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2011年11月 1日 (火)

IBAドバイ大会

今週は、IBA(International Bar Association)の大会に出席するために、ドバイに来ています。

今回も競争法関係のセッションを中心に参加するつもりですが、今日は午前中、少数出資と独禁法の問題についてのセッションと、午後は、知的財産(IP)とドミナンス(独占)のセッションに出てきました。

とくに午後のIPとドミナンスのセッションが非常に刺激的で、面白かったです。

パネリストの中では、元FTC委員長のコバチク氏のお話が、いつもながら情熱的で楽しかったですが、何より、欧州委員会のチーフエコノミストのKai-Uwe Kuhn氏のお話が、すばらしかったです。

私の理解が至らない点もあると思いますが、要点を列挙すると、以下の通りだったと思います。

①寡占業界では、長期的競争と短期的競争は、それほど相容れないものではない(短期的競争もあったほうが、長期の技術革新も進む)。

②技術の補完性が今ほど重要になった時代はない。

③特許制度は、技術の補完性の重要性をそもそも考慮していない(そのため、権利の範囲が広すぎることによる技術革新のdisincentiveに配慮していない)。

④経済学に関するempiricalな研究はこの20年間に革命的に進歩しており、古い研究は方法論として間違っていたことが明らかになってきている。

⑤FRANDコミットメントは、特許権者の反競争的行為に対処するのに役立たなかった。

⑥特許権の価値は、特許のcharacterからは分からない(なので、特許庁の審査官を増やしても問題の解決にはならない)。

⑦特許の価値は、特許権者が他にどのような特許権を持っているかに大きく左右される(補完的な特許を多数持つ大企業は、クロスライセンスを申し出ることで、他社からの特許の攻撃をかわすことができるが、中小企業にはそれはできない、など)。

⑧特許の価値は特許権者が他に有する特許できまるので、企業結合の際も、パテントのポートフォリオが形成されるという視点を持つことが必要。

⑨ブランド製薬会社からジェネリック製薬会社に対する、ジェネリック薬を販売しない見返りとしての和解金の支払い(いわゆるリバースペイメント)は、経済学的には、どうみても反競争的。

⑩ジェネリック医薬品の問題は、事前の需要の弾力性と事後の需要の弾力性が著しく異なる点に尽きる。

まず、IPとドミナンスの問題について経済学者がここまでクリアーな主張を展開できることに、正直かなり衝撃受けました。

これでは、法律家の出る幕がないのではないでしょうか(苦笑)。

5名いたパネリストのうち同氏が唯一のエコノミストですが、法律家が「ああでもない、こうでもない」、「あれも大事、でもこれも大事」みたいな議論になって結論が出ない中で(←ちょっと誇張してますけど)、モデレーターが同氏に、

「経済学の観点からはどうなのでしょう?」

と話を振ると、ことごとくクリアーな答えがでるのです!

(しかも、分からない質問があると、「私にも分からないんです。」と、正直に仰るのです。)

これは、たんにエコノミストの知見が法律家の知見より有用だという単純なことではなくて、同氏のクリアーな説明によるところが大きかったのでしょう。

上にまとめた要点も、一つ一つを見れば目新しいものは無いのかもしれませんが、それぞれの文脈で、端的に最も適切な説明をするのは、本当に問題の本質が分かっていないとできることではありません。

だいたい、頭のいい人ほど分かりやすく話すもので(←ど真ん中に直球を投げ込むイメージ?)、私が独禁法を勉強していて同じような衝撃を受けたのは、ハーバード大学のEiner Elhauge教授、京都大学の川濱昇教授、東京大学の白石忠志教授の書いたものを読んだときくらいです。

エコノミストの方が独禁法をテーマに話すのを聞いたことは過去にもたくさんありますが、多くの場合、法律家には通じない言葉と、(それ以上に深刻なのですが)法律家には仮に理解できても受け入れがたい論理の連発で、みなぽか~んとしている感じなのですが、Kuhn氏はモノが違うという感じでした。

日本の公取委にもこんなエコノミストの人が一人でもいたら、きっと日本の独禁法実務も大きく進歩するのになぁと思います(いらっしゃるけど私が知らないだけかもしれません。すみません。。)。

まだ3日間ありますが、今回はKuhn氏のお話が聞けただけでも大収穫でした。

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