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2011年9月 5日 (月)

米司法省によるAT&TとTモバイルの提訴

新聞などの報道によれば、8月31日、米司法省(DOJ)が、AT&T(全米2位)によるTモバイル(全米4位)の買収を阻止するために、連邦地裁に差止訴訟を提起しました。

訴状が、DOJのウェブサイトで見られます。

事件の成り行きも注目されるところですが、個人的に興味深いと思ったのは、買収契約上、もし当局の許可が下りずに買収を完了することができなかった場合、AT&Tが、Tモバイルに対して、現金で30億ドルのブレイクアップフィーを支払うのみならず、30億ドル相当の携帯電話の周波数帯とAT&Tのネットワークへのアクセスを提供することを合意していることです(9月1日付ウォールストリートジャーナルによる)。

現金のほうはさておき、周波数帯とネットワークアクセスの提供を補償として合意することによって、企業結合の審査上にどういう影響があるのかは、ちょっと注意する必要があります。

まず、周波数帯とネットワークアクセスの提供がない場合、もしDOJが買収を阻止すると、現状のままのAT&TとTモバイルが、市場で競争し続けることになります。

この場合、DOJの判断は、

A:現状維持(買収を阻止した場合)

と、

B:AT&TとTモバイルの統合(買収を認めた場合)

を天秤にかけて、どちらかを選ぶ、ということになります。

これに対して、周波数帯とネットワークアクセスの提供がなされる場合、DOJが買収を阻止すると、周波数帯とネットワークアクセスの提供を受けて競争力を増したTモバイルが市場に登場することになります。

この場合のDOJの判断は、

A’:(少し弱くなった)AT&Tと、競争力を増したTモバイル(買収を阻止した場合)

と、

B:AT&TとTモバイルの統合(買収を認めた場合)

を天秤にかけることになります。

そして、本件買収が反トラスト法違反と言えるかはさておき、少なくとも市場の競争度の強さの比較からすれば、前者のシナリオでは、

A>B

であるのにたいして、後者のシナリオでは、

A’≫B

であり(Tモバイルは4位なので、Tモバイルが強くなると、市場全体の競争度は増すと考えられます)、後者のシナリオのほうが、DOJの買収阻止の誘因は大きいように思われます。

なんだかTモバイル(あるいはDOJ?)が焼け太りしているような気がしないでもないですが、当事者がそういう合意をしたのだから仕方ありません。

逆にもし、TモバイルがAT&Tを買収するような案件(小が大を呑む)で、AT&Tが周波数帯などの提供をTモバイルから受けるという補償があったとすれば、DOJとしては、逆に、買収を阻止する誘因が小さくなったかもしれません(阻止すると、大がますます強くなるので)。

なお、かかる補償が資産の譲渡に該当する場合には、当該資産の譲渡自体について企業結合の審査を受けるので、最悪の場合、買収は阻止されるわ、補償も禁止されるわ、ということが起こり得ます。

ですので、補償のために資産譲渡をする場合は、当該譲渡自体が当局に禁止された場合のことも想定して、契約書で合意しておく必要があります。

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