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2011年9月

2011年9月27日 (火)

100%兄弟会社間のカルテル

「公正取引」2011年5月号(727号)p64で、東大名誉教授の松下満雄先生が、兄弟会社間でカルテルが成立しうるのか、という点に関して、興味深いことを述べておられます(「結合企業間共謀に関する米最高裁判例動向」)。

論文は米国のアメリカンニードル事件(2010年)という連邦最高裁判決の評釈なのですが(ちなみに、この事件はABAの年次総会でも取り上げられたり、米国でも非常に興味を持って迎えられているようです)、関連部分を、ちょっと長いですが引用すると、

「・・・競争関係にある二社の株式が共通株主によって取得されるが・・・この共通株主の判断として、この二社には相互に競争をさせる方が企業活力や配当も多くなるとの見通しに基づいて、相互に競争させる方針を採ることもあり得るであろう。このような場合には、この子会社間には競争があり得るのであり、その競争が両社の共謀によって制限されれば、シャーマン法1条に違反するとの結果が生ずることが考えられる。」

と述べられています。

確かに、それに続けて、

「もっとも親会社と完全子会社間において、子会社が親会社から独立して意思決定を行い、両者が競争に従事する可能性は実際上殆どないといってよいであろう。」

とも述べられているのですが、要するに、親会社が、営業戦略上、あえて子会社同士(兄弟会社)を競争させることもあるじゃないか、そういうのも独禁法の競争として保護されるべきじゃないか、という趣旨と思われます。

しかし、そもそも、上記で下線を引いた、

この共通株主の判断として、この二社には相互に競争をさせる方が企業活力や配当も多くなるとの見通しに基づいて、相互に競争させる方針を採ることもあり得るであろう

ということを理由に、100%兄弟会社間の共謀がカルテルになりうるというのは、私はおかしいと思います。

まず、松下先生の考え方によれば、

①親会社が子会社同士を競争させるという営業政策を採っている場合には、(そのような親会社の営業政策に反して?)子会社間で共謀が行われた場合はカルテルが成立する、

のに対して、

②親会社が始めから子会社同士を競争させない営業活動を採っていた場合には、子会社間で共謀が行われてもカルテルが成立しない

ということになり、いかにもバランスが悪いです。

つまり、親会社が子会社同士を競争させようとすればするほど(←これは、松下先生の上記の考え方によれば競争法上望ましいことのはず)、カルテルリスクが高くなる、ということになってしまい、本末転倒です。

①の方針(競争させる)を採っていた親会社が、そのためにカルテルで子会社が摘発されたとしたら、びっくりするのではないでしょうか。

またその裏返しですが、松下先生の考え方に従うと、親会社は、表だって「グループ間を競争させる」という方針を打ち出しにくくなるのではないでしょうか。

それに実際には、子会社を「競争させている」か、「競争させていない」かの線引きは微妙で、

「お互い、グループ会社間でも切磋琢磨し、でもグループの利益を損ねるような無茶な競争はしないで、他社との競争に勝ち抜こう」

というのが、仮に①の方針(競争させる)を採った場合でも、常識的な方針なのではないでしょうか。

さらに、

「相互に競争させる方針を採ることもあり得るであろう」

というような、「あり得る」のレベルで子会社同士にカルテルが成立しうるとしたら、殆どの場合で子会社間の共謀はカルテルになりうる、ということになりかねません。

また、お互い切磋琢磨する、あるいは、ライバル心を燃やす、ということは、同じ法人の異なる部署の間、あるいは「社内カンパニー制」を採っている場合の「カンパニー」間でも起こりうることです。

そうすると、なぜ同じ法人の内部の協調ならカルテルにならない(←これは争いないでしょう)のに、異なる法人間の協調であれば(100%親子間でも)カルテルになるのか、実質的な説明できないように思います。

(会社は「事業者」にあたるけれど、会社内の部署は「事業者」ではない、という解釈はあり得ますが、本質的な問題から目を背けて形式的な文言解釈でお茶を濁しているような気がします。)

それと、より根本的には、「子会社を競争させる方が企業活力が増す」とか、「親会社への配当が多くなる」とかいうのは、競争法が保護すべき競争とは関係のない、全く別次元の話だと思います。

単純な経済モデルで頭の中を整理すると分かりやすいと思うのですが、親会社が企業活力増進とか配当増加とかを目指して一定の(子会社を競争させるという)政策を採る場合、親会社はあくまで自己の利益の最大化を目指しているわけです。

親会社が自己の利益の最大化を目指している中で、子会社同士を競争しているように振る舞わせるのがその目的に資すると考えて、子会社を競争させる政策を採ったとしても、あくまでそれは親会社の利益の最大化のために行われているに過ぎないのであり、それが結果的に子会社が「競争」しているような様相を呈しているだけのことで、本当の「競争」というのとは全然違うと思います。

本当の競争というのは、ある事業主体(ここでは、子会社)が、自己の利益の最大化を目指して、価格を設定したり、生産数量を決めたり、設備投資をしたり、ということだと思います。

もし子会社が、本当に自社だけの利益の最大化を目指したら、それはかなりイレギュラーなことです。

もちろん、経済合理性だけを考えれば起こりえないことも現実の世の中では起こりえますし、従業員や、カンパニー制の事業部長が、会社全体の利益ではなくて、(将来の出世のため、とかの理由で)自分の事業部だけの利益を図ることもあるかもしれません。

