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2012年1月23日 (月)

合併協議中の会社が行う受注の調整

合併(事業譲渡や子会社化等も含む広い意味です)を発表した会社が、発表後、合併が完了する前に、同じ顧客から見積の依頼を受けたり、入札への参加を求められたりすることがあります。

この場合、合併当事者の立場からすると、

「近い将来同じ会社になるのだし、今回の入札(見積合わせ)は、一方は辞退しよう(辞退したい)」

と考えることが、時々あります。

あるいは逆に、原材料を安定調達したい顧客の側から、

「おたくたちは同じ会社になるんだから、(合併完了前でも)どちらかは入札を辞退して下さい。」

とか、

「おたくたちは同じ会社になるんだから、発注量は、これまでの半分に減らします。」

と言われることがあります。

お客さんの方から一方的に入札への参加を断ってきたり、発注量を減らしてきたりするのは仕方のないことなので、独禁法の問題ということもないのですが、そうではなくて、合併当事者間で話し合って入札への参加や見積合わせの価格を調整することは、独禁法上問題ないのでしょうか。

これは、いわゆるガンジャンピング(gun-jumping =和製英語で「フライング」)といわれる問題の1つです。

「近い将来合併するとはいえ、まだ合併前なのだから、両社で受注調整とかをするのはカルテルだ」

という問題意識ですね。

さて、この問題がどのくらい重大な問題なのかは、もっぱら日本の独禁法だけが問題になる場合なのか、アメリカの独禁法(反トラスト法)が問題になる場合(典型的には、顧客がアメリカ企業の場合)なのかで、だいぶ異なります。

まず、もっぱら国内だけが問題になる(日本の独禁法だけが問題になる)場合については、合併当事者のシェアが高くない限り、あまり心配することはありません。

というのは、日本では、アメリカと異なり、カルテル(=不当な取引制限)でも、競争が実質的に制限される場合に限って、初めて違法となります。

ですので、当事者のシェアが極めて低い場合には、受注調整などをしても、競争を実質的に制限することは通常できないので、違法にはなりません。

さらにいえば、日本では、企業結合も不当な取引制限も、違法となる基準が「競争の実質的制限」なので、結果的に公取委がOKするような企業結合なら、当事者間で合併前にいくら調整をしても構わないのではないか、という気さえします。

しかし、実務的にはそれは割り切りすぎで、企業結合の審査中はまだ結果が出ていないので安全サイドで進めるべきです。

また、より本質的な問題としては、

企業結合の審査は市場全体の競争を一般的に分析して将来の競争制限の可能性について判断する

のに対して、

不当な取引制限の審査は個別の行為について具体的に事実を見て違法かどうかを判断する

ので、企業結合はOKだけどその前の調整行為は違法だ、ということは現実的に起こりうると思うのです。

ですが、当事者のシェアが微々たるものである場合には、日本では合併実行前の調整行為が問題視される心配はないと思うのです。

これに対して、アメリカの反トラスト法が問題になる場合は、そうは行きません。

アメリカでは、カルテルは当然違法である(シェアや、市場へのインパクトにかかわらず違法である)という考え方が採られており、このことは、合併協議中の当事者であっても異ならない、というのが当局の見解のようです。

そのことが、有名な「The Rhetoric of Gun-Jumping」という、FTCのジェネラルカウンセルのスピーチで述べられています。

ですので、アメリカの反トラスト法が問題になる事案では、たとえ合併契約締結後であっても、合併実行までは、独立の当事者として競争し続けないといけない、ということになります。

さらに細かいことを言えば、合併が当局に承認された後であっても、合併を実行(クローズ)するまでは、やはり調整をしてはいけない、ということになります。

なお、以上の問題は、直接の合併当事者間で問題になることもあれば、合併の当事者の子会社間でも問題になります。

ですので、合併協議をしている親会社は、子会社の活動についても目を光らせておく必要があります。

理屈の上では当然のことですが、特にたくさんの子会社を抱える大企業では個別の子会社までは目が行き届かないということがあり得るので(特に、子会社の事業が親会社の事業と直接関係なかったり、非中核的な事業であったりする場合)、ご注意下さい。

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