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2012年1月

2012年1月31日 (火)

「○○を認めないと、そもそも取引が起こらなくなる」という議論の危うさ

今回は良いタイトルが思いつかないのですが、言いたいことはこういうことです。

例えば特許権のライセンス契約において、改良技術をライセンシーからライセンサーにライセンスする条項(グラントバック条項)が競争法上問題ないかを議論するときに、グラントバック条項を養護する立場から、

「グラントバックを認めないと、ライセンシーが最も有力な競争者になることを恐れて、そもそもラインセンサーがライセンスをする気がなくなる。だからグラントバックはむしろ競争促進的だ。」

とか、

「グラントバックを認めることで、元のライセンスのロイヤリティが割安になる。だからグラントバックを認めることはライセンシーにもメリットがある。」

という主張がなされることがあります。

このような議論は知的財産権のライセンスに関係してなされることが多いですが(例えば、非係争条項(NAP)など)、別にそれに限ったことではありません。

例えば、独占的な代理店契約(代理店は当該メーカーの製品だけを売り、他のメーカーの競合商品を売ってはいけない)を養護する立場から、

「独占的契約を認めないと、代理店が営業秘密(販売ノウハウや顧客リストを含む)を他メーカーの商品販売に流用するのを恐れるメーカーは、そもそも代理店契約を結ばなくなってしまう。

→そうすると、自分で売れるメーカーはいいが、そうでない(販売能力のない)メーカーは、そもそも商品を売ることを諦めてしまう。

→よって独占的代理店契約は競争促進的である。」

という議論がなされることがあります。

このような、ある意味で当事者が合理的であることを前提とした議論は、とくにアメリカで有力であるように思われます。

私も、基本的にはこのような考え方に賛成です(というか、このような議論の立て方自体がおかしいという人はいないでしょう)。

しかし、現実の世界では、そのように割り切れない場合も多いことにも注意が必要だと思います。

例えば、上記のグラントバック賛成論では、グラントバックが競争法上禁止されると、

①そもそもラインセンスが行われなくなる、

または、

②ライセンスが行われたとしても、ロイヤリティが高くなるなど、ライセンシーに不利な内容になる、

ことが当然の前提とされます。

しかし、果たしてそうでしょうか。

現実の契約交渉では、実は、

「○○の条項は独禁法違反です。」

という主張は、かなり有力です。

契約交渉の結果は当事者の露骨な力関係で決まったり、交渉能力や情報量の差で決まったりすることが多いですが、「独禁法違反」という主張は、そういうのとはちょっと違います。

少なくとも、いくら力の強い会社でも、「独禁法違反」と言われれば、耳を貸さないわけにはいかないのが通常です。

では、そのような力の強い会社(例えばライセンサー)が、不利な条件(例えば、グラントバック条項の削除)を受け入れる対価としてロイヤリティの増額を要求するかといえば、必ずしもそうではないという気がします。

むしろライセンサーにとっては、グラントバックによって得られる利益というのは金銭で計れないものである可能性が高く、増額の根拠を説得的に示すことはかなり大変です(説得的な交渉には、常に合理的な理由付けが必要です、というと言い過ぎですが、合理的な理由はあった方が良いに決まってます)。

実際には、ライセンサーはグラントバックによって得られる利益を金銭に換算する発想すらなく、ロイヤリティを増額しようと言うことを思いつきさえしないかもしれません。

「○○を認めないと、そもそも取引をしなくなってしまう。」という議論にしても、必ずしもそうではありません。

企業は、既存のルールを前提にビジネスを行います。

例えば、もしグラントバックが認められるルールから、認められないルールに変更された場合には、変更後のルールを前提にビジネスを行います。

その時、新ルールに対応する企業の柔軟性というか、創造性というのは、実は結構なものです。

新しいルールになったら「取引をやめてしまう」という企業もあるかもしれませんが、多くの企業は、

「新しいルールの下で(例えば、グラントバックが認められない前提で)、どのような取引をするのが最も有利か。」

を、一生懸命考えるのです。

いわば、法律には、企業のインセンティブを誘導していく機能があるのです(というようなことを、経産省のお役人さんが産業政策の文脈で言っていたのを思い出しました)。

競争法も同じです。

要するに、「○○を認めないと取引が起こらなくなる」という議論は、一面の(それもかなり強力な)真理を含むものの、絶対ではないということです。

競争法の実務に携わる者の役割は、あるルールが存在する場合としない場合とで、企業の行動がどう変わるのか(また、変わった結果が競争促進的なのか、競争制限的なのか)を、緻密に分析することではないでしょうか(自戒の念も込めて)。