でもそれは、市場における競争を保護すべき競争法とは関係のない話だと思うのです。

グループ内の「競争」を親会社が奨励している場合でも、やはりグループ全体の利益を損ねるような行き過ぎた「競争」があれば親会社が介入するのは(経済合理性からすれば)目に見えており、そのような箱庭の中での「競争みたいなもの」を、独禁法で保護する必要性も妥当性も無いと思います。

さらに、標準的なミクロ経済学の競争モデル(静的競争)では、子会社同士を競争させた方が、「配当も多くなる」というのは、相当イレギュラーです(というより、あり得ないです)。

独占と完全競争を比べれば、完全競争の方が利益が少ないに決まっています。

実際の世の中でも、子会社同士が競争したら、普通は配当(や配当可能原資)は少なくなるでしょう。

例えば、100%兄弟会社間の協調が談合だと言われたエコステーションのようなケースで、子会社同士が真剣勝負で入札する場合が最も利益が少なくなるのは明らかでしょう。

仮に競争した方がイノベーションも進んで長い目で見れば利益も増える、という場合があったとしても、それは当該複数の兄弟会社が市場で(他の事業者と)競争しているからであって、兄弟会社同士で競争しているからではないでしょう。

やはり、理屈の上でも、実務上も、グループ会社(100%親子はもちろん、たぶん50%超でも)は、まとめて1つの競争主体と考えるべきです。

(ちなみに日本では、上述のような、エコ・ステーションの談合の排除措置命令という先例があるのですが、これは入札談合という特殊な文脈だったので違反にされた、とみるべきでしょう。私自身は、エコ・ステーションの公取委の判断自体、おかしいと考えていますが。)

松下先生のような考え方が、無制限に一般化されるような形で実務に広がらないことを望みたいです。

2011年9月19日 (月)

ACA年次大会に参加しました。

最近競争法フォーラムに入会した流れで、9月16日、Asia Competition Association (ACA)の年次大会に出席してきました。

これは、日韓中の3国の競争法当局や実務家の人々がお互いに情報交換をし、学び合う、というものです。(新参者なので、あまり詳しいことが分からず、すみません。。。)

日本の公取委からは、後藤晃委員がEnforcers Roundtableにスピーカーとして出席されていました。

場所は六本木の国際文化会館というところでした。

国際文化会館といえば、私が2006年に東京に来て間もない頃、近所を散歩していたらこの会館の前に通りかかり、東京の都心のど真ん中に、長大な石垣に囲まれた敷地があることに驚いたのをよく覚えています。

それはさておき、ACAの大会ですが、非常に内容が濃かったです。

正直、IBA(Inernational Bar Association)とかIPBA(Inter-Pacific Bar Association)だと、本当の競争法のプロばかりが出席するわけではないので、基礎的な情報提供にとどまらざるを得ないことが多いのですが、ACAの大会に来ているのは本当のプロばかりなので、どのスピーカーも話のレベルを下げることなく、めいいっぱい発表されていた感じです。

面白い話題がいくつもありましたが、とくに、単独行為に関するセッションが面白かったです。

参加有料のカンファレンスなので詳細を紹介することは控えますが、以前ICNで議論された忠誠リベートに関する仮想事例を少々モディファイして議論する、というものでした。

簡単に言うと、ある小国でシェア70%超を有するビール会社が、販売店に対して、以下のような3つのリベートを提供したことが、独禁法に違反しないか、というものでした。

①前年同一四半期比で5%増以上の売上を達成したら、1%のリベートを支払う。

②前年同一四半期比で10%増以上の売上を達成したら、さらに1%(合計2%)のリベートを支払う。

③上記①②の売上を4四半期連続で達成したら、さらに3%(合計5%)のリベートを支払う。

同時にそのビール会社は、販売店が③のリベートを獲得して初めて、リベート導入前のマージンを確保できるレベルにまで、卸売価格を引き上げます。

さて、これが独禁法違反になるでしょうか。

私は独禁法違反にはならないと思いました。

1つめの理由は、このリベートは長く続かないと思われるからです。

毎年、前年比5%の売上増を達成するなんて、並大抵のことではありません。

なので、放っておいても崩壊するリベートは、市場の競争に任せて、放っておけばよいのです。

次に、この忠誠リベートは、インテルのリベートのケースと違って、販売店の仕入額に対する割合(仕入シェア)を基準とするのではなく、絶対的な販売額を基準としているのもポイントだと思います。

つまり、インテルのケースでは、パソコンメーカーがある種のリベートを受け取るには仕入シェアを100%にしなければならなかったので、必然的にライバルのAMDからの仕入シェアが0%になる、という関係にあったわけですが、シェアを問題としない本設例では、ライバルのビール会社の製品がそこまで排除されることは無いように思われます。

ついでに言えば、リベートの獲得のしやすさという点でも、自社仕入シェアを基準にする方が売上を基準にするより簡単であることは明らかでしょう(仕入シェア基準の場合、とにかくそのメーカーから100%仕入れれば言いわけです。その結果、消費者からそっぽを向かれて売上は落とすかも知れませんが、リベートはともかく獲得できます)。

