« 2011年7月 | トップページ | 2011年9月 »

2011年8月

2011年8月29日 (月)

企業結合の届出書の受理日

企業結合の届出書を公取委の窓口に持っていくと、その場ですぐに受理ということにはなりません。

提出した後、補足や補正を求められ、だいたい5営業日くらい経ってから、「届出受理書」をもらえる、という流れになります。

(あまりに内容が不備な場合には、出し直しを要求されることがあるかもしれませんが、それはまれでしょう。)

ただ、「届出受理書」の日付は、窓口に提出した日が記載されます。

つまり、窓口に提出した日に遡って受理されたことになります。

ですので、30日の待機期間も、「届出受理書」の日付(=窓口に提出した日)の翌日から起算して30日、ということになります。

ですが、何か不備があったりした場合には受理をされないおそれはあるので、届出書のドラフトチェックに早めに行くなりして、余裕を持った日程で届出を行うべきでしょう。

2011年8月23日 (火)

一度きりの入札談合

入札談合というと、公共工事の入札談合のような、同じメンバーが繰り返し行うものを一般的にはイメージしますが、目的物が1個の場合や、被害者が1人だけの場合でも、談合で違法であることに変わりはないので注意が必要です。

例えば、破産管財人が破産者の財産である不動産(1個でも複数でもいいです)を売却しようとしている場合に、複数の買手候補者である不動産会社の間で話し合って誰が落札するか決めれば、立派な(?)談合です。

「入札」という形式を取らずに、買取希望価格を提出させる相見積もりの方法であっても、同様です。

談合の被害者は、自治体には限らないわけです。

私もむかし破産管財人とかをしていたころ、「なんか怪しいなぁ」という経験をしたことがありますが、ひょっとしたら談合だったかもしれません。

他には、例えば子会社を入札(ビッド)で売却するようなM&Aの場面も、複数の買収候補者の間で話し合って落札者を決めたりしたら、談合になります。

実際、投資銀行が仕切っているビッドでは、入札参加者は談合してはいけないとか、談合した場合には損害賠償請求義務を負うとか、入札要綱に書いてあったりもします。

このように、1回きりの談合でも、目的物が1個だけの談合でも、談合になりますので、注意して下さい。

(目的物が、市場で取引されているものでなくても談合(カルテル)になるのは、当然です。)

では、そういったケースが公取委に実際に摘発されるリスクがどのくらいあるのか?といわれれば、リスクは高くないのかもしれません。

ただ、それはたまたまバレなかっただけ(あるいは、バレても、公取委の人手が足りなかっただけ)の話であり、違法でなくなるわけではありません。

ただし、例えば入札参加者がたくさんいて(例えば10社以上)、そのうち2社だけで話し合ったに過ぎない、という場合には、競争の実質的制限がないということで、違法でない可能性はあります。

(ただこの反論は危険で、「なら、どうして2社だけで話し合ったんだ。それは、2社が最有力の落札候補者だったからのではないのか?」という疑念が、常に生じます。)

これに対して、入札参加者が3社だけで、そのうち2社で話し合いをした、という場合には、相当な確率で違法になる(競争の実質的制限あり)と思います。

同じくらい有力な入札参加者が5社ぐらいで、そのうち2社で話し合ったららどうか?というとちょっと微妙ですね。

残り3社は自由に競争しているわけで、そうすると、談合した2社が落札できるとは限らないので、競争の実質的制限はない、と言える場合もありそうです。

でも談合が成立するには、2社の期待利益が高まれば充分(実際に、この1回の入札で談合参加者が落札できなくてもいい)と考えるべきではないでしょうか。

もし談合しなければ、競争価格で5分の1しか落札できないのが、談合すれば、落札できる可能性は下がるものの、落札価格は高くなる(買う競争の場合)可能性があるのであり、トータルで落札価格も高めになることはあり得る、と言えると思います。

少なくとも以上のように考えるべき場面はあると思います。

例えば、同じような顔ぶれで何度も入札が行われるような場合です。

このような場合には、一発勝負ではないので、談合する者からしてみると、必ず今回の入札で落札できなくてもよく、将来どこかで落札できる可能性があり、そのときに、競争価格よりも有利な価格(買う競争なら安い価格、売る競争なら高い価格)なら充分ペイする、ということがあり得ると思います。