そのような分析には経済学が有用だと思います。

形式的なモデル上の議論ではありますが、どのパラメーターをいじれば結果のどの部分に効いてくるのかが、はっきりと見えるからです。

あるいは、クライアントの相談を受けているときも、どうしてこのような(競争制限のおそれのある)条項が必要なのかを色々聞くと、本当に競争制限的な動機でその条項を入れようとしているのか、合理的なビジネス上の理由があるのかが、ある程度分かったりもします。

いずれにせよ、何事も具体的に、緻密に考えることが必要です。

「公正な競争を阻害する場合には違法」

とか、

「~の条件を受け容れることを余儀なくさせたので違法」

というだけでは、議論が深まりません。

2012年1月27日 (金)

競争者間で行う包括的相互ライセンス

競争者間で、現在保有している特許と、将来取得する特許を含めて、全ての特許を包括的に無償でライセンスし合う、ということをすると、独禁法上何か問題になるでしょうか。

こういう契約が結ばれる場合としては、相互に相手方の特許をブロックしあう特許を持っていて、その数が余りに多くてクロスライセンスでいちいち対応するのが面倒だから、という場合が考えられます。

とくに、その業界が2社寡占(複占)の場合で、相手方と包括的クロスライセンスを結んでしまえば特許侵害で訴えられる危険が(ほぼ)なくなる、というような場合にメリットがありそうです。

その反面、このような包括的クロスライセンスをすると、双方に研究開発のインセンティブがなくなってしまうことが心配されます。

そこで独禁法上どう考えるかですが、かなり微妙な問題ですが、不当な取引制限(独禁法2条6項)に該当する可能性があると思われます。

「別に値段をつり上げようというわけでも無いんだし、『カルテル』というのには馴染まないんじゃないか?」

とか、

「クロスライセンスをするっていうことは、要するに自己の特許権を行使しないということであり、特許権を行使しようとしまいと本人の勝手ではないか?」

という感想が聞こえてきそうですが、困ったときはまず条文を見てみましょう。

不当な取引制限は、

「事業者が、・・・他の事業者と共同して

・・・技術・・・を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、

公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」

と定義されています(独禁法2条6項)。

「技術」を敢えて省略せずに引用したのは、包括的クロスライセンスが、「技術・・・を制限する」というのに一番近そうなので残しただけで、「等」があるので、実は制限の対象は何でも構いません。

でも、包括的クロスライセンスが「技術の制限」そのものかというと、そうとは言えないでしょう。

「技術の制限」とは、「この新技術は、(コストや手間がかかるから、お互い採用しないことにしよう」というものがイメージされます。

では、包括的クロスライセンスは研究開発のインセンティブを相互に失わせるので(当事者の真の目的がそこにあるかどうかはさておき)、実質的には研究開発をしないことを相互に拘束しているのと変わらないのではないか?と考えることはできないでしょうか。

でもやはり、契約書にそういうことが書いているのでもない限り、経済的効果がそうなんだから当事者の真意としてもそういう拘束をするつもりがあったんだ、と認定するのは、かなり苦しい気がします。

やはり文言上は、クロスライセンス(相互に、ライセンスを義務付ける)ということだけで、端的に、「相互にその事業活動を拘束し」には該当すると言わざるを得ないのではないかと思います。

