事業者団体による最高再販売価格拘束(平成17年度事例集16)
公取委の相談事例に、
①たばこ自動販売機のメーカーの団体が、会員メーカーが製造するタスポ読み取り機の再販売価格について共通の上限価格を設定することが、独占禁止法上問題となるおそれがある、
②メーカー各社が独自に上限価格を設定することは独禁法上問題にならない、
とされた事例があります(平成17年度相談事例集16)。
(ちなみに、相談事例集は前年度(ここでは平成17年度)に回答したものが翌年(ここでは平成18年6月)に出されるので、ちょっとややこしいです。)
この相談事例は、最高再販売価格拘束についての公取委の公式判断自体があまり多くないことに加えて、それが業界団体によって行われたということで、いろいろと興味深いです。
まず、各社が独自に最高再販売価格を設定する場合(②)について考えると、私は、一般的に、最高再販売価格が独禁法違反になることはほとんどないと考えています。
特定価格や最低価格を指定するのと違って、最高価格の指定に過ぎない場合には、販売店はいくらでも安く売ることは制限されず、競争が制限されないからです。
また、小売段階に市場支配力がある場合に二重限界化(要するに、競争価格よりも大きなマージンを小売店が目指す結果、メーカーが利益を最大化できる水準よりも小売価格が上がって、その裏返しで供給量が減ること)を防ぐ、という機能も最高再販売価格拘束にはあり、競争促進的といえます。
本相談事例でも、公取委は、各社が単独でやる限りは最高再販売価格拘束は独禁法に違反しないといっています(②)。
しかし、その理由付けはちょっと、というかかなり問題です。
ちょっと長いですが公取委回答を引用すると、
「自動販売機メーカーが読取機の供給価格に上限を設定することは,外形上はディーラーの再販売価格を拘束するおそれのある行為である。
しかしながら,本件ディーラー〔=自販機販売業者〕は,既存の取引先小売業者に対して当該読取機を供給するにとどまり,実質的には,自動販売機メーカーが自ら小売業者に供給する業務をディーラーに委託しているものと同様と認められる。
したがって,自動販売機メーカーがディーラーに対して,取引先小売業者に読取機を供給する際の価格の上限を定めても,ディーラー間の競争を阻害するおそれがあるとは認められず,独占禁止法上の問題を生じるものではない。」
といっています。
まず最初の下線部は、要するに、
「最高再販も再販だ」
ということを言っています。
「外形上は」というのは、
「再販の行為要件は満たす(けど、公正競争阻害性は満たさないかもね)」
という考慮の跡が透けて見えます。
問題は2つめの下線部(「既存の~」)で、要するに、
「ディーラー〔注:各自販機メーカーの傘下には複数のディーラーがあります〕は既存の取引先であるたばこ屋さんにしか読み取り機を供給しないから、実質的には委託販売だ」
といっています。
確かに、おそらくたばこ屋さんに読み取り機を販売するのは、そのたばこ屋さんに自動販売機を販売して、日々のメンテナンスやらを行っているディーラーであることが多いのでしょう。(つまり、同じメーカー傘下の隣町のディーラーが、そのたばこ屋さんに読み取り機を売り込みに来ることはない。)
しかし、だからといってこれを「委託販売」といってしまうのは、強引に過ぎます。
確かに流通取引慣行ガイドラインでは委託販売には再販売価格拘束は適用されないとされていますが、本件のような場合にまで委託販売になるとしたら、委託販売の範囲が広がりすぎるのではないでしょうか。
ひょっとしたら本件では特に、委託販売っぽいことを裏付ける事情があったのかもしれません。しかし、公表文に書いてないと、読む人には分かりません。
おそらくこのときの公取委の担当の方は、結論としてはOKだけどそのうまい(=先例と矛盾しない)理屈がないので、流通取引ガイドラインの委託販売の例外に飛びついたのではないか、と勘ぐりたくなります。
そのため、一般化すると相当問題のある理由付けになってしまっています。
しかも、ここで委託販売の例外を使うと、(むしろこちらが本来の適用場面ですが)最低再販売価格拘束の場合にまで適法とせざるを得ないことになってしまいます。
独禁法の理屈は、一度理解できればシンプルなことが多いのですが、そこまでに至るのはそれなりに大変なことで、そうすると多くの人はどうしても公取委の発表文や審決を文字通り解釈してしまいがちです。
だからこそ、理由付けにもちゃんと気を配るべきだと思うのです。
さて、本件で理論的に面白いのは②(業界団体による最高価格の決定)の方です。
理屈の上では、上述のように、最高再販売価格拘束は競争促進的なので、業界団体がこれを行っても問題ないという議論も可能なように思えます。
しかし、公取委も、
「読取機の上限価格について,A工業会で取り決めれば,新型自販機の供給価格への転嫁額について決定する際に目安とされ,新型自販機の販売における競争の制限につながることも懸念される」
と指摘しているように、業界団体で決めた価格だと、いくら最高価格だと言い張っても、事実上各社が参照してしまい、価格がその近辺に張り付いてしまう、ということは、現実問題としてあり得るように思います。
(ちなみに、上記引用部分では、今後販売される読み取り機組込済みの新型機に限った判断のような口振りですが、そうなってしまったのはその直前で、
「メーカー10 社が製造する読取機は,それぞれ当該メーカーが製造した自動販売機にのみ取り付け可能であることから,読取機の販売に関して10 社が競争関係に立つとは認められない」
と言い切ってしまったために、(新型自販機ではなく)読み取り機自体については価格の合意をしてもカルテルの成立の余地が無くなってしまったからですね。
でも、読み取り機でも競争しているという理屈はいくらでも考えられるので、こういう自らの首を絞めるような認定をすることもなかったのに、とは思います。
また理屈の問題として、こういう「各ブランドごとに狭い市場が成立する」という発想だと、例えばインクカートリッジについてはプリンタのメーカーごとに市場が成立するという認定につながりがちで、逆の意味で問題です。)
さらに続けて公取委が指摘するように、
「本件取組は,読取機の小売価格が高くなることを回避するためのものであり,当該目的を達成するために,A工業会で読取機の共通の上限価格を取り決める必要性は何ら認められない。」
というのも、全くその通りだと思います。
(なお、こちらは(新型自販機ではなく)読み取り機だけに絞ったような言いぶりになっていますが、「目安にされる」という理屈は、新型自販機でも読み取り機単体でも、等しく当てはまることだろうと思います。)
業界団体で最高価格を決めると、各社の中で一番低い水準ではなくって、一番高い(とまでは言わなくても、ある程度多くの会員が納得できる程度に高めの水準)になってしまうのではないでしょうか。
逆に、業界団体で決めた方が全体として安い水準になるんだということが説得的に示せれば、逆の結論になったかもしれません。
そういう、「抜け駆け(あるいはフリーライド)を防ぐ」という効果を業界団体の行為には期待できると思うのですが、タスポの読み取り機の場合には、そもそも自社の自販機にしか取り付けられないので、そいういった業界団体による効率性というのも考えにくかったのかもしれません。
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