さらに、インテルのケースではパソコンメーカーは数えるほどしか無かったのに対して、本設例では、販売店は、大手スーパーや小規模小売店など、(多分)無数にあるということも、ポイントではないかと思いました。

つまり、インテルのケースではシェアが大きないくつかのパソコンメーカーをがっちり押さえておけばAMDが入ってくる余地が相当限られてしまう、という関係にあったといえます。

これに対して、本設例では、その押さえなければならない取引相手方の数がべらぼうに多く、それもあって多分大多数の販売店を押さえるということはできないのではないか、と思われます。

それから、対象商品がビールという、個人によって嗜好の違いのある商品、つまり差別化された商品である、ということもポイントだと思います。(これがCPUと違うところです。)

つまり、多少値段が高くても、自分の好みの味のビールを買う人が多く、そのため、(リベートが支払われる結果)支配的ビール会社のビールの小売価格が下がっても、ライバルの排除はそれほど起こらないのではないか、という気がするのです。

ではこのリベートによって何が起こるかというと、むしろ同一ブランド内の競争が促進され、支配的ビール会社のビールを販売してくれる販売店の数が減る(M&Aや廃業によって)のではないか、と想像します(この部分は、あくまで想像です)。

つまり、毎年自力で売上を伸ばすのが大変なら、他の販売店の商圏を買い取ってでも売上を伸ばした方が利益になる、という発想です(実際には、スーパーも小規模小売店も、ビールだけを売っているわけではありませんから、そういうことは起こらないのかもしれませんが)。

また韓国からのスピーカー(経済学者)の方の試算によると、このリベートの導入によっても、販売価格は販売増分に対する単位あたり実効増分費用を上回る、つまりコスト割れではない、ということでした。

なのでなおさら、この忠誠リベートを違法な排除行為だというのは難しいように思います。

やはり、この手の排除行為の違法性を判定するには経済学の考え方が不可欠で、例えば日本の排除型私的独占ガイドラインの文言を当てはめて違法か適法かの結論を出すというアプローチにはそもそも無理があるのではないかという気がします。

(私も、仕事で意見書を書くときは、一応ガイドラインの文言をなぞりますが、答えは実はその前に出ていたりします。一般の法律家の方には、「そんなの反則だ」と言われそうですが、独禁法はある程度そういうところがあるのは認めざるをえません。)

でも法律家の出る幕が無いわけではなくて、例えば同じく韓国の経済学者の方がおっしゃってた、

「このリベートを導入したビール会社の動機は何だったのか。」

という問いかけは極めて重要で、この辺りは経済モデルだけでは答えは出ず、競争の実態を素直な目で見つめることが必要であり、その辺りに法律家の出る幕もあるのではないかと思います(というより、そう思いたいです。笑)。

実は、似たようなリベートの導入について以前相談を受けたことがありますが、そのクライアントが気にしていたのはもっぱら優越的地位の濫用でした(まさに本件と同じく、リベート導入と同時に、基本卸価格を上げたので)。

市場の画定の仕方にもよりますが、そのクライアントもかなり支配的な地位にありました。

その経験からも分かるのは、本件のようなリベートを導入するメーカーの意図は、多分ライバルの排除ではなく、自社の売上向上や、代理店の士気を含めた広い意味での質の向上なのでしょう。

といった辺りが、法律家と経済学者が協働できるところかと思いました。

それと、企業結合のセッションでびっくりしたのですが、韓国では、届出義務違反に対して罰金を実際に科しているんですね。

これは、とくに外国企業に対して日本の企業結合規制を守らせるという点では、極めて重要だと思います。

形の上では届出義務違反に罰則があるといっても、実際に適用例がないと、とくに外国企業の場合には、届出をしないでおこうというふうになりがちです。

でも1件でも実例があると、全然話が違ってきます。

新聞や、米国証券取引法上の開示書類(インターネットで閲覧可)を見ていれば、外国会社同士の合併で、日本での売上が大きそうなものは分かるでしょう。

そういったところから、届出漏れがないかを見つけて、必要に応じて罰金を取ることは、日本の独禁法を守らせるためには重要だと思います。

ただ、日本では届出義務違反をしても罰則が刑罰としての罰金で、刑罰は検察庁が動かないと科せられないなどハードルが高いので、簡易な過料の制裁を導入すべきだと思います。

あと、懇親会でお会いした何人かの参加者の方、ときにはびっくりするような(この業界では)著名な方から、「ブログ読んでます」と言われて嬉しかったとともに身の引き締まる思いがしました。

来年は中国で行われるみたいですが、また参加したいと思いました。

2011年9月15日 (木)

コンプライアンスプログラムと米国反トラスト法違反の減刑

米国には量刑ガイドラインというものがあり、米国ではカルテルは刑事事件ですから、当然、カルテルを行った場合の量刑についても、この量刑ガイドラインが適用されます。

(日本では、このような量刑のガイドラインが、少なくとも大っぴらに存在を明らかにされることはあり得ないでしょう。

理由はきっと、量刑は個別具体的な事情を考慮して定められるべきもので、一律のガイドラインには馴染まない、ということなのでしょう。

なので、こういうガイドラインが大っぴらにされること自体、お国柄の違いとして興味深いものがあります。)

