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2011年11月

2011年11月29日 (火)

ジョイントベンチャーの設立とセーフハーバー

競合会社であるA社とB社が、共同事業を行うためにジョイントベンチャー(JV)を設立する場合に、企業結合ガイドライン上のセーフハーバーで救われるのは、どのような場合でしょうか。

あるいは、JVの場合にはハーフィンダールハーシュマンインデックス(HHI)はどのように計算するのか、という問題と言い換えてもいいでしょう。

この点、A社とB社が完全に一体となる合併であれば、HHIは両社のシェア全部を合算して計算すればよいので、話は単純です。

例えば、A社のシェアが20%、B社のシェアが5%であれば、合併後の会社のシェアは25%になるので、それを前提にHHIを計算すればよいです。

では、A社(20%)とB社(5%)が、それぞれ事業を一部譲渡(例えば、A社からシェア5%分相当、B社からシェア2%相当分)して、シェア7%相当のJVを設立する場合、HHIはどのように計算すればよいのでしょう。

この点、企業結合ガイドライン第4(水平型企業結合による競争の実質的制限)2(1)ウでは、

「出資会社が行っていた特定の事業部門の全部を共同出資会社〔=JV〕によって統合することにより,出資会社〔=A社とB社〕の業務と分離させる場合には,出資会社と共同出資会社の業務の関連性は薄いと考えられる。

したがって,例えば,ある商品の生産・販売,研究開発等の事業すべてが共同出資会社によって統合される場合には,共同出資会社について,市場シェア等を考慮することになる。」

とされています。事業が全部JVに統合されるので、当然ですね。

これに対して、事業の一部統合の場合には、

「他方,出資会社が行っていた特定の事業部門の一部が共同出資会社によって統合される場合には,共同出資会社の運営を通じ出資会社相互間に協調関係が生じる可能性がある。

出資会社相互間に協調関係が生じるかどうかについては,共同出資会社に係る出資会社間の具体的な契約の内容や結合の実態,出資会社相互間に取引関係がある場合にはその内容等を考慮する。

例えば,ある商品の生産部門のみが共同出資会社によって統合され,出資会社は引き続き当該商品の販売を行う場合,共同出資会社の運営を通じ出資会社相互間に協調関係が生じるときには,出資会社の市場シェアを合算する等して競争に及ぼす影響を考慮することになる。

他方,出資会社は引き続き当該商品の販売を行うが,共同出資会社の運営を通じ出資会社相互間に協調関係が生じることのないよう措置が講じられている場合には,競争に及ぼす影響はより小さいと考えられる」

とされています。

ここから読み取れることは、事業の一部譲渡の場合には、JVの運営を通じてA社とB社の間に協調関係が生じるときには、A社とB社のシェアを合算する、ということです。

とすれば、前記の、A社(20%)とB社(5%)が、それぞれ事業を一部譲渡(A社からシェア5%分相当、B社からシェア2%相当分)して、シェア7%相当のJVを設立する例だと、JVの運営を通じてA社とB社の間に協調関係が生じるときには、統合後のシェアは7%ではなく、25%であることを前提に、HHIを計算することになりそうです。

それでもセーフハーバー基準を満たすなら問題ないのですが、25%とみるとセーフハーバーを超えるけれど、7%とみるとセーフハーバーを満たす、という場合は悩ましいですね。

この場合には、統合される7%分のシェアだけが統合対象であるとしてHHIを計算したいところですが、セーフハーバーというのはあくまで機械的に計算できてこそ意味のあるものです。

それなのに、A社とB社の間に協調関係が生じるかを実質的に判断しないとHHIが計算できないというのでは、セーフハーバーの意味がない、とまでは言いませんが、セーフハーバーと呼ぶにはふさわしくない、といわざるを得ないように思います。

ですので、あくまでセーフハーバーへの該当性を検討する段階では、A社(20%)とB社(5%)のシェア全部を合計した25%が統合後シェアであることを前提にHHIを計算するほかないでしょう。

2011年11月22日 (火)

