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2012年2月

2012年2月27日 (月)

【お知らせ・その2】「会社法務A2Z」に寄稿しました。

第一法規の雑誌『会社法務A2Z』に、

「優越的地位濫用による初の課徴金納付命令と実務への影響」

という論文を寄稿しました。

本日の日経朝刊1面で広告されています。

山陽マルナカ事件の解説と実務への影響を論じたものですが、これを読んで頂くと、現行の課徴金制度の下では、優越的地位の濫用が場合によってはカルテル以上に企業にとって割に合わないものであることが分かって頂けるのではないかと思います。

掻い摘んでポイントを申し上げますと、優越的地位の濫用の課徴金は、濫用者の得た利益(≒被濫用者の得た損害)と課徴金の額が全くリンクしていない、という問題を、この事例に即して指摘しています。

ご関心のある方は、ぜひご一読下さい!

2012年2月24日 (金)

【お知らせ】Chambers 入選

私の事務所の競争法部門が、Chambers and Partnersの2012年のランキングで、Band 1に入選しました。

私も事務所のKey Individualsの1人として、ちょこっと紹介して頂いております。

昨年に引き続きではありますが、ともあれ、おめでたいことです。

(自分の事務所が入っているのに言うのも何ですが、)ランク入りしている事務所はどこも独禁法では定評のある事務所ばかりですから、独禁法について安心して相談できる事務所を探している方は参考にされてみてはいかがでしょうか。

2012年2月21日 (火)

インターネット広告表示ガイドラインについて

昨年10月28日に消費者庁が公表した、

インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項

について、ちょっと気が付いたことを記しておきます。

同ガイドラインでは、口コミサイトで問題となる事例として、

「グルメサイトの口コミ情報コーナーにおいて、

飲食店を経営する事業者が、

自らの飲食店で提供している料理について、実際には地鶏を使用していないにもかかわらず

『このお店は△□地鶏を使っているとか。さすが△□地鶏、とても美味でした。オススメです!!』

と、

自らの飲食店についての『口コミ』情報として、

料理にあたかも地鶏を使用しているかのように表示すること。」

というのが挙げられています。

この例をみて分かるのは、表示の内容が事実に反する場合に限って景表法違反になるのであって、たんに第三者を装って書き込みをすること自体は景表法違反ではない、というのがどうやら消費者庁の見解だ、ということです。

つまり、上記事例は、

表示: 「△□地鶏(を使っているとか。)」

実際: 地鶏を使っていない。

という齟齬が、有利誤認(景表法4条1項1号)だ、というわけです。

これに対して、たんに第三者の口コミを装って投稿すること(表示の主体を偽ること)は、有利誤認ではない、ということです。

ですので、口コミを装っても、具体的な事実に触れることなく漠然と、

「とっても美味しかったです。」

と投稿するだけでは、景表法違反にはならないでしょう。

(理屈の上では、実際にはとっても不味い料理を「とっても美味しかった」と表示すれば

「実際のものよりも著しく優良であると示し」(景表法4条1項1号)

に該当し得ますが、美味しいか不味いかの基準は人それぞれなので、この程度の漠然とした表示で有利誤認というのは無理でしょう。)

でも、素朴な感情からすれば、この手の「やらせ」の投稿で何が一番問題かといえば、まさに、利害関係のない第三者の口コミであるかのような振りをしてお店自身が書き込みをした点にあるので、その意味で、どうもこのガイドラインの事例は、ちょっと的が外れているような気がします。

そもそも素材に何を使っているのかはお客さんには分からないはずのことで(お客さんは店の言うことを信じるしかない)、口コミで、

「このお店は△□地鶏を使っているとか。」

と書いたって、もともと信憑性は低いはずです(設例では、「とか」なので、さらに伝聞っぽいですし)。

むしろ、(真面目に商売をしている世の中の多くのお店を前提とする限り)お店自身が地鶏を使っているというからこそ、お客さんは信じるのであって、口コミサイトだけをみて「地鶏を使ってるんだ」信じるほうがおかしいと思います。