さて、この量刑ガイドラインで、実効性のあるコンプライアンスプログラムを採用している会社の場合には、量刑上有利な事情として考慮される、とされています。

しかし、少なくとも独禁法の世界では、コンプライアンスプログラムの存在を理由に量刑が減刑されたことはありません。

American Bar Association(ABA)が出している、「Antitrust Law Development 6th ed」にも、

「The Division (司法省反トラスト局のこと) has never recommended a reduction based on an effective antitrust compliance program.」

と明記されています(p790)。

同様に、独占禁止法基本問題懇談会の「独占禁止法基本問題懇談会報告書」(平成19年6月26日)の資料集にも、

「量刑ガイドラインは、コンプライアンス・プログラムを減刑要因としているが、結果的に、独禁法の事件では、コンプライアンス・プログラムが量刑で考慮されにくい。司法省が訴追するときにも、コンプライアンス・プログラムの存在を減刑要素として考えることはない(1994 年10 月から2003 年9 月までの刑事事件件数は、955 件であるが、そのうち、効果的なコンプライアンス・プログラムを有していたとされたのは2 件にとどまり、反トラスト法違反に対する適用例はない。)。」

と記載されています。

もちろん、独禁法コンプライアンスプログラムを作ることには、独禁法リスクを減らすという大きな意味があると思います。

しかし、あたかも独禁法コンプライアンスプログラムを設けていれば減刑が受けられるかのような紹介の仕方をするのは、誤解を招くと思います。

2011年9月11日 (日)

【9・11(米同時多発テロ)10周年】

あの日から10年経ったんだなぁと思います。

2001年9月11日、私はNYU(ニューヨーク大学)に留学するために、マンハッタンのグリニッジビレッジの寮に住んでいました。

9月からの授業が始まる前に、生活用品を買い揃えたり、時間のあるときにニューヨークを観光したりしていました。

この写真は、テロの2週間くらい前に、たまたまワールドトレードセンターの近くに寄ったときに撮ったものです。天気も良かったので、展望台に上ってみることにしました。

Wtc

展望台からさらに屋上にまで出られて(「高所恐怖症の人には勧められない」との警告板あり)、さすがに高いところなので風は強かったですが、何も遮るものがなくマンハッタン島を見渡せるのは、とても爽快でした。

Top_of_wtc

それからしばらくしての、9月11日でした。

秋晴れで、とても気持ちのいい朝でした。

私は1限目の講義に出るために8時半頃に寮を出て、ロースクールの校舎の方に歩いていきました。

交差点ごとに人が集まっていて、南の方を指さして何かを見ていて、最初は何を見ているのか分かりませんでした。

(当時はまだテレビも買ってなかったので、ニュースは見ていませんでした。)

10分くらいでロースクールまでたどり着いて、校舎の角の交差点でロースクール生らしき人たちが集まっていたので、

「What happened?」

と聞いてみたら、

「An airplane clashed into the World Trade Center.」

というので、上を見上げてみたら、ワールドトレードセンター(北棟)に、黒い、飛行機が突っ込んだような跡ができていて、煙がもうもうと上がっていました。

これはえらいことだと思いながらもとりあえず授業に出たら、担当の教授が、

「ニュースによると、小型機がワールドトレードセンターに突っ込んだらしいです。」

といっていました。

この時点でテロだと分かっていたら、授業どころではなかったでしょうね(ちなみに、その日の午後と、あと1週間は、全ての講義が休講になりました)。

1限の講義が終わって、とにかく寮に戻って、写真を撮らなきゃと思い(今にして思えばのんきなものでした)、撮ったのが下の写真です。

Wtccollapse2

このとき既に、サウスタワーは無くなっていたみたいです。(もともと、サウスタワーはノースタワーに隠れて、あまり見えなかったのですが。)

写真を撮り始めて直後くらいに、

「ゴゴゴ」

という音が聞こえてきたと思ったら、ノースタワーが崩壊し始めました。

Wtccollapse3

ビルが跡形もなくなるまで、一瞬のことでした。

Wtccollapse6

これを見たときは、倒れるのを防ぐために人工的に爆破したのかな?とか一瞬思ったりしたのですが(外国でビルの解体をするときに、一瞬で爆破するのに似てたので)、ともかくこれはただ事ではないと思い、急いで部屋に戻って実家の両親に電話しました。

そうしたら父親が出て、

「おお、幸也。えらいことになってるぞ。ペンダゴンにも突っ込んだらしいぞ。」

と教えられました。

これを聞いて初めて、

「テロだ。」

と気づきました。

それと、

「これは、戦争になる。」

とも思いました。

もっとショックだったのは、ビルが崩落したときに、まだ中に3000人以上の人がいたということを、あとでニュースで知ったときでした。

ほんの目と鼻の先、2キロほど先で、3000人以上の人が一瞬で亡くなった、ということは、とてもショックでした。

そして、昨日までの平和な生活が、明日も同じように続くとは限らない、ということを、肌で感じました。

当時はブッシュ大統領がアフガニスタン(国ではなくて、標的はテロリストだったのですが)に戦争をしかけたことに、日本ではいろいろと批判もあったようですが、私は、

「そんなの、テレビの中で人ごとだと思って見てるから言えるんだ。こんなひどいことをまのあたりにして、武力行使しなかったらいつするんだ。」

と感じたものでした。

・・・でも今は、どうなんでしょうねぇ。分かりません。武力に武力で対抗するのが、正しいことだったのか。

少なくとも、自分だけが絶対正しいんだと思い込むことは、危険だという気はしてきました。

法句経の一節が、頭に浮かびます。

「実にこの世においては、怨みに報いるに怨みをもってしたならば、ついに怨みの息(や)むことがない。怨みを捨ててこそ息む。これは永遠の真理である。」

(法句経5)

"Hatreds never cease by hatreds in this world.  By love alone they cease. This is an ancient law."