特許権などのライセンスと「国内売上高」

公取委のホームページに、企業結合に関する以下のようなQ&Aがあります。

「Q8  特許等の知的財産権を有している会社が,他社とライセンス契約を締結し,ライセンスフィーを得ている場合,当該ライセンスフィーは国内売上高に入るのですか。

A8  国内売上高に入ります。

 なお,外国の会社からライセンスフィーを得ている場合,当該ライセンスフィーは海外売上高となり,国内売上高には入りません。」

さて、ここで言っている、

「外国の会社」

というのは、具体的には何を指すのでしょうか。

おそらく、外国で事業を行っている会社を想定しているのだろうと思われます。

逆に言うと、外国籍の会社(外国で設立された会社)の日本支店や日本の工場にライセンスする場合には、

「外国の会社からライセンスフィーを得ている場合」

には該当せず、結局、国内売上高に入ると考えるべきでしょう。

というのは、国内売上高か国外売上高かを区別する根拠となる「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第九条から第十六条までの規定による認可の申請、報告及び届出等に関する規則」(「届出規則」)2条を素直に見れば、売上の相手方会社の所在地で国内売上か国外売上かが区別されると考えられるからです。

条文をみてみましょう。

届出規則2条1項では、

「《国内売上高》は、会社等の最終事業年度における売上高・・・のうちに掲げる額の合計額・・・とする。

 (省略)

 ・・・「法人等」・・・が当該会社等の供給する商品又は役務に係る取引の相手方である場合において、当該取引に係る商品又は役務が国内において供給されるときにおける当該取引に係る売上高・・・

 (もっぱら「商品」に関する規定なので、省略)」

とされています。

この条文(届出規則2条1項2号)と、上記公取委のQ&Aを比べると、Q&Aの

「外国の会社からライセンスフィーを得ている場合」

というのは、2条1項2号の、

「役務が国内において供給されているとき」

でない場合を、設問に対応して具体化したものであることがわかります。

ここでいう役務が、例えば物の運送などであれば、国内運送なら「国内において供給されているとき」というように、わりとはっきり分かるのでしょうが、特許権のライセンスの場合は、特許権者が何かサービスを提供するわけではなくて、ライセンシーに特許権の利用を許すだけなので、今ひとつはっきりイメージできないかもしれません。

しかし、基本的には、特許権のライセンス(特許権の使用を許すという意味での役務の提供)という「役務」が「国内において供給」されたか否かは、そのライセンスの地理的範囲(Territory)が日本国内か否かで決まる、と考えて良いでしょう。

ですので、同一の技術について複数の国で特許権を取得している場合に、複数の国をテリトリーとするライセンス(製造の許諾でも、販売の許諾でも、なんでもいいです)をしている場合には、日本国内でのライセンスの対価だけが「国内売上高」であり、通常それは、日本国で成立した特許権のラインセンスの対価となることが多いと思われます(そうでない場合が、ちょっと思いつきません)。

ですので、複数の国の特許権をまとめてロイヤリティを決めている場合には、これを日本の特許の分とそれ以外の分に分ける必要があります。

製造数量や販売数量に従って(従量的に)ロイヤリティを決めている場合は、このような区分は簡単でしょうが、最初に一括で(ランプサムで)まとめて決めている場合には、どう区分したらいいのか分からないことも出てくるかもしれません。

いずれにせよ、特許権は国ごとに別個に成立するものなので、特許権のライセンスにおける「国内売上高」は、おおむね、日本の特許権に対するロイヤリティである、と考えて間違いないと思われます。というのは、外国の特許権を、日本をテリトリーとしてライセンスする、とうことは法的にありえないからです(外国の特許権は当該外国においてのみ有効なので)。

ところで、このQ&Aでは、「特許等の知的財産権」のライセンスを問題にしていますが、知的財産権とはいえないノウハウのライセンスであっても、理屈はまったく同じです(知的財産権でないから「売上」が発生しないということはない)。

ノウハウのライセンスでも、「役務」(届出規則2条1項2号)の提供であることには疑いがないからです。

ですので、ノウハウのライセンスの場合は、まさに、そのライセンスのテリトリーが日本であるのか否か(そのノウハウを使ってライセンシーが商品を販売したり製造したりできるのが、日本国内か否か)で、国内売上高かどうかが決まる、ということになります。