そうすると問題は、

「一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」

という要件を満たすかどうか、です。

この、競争の実質的制限の要件は、競争者間で協調して値段を上げるとか、産出量を減らすとかいうのが典型で、この場合、直ちに競争が制限されるのが一般的です。

次に、他社を排除する、というのも含まれます(共同ボイコットなど、いわゆる他者排除)。この場合、価格や数量への影響が実際に出るにはちょっと時間がかかるのが一般的です(被排除者が市場にとどまる限り、値段への影響は限定的なはず)。

さらに、研究開発のインセンティブが削がれる、という長期的な競争への影響も、「競争の実質的な制限」の内容に含まれると考えていいでしょう。

日本では、研究開発のインセンティブについては、例えばマイクロソフト非係争条項(NAP)事件のように、不公正な取引方法の「公正競争阻害性」で議論がされるイメージがありますが、公正競争阻害性と競争の実質的制限は競争制限の程度の差の問題ですから、研究開発のインセンティブのが失われることを競争の実質的制限の内容に加えても問題ないでしょう。

では、包括的クロスライセンスで、競争の実質的制限が生じるといえるのでしょうか。あるいは、生じることがあるとすれば、どのような場合でしょうか。

この点、研究開発がゼロサムゲームだと考えると(つまり、研究開発をしても市場全体のパイは大きくならず、競争者からの需要を奪えるだけだとすると)、例えば複占業界でこのような包括的ライセンスを結べば、研究開発の意欲はかなり無くなってしまうように思います。

いくら良い研究をしても、その研究成果をライバルも無償で使えるなら、自分にとって何のメリットもないからです。

しかし、研究開発をすることによって、市場全体のパイが大きくなるということは、商品によっては十分にあり得ます。

つまり、研究開発の成果を独り占めはできなくても、山分けくらいはできるわけです。

「パイが大きくなることも考えれば、独り占めでなくて山分けで十分研究開発をやる気になる」

というような市場なら、研究開発の意欲が削がれる程度は「競争の実質的制限」にまでは至らない、ということもあるのではないでしょうか。

でも、そんなにパイが大きくなっていくような景気の良い業界というのも余り無さそうですから、一般的には、やっぱり競争の実質的制限が認められるという可能性は否定できないように思います。

反対に、このような包括的ライセンスの競争促進的効果としては、最初に述べた、個別のクロスライセンスの煩わしさを避けることができること、というのが考えられます。

さらに、両社の特許を合わせれば、とてつもなく良い商品ができて消費者へのメリットが極めて大きい、という夢のような場合もあるかもしれません。

このように、諸々の事情を考慮して判断されるので、結論としては、「違反になることもあるし、ならないこともある」ということになります。

さて、競争者間でのクロスライセンスを議論していたので、以上では不当な取引制限の可能性を探りましたが、不公正な取引方法(独禁法2条9項)についてはどうでしょうか。

マイクロソフト非係争条項事件も拘束条件付取引(一般指定12項)として処理されていたので、非係争条項と本質的には似ているクロスライセンスも、拘束条件付取引で処理される可能性があります。

でも、拘束条件付取引の「拘束」というのは、文字通り一方が他方を拘束している(押さえつけている)という意味であると考えられるので(多くの実務家の感覚でしょう)、対等な二当事者間のクロスライセンスを「拘束」と捉えるのは、かなり無理があるように思います。

最後に、私的独占についてはどうでしょう。

私的独占は、

「事業者が、

単独に、又は他の事業者と結合し・・・その他いかなる方法をもつてするかを問わず、

他の事業者の事業活動を排除し、又は支配することにより、

公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」

と定義されています(独禁法2条5項)。

このように、私的独占は他の事業者と結合して行っても良いので、主体は複数でも構いません。

したがって、このような包括的クロスライセンスにより、例えば既存の2社が強くなりすぎて新規参入が困難になるというような事情があれば、私的独占が成立する可能性がある、という意見もあるかも知れません。

(個人的には、実際には、そのような場合はなかなか考えにくいですし、そもそも既存の2社が強くなるということは、より良い商品をより安く提供できるということなのだから、独禁法上は問題にすべきではないと考えます。)

いずれにせよ当事者のシェアが相当高いことが大前提で、そうでない限り、私的独占はまず成立しないと考えて良いでしょう。

2012年1月23日 (月)

