役員兼任に関するクレイトン法8条の域外適用
米国反トラスト法の1つであるクレイトン法8条(15 U.S.C. §19)は、競争会社間の役員兼任の制限について定めています。
ざっくり説明すると、一定以上の資産規模(資本金+剰余金+未処分利益 が約2700万ドル超)の、2社以上の競争会社の役員を兼任することが、原則として禁じられます(ただし銀行等は除く)。
ただし、これには例外があって、
①いずれかの会社について、競合売上(両社で競合する商品役務の売上のことです)が約270万ドル未満、または、
②いずれかの会社について、競合売上が総売上の2%未満、または、
③双方の会社について、競合売上が総売上の4%未満、
のいずれかを満たす場合には、適用除外になります(つまり、兼任ができます)。
ただ、条文をみると、兼任が禁止される会社が、
「any two corporations」
となっており、米国の会社には限られていません。
また、適用除外の要件のキモである、「競合売上」の定義(クレイトン法8条(a)(2))をみても、
「the gross revenues for all products and services sold by one corporation in competition with the other, ...」
となっており、米国内の売上に限定されていません。
とすると、日本の会社が日本国内で競合売上を有するに過ぎない場合でも、クレイトン法8条に違反する、ということになりかねません。
しかし、さすがにそれは変でしょう。
そんなこと、司法省もFTC(連邦取引委員会)も、アメリカ人の誰も考えていないと思います。
ですので、クレイトン法8条は、基本的には、アメリカの会社だけに適用があると考えるべきでしょう。
ただ、日本の会社が米国内で競合売上を有する場合には、クレイトン法8条違反になる可能性は否定できないように思います。
(あくまで、常識論の域を出ませんが。。。)
ちなみに、役員兼任のことを英語では、
「interlocking directorate」
といいます。
interlockとは、
「to fit or be fastened firmly together」(堅く結びついていること)
という意味です。
なので、ニュアンスとしては、両社の取締役が堅く結びついているイメージなので、例えば10人の取締役のうち1人が兼任しているくらいではinterlockしている感じはしませんが、ともかく、interlocking directorateという言葉で通じています。
【2011年12月12日追記:
私も会員になっているABA Section of Antitrust Lawの
「Interlocking Directorates: Handbook on Section 8 o the Clayton Act (2011)」
という本の78頁以下では、概要、
「はっきりした判例法はないけれど、外国会社同士の役員兼任にクレイトン法8条を適用するのは難しいだろう」
というようなことが書いてありました。
(参考判例として、Borg-Warner Corp., 101 F.T.C. 863, modified, 102 F.T.C. 1164 (1983), rev'd on other grounds, 746 F.2d 108 (2d Cir. 1984))
個人的には、会社の設立準拠法がどこかという問題ではなくて、米国内市場で競合しているかが問題なんじゃないかなぁと一瞬思いましたが、クレイトン法8条は極めて形式的な規制(市場の競争への影響の有無を問わない)なので、規制対象も米国法人か否かという形式的な基準で決める、というのが、実は穏当な解釈なのかもしれません。】
« ジョイントベンチャーの設立とセーフハーバー | トップページ | ブラジル独禁法改正(2012年5月29日施行) »
「外国独禁法」カテゴリの記事
- 公正取引に米国反トラスト法コンプライアンスについて寄稿しました。(2024.04.21)
- ABA Antitrust Spring Meeting 2024 に行ってきました。(2024.04.15)
- ネオ・ブランダイス学派の問題点(2022.11.09)
- ABA Spring Meeting 2018(2018.04.14)
- トリンコ判決の位置づけ(2016.05.07)
« ジョイントベンチャーの設立とセーフハーバー | トップページ | ブラジル独禁法改正(2012年5月29日施行) »
コメント