さらにいえば、特許権のサブライセンスからも、同様に国内売上高が発生します。

その場合も、基本的には、日本国内で成立した特許権のサブライセンスのロイヤリティのみが、「国内売上高」にカウントされることになるのでしょう。

2011年11月21日 (月)

特許権の譲渡と企業結合の届出

時々勘違いされることがあるので書いておきますが、特許権だけを譲渡する場合にも、届出の売上要件を満たせば企業結合の届出が必要になりますのでご注意下さい。

ただ、届出が必要な最低の国内売上高は30億円なので、実際には、特許権から生じる国内売上高(ロイヤリティ)だけで30億を超えるということは、あまり無いのかも知れません。

さて、条文を見てみましょう。

適用条文は独禁法16条2項で、特許権は、

「会社であつて、

その会社に係る国内売上高合計額が二百億円を下回らない範囲内において政令で定める金額を超えるものは、

次の各号のいずれかに該当する場合には、

公正取引委員会規則で定めるところにより、

あらかじめ事業又は事業上の固定資産(以下この条において「事業等」という。)の譲受けに関する計画を

公正取引委員会に届け出なければならない。」

のうちの、

「事業用の固定資産」

に当たります。

厚谷他編「条解独占禁止法」p382にも、特許権が含まれるとはっきり書いてあります。

特許権は形がないので「固定」してる感じがしませんが、

「固定資産」

の反対概念は、

「流動資産」(在庫など)

なので、特許権が固定資産に含まれることは明らかですよね。

たぶん勘違いする原因は、

「有形資産」と「無形資産」の区別

「固定資産」と「流動資産」の区別

が、ごっちゃになっているのだと思います。

特許権の他にも、鉱業権とか、温泉権とかも、届出の対象になるでしょう。

外国の権利で、物権とも債権ともつかないような権利は、その都度、「事業用の固定資産」に該当するか否か、という観点から判定するのでしょう。

では特許権の譲受の場合、「国内売上高」は、どのように計算するのでしょう。

この点、特許権だけを譲渡する文脈ではありませんが、公取委のホームページのQ&Aに、

「 Q8  特許等の知的財産権を有している会社が,他社とライセンス契約を締結し,ライセンスフィーを得ている場合,当該ライセンスフィーは国内売上高に入るのですか。

A8  国内売上高に入ります。なお,外国の会社からライセンスフィーを得ている場合,当該ライセンスフィーは海外売上高となり,国内売上高には入りません。」

というのが参考になります。

このQ&Aは、「特許権等」を有している会社の国内売上高の算定方法について述べているのですが、特許権だけを事業上の固定資産の譲受として譲り受ける場合にも、同様に、その特許権が獲得したランセンスフィー(ロイヤリティ)を、国内売上高と考えればいいのでしょう。

ですので、ライセンシーが国内企業である限りは、ロイヤリティが国内売上高になると考えて良いでしょう。

ただ、もっぱらライセンスだけから収入を得ている場合には、ロイヤリティを売上と考えて良いのでしょうが、特許権を内部で使用している場合はどうでしょうか。

この場合は、国内売上高はゼロと考えてよいと思います(なので、届出の対象にはならない)。

特許の価値や競争に与えるインパクトという実質的な問題を考えると、内部使用しているだけの特許権も届出させるという立法論もあって良いと思いますし、実際、譲渡対価の多寡や譲渡資産の価値で届出の要否が決まる制度なら、対外的なライセンスが無くても届出の対象になりうるのですが、現行の日本の制度が「国内売上高」だけを基準に届出の要否を決めている以上、内部使用しているだけの特許権の譲渡には届出は不要と解するほかないと思います。

グループ内だけでライセンスをしている場合も、同様に届出不要です(グループ内の売上は、「国内売上高」にカウントされないので)。

鉱業権や温泉権の場合も、これらの権利をライセンスして対価を得ているのでない限り、国内売上高はゼロと考えて良いでしょう(鉱石の売上や温泉への入場料が国内売上高になるわけではない)。