合併協議中の会社が行う受注の調整

合併(事業譲渡や子会社化等も含む広い意味です)を発表した会社が、発表後、合併が完了する前に、同じ顧客から見積の依頼を受けたり、入札への参加を求められたりすることがあります。

この場合、合併当事者の立場からすると、

「近い将来同じ会社になるのだし、今回の入札(見積合わせ)は、一方は辞退しよう(辞退したい)」

と考えることが、時々あります。

あるいは逆に、原材料を安定調達したい顧客の側から、

「おたくたちは同じ会社になるんだから、(合併完了前でも)どちらかは入札を辞退して下さい。」

とか、

「おたくたちは同じ会社になるんだから、発注量は、これまでの半分に減らします。」

と言われることがあります。

お客さんの方から一方的に入札への参加を断ってきたり、発注量を減らしてきたりするのは仕方のないことなので、独禁法の問題ということもないのですが、そうではなくて、合併当事者間で話し合って入札への参加や見積合わせの価格を調整することは、独禁法上問題ないのでしょうか。

これは、いわゆるガンジャンピング(gun-jumping =和製英語で「フライング」)といわれる問題の1つです。

「近い将来合併するとはいえ、まだ合併前なのだから、両社で受注調整とかをするのはカルテルだ」

という問題意識ですね。

さて、この問題がどのくらい重大な問題なのかは、もっぱら日本の独禁法だけが問題になる場合なのか、アメリカの独禁法(反トラスト法)が問題になる場合(典型的には、顧客がアメリカ企業の場合)なのかで、だいぶ異なります。

まず、もっぱら国内だけが問題になる(日本の独禁法だけが問題になる)場合については、合併当事者のシェアが高くない限り、あまり心配することはありません。

というのは、日本では、アメリカと異なり、カルテル(=不当な取引制限)でも、競争が実質的に制限される場合に限って、初めて違法となります。

ですので、当事者のシェアが極めて低い場合には、受注調整などをしても、競争を実質的に制限することは通常できないので、違法にはなりません。

さらにいえば、日本では、企業結合も不当な取引制限も、違法となる基準が「競争の実質的制限」なので、結果的に公取委がOKするような企業結合なら、当事者間で合併前にいくら調整をしても構わないのではないか、という気さえします。

しかし、実務的にはそれは割り切りすぎで、企業結合の審査中はまだ結果が出ていないので安全サイドで進めるべきです。

また、より本質的な問題としては、

企業結合の審査は市場全体の競争を一般的に分析して将来の競争制限の可能性について判断する

のに対して、

不当な取引制限の審査は個別の行為について具体的に事実を見て違法かどうかを判断する

ので、企業結合はOKだけどその前の調整行為は違法だ、ということは現実的に起こりうると思うのです。

ですが、当事者のシェアが微々たるものである場合には、日本では合併実行前の調整行為が問題視される心配はないと思うのです。

これに対して、アメリカの反トラスト法が問題になる場合は、そうは行きません。

アメリカでは、カルテルは当然違法である(シェアや、市場へのインパクトにかかわらず違法である)という考え方が採られており、このことは、合併協議中の当事者であっても異ならない、というのが当局の見解のようです。

そのことが、有名な「The Rhetoric of Gun-Jumping」という、FTCのジェネラルカウンセルのスピーチで述べられています。

ですので、アメリカの反トラスト法が問題になる事案では、たとえ合併契約締結後であっても、合併実行までは、独立の当事者として競争し続けないといけない、ということになります。

さらに細かいことを言えば、合併が当局に承認された後であっても、合併を実行(クローズ)するまでは、やはり調整をしてはいけない、ということになります。

なお、以上の問題は、直接の合併当事者間で問題になることもあれば、合併の当事者の子会社間でも問題になります。

ですので、合併協議をしている親会社は、子会社の活動についても目を光らせておく必要があります。

理屈の上では当然のことですが、特にたくさんの子会社を抱える大企業では個別の子会社までは目が行き届かないということがあり得るので(特に、子会社の事業が親会社の事業と直接関係なかったり、非中核的な事業であったりする場合)、ご注意下さい。