逆に、

「とても美味でした。」

というのは、お店自体が言っても何の信頼性もないでしょう。

(理論的には、口コミサイトの「美味でした」という投稿の信頼性だって、「地鶏使ってます」という「口コミ」と同程度に怪しいものであるはずですが、少なくともお店自身の広告に「美味です」と書くよりは、口コミサイトのコメントのほうが信用できそうに見えるでしょう。)

というように、ガイドラインの設例は、本来規制すべきこと(第三者へのなりすまし)については不問にして、もともと信頼性の低い表示(第三者による使用食材の食材)の虚偽性を問題にしており、どこかずれた感じがするのです。

とはいえ、景表法の解釈としては、これでやむを得ないのでしょう。

というのは、景表法で禁止される不当表示というのは、

「商品又は役務の品質、規格その他の内容について・・・実際のものよりも著しく優良である」

と示すことなので(つまり、「内容」の偽りが問題なのであって)、主体の偽りは問題にしていない(というより、主体は「事業者」であることが明示されてしまっている)からです。

なので、口コミサイトへのなりすまし投稿(第三者にお店が依頼する場合も含む)を規制するためには、景表法4条1項3号(「商品又は役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認めて内閣総理大臣が指定するもの 」)として内閣総理大臣が指定するほかないと思います。

指定すべきかどうかの判断は、

「所詮口コミサイトなんてその程度のものなのだから、法律で規制するまでもない」

と考えるか、

「やっぱりサクラの投稿は許せない!」

と考えるか、の違いでしょう。

また、テレビ通販とかで、あたかも体験談のような演出をしつつ役者に効能が優れていると語らせるのとどう違うのか?と考えれば、インターネットだけ厳しい規制をするのは不適当、ということになるのでしょう。

個人的には、やっぱりビジネスは正直ベースでやるべきだと思いますので、指定に賛成です。口コミサイトの信頼性を上げたい方は、ぜひ、政治家の方に働きかけてみてはいかがでしょうか。

あと余談ですが、このガイドラインでは、インターネットのサービス提供は「限界費用が低い」と、ちょっと経済学チックな書きぶりをしてたり、米国FTCのガイドライン(「広告における推薦及び証言の使用に関するガイドライン」"Guides Concerning the Use of Endorsements and Testimonials in Advertising")に言及していたり、公取委出身の表示課の人ががんばっているのが垣間見えて、個人的には嬉しいです。

ぜひ、消費者庁全体を公取委に再度飲み込むくらいの勢いで、がんばって頂きたいものです。

2012年2月20日 (月)

課徴金対象の差別対価

平成21年改正で課徴金対象となった差別対価の書きぶりが、一見すると何か意味ありげに見えて分かりにくいので、ここで条文の整理しておきます。

まず平成21年改正前の差別対価(旧一般指定3項)は、

「不当に、地域又は相手方により差別的な対価をもって、商品若しくは役務を供給し、又はこれらの供給を受けること」

となっていました。

ただ、同改正前の内容を特定するには改正前の独禁法2条9項1号もみておく必要があるので、改正前の独禁法2条9項1号をみておくと、

「 この法律において不公正な取引方法とは、左の各号の一に該当する行為であつて、公正な競争を阻害するおそれがあるもののうち、公正取引委員会が指定するものをいう。

一 不当に他の事業者を差別的に取り扱うこと。

二 不当な対価をもって取引すること。」

となっていました。

ちょっと分かりにくいですが、1号で「他の事業者を差別的に取り扱う」というのは、例えば違反者が売る側なら、差別的に取り扱われる「他の事業者」というのは買い主なので、不当に高く売ることが問題にされています(いわゆる、「準取引拒絶型差別対価」)。

それに対して2号で「不当な対価をもって取引すること」というのも差別対価に混じっており、典型的には、ライバルの顧客に対してだけ安売り攻勢をかける(そのような安売りが、「不当な対価」)、というのが想定されていました(いわゆる、「略奪廉売型差別対価」)。