と、いろいろな場合を考えると、事業全部を譲渡した場合には届出が必要になる(例えば、温泉事業の全部を譲渡すると、当然、入浴料が売上になる)けれど、権利だけを譲渡した場合には届出が不要、ということが、結構起こるかも知れません。

2011年11月14日 (月)

入札談合の弁護の理想と現実

理屈の上では、カルテルは参加者が多くなると不安定になると言われていますが、現実の世の中では、何十社も参加したカルテル、入札談合というのも珍しくありません。

とくに、地方の建設業者の入札談合では、数十社も参加者がいて、長年談合が行われていたということが、珍しくありません。

外国でも、建設業で100社以上が談合に参加していたという話を聞いたことがあります。

さて、これだけたくさんの業者が談合に参加していると、これを弁護する際にも、いろいろと難しい問題が出てきます。

まず、何十社も参加者がいると、それぞれの役割にも濃淡があるのが普通です。

典型的には、中心メンバーで仕事の回し方を決めて、非中心メンバーはそれに従う、というパターンです。

さらに、参加メンバーが多いと、対象となる工事の数も多くなり、ひとえに談合といっても、個別の案件でニュアンスに大きな濃淡があることがあり得ます。

以上を前提に、談合の嫌疑をかけられた業者が違反事実を争おうとする場合に悩ましいのは、自社のためだけの弁護士を立てるのが良いのか、他の業者と共通の弁護士に依頼するのが良いのか、という点です。

もちろん、理想を言えば、各社それぞれに弁護士を頼むのが良いに決まってます。

なぜなら、談合への関与の仕方は各社それぞれであり、反論も各社それぞれであることが多いからです。

そのような場合に、全参加者で1人の弁護士に頼むと、「自分(仮にA社とします)だけは他社とは違う」という類の反論を、非常にやりにくくなります。

というのは、そういう主張をしようとすると、必然的に、

「他社は談合をやっていたかもしれないけれど、A社だけは違う。」

という主張になりやすく、もしそういう主張をすると、「A社」と「A社以外」の間に利益相反が生じてしまいます。

なので、全社から依頼を受けた弁護士は、全体にとっての利益を守るために、

「談合は全く存在しなかった」

という主張になりがちで、個別のA社の利益は犠牲にせざるを得ない、ということになりがちです。

ところが、実際には、非中心メンバーは中小企業であることが多く、自社のためだけに弁護士を依頼すると、弁護士費用の負担が大変です。

それに、みんなが1つの法律事務所に依頼しているときに、自分だけ別の弁護士を依頼することには、心理的抵抗があるかもしれません。

何十社も参加者がいる談合では、少なくとも排除措置命令を見る限り、個別の参加者の談合への関わり方は、きわめてあっさりと認定されているのが通常です。

民事の損害賠償請求訴訟なら、個別的な関与の実態が認定されていない、このような簡単な事実認定では、到底認容判決は書けないだろうな、というくらい、簡単です。

なので、本気で争う気があるのであれば、個別に弁護士を立てる価値は充分にあると思います。

でも現実は、すでにみんなで頼んでいる弁護士がいるのに、さらに自腹を切って(全額自己負担で)別の弁護士を選ぶ、というのは、中小企業にとってはハードルが高いのも事実です。

ですので、公取委には、「何十社もいたら個別企業の関与の認定は大変なので、まとめて排除措置命令を出して、もし異議を申し立ててきたらそのとき話を聞けばいいだろう」という態度ではなくて(←現状がこうだという趣旨ではありません)、個別企業の関与の仕方も、民事訴訟並みに詳細に行い、それでもさらに違反事実が認められる企業だけに排除措置命令と課徴金納付命令を出す、という慎重な、というか、ある意味当然の運用を行って欲しいと思います。

個別企業の視点でみれば、自社の関与の仕方が何も具体的に書かれていないのに課徴金を課せられるというのは、やりきれないものがあります。

本当に談合をやっていたなら言われなくても分かるのでそれでもいいのでしょうけれど、もし身に覚えがなかったら、どうやって反論したらいいのかすら分からないでしょう。

また、地方の建設業者では、この不景気の中、数千万円単位(億は行かない程度)の課徴金でも、首をくくらないといけないという企業も出てくると思います。

(こういう事例をみるにつけ、個別企業の支払い能力に配慮しない、一律の課徴金算定方法を定める現行の独禁法は、問題があるのではないかと思えてなりません。)

談合をもしやっていたのであれば、それもやむを得ないかもしれません。

しかし、もしやっていなかったら、どうでしょうか?