(Dhammapada No.5)

2011年9月 9日 (金)

リニエンシーにおける協力義務

韓国では、2011年7月20日に、リニエンシー申請後当局の調査に申請者が誠実に協力しない場合にはリニエンシーを取り消すことができるという「不当な共同行為自主申告者等に対する是正措置等の減免制度運営告示」の改正がありました(7月21日施行)。

アメリカのリニエンシーでは、違法行為を完全に報告し、捜査に全面的に協力することが、訴追の免除を受けるための要件となっています。

EUでは、欧州委員会に提出した証拠が重大な付加価値を有するものでなければ、制裁金の減額は受けられないことになっていますし、減額率は協力の程度が考慮されます。

いずれにせよ、調査に全面的に協力するインセンティブが違反者に働く仕組みになっていると言えそうです。

ところが、日本のリニエンシーでは、必ずしもそのようにはなっていないように思われます。

確かに、独禁法7条の2第17項では、リニエンシーの欠格事由として、

「当該事業者・・・が行つた当該報告又は提出した当該資料に虚偽の内容が含まれていたこと。 」(1号)

「前項〔公取委からの追加報告の要求〕の場合において、当該事業者が求められた報告若しくは資料の提出をせず、又は虚偽の報告若しくは資料の提出をしたこと。 」(2号)

「当該事業者がした当該違反行為に係る事件において、当該事業者が他の事業者に対し・・・違反行為をすることを強要し、又は当該違反行為をやめることを妨害していたこと。 」(3号)

というのが定められてはいますが、全面的に協力しなければ失格になるとはされていません。

1号は、虚偽の報告や証拠を提出すれば該当しますが、例えば、違反事実に関する証拠を持っているけれど出さなかった、という場合は該当しません。

2号も、持っている証拠についてピンポイントで公取委から提出を求められたのに出さなければ該当しますが、手元にある証拠を積極的に出さなかったというだけで該当するわけではありません。

(理屈の上では、公取委が、「違反に関するあらゆる事実を報告し、あらゆる証拠・資料を提出せよ」と要求すれば、全面的協力義務と同じような効果が生じるのかも知れませんが、そのような網羅的な要求に従わなかったことを理由にリニエンシーを取り消されたのでは当事者としてはたまったものではなく、反面、公取委としてはそのような要求はしにくいでしょう。また実際にもしていません。)

それに日本では、どれだけ一生懸命に協力してもしなくても、減免される課徴金の額は法律で機械的に決まってしまうので、欠格事由に引っ掛からない限りは、それ以上に全面的に協力しようというインセンティブが湧きにくいと言わざるを得ません。

やはり、2号の追加要求に答えていれば減免を受けられるというのと、全面的な協力義務がある(あるいは、一生懸命協力すればするほど制裁金が安くなる)というのとでは、だいぶ違うと思います。

もちろん、多くの場合、リニエンシー申請企業は一生懸命公取委に協力するのですが、そうとばかりは限りません。

極論すれば、被害者からの損害賠償などの可能性も考えれば、申請会社としては、1位を確保した上で調査は開始されない、というのが最も望ましいわけです。

そうすると、1位は確保できるけれども立入検査を行うには足りない、という程度の証拠の提出に留めておくインセンティブが働くのではないかという気すらします(実際にそのような場合がどれだけあるかは確かに疑問ですが)。

素朴な感情論としても、一生懸命協力したのに3割の減額しか受けられなくって、適当に協力した者が全額免除を受けるというのも、何か釈然としないものがあります。

突き詰めれば、日本の課徴金の額が機械的に決まってしまうことに起因する制度の限界ということなのかもしれませんが、何とかならないものかと思います。

2011年9月 8日 (木)

企業買収の契約書における前提条件の記載

株式譲渡や、その他のM&Aに関する契約で、クロージング(代金の支払いと目的物の引渡)の前提条件(conditions precedent, CP)として、

「本件取引の実行に必要な当局の承認が得られていること」

といった類の条項を入れることがよくあります。

そして、独禁法の届出が必要であることが分かっている事案だと、より具体的に、

「本件について、公正取引委員会の承認が得られていること」

といった条項を入れてしまいがちです。

これでも間違いではないのですが、その意味合いについてはよく考えておく必要があります。

なぜなら、日本の独禁法では、一次審査の30日間の待機期間が満了した後は、公取委の承認(排除措置命令を行わない旨の通知の受領)がなくても、クローズして差し支えないからです(独禁法10条8項など)。

(もちろん、そういうことをすると原則90日間の2次審査中に排除措置命令が出て、クローズした案件をひっくり返されてしまう可能性はあるわけですが、そのリスクを踏まえてクローズしても、罰則はないということです。)