次に平成21年改正後の差別対価は、課徴金対象のものが法律に、そうでないものが一般指定に書き分けられました。

つまり、改正後の現行独禁法2条9項2号の差別対価は、

「不当に、地域又は相手方により差別的な対価をもつて、商品又は役務を継続して供給することであつて、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるもの」

であり、

現行一般指定3項の差別対価は、

「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和二十二年法律第五十四号。以下「法」という。)第二条第九項第二号に該当する行為のほか、不当に、地域又は相手方により差別的な対価をもつて、商品若しくは役務を供給し、又はこれらの供給を受けること。」

であるとされています。

現行法2条9項2号では、「継続」してするもの、しかも「供給」する側の差別対価に限って(つまり、差別的な購入価格の設定は除いて)課徴金の対象にされていることは、容易に分かります。

しかし、「他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがある」(独禁法2条2項2号)という要件については、改正前でも同様に解釈されていたのを明確化したに過ぎない、というのが一般的な理解だろうと思います(白石「独占禁止法(第2版)」p176)。

つまり、現行法2条9項2号を反対解釈して、現行一般指定3項の差別対価を、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがないものも含むと解釈するのは誤りである、ということです。

丹念に条文を読んでいる人ほどこういう反対解釈をやりがちなので、注意が必要です。

2012年2月17日 (金)

【お知らせ】『実務解説独占禁止法』(第一法規)の編集委員になりました。

この度、第一法規さんからお声かけ頂き、『実務解説独占禁止法』という加除式の書籍の編集委員を務めさせて頂くことになりました。

加除式(定期的に、アップデートした部分を差し替える)ですので、個人の方が気軽に買えるものではありませんが、何より加除式というのは、

「これからもアップデートしていく」と出版社がコミットしている

ことが重要で、そういうところに、通常の書籍とは違った社会的価値があるのだと思います。

そのように考え、お引き受けしました。

少しでもお役に立てるよう、がんばります。

2012年2月16日 (木)

ラムバス(Rambus)事件米国高裁判決の疑問

知的財産権にかかわる標準化と独禁法の関係について判断した有名なアメリカの判決に、ラムバス事件判決(2008年)というのがあります。

Rambus Inc. v. FTC, 522 F. 3d 456 (D.C. Cir. 2008)

どういう事件かと言うと、ラムバス社が、JEDECという標準化団体に参加しながら、当時JEDECで議論されていたDRAMに関する標準に含まれる技術に関して自社が特許権を持っていた(あるいは出願中であった)のを隠して、まんまと自社の特許技術を標準に採用させ、その後高額なライセンスを請求した、というものです。

いわゆる特許の待ち伏せ(patent ambush)というものです。

これに対して米国FTCが、FTC法5条違反(独占化)で訴追しました。

ワシントンDCの控訴審は、ラムバス社の行為によって同社の技術が標準に採用されたとの立証がなされていない、という理由で、ラムバス社勝訴の判決を下しました。

要するに、ラムバス社の行為と結果の間に因果関係がない、ということですね。

別の言い方をすれば、もしラムバス社が自社の特許の存在を知らせていても標準に採用されたんじゃないか、それくらいラムバス社の技術は優れたものだったんじゃないか、ということです。

しかし、この判断はおかしいと、私は思います。

確かに、ラムバス社の行為が無くても、同社の特許が標準に採用されたかもしれません。

しかし、もしラムバス社が特許を開示していれば、少なくとも、JEDECでの交渉でロイヤリティがもっと安くなった可能性があるのは明らかです。

少なくとも、まったく交渉の余地がなかった(その原因は、たぶんラムバス社の行為があったため)場合と、交渉した場合とで、結論が多少なりとも異なった可能性があることは、経験則上明らかだと思います。

さらに標準化の文脈で言えば、標準に採用された後は、採用された技術の所有者は明らかに交渉上有利に立つので、この経験則はより一層明らかだと思います。

それにもかかわらず、「ラムバスの行為が無くても標準に採用された可能性がある」という理由で、因果関係を否定して責任を否定する、というのは、おかしな議論だと思います。