本当に、きちんと裁判所で個別の弁護士をつけて争った場合でも、現行の課徴金納付命令は、すべての個別企業について、反論に耐えうる内容でしょうか?

やっていないのに課徴金を課してしまう(false positive)の可能性は、許容できる範囲にとどまっていると言えるでしょうか。

地方の中小企業は独禁法の知識もなく、弁護士費用も賄えず、また、地方では独禁法を扱える弁護士を探すのも大変、という現実を踏まえて、公取委には、適正な執行をお願いしたいと思います。

2011年11月 9日 (水)

経済学に関するジョーク

マンキューの経済学の教科書か何かで見た記憶なのですが、経済学者に関する以下のようなジョークがあります。

********************

無人島に、物理学者、化学者、経済学者の3人が流れ着いた。

食料の詰まった缶詰はあるものの、缶切りがない。

物理学者:「缶詰を高いところから落下させて開けよう。」

化学者:「缶詰を火にかけて、熱で膨張させて開けよう。」

経済学者:「ここに缶切りがあると仮定しよう。」

********************

経済学者というのは、何でも仮定(assumption)を置いて議論し、その仮定が時に現実を無視したものであることを皮肉ったジョークです。

英語の経済学の教科書を開くと、「It is assumed ...」というフレーズが連発されているので(しかも、さらっと書いてあって実はとても大事だったりする)、このジョークは私にはとても腑に落ちました。

確かに、経済学のモデルでは、前提をどのように置くかによって、結論が天と地ほど違ったりすることがあります。

例えば、

Philip Crooke, Luke Froeb, Steven Tschantz and Gregory J. Werden, "Effects of Assumed Demand Form on Simulated Postmerger Equilibria"

という論文をみると、需要関数をどう仮定するかで合併シミュレーションの結論がどれほど異なるかがよく分かります。

ある市場での需要関数を計測した先行研究でもあれば別ですが、これほど結論が前提にされるものを良く平気で使えるなぁというのが、非エコノミストの抱く素朴な感覚ではないでしょうか。

(ちなみに、もし訴訟になったら、裁判官は2人の専門家証人の間を取る可能性が高いです(←半分冗談です)。)

とくにアメリカで、独禁法の訴訟で経済学が用いられる場合、お決まりのように、「リアリティ・チェックが必要だ」といわれます。

つまり、経済学のモデルに従って導かれた結論(予想)が、現実離れしていないかチェックせよ、というのです。

でも、私は「ちょっと待て」といいたいです。

経済学で出た結論が現実離れしていたらその結論は棄却し、現実離れしていなかったら採用する、というのでは、「現実」以外に経済学を用いるメリットは何なのでしょう?

もちろん、どのようなモデルを用いても、どのような前提を置いても、ある程度似たような結論がでるのであれば、その予想は信頼性が高い、ということになるのかもしれません。

また、ピンポイントで答えが出なくても、ある程度幅のある答えでも結論を出す(例えば合併を禁止する)かどうかを決めるためには充分に参考になる、ということもあるかもしれません。

しかし、それでも、より根本的な問題として、どのような場合にリアリティチェックの必要が高く、どのような場合に低いのか、という目安みたいなものを、経済学は示す必要があるのではないでしょうか。

そもそもエコノミストの人には、法律家(あるいは、経済学の素人)であれば当然抱くようなこのような疑問に答えなければならないという発想がそもそも乏しいのではないか、と私には思えてなりません。

・・・と、経済学をこけおろしてばかりではいけません。

何と言っても、世界には経済学者についてのジョークより、弁護士についてのジョークの方がずっと多いのですからsmile

2011年11月 4日 (金)

【お知らせ】セミナーやります。

12月5日に、金融財務研究会というところで、

「米国カルテル規制の最新動向」

というテーマで、セミナーをやります(有料です)。

申し込みはこちらのページからできます。

http://www.kinyu.co.jp/cgi-bin/seminar/232277.html

できるだけ具体的で分かりやすく、かつためになる内容にしようと思いますので、ご興味のある方はぜひご参加下さい!