つまり、前述のような条項を入れると、法律上必要な限度を超えて当事者を縛っていることになるのです。

もちろん、とくに買主の側は安心して買いたいでしょうし、代金はできるだけ遅く払いたい(その分、対象物を手に入れるのも遅くなるわけですが)ことが多いでしょうから、前記のような条項を望むこともあるでしょう。

ですので、この手のCPを入れるときには、法律上のデフォルトルールはどうなっているのかを理解した上で、よくプラスとマイナスを考えるべきです。

「このような条項を入れてしまったけど、やっぱり公取委の結論が出る前にクローズしたい」という場合には、どうすればいいでしょう。

この場合には、CPはその利益を受ける側が放棄することができるのが通常ですから、代金支払の前提条件として上記のような条項が入っていても、(代金支払義務を負う)買主は、そのCPを放棄してクローズすることを選択できます。

また、外国での独禁法の届出が必要になる場合にも、同じことが問題になります(日本やアメリカのような、届出不要でも実体法上違法になりうる国の場合は、届出不要なケースでも問題になります)。

ですので、外国の独禁法も問題になるケースでは、CPの部分だけでも、各国の弁護士の意見を聞くのが望ましいです。

2011年9月 7日 (水)

問題解消措置としての事業譲渡の届出

企業結合がそのままでは認められない場合に、一部の事業を他社に譲渡するなど、いわゆる問題解消措置が採られることがあります。

このように、問題解消措置として行われる事業譲渡についても、独禁法の届出要件に該当する場合には、企業結合審査を受けていた当初の企業結合(「審査対象の企業結合」)とは別途、届出が必要になりますので、注意が必要です。

この点、問題解消措置としての事業譲渡は、審査対象の企業結合の問題点を解消するために行われるものなので、当該事業譲渡自体は公取委も了承しているはずなんだし、さらに別途届出をさせることに意味があるのか、という疑問も湧きます。

もっともな疑問だと思います。

しかし、かかる問題解消措置としての事業譲渡について届出を免除するような規定はありませんので、法律どおり、届出が必要と考えるほかありません。

企業結合の届出書の最後には、問題解消措置を書く欄がありますが、ここに書いたからといって、当該問題解消措置について届出がなされたとみなすのは無理です。

届出では、実質的な審査に必要がないような少数持分関連会社に関する情報も含め、種々雑多な情報の提供が必要ですので、ある意味では当然です。

ただし、問題解消措置を公取委と協議する中で、当該問題解消措置自体について競争制限効果が生じないことは、当然公取委もチェックしているでしょう。

ですから、実際には、別途当該問題解消措置としての事業譲渡を届け出ても、二次審査にいくとか、追加で調査されるとかいうことはあり得ないと思われます。

なので、問題解消措置としての事業譲渡の事業譲受人は、淡々と届出書を公取委に提出することになります。

そして、実際には、30日の待機期間も短縮されるのでしょう。

ただ、このような別途の届出が必要になることは、スケジュールの策定時に、一応考慮に入れておくことが必要でしょう。

さて以上は、問題解消措置を、当初の審査対象の企業結合に書き込む場合を想定して説明しました。

では、事前相談が廃止された現在、どういう取扱いになるのでしょうか。

まず、審査対象の企業結合の届出書に、問題解消措置を記載して、改めて出し直す、というパターンが考えられます。

この場合、問題解消措置としての事業譲渡も、届出要件にヒットする限り、別途届出が必要でしょう(理由は上述のとおり)。

さらに、公取委から、問題解消措置を命じる排除措置命令を受けて問題解消措置を採ることになる、ということもあるかもしれません。

おそらく、クローズ前に排除措置命令が出る場合(これが普通でしょう)は、

「○○の問題解消措置を採らない限り、本件合併を行ってはならない。」

とかいう命令になるのでしょう。

で、結論としては、この場合でもやはり、問題解消措置として行う事業譲渡については、別途届出が必要と考えざるを得ないでしょう。

理由はやはり、排除措置命令に従った措置の場合についての、明文の届出免除規定が無いからです。

さらに、クローズ後に排除措置命令が出る場合(30日の待機期間後はクローズして良いので、あり得ます)には、

「○○の事業を公正取引委員会の認める者に譲渡しなければならない。」

という排除措置命令になるのでしょう。

この排除措置命令に従うために行う事業譲渡についてもやはり、別途届出が必要と考えられます。

理由は同じく、明文の届出免除規定が無いからです。

ただし、届出義務者は事業の譲受人なので、届出が無かったとしても、排除措置命令の名宛人(当初の審査対象の企業結合の当事者)が排除措置命令違反罪に問われたりするわけではありません。

と、細かい論点はいろいろありますが、立法論としては、排除措置命令として行う事業譲渡(に限りませんが)は届出を免除すべきではないでしょうか。

ちなみに、米国では、当局の命令による場合には、届出免除になります(16 CFR 802.70)。

2011年9月 6日 (火)

「競争法フォーラム」に入会しました。

独禁法専門の弁護士の団体で「競争法フォーラム」というのがありまして、この度、私も入会しました。

もちろん、私もその存在は知っていましたし、むしろこの業界では、「独禁法専門なのにどうして入ってないの?」と思われてしまうくらいの団体なので、これまで入会していなかったのはたんにきっかけが無かっただけなのですが、今回そのきっかけがあった(お世話になっている会員の方に誘われた)ので、入ることにしました。