「あれなければこれなし」という因果関係の問題を考える場合には、常に、反事実的条件(counterfactuals)といいますか、ベンチマークが何なのかを見極めないと、議論が混乱します。

高裁は、因果関係の問題を

ラムバスの行為がなければ同社の特許が標準に採用されなかった

と捉えていますが(その結果、因果関係を否定)、

もし因果関係の問題を、

ラムバスの行為がなければ同社のロイヤリティはもっと安くなった、

と捉えれば、因果関係は認められたのではないか、ということです。

しかし、このような判断を高裁がしてしまったのは、突き詰めると、アメリカでは、欧州型のいわゆる搾取的濫用が規制されていないことが影響しているのではないかと思われます。

つまり、アメリカでは、適法に独占的地位を取得した者は、いくら高いロイヤリティを請求しても良い、ということになっています。

(ただ、いくら独占者でも無制限に高額なロイヤリティを請求すればだれもライセンスを受けなくなるので、一定の限度(=限界費用と限界収入の等しくなる水準)に価格は収まることには注意が必要です。そういう割り切りがあると、高いロイヤリティへの嫌悪感もちょっと和らぎます。)

ですので、独占化(シャーマン法2条)で違法となるためには、

ラムバスの欺瞞行為がなければ、(適切な交渉の結果)ロイヤリティがもっと安かったはず、

というのではなくて、

ラムバスの欺瞞行為がなければ、他の技術が標準になっていた、

ことを立証しなければならなくなるのです。

搾取的濫用を認めないと論理必然に他技術の排除の立証が必要になるのかはよく分かりませんが(個人的には、必ずしも論理必然ではない気がします)、単純な発想としては分からないではありません。

この論点に限りませんが、米国の反トラスト法は、このような、「ゼロか100か」みたな発想が強くて、中庸の50あたりを探る発想が乏しいように思います。

しかし、アメリカのような、「いったん適法に独占的地位を取得した以上は、いくら高額のロイヤリティを請求しても構わない」という立場に立ったとしても、ラムバスの高裁判決はおかしいと思います。

というのは、そもそも標準化手続に参加しながら自社の特許を隠して自らの特許を標準に採用させてしまうのは、独占的地位の「適法」な取得とはいえない、と構成すれば足りるからです。

標準化の文脈において、ライセンシーが埋没費用を負担してしまった後に(事後的に)ロイヤリティの交渉を認めるといかにライセンサーに不当なマーケットパワーが生じるかということは、

Farrell, Hayes, Shapiro, and Sullivan, "Standard Setting, Patents, and Hold-up"

という論文を読むとよく分かります。この論文も、ラムバス判決を強く批判しています。

それから、事実上の標準の場合を見ても分かるように、ある技術が標準に採用されるか否かは、どの技術が優れているかという点以外の事情(場合によっ ては政治的な理由)で決まることも多いので、「ラムバスの欺瞞行為がなければ他の技術が標準になっていた」という立証は、実は結構大変で、この点もこの判 決も問題点です(ただ、上述の、埋没費用支出後の交渉という点に比べれば、本質的な問題では無いと思います)。

また、ラムバスはそもそもJEDECのパテントポリシーに違反していない、ともこの判決は述べています。

しかし、この点も非常におかしくて、そもそもパテントポリシー違反を独占化の要件と考える必然性は無いと思います(独占化の要素の一つくらいにはなるでしょうが)。パテントポリシーは基本的には民法上の契約の話なので、特許の待ち伏せのような独禁法上の問題(反競争的効果)はまた別に評価すべきです。

そうしないと、なんとかポリシーの抜け穴を探してやろうという企業が出てきかねません。

アメリカでは契約書を文言に忠実に解釈する傾向が強いですが、この高裁判決も、そういう発想に影響を受けているような気がします。

ちなみにその後欧州では、2009年にラムバス社がロイヤリティの減額に応じる内容で、欧州委員会決定がなされています。

2012年2月15日 (水)