2012年1月19日 (木)

外国の会社による産活法申請の可否

産活法(産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法)では、産活法上の各種計画の認定をしようとする場合には、主務大臣は、あらかじめ公取委と協議すべきとされています(産活法13条)。

さて、この産活法の申請は、外国の会社もすることができるのでしょうか。

(なお、ここで考えているのは、外国で設立され、外国で事業を行っている、いわば純粋の外国の会社です。外国会社の日本子会社については、申請できること自体には争いはないでしょう。)

産活法による計画の認定をうけるメリットは、増資の登記をする際の登録免許税の軽減が受けられたり、現物出資の際の検査役による検査が不要になったりと、外国会社には関係のないことが多いので、申請を考える外国の会社はそもそもなさそうにも思えます。

(なお、産活法の概要については、経産省のハンドブックが分かりやすいです。申請のスケジュールについては経産省のHPのこちらをどうぞ。)

しかし、独禁法に関しては、外国会社同士の統合でも日本の独禁法の適用があり得るため、前述の公取委との協議の適用を受けるために申請を検討する外国会社があるかもしれません(ただ、主務大臣がわざわざ外国会社の肩を持って公取委と協議してくれるかは疑問ですが。あくまで論理的な可能性ということです)。

この点、産活法の申請は、「事業者」であればできることになっています(産活法5条1項)。

そして、経済産業省による、「逐条解説産活法」(商事法務・2011年)では、「事業者」とは、

「事業を行うすべての者(法人だけでなく、個人事業者を含む)を指しており、業種及び事業規模に限定はない」(p67)

とされています。

このことからすると、「事業者」には、外国会社も含まれそうです。

産活法の条文を見ても、外国会社の申請を否定すべきような条文はなさそうです。

(これとは対照的に、「外国関係法人」は、国内に本店又は主たる事務所を有する事業者が実質的に経営を支配している外国法人と定義されており(産活法2条3項)、支配する側は日本に本拠がある必要があることを明確にしています。)

ですので、外国会社も産活法の申請をすることが、論理的には可能、ということになりそうです。

実際、前記の逐条解説でも、

「なお、本法における『事業者』の外縁〔ママ。正しくは「外延」ですね〕は上記のとおり〔注:「事業者」に業種や規模による制限が無いこと)であるが、個々の支援措置については、一定の要件(例えば、会社法の特例については『株式会社』、税制特例については、措置により『青色申告書を提出する個人及び法人』等)に適用対象が限定されている場合があることに注意が必要である。」

とされています(p25)。

この解説は、外国会社にも産活法の適用があることを前提に、でも外国会社のメリットは限られているよ、というふうに言っているようにも読めます(ちょっと強引かも)。

しかし、私はやはり、産活法を純粋な外国会社が申請することは無理ではないかという気がします。

理由は、産活法の立法趣旨です。

産活法1条では、同法の目的が「我が国の産業活力の再生を図る」ことであるといっています。

このような趣旨からして、日本で事業活動を行っていない純粋な外国企業には適用がないと解釈するのが妥当と考えます。

きっと昨年の改正で公取との協議が導入されたときも、外国企業がこれを使うとは誰も想定していなかったというのが本音ではないでしょうか。

このように、「事業者」とか、「会社」とかいう文言が使われている場合に、外国の事業者や外国の会社も含まれるのかは、いろいろな法律でしばしば問題になるところですが、たんに定義で国内事業者、国内会社に限定していないからといって、必ず外国事業者、外国会社も含むと解さなければならないというわけではないと思います。

確かに文言を重視した解釈は重要ですが、絶対ではありません。

さらに、公取委との協議義務に関しては、主務官庁は外国の会社から申請があっても計画を認定しない、という対応も可能です。

つまり、公取委との協議は、主務大臣が計画の認定「をしようとする場合」(産活法13条1項)にすればいいので、認定をしようとしない場合には、協議もしない、ということです。

2012年1月18日 (水)