なお、内容が結構センシティブなので、今回は法律事務所の関係者の方はご遠慮いただいています。ご了承ください。

2011年11月 2日 (水)

IBAドバイ大会(2日目)

IBAドバイ大会の2日目は、カルテル調査に関するセッションに出てきました。

この手のテーマで日本のことが取り上げられるときには、

①日本では、プリビレッジ(弁護士依頼者秘匿特権)がない、

②日本では、被疑者の取調べへの弁護士の立会いが認められていない、

という2点が話題になる、というか、はっきり言えば槍玉に挙げられるのですが、今回もそんな感じでした。

①のプリビレッジの件は、制度の違いといってしまえばそれまでですし、別にプリビレッジがなくても、そういうもんだと思っていればとくに問題を感じることはありません。

私は、公取委を含め、誰に見られても問題無いような意見書を書くことの方が圧倒的に多いですし、どうしてもクライアントに都合の悪い内容なら、書面にせず口頭でアドバイスすれば良いだけの話です。

それに、少なくとも独禁法の世界では、今回のテーマのカルテルを含め、行為者の違法性の認識が排除措置命令や課徴金納付命令の要件になっているわけではないので、依頼者に都合の悪い内容の法律意見書が出てきても、大勢に影響はありません(公取委の人に「先生、こんな意見書くんですねぇ」と皮肉のひとつくらいは言われるかもしれませんが)。

刑事事件になった場合には、弁護士がダメだと言ったのに敢えて行ったというのは、情状として考慮されることはあるかもしれません。

でもその程度です。

むしろアメリカでは、プリビレッジに該当するのかどうかという点が延々と議論され、それが訴訟で争われ、そういったことに弁護士がアドバイスした時間が全部クライアントにチャージされるんだなぁと考えると、つくづくアメリカは、広範なディスカバリーもそうですが、弁護士にお金が落ちる仕組みになっているのだなぁと感じます。

(でもアメリカでは、依頼者も弁護士も、それらのコストをビジネスをする上で当然のコストと考えているフシはあります。)

というわけで、プリビレッジのほうはたんに制度の違いですし、日本にプリビレッジがないこと自体が他の国から批判されるということも感じません。

問題は、②の弁護士の取調べへの立会いの方です。

今回もこの話題が日本からのスピーカーに振られて、日本では取り調べに弁護士が立ち会えないという話になると、会場の参加者から、失笑というか、驚きのため息というか、もっとはっきり言えば、

「日本は本当に先進国なのか?」

という、なんとも言えない、見下されているような雰囲気を感じました。

人権侵害の恐れのより大きい刑事事件の取調べですら可視化の議論が進んでいるのですから、公取委のほうで一気に弁護士の立会いまで認めることにそんなに不都合はないと思います。

公取委だって、「日本では他の役所で立会いを認めているところがないから」というような消極的な理由しか、立会いを認めない理由は無いのではないでしょうか。

弁護士に立ち会われて本当に取り調べの邪魔になると本当に思われているとしたら、そのような取調べをしていることの方が問題です。

公取委は、リーニエンシーという、日本では前例の無い制度を他の省庁に先駆けて導入して大きな成功を収めたわけですから、弁護士の立会いについても、先頭に立って欲しいものです。

といいますか、個人的には、本気でそうなると期待しています。

2011年11月 1日 (火)

IBAドバイ大会

今週は、IBA(International Bar Association)の大会に出席するために、ドバイに来ています。

今回も競争法関係のセッションを中心に参加するつもりですが、今日は午前中、少数出資と独禁法の問題についてのセッションと、午後は、知的財産(IP)とドミナンス(独占)のセッションに出てきました。