せっかくの縁ですから、忌憚のない意見交換をさせていただこうと考えております。

会員の方もこのブログをご覧になっているかもしれないので、この機会に私の独禁法の信念を一言で申しますと、

「独禁法は、経済学が分からないと、絶対に分からない」

ということです。

(「じゃ、経済学の博士号を持ってれば、一流の独禁法弁護士になれるのか。」というと、必ずしもそうでないのが、奥の深いところですが。)

経済学のモデルが頭に入っていると、例えばなぜカルテルはいけないのか、価格差別や抱き合わせがなぜ競争促進的(あるいは競争中立的)であり得るのか、といった問題が、スーっと理解できます。

企業結合の分析などは、市場画定にせよ商品差別化の問題にせよ、経済学の基礎知識がないと、わけが分からないはずです。

ところが、法律というのは恐ろしいもので、問題の本質的な部分が理解できていなくても、たくさんの事例に触れて、あるルールを何度も何度も念仏のように唱えていると、何となく分かったような気になるし、それである程度正しい答えが出てしまうのです。

ですが、独禁法はそれではいけません。

少なくとも、独禁法実務は、それではいけません。

問題の本質が分かっていないと、「ある程度」の正しい答えすら出ないのが、独禁法です。

その問題の本質を理解するのに必須なのが、経済学です。

また実務では、およそ訴訟や公取委の事件にならなそうな問題についての相談、つまり「なんとなく大丈夫そうだけれど、本当に大丈夫かな」というような問題の相談を受けることが多いですが、そういうときに、きちんと理屈をつけて、自信を持って大丈夫と回答するためには、経済学的発想はとても役に立ちます。

譬えて言えば、独禁法における経済学と法学の関係は、ワインと澱(おり)の関係に似ています。

澱がまったくないワインは味わいがありません。

でも、澱だけ舐めて、ワインの味が分かるわけではありません。

ワイン自体を飲んだことが無くても、澱だけ舐めてワインの銘柄を当てられる人もいるかもしれませんが、それはワインを味わったことになりません。

経済学を知らずに独禁法を語るのは、ワイン(=経済学)の味も知らずに、澱(=法律)だけ舐めて、ワインの銘柄を当てる(=問題に答えを出す)ようなものだと思います。

だいぶ話が逸れてきましたが、独禁法の非専門家に説明するときに、経済学の議論から入ると、だいたい拒否反応を示されます。

これに対して、独禁法の専門家を自認する弁護士と議論するときは、経済学の分かっている人なら有益な議論ができますし、分かっていない人でも、黙って「ふむふむ」と聞いてくれます(笑)。

日本の経済が縮小していく時代に、日本の独禁法実務が世界で認められるためには、説得力のある、レベルの高い議論に裏付けられた実務を積み重ねていくことが、とても重要だと思います。

(一般の方にとっては、「独禁法の世界で日本が認められることに価値があるのか?」ということかもしれませんが、専門家としては、それでは寂しいわけです。)

公取委の方、あるいは元公取委の方の、「公取委の考え方はこうだ」というお話を、理屈も分からず有り難く聞いているだけでは、進歩はないと思います。

つねに、「なぜ?」と問い続けなければいけません。

実は、経済分析が盛んな米国、EUでも、競争法の弁護士と話をすると、

「経済分析はエコノミストに任せている」

とか、

「企業結合はエコノミストの仕事になって、弁護士のやることは無くなった」

という反応が多いのです。

つまり、欧米では役割分担の発想が強く、弁護士が経済学を分かろうとすらしないのです。

この点、欧米では法律事務所がエコノミストを所内に抱えているところもありますが、日本では多分ないでしょうし、外部のコンサルも、日本では1社くらいしかありません。

この日本の現状を、逆境と捉えることもできますが、弁護士が経済学もカバーせざるを得ない状況をチャンスと捉えることもできるのであり、それは考え方次第だと思います。

というわけで、競争法フォーラムでは、日本の独禁法実務のレベルアップのために、有意義な意見交換をしたいと思います。

2011年9月 5日 (月)

米司法省によるAT&TとTモバイルの提訴

新聞などの報道によれば、8月31日、米司法省(DOJ)が、AT&T(全米2位)によるTモバイル(全米4位)の買収を阻止するために、連邦地裁に差止訴訟を提起しました。

訴状が、DOJのウェブサイトで見られます。

事件の成り行きも注目されるところですが、個人的に興味深いと思ったのは、買収契約上、もし当局の許可が下りずに買収を完了することができなかった場合、AT&Tが、Tモバイルに対して、現金で30億ドルのブレイクアップフィーを支払うのみならず、30億ドル相当の携帯電話の周波数帯とAT&Tのネットワークへのアクセスを提供することを合意していることです(9月1日付ウォールストリートジャーナルによる)。

現金のほうはさておき、周波数帯とネットワークアクセスの提供を補償として合意することによって、企業結合の審査上にどういう影響があるのかは、ちょっと注意する必要があります。

まず、周波数帯とネットワークアクセスの提供がない場合、もしDOJが買収を阻止すると、現状のままのAT&TとTモバイルが、市場で競争し続けることになります。

この場合、DOJの判断は、

A:現状維持(買収を阻止した場合)

と、

B:AT&TとTモバイルの統合(買収を認めた場合)

