優越的地位濫用が「なくなる日」(独禁法20条の6)とは
優越的地位濫用に対する課徴金は、
「当該行為をした日」
から、
「当該行為がなくなる日」
までの期間(最大3年間)の取引額を基準に算定されます(独禁法20条の6)。
では、ここでの
「当該行為がなくなる日」
というのは、いつのことを指すのでしょうか。
文言解釈からすれば、優越的地位濫用行為をした最後の日の翌日、というのが素直だと思われます。
しかし、山陽マルナカ事件の課徴金納付命令を見る限り、どうやら公取委はそのような見解には立っていないように思われます。
つまり、同事件では、2010年5月18日に立入検査が行われましたが、公取委が認定した「当該行為がなくなる日」は、課徴金納付命令によると、
「平成22年〔2010年〕5月19日以降、当該違反行為をやめており」
と認定しています。
つまり、立入検査の当日まで、「当該行為」が行われていた、という認定になっています。
そこで、同事件の排除措置命令を見ると、山陽マルナカの違反行為としては、
①従業員等の派遣、
②催事等の実施に際しての金銭提供要請、
③「見切り基準」を超えた商品の返品、
④代金減額、
⑤クリスマスケーキ等の購入強制、
といった5つの行為が認定されています。
例えばもし、立入検査のまさに当日である2010年5月18日にたまたま従業員の派遣が行われていたなら、「当該行為がなくなる日」が2010年5月19日であるとされるのは当然です。
しかし、どうもそうではなさそうです。
というのは、排除措置命令で各行為の期間をみると、
①従業員の派遣: 2007年1月~2010年5月、
②金銭提供要請: 2007年4月~2010年4月、
③代金減額: 2009年3月~同年8月、
とされています(厳密には、それぞれの期間内に、濫用行為のきっかけとなる新規開店等があった、ということですが)。
ひょっとしたら、2010年5月18日に、たまたま従業員の派遣を受けていた(2条9項5号ロの「役務その他の経済上の利益を提供させること」に該当)のかも知れません。
しかし、課徴金納付命令を見る限り、そのような厳密な認定がなされた形跡はありません。
②の金銭提供要請は、「金銭・・・を提供させること」(2条9項5号ロ)なので、金銭を受領した日が「当該行為をした日」(20条の6)であり、従業員派遣の受け入れのような時間的幅のある行為ではないので、ますます2010年5月18日に金銭受領があったのか、怪しくなります。
③の代金減額に至っては、2009年8月の全面改装に伴うものが最後で、2010年5月18日に減額(具体的には、減額した代金の支払い)があったとは、とうてい思われません。
どうも公取委は、ざっくりと、「立入検査の当日までは濫用行為をやめるような決定はなされていなかった」ということで、「当該行為がなくなる日」を認定しているような気がします。
しかし、それでよいのでしょうか。
これが不当な取引制限の場合なら、不当な取引制限では基本合意が違反行為であると考えられているので、基本合意が破棄されない限り、
「当該行為がなくなる日」(7条の2第4項)
は到来していない、と解釈することも合理的だと思います。
しかし、優越的地位濫用の場合には、そのような「基本合意」的なものは存在しません。
あるとすれば、漠然とした、「濫用をしている状態」だけだと思います。
しかし、「当該行為がなくなる日」という同じ文言を使っているからといって、不当な取引制限の解釈に引きずられて、優越的地位濫用の場合まで立入検査の当日まで違反行為が行われていたと認定するのは、余りに文言無視ではないでしょうか。
そもそも基礎になる事実が異なるのに同じ文言を使ってしまったところに立法論的な問題があるのですが、法律ができてしまった以上は、文言に従った解釈をすべきではないかと思います。
このような次第ですので、単に違反行為をしていないだけでは、「当該行為がなくなる日」が到来したとは認定されないおそれがあります。
ですので、企業が違反事実を発見した場合には、消極的に違反行為をやめるだけでは充分でなく、
①優越的地位濫用をやめる旨取締役会決議をする、
②違反事実があったことと、今後はやめることを従業員や取引先に周知する、
③場合によっては公取委に自主的に申告する、
といったことが必要になるように思われます。
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