『公正取引』1月号が届きました。

私の執筆する長期連載、

「米国反トラスト法実務講座」

の第1回が掲載された、『公正取引』1月号がとどきました。

Photo

感慨深いです。。。

仕事の合間に連載を執筆するのは骨が折れますが、これからも、できるだけ良い連載にしていきたいと思います。

奇数月の隔月掲載です。

2012年1月16日 (月)

3社以上の共同新設分割の届出

共同新設分割をする場合には、一定の売上要件を満たす限り、届出が必要です(独禁法15条の2第2項)。

例えば、A社のa事業と、B社のb事業とを切り出して、X会社を新設する、というのが共同新設分割です。

共同新設分割は、このように2社間で行われることが多いですが、3社以上で行うことも当然可能です。

つまり、A社のa事業、B社のb事業、C社のc事業をそれぞれ切り出して、X社を新設する、という具合です(X社は、a事業とb事業とc事業を承継する)。

そして、3社以上で共同新設分割をする場合も、独禁法上の売上要件を満たす限り、届出が必要です。

このことは、例えば各社が事業の一部を分割する場合について定める15条の2第2項4号で、

「当該共同新設分割をしようとする会社のうち、

いずれか一の会社・・・の当該承継の対象部分に係る国内売上高が百億円・・・を超え、

かつ、

他のいずれか一の会社・・・の当該承継の対象部分に係る国内売上高が三十億円・・・を超えるとき。 」

と、「いずれか一の会社」という表現を用いることで、3社以上を想定していることが分かることからも明らかです。

つまり、2社だけを想定しているなら、「いずれか一方の会社」、「他方の会社」となるべきだからです。

ちなみに共同新設分割の届出書の記載要領にも、

「 この届出書様式は2社間の共同新設分割の場合を想定していますので,3社以上の共同新設分割に関する計画のときは,順次用紙を追加するなどして届出会社の欄や項目を増やし(例:(丙),(丁)…等),記載してください。」

と、3社以上の場合があることが明記されています。

2012年1月12日 (木)

優越的地位濫用が「なくなる日」(独禁法20条の6)とは

優越的地位濫用に対する課徴金は、

「当該行為をした日」

から、

「当該行為がなくなる日」

までの期間(最大3年間)の取引額を基準に算定されます(独禁法20条の6)。

では、ここでの

「当該行為がなくなる日」

というのは、いつのことを指すのでしょうか。

文言解釈からすれば、優越的地位濫用行為をした最後の日の翌日、というのが素直だと思われます。

しかし、山陽マルナカ事件の課徴金納付命令を見る限り、どうやら公取委はそのような見解には立っていないように思われます。

つまり、同事件では、2010年5月18日に立入検査が行われましたが、公取委が認定した「当該行為がなくなる日」は、課徴金納付命令によると、

「平成22年〔2010年〕5月19日以降、当該違反行為をやめており」

と認定しています。

つまり、立入検査の当日まで、「当該行為」が行われていた、という認定になっています。

そこで、同事件の排除措置命令を見ると、山陽マルナカの違反行為としては、

①従業員等の派遣、

②催事等の実施に際しての金銭提供要請、

③「見切り基準」を超えた商品の返品、

④代金減額、

⑤クリスマスケーキ等の購入強制、

といった5つの行為が認定されています。

例えばもし、立入検査のまさに当日である2010年5月18日にたまたま従業員の派遣が行われていたなら、「当該行為がなくなる日」が2010年5月19日であるとされるのは当然です。

しかし、どうもそうではなさそうです。

というのは、排除措置命令で各行為の期間をみると、

①従業員の派遣: 2007年1月~2010年5月、

②金銭提供要請: 2007年4月~2010年4月、

③代金減額: 2009年3月~同年8月、

とされています(厳密には、それぞれの期間内に、濫用行為のきっかけとなる新規開店等があった、ということですが)。

ひょっとしたら、2010年5月18日に、たまたま従業員の派遣を受けていた(2条9項5号ロの「役務その他の経済上の利益を提供させること」に該当)のかも知れません。

しかし、課徴金納付命令を見る限り、そのような厳密な認定がなされた形跡はありません。

②の金銭提供要請は、「金銭・・・を提供させること」(2条9項5号ロ)なので、金銭を受領した日が「当該行為をした日」(20条の6)であり、従業員派遣の受け入れのような時間的幅のある行為ではないので、ますます2010年5月18日に金銭受領があったのか、怪しくなります。

