« 特許権などのライセンスと「国内売上高」 | トップページ | 役員兼任に関するクレイトン法8条の域外適用 »

2011年11月29日 (火)

ジョイントベンチャーの設立とセーフハーバー

競合会社であるA社とB社が、共同事業を行うためにジョイントベンチャー(JV)を設立する場合に、企業結合ガイドライン上のセーフハーバーで救われるのは、どのような場合でしょうか。

あるいは、JVの場合にはハーフィンダールハーシュマンインデックス(HHI)はどのように計算するのか、という問題と言い換えてもいいでしょう。

この点、A社とB社が完全に一体となる合併であれば、HHIは両社のシェア全部を合算して計算すればよいので、話は単純です。

例えば、A社のシェアが20%、B社のシェアが5%であれば、合併後の会社のシェアは25%になるので、それを前提にHHIを計算すればよいです。

では、A社(20%)とB社(5%)が、それぞれ事業を一部譲渡(例えば、A社からシェア5%分相当、B社からシェア2%相当分)して、シェア7%相当のJVを設立する場合、HHIはどのように計算すればよいのでしょう。

この点、企業結合ガイドライン第4(水平型企業結合による競争の実質的制限)2(1)ウでは、

「出資会社が行っていた特定の事業部門の全部を共同出資会社〔=JV〕によって統合することにより,出資会社〔=A社とB社〕の業務と分離させる場合には,出資会社と共同出資会社の業務の関連性は薄いと考えられる。

したがって,例えば,ある商品の生産・販売,研究開発等の事業すべてが共同出資会社によって統合される場合には,共同出資会社について,市場シェア等を考慮することになる。」

とされています。事業が全部JVに統合されるので、当然ですね。

これに対して、事業の一部統合の場合には、

「他方,出資会社が行っていた特定の事業部門の一部が共同出資会社によって統合される場合には,共同出資会社の運営を通じ出資会社相互間に協調関係が生じる可能性がある。

出資会社相互間に協調関係が生じるかどうかについては,共同出資会社に係る出資会社間の具体的な契約の内容や結合の実態,出資会社相互間に取引関係がある場合にはその内容等を考慮する。

例えば,ある商品の生産部門のみが共同出資会社によって統合され,出資会社は引き続き当該商品の販売を行う場合,共同出資会社の運営を通じ出資会社相互間に協調関係が生じるときには,出資会社の市場シェアを合算する等して競争に及ぼす影響を考慮することになる。

他方,出資会社は引き続き当該商品の販売を行うが,共同出資会社の運営を通じ出資会社相互間に協調関係が生じることのないよう措置が講じられている場合には,競争に及ぼす影響はより小さいと考えられる」

とされています。

ここから読み取れることは、事業の一部譲渡の場合には、JVの運営を通じてA社とB社の間に協調関係が生じるときには、A社とB社のシェアを合算する、ということです。

とすれば、前記の、A社(20%)とB社(5%)が、それぞれ事業を一部譲渡(A社からシェア5%分相当、B社からシェア2%相当分)して、シェア7%相当のJVを設立する例だと、JVの運営を通じてA社とB社の間に協調関係が生じるときには、統合後のシェアは7%ではなく、25%であることを前提に、HHIを計算することになりそうです。

それでもセーフハーバー基準を満たすなら問題ないのですが、25%とみるとセーフハーバーを超えるけれど、7%とみるとセーフハーバーを満たす、という場合は悩ましいですね。

この場合には、統合される7%分のシェアだけが統合対象であるとしてHHIを計算したいところですが、セーフハーバーというのはあくまで機械的に計算できてこそ意味のあるものです。

それなのに、A社とB社の間に協調関係が生じるかを実質的に判断しないとHHIが計算できないというのでは、セーフハーバーの意味がない、とまでは言いませんが、セーフハーバーと呼ぶにはふさわしくない、といわざるを得ないように思います。

ですので、あくまでセーフハーバーへの該当性を検討する段階では、A社(20%)とB社(5%)のシェア全部を合計した25%が統合後シェアであることを前提にHHIを計算するほかないでしょう。

« 特許権などのライセンスと「国内売上高」 | トップページ | 役員兼任に関するクレイトン法8条の域外適用 »

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: ジョイントベンチャーの設立とセーフハーバー:

« 特許権などのライセンスと「国内売上高」 | トップページ | 役員兼任に関するクレイトン法8条の域外適用 »

フォト
無料ブログはココログ