つまり、一部でだけ談合することによるマージンの拡大による利益の増大と、落札できる可能性が下がることのトレードオフです。

経済学の理屈の上では、同じコスト構造の3社が入札に参加すれば、2社が談合しても、残り一社が落札するので競争は制限されない、ということかもしれません。

しかし、理屈どおりに事が運ばないのが現実の世の中であり、上記のようなトレードオフが生じる場面というのはあると思います。

2011年8月19日 (金)

お友達紹介キャンペーンと景表法

よく、フィットネスクラブなどで、「お友達を紹介して頂いた方に1万円分のギフト券進呈」というような、お友達紹介キャンペーンがあります。

このようなギフト券の進呈は、景表法上問題ないのでしょうか。

この問題については、定義告示運用基準(「景品類等の指定の告示の運用基準」)の4(7)に、

「自己の供給する商品又は役務の購入者を紹介してくれた人に対する謝礼は、『取引に付随』する提供に当たらない(紹介者を当該商品又は役務の購入者に限定する場合を除く。)」

とされています。

なので、景表法の規制を受けない一番手っ取り早い方法は、紹介者を会員や会員となろうとする者に限定せず、オープンにしてしまうことです。

諸般の事情でオープンにするのがはばかられる、ということであれば、括弧内の

「紹介者を当該商品又は役務の購入者に限定する場合」

に該当し、景品類であるということになります。

紹介してもらったら謝礼以上の利益がフィットネスクラブに発生することもあるので、紹介者を既存会員に限っただけで謝礼を「景品類」というのはいかがなものかと思いますが、景品規制にはこの手のよくわからないルールがたくさんあります。

実務上は、運用基準に書いてある以上、従うほかないのでしょう。

そして、謝礼は既存会員全員にもらえる(総付け)ではなく、紹介に成功した人にだけ与えられるので、「懸賞」ということになるのでしょう。

(懸賞制限告示(「懸賞による景品類の提供に関する事項の制限」)の1項の一の「偶然性」(紹介に成功するかどうかは偶然だから?)か、二の「特定の行為の優劣」(紹介に成功したことが、紹介行為として優れている行為であると考える?)のでしょう。)

そうすると、

謝礼の最高額は取引価格の20倍(それが10万円を超えるときは10万円)

謝礼の総額は取引予定総額の2%

ということになります。(運用基準2項・3項)

ここで、フィットネスクラブのような継続的なサービスの場合には、「取引価格」とか「取引予定総額」をどう考えるのかは、なかなか難しい問題です。

まず、「取引価格」については、最も安いコースの料金ということでよいでしょう。(懸賞告示運用基準5(1)、総付告示運用基準1(2))

会費が月払いなので悩ましいですが、1か月間キャンペーンを実施するなら1か月分の会費を基準にすればよいでしょう(その20倍までは謝礼がOK)。

ただし、熱心に何人も紹介してくれる会員さんがいても、総額で10万円までと考えるべきでしょう。(分かりやすく、会費月5000円以上と考えておきます。)

というのは、謝礼はあくまでフィットネス役務に対する景品であって、紹介行為に対する対価ではないので、何人紹介しても、一人当たりの景品上限は10万円で固定されると考えるべきだからです。

(2つのコースに入ってくれた新規会員は、2つの役務を購入してくれたので、倍の20万円というのが理屈でしょうが、フィットネスクラブでそのようなことは起きないでしょうから無視します。)

次に「取引予定総額」については、キャンペーン期間中に見込まれる会費収入総額と考えればよいと思います。

理屈上分けて考えれば、

① キャンペーン目当てで入ってくる新入会員

② キャンペーンの有無にかかわらず入ってくる新入会員

③ キャンペーンがあるからこそ退会を思いとどまった既存会員

④ キャンペーンの有無にかかわらず継続する既存会員

に分けられるのでしょうけれど、「取引予定総額」を考えるときには、これらを区別する必要はないでしょう。

なので、1か月のキャンペーンで、その1か月の会費収入予定総額が1億円なら、謝礼の総額は200万円、ということになります。

やはり、実態は紹介という労力に対する対価なのに、法律上は新規または既存の会員に対する役務提供に対する景品という形式をとるので、かなり変な計算の仕方だとは思いますが、おおむね以上のような考え方に立っておけば、消費者庁からは文句は言われないと思います。

2011年8月16日 (火)

投資一任契約と議決権保有者

Aファンド(例えばケイマン法人)が、多数の投資家から資金を集めて株式等で運用する(株式等を売り買いして利益を上げる)場合、B社(運用会社)と投資一任契約を締結して、運用をB社に一任するとします。