③の代金減額に至っては、2009年8月の全面改装に伴うものが最後で、2010年5月18日に減額(具体的には、減額した代金の支払い)があったとは、とうてい思われません。

どうも公取委は、ざっくりと、「立入検査の当日までは濫用行為をやめるような決定はなされていなかった」ということで、「当該行為がなくなる日」を認定しているような気がします。

しかし、それでよいのでしょうか。

これが不当な取引制限の場合なら、不当な取引制限では基本合意が違反行為であると考えられているので、基本合意が破棄されない限り、

「当該行為がなくなる日」(7条の2第4項)

は到来していない、と解釈することも合理的だと思います。

しかし、優越的地位濫用の場合には、そのような「基本合意」的なものは存在しません。

あるとすれば、漠然とした、「濫用をしている状態」だけだと思います。

しかし、「当該行為がなくなる日」という同じ文言を使っているからといって、不当な取引制限の解釈に引きずられて、優越的地位濫用の場合まで立入検査の当日まで違反行為が行われていたと認定するのは、余りに文言無視ではないでしょうか。

そもそも基礎になる事実が異なるのに同じ文言を使ってしまったところに立法論的な問題があるのですが、法律ができてしまった以上は、文言に従った解釈をすべきではないかと思います。

このような次第ですので、単に違反行為をしていないだけでは、「当該行為がなくなる日」が到来したとは認定されないおそれがあります。

ですので、企業が違反事実を発見した場合には、消極的に違反行為をやめるだけでは充分でなく、

①優越的地位濫用をやめる旨取締役会決議をする、

②違反事実があったことと、今後はやめることを従業員や取引先に周知する、

③場合によっては公取委に自主的に申告する、

といったことが必要になるように思われます。

2012年1月11日 (水)

競争法的観点からの知的財産権の特徴

知的財産権と独禁法の関係が問題になる場合の、知的財産権の(物権などには無い)特徴としてよく言われることをまとめておきます。

まず、米国司法省とFTCの知的財産権レポートは、以下の点を指摘しています(p4)。

コピーが容易であること。

例えば、ある土地(の所有権)とまったく同じ土地を作り出すのは至難の業ですが、ソフトウェアのコピーは簡単にできます。

他の権利者の利用を妨げずに利用できること。

土地を不法占拠されたら、土地の所有者はその土地を使えません。

これに対して、特許権を誰かに侵害されても、特許権者自身や適法なライセンシーがその特許権を使えなくなるわけではありません。

①、②を併せて、同レポートでは、「盗用が容易であること」とまとめています。

「盗用が容易なのだから、例えば侵害者に懲罰的賠償を課すなどして盗用を抑止すべき(権利者を保護すべき)」、

という議論にも結びつきますし、逆に、

「盗まれたと言っても、自分が使えなくなるわけではないので、物権の盗用の場合ほど権利者を保護する必要はない」

という議論にもつながり得ます。

知的財産権を生み出す固定費が大きいこと。

知的財産権を生み出すには、多大な研究開発費がかかることが多いです。

例えば医薬品の研究開発費は莫大な金額ですが、錠剤1つ1つをつくる変動費はきわめて少額です。

固定費が大きい(しかも、結果的に実を結ばない研究開発費も大きい)ことから、研究開発のインセンティブを確保するには権利者を厚く保護すべき、という議論に結びつきます。

また、固定費が大きいということは相対的に変動費は相対的に小さいわけで、ひいては利幅が大きいことになり、例えば固定費を負担しない(=特許を安く買い取った)パテントトロールが跋扈するインセンティブにもなります。