事業者団体による最高再販売価格拘束(平成17年度事例集16)

公取委の相談事例に、

①たばこ自動販売機のメーカーの団体が、会員メーカーが製造するタスポ読み取り機の再販売価格について共通の上限価格を設定することが、独占禁止法上問題となるおそれがある、

②メーカー各社が独自に上限価格を設定することは独禁法上問題にならない、

とされた事例があります(平成17年度相談事例集16)。

(ちなみに、相談事例集は前年度(ここでは平成17年度)に回答したものが翌年(ここでは平成18年6月)に出されるので、ちょっとややこしいです。)

この相談事例は、最高再販売価格拘束についての公取委の公式判断自体があまり多くないことに加えて、それが業界団体によって行われたということで、いろいろと興味深いです。

まず、各社が独自に最高再販売価格を設定する場合(②)について考えると、私は、一般的に、最高再販売価格が独禁法違反になることはほとんどないと考えています。

特定価格や最低価格を指定するのと違って、最高価格の指定に過ぎない場合には、販売店はいくらでも安く売ることは制限されず、競争が制限されないからです。

また、小売段階に市場支配力がある場合に二重限界化(要するに、競争価格よりも大きなマージンを小売店が目指す結果、メーカーが利益を最大化できる水準よりも小売価格が上がって、その裏返しで供給量が減ること)を防ぐ、という機能も最高再販売価格拘束にはあり、競争促進的といえます。

本相談事例でも、公取委は、各社が単独でやる限りは最高再販売価格拘束は独禁法に違反しないといっています(②)。

しかし、その理由付けはちょっと、というかかなり問題です。

ちょっと長いですが公取委回答を引用すると、

「自動販売機メーカーが読取機の供給価格に上限を設定することは,外形上はディーラーの再販売価格を拘束するおそれのある行為である

しかしながら,本件ディーラー〔=自販機販売業者〕は,既存の取引先小売業者に対して当該読取機を供給するにとどまり,実質的には,自動販売機メーカーが自ら小売業者に供給する業務をディーラーに委託しているものと同様と認められる

したがって,自動販売機メーカーがディーラーに対して,取引先小売業者に読取機を供給する際の価格の上限を定めても,ディーラー間の競争を阻害するおそれがあるとは認められず,独占禁止法上の問題を生じるものではない。」

といっています。

まず最初の下線部は、要するに、

「最高再販も再販だ」

ということを言っています。

「外形上は」というのは、

「再販の行為要件は満たす(けど、公正競争阻害性は満たさないかもね)」

という考慮の跡が透けて見えます。

問題は2つめの下線部(「既存の~」)で、要するに、

「ディーラー〔注:各自販機メーカーの傘下には複数のディーラーがあります〕は既存の取引先であるたばこ屋さんにしか読み取り機を供給しないから、実質的には委託販売だ」

といっています。

確かに、おそらくたばこ屋さんに読み取り機を販売するのは、そのたばこ屋さんに自動販売機を販売して、日々のメンテナンスやらを行っているディーラーであることが多いのでしょう。(つまり、同じメーカー傘下の隣町のディーラーが、そのたばこ屋さんに読み取り機を売り込みに来ることはない。)

しかし、だからといってこれを「委託販売」といってしまうのは、強引に過ぎます。

確かに流通取引慣行ガイドラインでは委託販売には再販売価格拘束は適用されないとされていますが、本件のような場合にまで委託販売になるとしたら、委託販売の範囲が広がりすぎるのではないでしょうか。

ひょっとしたら本件では特に、委託販売っぽいことを裏付ける事情があったのかもしれません。しかし、公表文に書いてないと、読む人には分かりません。

おそらくこのときの公取委の担当の方は、結論としてはOKだけどそのうまい(=先例と矛盾しない)理屈がないので、流通取引ガイドラインの委託販売の例外に飛びついたのではないか、と勘ぐりたくなります。