投資一任契約とは、金商法2条8項(金融商品取引業の定義規定)の12号ロで、

「当事者の一方〔B社〕が、

相手方〔Aファンド〕から、

金融商品の価値等の分析に基づく投資判断の全部又は一部を一任されるとともに、

当該投資判断に基づき当該相手方のため投資を行うのに必要な権限を委任されること

を内容とする契約」

と定義されています。

(なお、かかる「投資一任契約」に基づいて、有価証券に対する投資として金銭等の財産を業として運用すると、「金融商品取引業」になります。金商法2条8項。)

このような場合、投資家から集めた資金で購入した株式の議決権の行使も、(本来はAファンドが議決権を行使できるはずですが)B社に任せてしまう、ということもあるようです。

この場合、株式取得の届出との関係で運用先の議決権を保有しているのは、Aファンドでしょうか。それともB社でしょうか。

より具体的には、Aファンドが、投資資金の運用として、P社の議決権を20%を超えて取得した場合、届出義務があるのはP社の株主であるAファンドでしょうか、それとも、P社の議決権行使を委任されているB社でしょうか。

(なお、アメリカと違って、日本には投資目的の株式取得の届出を免除する例外規定はありませんから、投資目的の取得だというだけの理由で届出が免除になることはありません。)

正解は、Aファンドです。

以下、条文を確認してみましょう。

独禁法10条2項では、

「会社・・・は、他の会社・・・の株式の取得をしようとする場合・・・は、公正取引委員会規則で定めるところにより、あらかじめ当該株式の取得に関する計画を公正取引委員会に届け出なければならない。」

と、届出義務があるのは他の会社の株式の取得をしようとする者、すなわちAファンドであることが明らかです。

議決権を実際に行使するのが誰であるかに関わりません。

この点、EUでは、届出すべき「集中(concentration)」は実質的なコントロールが誰にあるのかをみる概念であるために、「集中」にあたるか否かの判断に際して、関係者間で締結されている議決権行使に関する契約の存在が考慮されることがあり得ます。

しかし、日本では、届出をすべき人は、あくまで「株式の取得」をしようとする者なので、契約上議決権が株主以外に与えられていても、届出との関係では考慮されません。

ちょっと誤解しやすいのが、株式を信託に入れている場合です。

つまり、独禁法10条2項では、

「・・・〔株式取得会社が〕株式の取得をしようとする場合

(金銭又は有価証券の信託に係る株式〔→ちょっと分かりにくいですが、信託財産として受託した金銭または有価証券の運用として取得した(する)株式ですね〕について、

自己〔=株式取得会社に相当する信託委託者または信託受益者のこと〕が、

①委託者若しくは受益者となり議決権を行使することができる場合

又は

②議決権の行使について受託者〔通常は、信託銀行ですね。〕に指図を行うことができる場合において、

受託者に株式発行会社の株式の取得をさせようとする場合を含む。)において、・・・」

となっており、信託銀行が信託財産として株式を取得する場合には、実質をみて、

委託者または受益者が、

自ら議決権を行使できる場合(①)

および

信託銀行に議決権行使の指図をできる場合(②)

については、当該「自己」(=委託者または受益者)が株式を取得したものとみなす、と取り扱われます。

さらに独禁法10条3項では、

「前項の場合において、

当該株式取得会社が当該取得の後において所有することとなる当該株式発行会社の株式に係る議決権には、

金銭又は有価証券の信託に係る株式に係る議決権

(委託者又は受益者が行使し〔上記①に相当〕、又はその行使について受託者に指図を行うことができるもの〔上記②に相当〕に限る。)

・・・を含まないものとし、【以上、前半】

金銭又は有価証券の信託に係る株式に係る議決権で、自己が、委託者若しくは受益者として行使し、又はその行使について指図を行うことができるもの

・・・を含むものとする。【以上、後半】」

と、【前半】では、

委託者または受益者が、

自ら議決権を行使できる場合(①)

および

信託銀行に議決権行使の指図をできる場合(②)

については、法律上の株式取得者である信託銀行の議決権にはカウントしないこととし、

【後半】では反対に、

委託者もしくは受益者が自ら議決権を行使できる株式(①)

および

委託者もしくは受益者が信託銀行に指図権を有する株式(②)

については、当該委託者または受益者の保有する議決権としてカウントすることとされています。

つまり、対象会社(ターゲット)の株式が信託に入っている場合には、実質を見て、議決権を行使できる者(必ずしも法律上の株主とは限らない)が、株式(議決権)を取得する(よって届出義務を負う)、という建て付けになっているのです。

