合意とはこういうもんだ」という従業員の固定観念を打ち砕く必要があります。

なお、独禁法の条文では「合意」という言葉は一言も使われていません。

不当な取引制限の定義規定である独禁法2条6項では、

「事業者が・・・他の事業者と共同して・・・相互にその事業活動を拘束し・・・」

というように、「拘束」という言葉を使っています。

でも、以上で述べたようにカルテルの「拘束」はかなり幅広く認められることを考えると、「拘束」という用語も、立法論としては不適切だと思います。

少なくとも、再販売価格拘束(2条9項4号)や拘束条件付取引(2条9項6号ニ)の「拘束」とはぜんぜん違う意味で使っているのは間違いありません。

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