そのため、一般化すると相当問題のある理由付けになってしまっています。

しかも、ここで委託販売の例外を使うと、(むしろこちらが本来の適用場面ですが)最低再販売価格拘束の場合にまで適法とせざるを得ないことになってしまいます。

独禁法の理屈は、一度理解できればシンプルなことが多いのですが、そこまでに至るのはそれなりに大変なことで、そうすると多くの人はどうしても公取委の発表文や審決を文字通り解釈してしまいがちです。

だからこそ、理由付けにもちゃんと気を配るべきだと思うのです。

さて、本件で理論的に面白いのは②(業界団体による最高価格の決定)の方です。

理屈の上では、上述のように、最高再販売価格拘束は競争促進的なので、業界団体がこれを行っても問題ないという議論も可能なように思えます。

しかし、公取委も、

「読取機の上限価格について,A工業会で取り決めれば,新型自販機の供給価格への転嫁額について決定する際に目安とされ,新型自販機の販売における競争の制限につながることも懸念される」

と指摘しているように、業界団体で決めた価格だと、いくら最高価格だと言い張っても、事実上各社が参照してしまい、価格がその近辺に張り付いてしまう、ということは、現実問題としてあり得るように思います。

(ちなみに、上記引用部分では、今後販売される読み取り機組込済みの新型機に限った判断のような口振りですが、そうなってしまったのはその直前で、

「メーカー10 社が製造する読取機は,それぞれ当該メーカーが製造した自動販売機にのみ取り付け可能であることから,読取機の販売に関して10 社が競争関係に立つとは認められない」

と言い切ってしまったために、(新型自販機ではなく)読み取り機自体については価格の合意をしてもカルテルの成立の余地が無くなってしまったからですね。

でも、読み取り機でも競争しているという理屈はいくらでも考えられるので、こういう自らの首を絞めるような認定をすることもなかったのに、とは思います。

また理屈の問題として、こういう「各ブランドごとに狭い市場が成立する」という発想だと、例えばインクカートリッジについてはプリンタのメーカーごとに市場が成立するという認定につながりがちで、逆の意味で問題です。)

さらに続けて公取委が指摘するように、

「本件取組は,読取機の小売価格が高くなることを回避するためのものであり,当該目的を達成するために,A工業会で読取機の共通の上限価格を取り決める必要性は何ら認められない。」

というのも、全くその通りだと思います。

(なお、こちらは(新型自販機ではなく)読み取り機だけに絞ったような言いぶりになっていますが、「目安にされる」という理屈は、新型自販機でも読み取り機単体でも、等しく当てはまることだろうと思います。)

業界団体で最高価格を決めると、各社の中で一番低い水準ではなくって、一番高い(とまでは言わなくても、ある程度多くの会員が納得できる程度に高めの水準)になってしまうのではないでしょうか。

逆に、業界団体で決めた方が全体として安い水準になるんだということが説得的に示せれば、逆の結論になったかもしれません。

そういう、「抜け駆け(あるいはフリーライド)を防ぐ」という効果を業界団体の行為には期待できると思うのですが、タスポの読み取り機の場合には、そもそも自社の自販機にしか取り付けられないので、そいういった業界団体による効率性というのも考えにくかったのかもしれません。

2012年2月 8日 (水)

企業結合課のホンネ

今回書くことは、私の想像がかなり混じっていますので、そのようなものだと割り引いて読んで下さい(とはいえ、実務的な経験に基づくものではあるのですが)。

企業結合の届出をしていて、企業結合ガイドラインの考え方を文字通りに当てはめていくと、当事会社のシェアがとても高くなってしまうことがあります。

でも実質的に考えると、どう考えても市場支配力が生じるとは思えない、という場合があります。

例えば、狭い一地方でみると、当事会社2社しか同業者がいないけれど、全国にはもっと大規模な競合他社がいくらでもある、というような場合です。

このような場合、企業結合課の担当者の方も、本音では、うまいこと説明を付けて一次審査ですんなりと終わらせたい、できればセーフハーバーを満たすという理由できれいに終わらせたい、と考えているはずです。