権利の限界が不明確であること。

例えば土地の所有権の範囲は、土地の境界の範囲内に及ぶので、比較的明確です。

これに対して、例えば特許権の場合、似ているけれど違う技術のどの範囲にまで特許権の効力が及ぶのかはかなり微妙です。

特許権は登録されたからといって安心できず、かなりの割合で審判・訴訟で無効とされる可能性があります。

逆に、新規参入者が既存の独占企業から特許侵害で訴えられることを恐れて参入できない、ということも起こりえます。

知的財産権の価値は他の要素との組み合わせで決まること。

とくに、他の知的財産権と組み合わされることで価値が増すことがあります(パテントプールや標準化など)。

価値が増すというと聞こえは良いですが、反面、本来大したことない知的財産権が、他の権利と組み合わさることで強固な物となり、権利者の市場支配力が増す、ということが起こりえます。

存続期間が限定されること。

その通りですね。

でも独禁法の分析上は、陳腐化のスピードが速い(ことが多い)ことのほうが重要な気がします。

その他にも、以下のような点が考えられるでしょう。

知的財産権は、経済的価値が大きいことが多いこと。

例えば世界のレアアースを独占しようと思えば世界中の鉱山を買い占める必要がありますが、それに比べれば、特許権者が特許を使って市場を支配することは容易です。価値の大きな特許であれば、動くお金も多額になります。

tippingの可能性(ネットワーク効果、規模の経済)

tippingというのは、「爆発的に普及すること」といった程度の意味です。

とくにインターネットやソフトウェアの世界でですが、普及の度合いが一定の限度を超えると、(本来は大した技術でもないのに)爆発的に普及する、ということが起こりがちです。

インセンティブの重要性

経済の進歩はイノベーションにかかっています。また、開発に多額の研究開発費がかかるというのと裏腹の関係ですね。

研究開発のインセンティブが強調されるのはいろいろな側面があって、例えば長期的な動的な競争を重視すべき、といわれたり、同じことですが、(通常は最も効率的であると考えられる)限界費用での供給が最も効率的とは言えない、ということが起こるのが、知財の分野です。

生産数量には基本的に制限がないこと

原材料メーカーは、完成品メーカーに販売する原材料の量を制限することによって、完成品の供給量を制限することが当然に(物理的に)可能です。

これに対して、特許権者はライセンスをすると、ライセンシーが何個製品を作るかは、基本的にライセンシーの自由です。

ライセンサーが完成品の数量の上限を制限することは競争制限的ではないか、という考え方も日本の知財ガイドラインで示されていますが、原材料なら当然に可能なことを特許権でやると違法というのは、どこかちぐはぐな感じがします。

次の技術革新に結びつくこと

実はこれは結構重要です。技術革新は、既存の技術に依拠して行われることが多いので、既存の技術を保護しすぎると、次の世代の技術革新の妨げになる、ということがあり得ます。

この辺りは、

William M. Landes, Richard A. Posner, "The Economic Structure of Intellectual Property Law"

という本で経済モデルに基づく説得的な議論が展開されていて、なるほどと思います。

2012年1月10日 (火)

【お知らせ】雑誌『公正取引』に連載を始めます。

我が国で唯一の独禁法(競争法)の専門誌である、『公正取引』に、1月号から隔月で、

「米国反トラスト法実務講座」

というタイトルで、計12回の連載をさせていただくことになりました。

権威ある雑誌にこのような場を頂けたことは、大変有り難いことです

私はニューヨーク州弁護士の資格も持っていますし、仕事で米国独禁法のことを聞かれることも多いとはいえ、基本は日本の弁護士なので、公正取引協会さんから最初にこのお話を頂いたときは、

「私にそのようなものを書く資格があるのか」

と躊躇も感じましたが、仕事で米国独禁法を調べてみると、(当たり前ですが)

①日本人の読者を想定して日本人向けに、

②米国独禁法の全般について、

③実務的な観点から解説したもの

は案外少なく、日本法弁護士としてこのような連載をすることにもそれなりに意味があるのではないかと考え、引き受けさせて頂いた次第です。

また、米国の反トラスト法を学ぶと日本の独禁法が立体的に理解できるということは間違いないので、そういう関心の方にも読んで頂けると嬉しいです。

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