を天秤にかけて、どちらかを選ぶ、ということになります。

これに対して、周波数帯とネットワークアクセスの提供がなされる場合、DOJが買収を阻止すると、周波数帯とネットワークアクセスの提供を受けて競争力を増したTモバイルが市場に登場することになります。

この場合のDOJの判断は、

A’:(少し弱くなった)AT&Tと、競争力を増したTモバイル(買収を阻止した場合)

と、

B:AT&TとTモバイルの統合(買収を認めた場合)

を天秤にかけることになります。

そして、本件買収が反トラスト法違反と言えるかはさておき、少なくとも市場の競争度の強さの比較からすれば、前者のシナリオでは、

A>B

であるのにたいして、後者のシナリオでは、

A’≫B

であり(Tモバイルは4位なので、Tモバイルが強くなると、市場全体の競争度は増すと考えられます)、後者のシナリオのほうが、DOJの買収阻止の誘因は大きいように思われます。

なんだかTモバイル(あるいはDOJ?)が焼け太りしているような気がしないでもないですが、当事者がそういう合意をしたのだから仕方ありません。

逆にもし、TモバイルがAT&Tを買収するような案件(小が大を呑む)で、AT&Tが周波数帯などの提供をTモバイルから受けるという補償があったとすれば、DOJとしては、逆に、買収を阻止する誘因が小さくなったかもしれません(阻止すると、大がますます強くなるので)。

なお、かかる補償が資産の譲渡に該当する場合には、当該資産の譲渡自体について企業結合の審査を受けるので、最悪の場合、買収は阻止されるわ、補償も禁止されるわ、ということが起こり得ます。

ですので、補償のために資産譲渡をする場合は、当該譲渡自体が当局に禁止された場合のことも想定して、契約書で合意しておく必要があります。

2011年9月 1日 (木)

セーフハーバーの実務的意味合い

企業結合ガイドラインでは、ハーフィンダールハーシュマン指数(HHI)を用いた、いわゆるセーフハーバーというものが準備されています。

つまり、企業結合後のHHIとHHIの増分が一定の値以下の場合には、問題なしと推定するというルールです。

しかし、このセーフハーバーの実務上の意味合いについて誤解されることがあるので、ちょっと注意が必要です。

まず、セーフハーバーは、そのHHIの値以下であれば問題ないと推定するというだけに過ぎず、その値を超えれば違法と推定するというわけではありません。

(この点、米国水平企業結合ガイドラインのHHIは、違法性を推定する基準が含まれていますが、日本のHHIはそのような文言にも運用にもなっていません。)

さらに、セーフハーバーを超えるからといって、2次審査に必ず行くというわけではありません

(これに対して、セーフハーバー未満であれば、間違いなく1次審査で終わります。)

実際には、セーフハーバーを超える案件のうち、2次審査に進むものはごくわずかです。

これは実際の統計にも表れていて、平成23年6月21日公表の「平成22年度における主要な企業結合事例について」の(参考2)によると、平成22年度の届出受理件数は265件ですが、2次審査まで行ったのは数件でしょう(2次審査まで行くと、公取委のHPに公表されます。数えてませんが)。

もちろん、2次審査行く前に、2次審査に行くことを嫌った当事者が事前相談を任意に取り下げたために2次審査に行かない、という、「隠れた非承認案件」も、いくつかはあるとは思いますが、全体の数に占める割合は多くないはず、というのが実務的感触です。

ちなみに、今日現在で2次審査(今年の7月からは、事前相談ではなくて、法律上の2次審査ですが)にかかっているのは、

①新日鐵と住金の統合、

②シーゲイトによるサムスンのハードディスクドライブ事業の譲り受け、

③ウェスタンデジタルによる日立のハードディスク事業子会社(Viviti Technologies)の株式取得、

の3件だけで、確か新日鐵の件が2次審査に入って以来この3件は変わっていないので、2次審査に行く数はそんなに多くないということはお分かりいただけると思います。

ちなみに、「平成22年度における主要な企業結合事例について」で、詳細な審査(2次審査)を行ったと明記されているのは、BHPビリトンの件とアジレント・テクノロジーズの件の、2件だけです。

また、上記報道発表資料の(参考3)によると、事前相談で回答した74分野(相談件数ではなく、一定の取引分野数でカウントしていますので、1つの案件(相談)に3つの分野があれば、「3つ」とカウントされます)のうち、セーフハーバー未満なのは、

①HHI1500以下・・・7分野

②HHI1500超2500以下、かつ、HHI増分250以下・・・9分野

③HHI2500超かつHHI増分150以下・・・9分野

の合計25分野なので、残りの49分野(=74-25)が、セーフハーバーを超えていたことになります。

そして、このようなセーフハーバー超えの49分野のうち、問題解消措置がとられたのは2分野だけで、割合にすると約4%です。

以上をまとめると、

①セーフハーバーを超えても(49分野中)、2次審査まで進むのはごく一部(年数件)、

②2次審査まで進んでも、問題解消措置が取られるのはさらにその一部(年2分野)、

ということがいえると思います。

実際、依頼者の方が関心を持つのは2次審査に行くのかどうかのほうであることが、数としては多い気がします(もちろん、最終的に認められるか否かも重要ですが、一部の非コア事業を売却するくらいの問題解消措置で済むなら構わない、という場合も多いです)。

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