ですので、当事会社がうまいこと説明をすると、すんなり認めてくれたりする傾向があるように思います。

具体的には申し上げにくいですが、むしろ公取委の担当者の方の方から、

「市場画定はこういう考え方もできますよね。」

といって、当事会社のシェアが下がる方向での市場画定を示唆されたりすることが、実際あります。

このような、公取委の本音を探りながら、上手いこと理屈を考えるのも独禁法弁護士の仕事ではないかと思います。

しかし、こういうことが期待できるのも、結論が明らかに先に見えている場合なので、実質的に問題がある可能性のある案件を小手先のテクニックで通すのは、不可能とはいえないまでも、やはり簡単ではありません。

結局、独禁法をよく理解した、先が見通せる弁護士に依頼するのが得策だろうと思います。

2012年2月 6日 (月)

事業の一部譲渡とHHIの増分

合併の場合のハーフィンダールハーシュマン指数(HHI)の計算方法の便法として、両当事会社のシェアを掛けて2倍する、という方法があります。

(HHIの増分が重要なのは、他社のシェアが分からないためにHHIを計算できなくてもHHIの増分だけは当事者のシェアから計算でき、そこからセーフハーバーに該当するかどうか判定できる場合があるからです。)

例えば、シェア20%の会社とシェア15%の会社が合併する場合のHHIの増分(合併前と合併後のHHIの差)は、

20×15×2=600

となります。

この理屈は、

(a+b)^2=a^2+2ab+b^2

という、高校数学で習う公式ですね。

つまり、合併当事者以外のシェアは合併前後で変わらないので、HHI増分は合併前後で《当事会社のシェアの2乗》を比べれば良いわけで、

合併前の2社のシェアの2乗=a^2+b^2

合併後の2社のシェアの2乗=(a+b)^2

故に、HHIの増分=(a+b)^2-(a^2+b^2)

=2ab

となるわけです。

しかし、事業の一部譲渡の場合はこの公式は使えません。

例えば、A社のシェアが20%、B社のシェアが15%のときに、A社が、10%分(半分)だけの事業を譲渡したら、HHIの増分はどうなるでしょうか。

この場合に、先ほどの、両社のシェアの2倍という公式を使うと、

HHI増分=10×15×2=300

となりそうですが、これは間違いです。

きちんと計算するとわかるのですが、この場合のHHIの増分は、

HHI増分=(譲渡後の2社のシェアの2乗)-(譲渡前の2社のシェアの2乗)

={(20-10)^2+(15+10)^2}-(20^2+15^2)

=725-625

=100

となります。

一般化すると、

A社のシェアがa%、B社のシェアがb%で、A社の事業のうちc%分だけをB社に譲渡する、という場合を考えると(c≦a)、

HHIの増分={(a-c)^2+(b+c)^2}-(a^2+b^2)

=2c{b-(a-c)}

となります。。。

(c=aだと、ちゃんとHHI増分=2abになりますね。)

覚えるのも面倒なので、地道に計算した方が良さそうですね。

2012年2月 3日 (金)

対抗規格に加入しない義務

業界の標準争いをしている場合に、自陣の規格を普及させたいという理由から、対抗規格への参加を制限したくなることがあります。

例えば、(既に決着が付いてしまいましたが)ブルーレイを製造する陣営は、HD DVDを作らないことをお互いに合意する、といったようなことです。

「熾烈な標準争いをしているのに、他陣営の商品を販売するとは何事か!」という心情は理解できないではないですが、このようなことをすると独禁法違反になりかねないので、注意が必要です。

というのは、公取委の「標準化に伴うパテントプールの形成等に関する独占禁止法上の考え方」では、

「②競合規格の排除

標準化活動に参加する事業者が、相互に合理的な理由なく競合する規格を開発することを制限する又は競合する規格を採用した製品の開発・生産等を禁止する(注4)(不当な取引制限、拘束条件付取引等)。」