とくに午後のIPとドミナンスのセッションが非常に刺激的で、面白かったです。

パネリストの中では、元FTC委員長のコバチク氏のお話が、いつもながら情熱的で楽しかったですが、何より、欧州委員会のチーフエコノミストのKai-Uwe Kuhn氏のお話が、すばらしかったです。

私の理解が至らない点もあると思いますが、要点を列挙すると、以下の通りだったと思います。

①寡占業界では、長期的競争と短期的競争は、それほど相容れないものではない(短期的競争もあったほうが、長期の技術革新も進む)。

②技術の補完性が今ほど重要になった時代はない。

③特許制度は、技術の補完性の重要性をそもそも考慮していない(そのため、権利の範囲が広すぎることによる技術革新のdisincentiveに配慮していない)。

④経済学に関するempiricalな研究はこの20年間に革命的に進歩しており、古い研究は方法論として間違っていたことが明らかになってきている。

⑤FRANDコミットメントは、特許権者の反競争的行為に対処するのに役立たなかった。

⑥特許権の価値は、特許のcharacterからは分からない(なので、特許庁の審査官を増やしても問題の解決にはならない)。

⑦特許の価値は、特許権者が他にどのような特許権を持っているかに大きく左右される(補完的な特許を多数持つ大企業は、クロスライセンスを申し出ることで、他社からの特許の攻撃をかわすことができるが、中小企業にはそれはできない、など)。

⑧特許の価値は特許権者が他に有する特許できまるので、企業結合の際も、パテントのポートフォリオが形成されるという視点を持つことが必要。

⑨ブランド製薬会社からジェネリック製薬会社に対する、ジェネリック薬を販売しない見返りとしての和解金の支払い(いわゆるリバースペイメント)は、経済学的には、どうみても反競争的。

⑩ジェネリック医薬品の問題は、事前の需要の弾力性と事後の需要の弾力性が著しく異なる点に尽きる。

まず、IPとドミナンスの問題について経済学者がここまでクリアーな主張を展開できることに、正直かなり衝撃受けました。

これでは、法律家の出る幕がないのではないでしょうか(苦笑)。

5名いたパネリストのうち同氏が唯一のエコノミストですが、法律家が「ああでもない、こうでもない」、「あれも大事、でもこれも大事」みたいな議論になって結論が出ない中で(←ちょっと誇張してますけど)、モデレーターが同氏に、

「経済学の観点からはどうなのでしょう?」

と話を振ると、ことごとくクリアーな答えがでるのです!

(しかも、分からない質問があると、「私にも分からないんです。」と、正直に仰るのです。)

これは、たんにエコノミストの知見が法律家の知見より有用だという単純なことではなくて、同氏のクリアーな説明によるところが大きかったのでしょう。

上にまとめた要点も、一つ一つを見れば目新しいものは無いのかもしれませんが、それぞれの文脈で、端的に最も適切な説明をするのは、本当に問題の本質が分かっていないとできることではありません。

だいたい、頭のいい人ほど分かりやすく話すもので(←ど真ん中に直球を投げ込むイメージ?)、私が独禁法を勉強していて同じような衝撃を受けたのは、ハーバード大学のEiner Elhauge教授、京都大学の川濱昇教授、東京大学の白石忠志教授の書いたものを読んだときくらいです。

エコノミストの方が独禁法をテーマに話すのを聞いたことは過去にもたくさんありますが、多くの場合、法律家には通じない言葉と、(それ以上に深刻なのですが)法律家には仮に理解できても受け入れがたい論理の連発で、みなぽか~んとしている感じなのですが、Kuhn氏はモノが違うという感じでした。

日本の公取委にもこんなエコノミストの人が一人でもいたら、きっと日本の独禁法実務も大きく進歩するのになぁと思います(いらっしゃるけど私が知らないだけかもしれません。すみません。。)。

まだ3日間ありますが、今回はKuhn氏のお話が聞けただけでも大収穫でした。

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