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2011年12月16日 (金)

欧州企業結合の「優先ルール」(Priority Rule)と買収阻止策

欧州委員会では、同じ業界で2つの企業結合の届出がなされて並行して審査する場合、先に届け出た企業結合については、後の企業結合は存在しないという前提で判断する、という立場を採っています。

逆に、後に届け出られた企業結合については、先に届け出られた企業結合が存在する、という前提で判断します。

これを、「優先ルール」(priority rule)と呼んでいます。

届出が1日早いだけでも、先に届け出た方は、後の企業結合の存在を無視して審査を受けられるわけですから、大変なメリットです。

プレスリリースの日や、合併期日の前後ではなく、届出の前後で決まってしまうところがポイントです。

具体例で説明しましょう。

ある業界に、A社(シェア30%)、B社(30%)、C社(20%)、D社(10%)、E社(10%)の5社があるとします。

そして、A社がD社との合併を発表したとします(合計シェア40%)。

これをみたB社が、E社との合併を思い立ち(あるいは、秘密裏にADの合併と並行して合併交渉していたところ)、E社との合併を欧州委員会に、ADよりも先に届け出た場合、どうなるでしょうか。

この場合、「優先ルール」によると、BEの合併は、ADの合併が存在しないことを前提に審査されることになります。

つまり、統合後の業界は、

BE社(40%)、A社(30%)、C社(20%)、D社(10%)

という4社体制になることを前提に判断されます。

これに対して、欧州委員会への届出が遅れたADは、BEの統合が存在することを前提として審査されるので、

AD社(40%)、BE社(40%)、C社(20%)

と、業界が3社寡占になるとの前提で判断されることになります。

これは明らかに、遅れて届け出たAD社にとって不利です。

このことから、実務上どういう注意点が考えられるかというと、

欧州に届け出る必要のある企業結合は、プレスリリースをしてから速やかに企業結合の届出を行う必要がある、

あるいは、同じことですが、

企業結合の届出の準備ができるまではプレスリリースはしない、

というようにする必要があります。

そうしないと、ADのプレスリリースを見たBEに追い抜かれてしまうことになるからです。

極端に言えば、ADの統合を阻止したいと考えたB社は、ADの統合がなければ別にやりたいと思っていなかったEとの統合を、ADを阻止するためにやろうと思い立つ、ということがあり得ます(一種の買収阻止策)。

これからは、世界規模の寡占化が進む業界が増えるでしょうから、元々寡占的な業界でM&Aのスケジューリングをする際には、要注意です(とくに、プレスリリースのタイミング)。

なお、日本の公取は、過去の銀行や保険会社の統合の例では、いずれの合併を審査する際も他の合併が存在することを前提に審査しています。

つまり、欧州のような「優先ルール」は採っていません。

米国のFTCも、「優先ルール」は採っていません。

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