と規定されているのです(第2-2)。

例外として認められる場合は大きく分けて2つあり、

①競合規格の排除に合理的な理由がある場合、

②(注4)に規定されている場合(実質的には共同研究開発の場合)、

です。

まず(注4)からみていくと、

「(注4)

標準化活動の態様が、少数の競争事業者が非公開で新製品を開発し、競合製品との市場競争を通じて事実上の標準化を目指すなど

実質的に共同研究開発と認められるときには、

このような制限を課すことについても合理的な理由が認められる場合がある(「共同研究開発に関する独占禁止法上の指針」(以下「共同研究開発ガイドライン」という。)第2-2-(1)-ア-⑧⑨、(注14)参照)。」

とされています。

ついでに上記で参照している共同研究開発ガイドラインの「第2-2-(1)-ア-⑧⑨、(注14)」も引用しておくと、以下のとおりです。

「(1)共同研究開発の実施に関する事項

ア 原則として不公正な取引方法に該当しないと認められる事項

〔中略〕

⑧共同研究開発の成果について争いが生じることを防止するため

又は

参加者を共同研究開発に専念させるため

に必要と認められる場合に、

共同研究開発のテーマと極めて密接に関連するテーマの第三者との研究開発を共同研究開発実施期間中について制限すること((1)ウ①参照)

〔注:「(1)ウ①」では、共同研究開発のテーマ以外のテーマの研究開発を制限することが、ここでの(1)ア⑧⑨の場合を除き、不公正な取引方法に該当するおそれが強いとしています(個人的には、不当な取引制限じゃないかという気がしますが)。〕

⑨共同研究開発の成果について争いが生じることを防止するため

又は

参加者を共同研究開発に専念させるため

に必要と認められる場合に、

共同研究開発終了の合理的期間に限って、

共同研究開発のテーマと同一又は極めて密接に関連するテーマの第三者との研究開発を制限すること((1)ウ①及び②参照)

〔注「(1)ウ②」では、共同研究開発のテーマと同一のテーマの研究開発を共同研究開発終了後について制限することは、ここでの⑨の場合を除いて、不公正な取引方法に該当するおそれが強いとされています。〕」

確かに、このような実質的な共同研究開発の場合(②)には、対抗規格に浮気されたりしたら困りますので(お互いに一生懸命やるとコミットしないと、ただ乗りのインセンティブも起きてきますし)、自陣の規格以外の商品は作らない、というのは合理的(競争促進的)といえるでしょう。

ではもう1つの、①競合規格の排除に合理的な理由がある場合、という例外はどういう場合に認められるでしょうか。

最もイージーで教科書的な例としては、競合規格が安全性に問題があるような場合ですね。

でもこのような例ですら、対抗規格が法律上要求されている安全性すら満たさないというならOKでしょうが、そうでなければ、問題有りとされる可能性も否定できないと思います。

もうちょっと競争法っぽい理由として、

「既に行った多額の投資(補完財への投資を含む)が無駄になる」

というのはどうでしょうか。

たぶん、正当な理由とは認められないでしょうね。

確かに、投資が無駄になることは社会的なロスですが、それは標準間の競争の結果、1つだけの標準が業界標準になっていく過程では仕方のないことです。

そういうロスを防ぐために、早めの規格統一が望まれるわけです。

なので、これも他陣営の技術を採用しない正当理由とはならないでしょう。

さらに微妙な場合として、

「他陣営の規格が業界標準になると、その分野と関連する自社の製品と技術的な干渉を起こして不具合が生じる」

というのはどうでしょうか。

しかし、仮にそう言うことが起こるとしても、その判断は各社で行えばよいことなので、相互に拘束までする必要は無いような気がします。

でも、実際には微妙な場合も出てくるかもしれませんね。

もちろん、「他陣営の規格を採用しないという契約をしたのに、それに違反した」というのは正当な理由になりません。そのような契約自体、独禁法違反ですから。

というわけで、「正当な理由」というのは、実際にはなかなか認められないのではないかという気がします。

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