課徴金対象の差別対価
平成21年改正で課徴金対象となった差別対価の書きぶりが、一見すると何か意味ありげに見えて分かりにくいので、ここで条文の整理しておきます。
まず平成21年改正前の差別対価(旧一般指定3項)は、
「不当に、地域又は相手方により差別的な対価をもって、商品若しくは役務を供給し、又はこれらの供給を受けること」
となっていました。
ただ、同改正前の内容を特定するには改正前の独禁法2条9項1号もみておく必要があるので、改正前の独禁法2条9項1号をみておくと、
「 この法律において不公正な取引方法とは、左の各号の一に該当する行為であつて、公正な競争を阻害するおそれがあるもののうち、公正取引委員会が指定するものをいう。
一 不当に他の事業者を差別的に取り扱うこと。
二 不当な対価をもって取引すること。」
となっていました。
ちょっと分かりにくいですが、1号で「他の事業者を差別的に取り扱う」というのは、例えば違反者が売る側なら、差別的に取り扱われる「他の事業者」というのは買い主なので、不当に高く売ることが問題にされています(いわゆる、「準取引拒絶型差別対価」)。
それに対して2号で「不当な対価をもって取引すること」というのも差別対価に混じっており、典型的には、ライバルの顧客に対してだけ安売り攻勢をかける(そのような安売りが、「不当な対価」)、というのが想定されていました(いわゆる、「略奪廉売型差別対価」)。
次に平成21年改正後の差別対価は、課徴金対象のものが法律に、そうでないものが一般指定に書き分けられました。
つまり、改正後の現行独禁法2条9項2号の差別対価は、
「不当に、地域又は相手方により差別的な対価をもつて、商品又は役務を継続して供給することであつて、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるもの」
であり、
現行一般指定3項の差別対価は、
「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和二十二年法律第五十四号。以下「法」という。)第二条第九項第二号に該当する行為のほか、不当に、地域又は相手方により差別的な対価をもつて、商品若しくは役務を供給し、又はこれらの供給を受けること。」
であるとされています。
現行法2条9項2号では、「継続」してするもの、しかも「供給」する側の差別対価に限って(つまり、差別的な購入価格の設定は除いて)課徴金の対象にされていることは、容易に分かります。
しかし、「他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがある」(独禁法2条2項2号)という要件については、改正前でも同様に解釈されていたのを明確化したに過ぎない、というのが一般的な理解だろうと思います(白石「独占禁止法(第2版)」p176)。
つまり、現行法2条9項2号を反対解釈して、現行一般指定3項の差別対価を、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがないものも含むと解釈するのは誤りである、ということです。
丹念に条文を読んでいる人ほどこういう反対解釈をやりがちなので、注意が必要です。
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