対抗規格に加入しない義務
業界の標準争いをしている場合に、自陣の規格を普及させたいという理由から、対抗規格への参加を制限したくなることがあります。
例えば、(既に決着が付いてしまいましたが)ブルーレイを製造する陣営は、HD DVDを作らないことをお互いに合意する、といったようなことです。
「熾烈な標準争いをしているのに、他陣営の商品を販売するとは何事か!」という心情は理解できないではないですが、このようなことをすると独禁法違反になりかねないので、注意が必要です。
というのは、公取委の「標準化に伴うパテントプールの形成等に関する独占禁止法上の考え方」では、
「②競合規格の排除
標準化活動に参加する事業者が、相互に合理的な理由なく競合する規格を開発することを制限する又は競合する規格を採用した製品の開発・生産等を禁止する(注4)(不当な取引制限、拘束条件付取引等)。」
と規定されているのです(第2-2)。
例外として認められる場合は大きく分けて2つあり、
①競合規格の排除に合理的な理由がある場合、
②(注4)に規定されている場合(実質的には共同研究開発の場合)、
です。
まず(注4)からみていくと、
「(注4)
標準化活動の態様が、少数の競争事業者が非公開で新製品を開発し、競合製品との市場競争を通じて事実上の標準化を目指すなど
実質的に共同研究開発と認められるときには、
このような制限を課すことについても合理的な理由が認められる場合がある(「共同研究開発に関する独占禁止法上の指針」(以下「共同研究開発ガイドライン」という。)第2-2-(1)-ア-⑧⑨、(注14)参照)。」
とされています。
ついでに上記で参照している共同研究開発ガイドラインの「第2-2-(1)-ア-⑧⑨、(注14)」も引用しておくと、以下のとおりです。
「(1)共同研究開発の実施に関する事項
ア 原則として不公正な取引方法に該当しないと認められる事項
〔中略〕
⑧共同研究開発の成果について争いが生じることを防止するため
又は
参加者を共同研究開発に専念させるため
に必要と認められる場合に、
共同研究開発のテーマと極めて密接に関連するテーマの第三者との研究開発を共同研究開発実施期間中について制限すること((1)ウ①参照)
〔注:「(1)ウ①」では、共同研究開発のテーマ以外のテーマの研究開発を制限することが、ここでの(1)ア⑧⑨の場合を除き、不公正な取引方法に該当するおそれが強いとしています(個人的には、不当な取引制限じゃないかという気がしますが)。〕
⑨共同研究開発の成果について争いが生じることを防止するため
又は
参加者を共同研究開発に専念させるため
に必要と認められる場合に、
共同研究開発終了後の合理的期間に限って、
共同研究開発のテーマと同一又は極めて密接に関連するテーマの第三者との研究開発を制限すること((1)ウ①及び②参照)
〔注「(1)ウ②」では、共同研究開発のテーマと同一のテーマの研究開発を共同研究開発終了後について制限することは、ここでの⑨の場合を除いて、不公正な取引方法に該当するおそれが強いとされています。〕」
確かに、このような実質的な共同研究開発の場合(②)には、対抗規格に浮気されたりしたら困りますので(お互いに一生懸命やるとコミットしないと、ただ乗りのインセンティブも起きてきますし)、自陣の規格以外の商品は作らない、というのは合理的(競争促進的)といえるでしょう。
ではもう1つの、①競合規格の排除に合理的な理由がある場合、という例外はどういう場合に認められるでしょうか。
最もイージーで教科書的な例としては、競合規格が安全性に問題があるような場合ですね。
でもこのような例ですら、対抗規格が法律上要求されている安全性すら満たさないというならOKでしょうが、そうでなければ、問題有りとされる可能性も否定できないと思います。
もうちょっと競争法っぽい理由として、
「既に行った多額の投資(補完財への投資を含む)が無駄になる」
というのはどうでしょうか。
たぶん、正当な理由とは認められないでしょうね。
確かに、投資が無駄になることは社会的なロスですが、それは標準間の競争の結果、1つだけの標準が業界標準になっていく過程では仕方のないことです。
そういうロスを防ぐために、早めの規格統一が望まれるわけです。
なので、これも他陣営の技術を採用しない正当理由とはならないでしょう。
さらに微妙な場合として、
「他陣営の規格が業界標準になると、その分野と関連する自社の製品と技術的な干渉を起こして不具合が生じる」
というのはどうでしょうか。
しかし、仮にそう言うことが起こるとしても、その判断は各社で行えばよいことなので、相互に拘束までする必要は無いような気がします。
でも、実際には微妙な場合も出てくるかもしれませんね。
もちろん、「他陣営の規格を採用しないという契約をしたのに、それに違反した」というのは正当な理由になりません。そのような契約自体、独禁法違反ですから。
というわけで、「正当な理由」というのは、実際にはなかなか認められないのではないかという気がします。
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