しかし、信託においてこのような実質的な解決がなされているのは、まさに以上のような明文の規定があるからです。

投資一任契約に付随した議決権行使の委任、その他、契約上議決権行使の決定が第三者に委ねられているに過ぎない場合には、そのような明文の規定はありませんから、形式どおり(条文どおり)、法律上の株主が誰かによって、届出の有無を判定することになります。

なお、金銭又は有価証券の信託に係る株式の取得については、一定の場合(ざっくりいえば、取得したとみなされる者自身が取得の意思決定をしていない場合)に届出不要とされているので、一応注意です(届出規則2条の7第6項、7項)。

2011年8月 3日 (水)

ドル建て決済と下請法(と優越的地位濫用)

これだけ円高ドル安が進むと、為替差損の回避のために、サプライヤーからの購入代金をドル建てで決済したいと考える輸出企業も出てきそうです。

例えば、以前の為替レートが1ドル100円だったとして、部品1個100円(=1ドル)だったとします。

その後、円高で為替レートが1ドル70円になったとします。

この部品を使用した完成品を米国に輸出する完成品メーカーが、円建てで部品を調達し続けると、ドル・ベースでの当該部品のコストは、以前は1ドルだったのが、今は(1個100円で仕入れているとしたら)、1.43ドルとなり、大幅なコストアップとなります。

これに対して、部品の代金をドル建てで合意していれば(例えば、「1個1ドル」)、米国に輸出された完成品に占める当該部品のドル・ベースでのコストは、1ドル100円の時代も1ドル、1ドル70円の時代も1ドルで変わらない、ということで、完成品メーカーにしてみると、円高による損失をある程度回避できるわけです。

反面、円ベースで考えると、サプライヤーにとっては、以前は100円で売れた部品が、今は70円ということになり、3割も安くなってしまいます。

そこで、このようなドル建て決済が、下請法違反や優越的地位濫用にならないのか、検討する必要があるように思われます。

下請法で関係しそうなのは、下請代金の不当減額(下請法4条1項3号)で、同条では、親事業者は、

「下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請代金の額を減ずること」

をしてはならないとされています。

そこで、円高という下請業者の責めに帰すことが出来ない理由により代金額を一方的に減額(上記の例では、100円→70円)することになるので、ドル建て決済は下請法違反だ、という議論があり得るかもしれません。

しかし、私は下請法には反しないと考えます。

理由はいろいろ考えられますが、まず、金銭債務を外貨建てで合意することは、民法上も可能です。

そればかりか、民法403条では、

「外国の通貨で債権額を指定したときは、債務者は、履行地における為替相場により、日本の通貨で弁済をすることができる。」

とされており、債務者の側(=親事業者)が、外国通貨で決済するか円で決済するのかの選択権を有するのが、民法のデフォルトルールになっています(もちろん、民法403条は任意規定なので、債務者に選択権がない、必ず外貨で決済する、という合意をするのも有効です)。

このように、民法上、金銭債務の決済に外貨を指定することも認められており、さらに、デフォルトルールでは、外貨での決済を合意したときですら、債務者(=親事業者)に円で払うかドルで払うかの選択権まで与えられている(=為替リスクを債権者(下請業者)に負わせることができる)以上、下請法上でだけ、ドルでの決済を認めないという解釈は、かなり無理があるといえるでしょう。

(なお、民法のルールがこうなっているから、というのは、確かに絶対的な理由ではなく、例えば、まともに円との交換が成立しないようなマイナー通貨で決済するような場合は、民法上はそれで良くても、下請法上本当にそれで良いのか?という疑問はあります。ですが、少なくとも、米ドルとか、ユーロとか、豪ドルとか、中国元とかいった、まともな通貨で決済している限りは、下請法上も民法と同じように考えて良いと思います。)

文言解釈としては、下請法4条1項3号の

「額を減ずる」

というのは、

円建てで合意したときにはその円建ての額を減額(100円→70円)すること、

ドル建て合意したときにはそのドル建ての額を減額(1ドル→70セント)すること、

を意味するのであり、

ドル建てで合意したときに円に換算した額が減ったとしても、ドル建てでは何ら変わっていない(1ドル→1ドル)場合には、

「額を減」

じていない、という解釈になるのだと思います。

別の理由は、ドル建てで合意した場合に、円高が進めば、下請業者の円の受取額が減りますが(70円→60円)、逆に円安に振れることもあるのであり(70円→80円)、それは誰にも分からないことです。

