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2011年10月27日 (木)

優越的地位濫用への課徴金と継続性の要件

平成21年改正によって優越的地位の濫用に対して課徴金が課されることになりましたが、すべての優越的地位の濫用に対して課せられるわけではなく、

「継続してするもの」(独禁法20条の6)

に限って課せられることになっています。

では、この「継続性」とは、具体的にはどのようなことを指すのでしょうか。

立案担当者の解説では、

「どのような場合が『継続してするもの』に該当するかは、

事案の態様に応じて個別に判断することになるが、

例えば、一定期間従業員等を派遣させたり、

定期的断続的に協賛金を収受したりすることや

恒常的に返品を繰り返す場合には、

それぞれ継続的な行為に該当しうるものと考えられる。」

と説明されています(藤井他編著「逐条解説平成21年改正独占禁止法」p89)。

どうやら、「一定期間」、「定期的」、「断続的」、「恒常的」というあたりの修飾語がポイントになりそうです。

ただ、ここで挙げられている事例は、いずれも、継続的に行われているか否かの判断が比較的容易なものばかりだと思います。

でも、例えば、発注者(優越している側。甲)が、製造委託先(優越されている側。乙)との契約内容を、一方的に乙に不利に変更したとします。例えば、納入価格を著しく低額に設定するような契約です(優越的地位ガイドラインでは、「取引の対価の一方的決定」といわれる類型です)。

このような契約を締結するのは1回きりだけれど、その後、そのような低額の価格で継続的に納入させ続けたような場合、「継続性」の要件は満たされるのでしょうか。

これはかなり微妙ですね。

「取引の対価の一方的決定」という、「決定」行為が優越的地位濫用の実行行為だとみれば、決定したのは1回だけですので、「継続性」は満たさないようにみえます。

これに対して、決定後の、個別の納入を受ける行為(各取引)を実行行為とみれば、「継続性」あり、ということになりそうです。

(もっとも、こんなに「かっちりした」議論の枠組みが分析手法としてそもそもふさわしいのか、議論はあり得るでしょう。)

他の行為類型とのバランスを考えると、「継続性」あり、とされる可能性が高そうですし、おそらく公取委はそのような見解に立つだろうと想像されます。

ただ、私は、このような場合は、決定したことは1回きりなので、継続性はないと考えるべきだと思います。

というのは、「継続性」の要件は、事業者を過度に萎縮させないようにという趣旨で加えられたもので、とすると、その都度意思決定をして、何度も濫用行為があったのなら「継続性」ありとされても過度な萎縮効果はないといえるでしょうが、一度決めたものを何度も実行しただけで「継続性」ありとされたのでは、萎縮効果はかなりあると思われるからです(決めるのは1回きりなのに、それでもダメだと言われるのですから)。

実際、契約内容の一方的な不利益変更が優越的地位濫用に該当しないかという相談は、実務ではけっこう多く、(そういうことを気にして弁護士に相談に来るクライアントはきちんとした会社が多いですから、多くの場合、問題ないと回答するのですが、それはさてき)もし不利益変更は1度きりでも契約が続くのであれば「継続性」ありで課徴金リスクもある(つまり、いわゆる継続的契約の変更だと常に課徴金リスクありとなる)、ということになると、それなりにリスクとしては無視できないということになると思います。

ただ、上記立案担当者の解説で、従業員派遣や協賛金収受、返品といった行為が例示されているのは、やはり公取委が想定している課徴金事例というのはそういった行為類型なのであって、契約の不利益変更などはそもそも優越的地位濫用として摘発するつもりはないのではないか、ということが伺えて、興味深いものがあります。

ちなみに公取委の英訳では、「継続してするもの」とうのは、

「performed on a regular basis」

となっています。直訳すれば、「定期的に」ですし、

"regular"の意味を辞書で調べると

"following a pattern, especially with the same time and space in between each thing and the next"(パターンに従うこと。とくに、各事柄とその次との間に、同じ時間および空間を伴う。)

なので、こっちのほうが、立案担当者解説の具体例にしっくりと馴染むような気がしますね。「継続的」というのは、どうも漠然としすぎている気がします。

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コメント

優越的地位濫用ですが上記ブログを興味深くよませてもらいました。私はあるメ-カ-の系列電器店をしていますが、優越的地位についていつも不思議におもいます。優越側が仕入れ業者として問題がでていますが、自分のような系列店で起きている問題も優越的地位の濫用と同じだとおもうのですが、どうなんでしょうか?
先日メ-カ-販売会社から自店が発注してない商品をかってに納入してきました。不要な商品のため、返品依頼をしましたが、聞き入れられず結局自店の在庫になっています。系列店であるため、のちのちの取引に影響がでないようにと販売会社からの押し付け販売を我慢している電器屋はたくさんいますが、商道徳からみればとても公正な取引とおもえません。このような行為は独占禁止法には抵触しないのでしょうか?

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