さらに政策論としても、このようなドル建ての決済を下請法で禁止すれば、ますます国内産業の空洞化が進んでしまうのであり、公取委としても、そのような政策は取れないでしょう。

ちなみに、外資系法律事務所に勤める私の友人に、給料をドル建てで受け取っている人がいます。

それはそれで気の毒な話ですが、外国企業が日本で商品役務を購入する際に、為替リスクを避けるために自国通貨で決済したいと考えるのは自然なことです。

それを下請法違反、あるいは優越的地位濫用というのは、相当無理があると言えるでしょう。

にもかかわらず、同じこと(外貨での決済)を日本企業がやった途端に、下請法違反あるいは優越的地位濫用になる、というのでは、いかにも具合が悪いですし、日本企業が対等に外国企業と競争することができなくなってしまうでしょう。

このように、経済がグローバル化した今日において、海外で競争している企業の足を引っ張るような解釈を、競争法が取って良いはずはないと思います。

なので、競争法の一部と捉えるべき優越的地位濫用につては、ドル建ての決済も日本企業が海外で競争する上で必要なのであれば、優越的地位濫用の要件である、

「正常な商慣習に照らして不当に」(独禁法2条9項5号柱書き)

に該当しない、と考えるべきです。

逆に言うと、「日本国内での取引は円で決済するのが『正常な商慣習』だ」という理屈は成り立たない、ということです。

民法が外貨建て決済を認めていることも、外貨決済が「正常な商慣習に照らして不当」とはいえない理由になりうるでしょう。

なお、競争法と言うよりは弱者保護の法律である下請法については、下請いじめというだけで少なくとも立法趣旨には反すると言えなくもないですが、上述のとおり、

「額を減ずる」

という形式要件に該当しない以上、やはり違法とは言えないでしょう。

(その点、行為の外形での縛りが基本的に存在しない優越的地位濫用の場合と違うところです。)

なお、以上の考え方は、新規に下請業者と取引を開始するときのみならず、従来は円で決済していた下請との取引をドル建て決済に変更する場合でも、基本的に同様であろうと考えます。

もちろん、円建て決済の旧契約時に発注していた商品代金を、ドル建ての契約に変更した後に遡ってドル建てで決済したら、不当減額で下請法違反になることはあり得ます。

たとえば、6月1日に1個100円で発注した商品代金の支払いが残っている状態で、7月1日にドル建ての契約に変更したとします。

この場合に、7月1日時点の為替レートが1ドル80円だとすると、商品代金の変更をしない(1個100円)ことを前提とすれば、1個あたり1.25ドル、という代金で合意するのが自然でしょう。

しかし、その後、代金支払時点(例えば8月1日)で、1ドル70円まで円高が進んでいたとすると、ドル建ての合意単価である1.25ドルを支払ったのでは、円換算では、87.5円(=1.25×70)しか支払っていないことになります。

この場合には、1個100円で合意したのに、結果的に、87.5円しか支払っていないわけですから、不当減額といわれても仕方ないでしょう。

逆に円安(例えば1ドル90円)になったとすると、1.25ドル払えば、円換算では112.5円払ったことになるので、不当減額にはなりません。

ですが、円高に振れたか円安に振れたかで、円決済にするかドル決済にするかを区別するというのも面倒で現実的ではないので、円建て決済の契約時点での注文については、ドル建て契約に変更した後も、一律円で支払うのが良いでしょう。

その他注意すべき点としては、下請法4条1項5号の、

「下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること

というのも一応問題になり得ますが、円建てをドル建てにするときに、その変更時の為替レートを適用する限りは、結果的に急激な円高が進んでも、

「通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること」

に該当するとは言えないと思います。

これも理由は色々あり得ますが、急激に円高が進んだ場合には、円建てで「通常支払われる対価」のほうも競争圧力で下がっているはずであり、「著しく低い」には通常当たらないだろう、ということが挙げられます。

あと注意すべき点は、ドル建て決済をするときに、「為替手数料」とか、根拠のよく分からない金額を下請代金から差し引いたりすると、下請代金の不当減額に該当するおそれが大いにあります。

というのは、公取委の運用では、実質的に説明がつく減額か否かはさておき、こういう一律かつ形式的な代金の減額が、最も狙われやすいからです。気をつけましょう。

« 2011年7月 | トップページ | 2011年9月 »