下請法の役務提供委託について
下請法の役務提供委託(下請法2条4項)について、まとめておきます。
「役務提供委託」とは、
「事業者が
業として行う提供の目的たる役務の提供の行為の全部又は一部を
他の事業者に
委託すること・・・」
と定義されています(2条4項)。
(建設業者が建設工事を下請けに出す場合は除外されます。)
ざっくり言えば、製造委託のサービス版のようなものなのですが(製造委託では製造を委託するが、役務提供委託では、役務の提供を委託する)、きちんと定義をみてみましょう。
まずこの定義は、
①ある会社(A社。「親事業者」という)が、
②そのお客さんから、役務提供を受注し(運送サービスでも、メンテナンスサービスでも、何でも良いです)、
③受注した役務提供の全部(つまり、丸投げ)または一部(一部下請)を、
④他の事業者(下請業者)に委託する、
という構造になっています。
つまり、親事業者と、そのお客さんと、下請業者の3者が登場します。
いいかえれば、下請に出される役務が、親事業者がお客さんから受注した役務(の全部または一部)であることが必要です。
例えば、東京に本社のある運送会社(A社)が、大阪のお客さんから、
「大阪から東京まで荷物を運ぶ役務」
を受注したとします。
このときに、A社が、名古屋に本社のある別の運送会社(B社)に、大阪から名古屋までの運送を委託したとすると、役務提供委託になります(名古屋から東京までは、自分で運ぶ)。
なぜなら、「大阪から東京まで荷物を運ぶ役務」には、「大阪から名古屋まで荷物を運ぶ役務」が含まれるからです。
逆に言うと、下請業者に委託する役務が、
親事業者がお客さんから受注した役務(条文の文言では、「〔お客さんへの〕提供の目的たる役務」)
に含まれない場合には、「役務提供委託」にはなりません。
例えば、オフィスビルのオーナーが、ビル内のトイレの掃除を清掃業者に委託しても、別にそのオーナーがテナントやビルへの訪問者からトイレの清掃業務を受注しているわけではありませんので、「役務提供委託」にはなりません。
なお、これを、「自ら用いる役務の委託に該当するので『役務提供委託』に該当しない」と説明されることがありますが、「自ら用いる役務」というのは、「他から受注した役務ではない」というのを、一般へ分かりやすく説明したものであり、論理的には(条文の文言上は)、「自ら用いる」か否かが決定的なのではなくて、「(お客さんへの)提供の目的たる役務」か否かが決定的です。
ところが、実際には、「親事業者がお客さんから受注した役務」といえるのかどうか、微妙な場合が少なくありません。
例えば、公取委のホームページのQ&Aにある例ですが、
「Q24 ソフトウェアを販売する事業者が,販売したソフトウェアの顧客サポートサービスを他の事業者に委託することは役務提供委託に該当するとのことですが,無償のサポートサービスの場合も含まれますか。
A. ソフトウェアを購入した顧客に対するサポートサービスの提供は,無償に見えても対価は当該ソフトウェアの販売価格に含まれていると考えられるので, サポートサービスを他の事業者に委託することは下請法の対象となる役務提供委託に該当します。 」
というのがあります。
しかし、これはちょっと説明が必要ですね。
まず、この親事業者(ソフトウェア販売業者)が、たんにお客さんにソフトウェアを売っているだけ、と考えると、サポートサービスは「親事業者がお客さんから受注した役務」には該当しません。
ですので、この設問は、サポートサービスが、ソフトウェアのライセンス契約に含まれていて、このソフトウェア販売会社がソフトウェアの購入者からサポートサービスを受注していることが前提になっている、と考えるべきです。
(ところで、そいういうサポート義務を負うのは、ふつうソフトウェアメーカーであって、販売店ではないのではないか?という疑問が湧きますが、たぶんこの設問のメインの関心事ではないので、割愛します。)
その他には、
「Q19 メーカーが,ユーザーへの製品の運送を運送業者に外注した場合には,下請法の対象となりますか。
A. メーカーがユーザー渡しの契約で製品を販売している場合,運送中の製品の所有権がメーカーにあるときは,当該運送行為は製品の販売に伴い自社で利用する役務であるため,役務提供委託には該当しません。
下請法の規制対象となる役務提供委託に該当するのは,他人の所有物の運送を有償で請け負い,他の事業者に委託する場合に限られます。」
というのがあります。
(なお、この設問では、受注した役務は有償の場合に限るとされていますが、公取委職員の手による粕渕「下請法の実務(第3版)」p26では、製造委託についての説明ではありますが、「業として」というのは、「営利事業以外の行為・・・であっても構わない」と、逆のことをいっています。ホームページの方が、公取委の公式見解ということなのでしょう(事務総長通達・「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」にも同旨の記載あり)。条文解釈としては疑問ですが。)
この設問をもっと一般化すると、本屋さんで本を買って家まで郵送してもらう場合とか、デパートでスーツを仕立てて家まで郵送してもらう場合、「郵送」の部分を運送業者に委託したら役務提供委託なのか、という問題です。
あるいは、通販で、通販業者が配送の部分だけを運送業者に委託するという例でもいいでしょう。
この設問では、製品の所有権が誰にあるかで決まるとしていますが、条文の根拠がありませんし、理屈としてもおかしいと思います。
もし所有権が誰にあるかで決まるなら、例えば、(代金支払時に所有権がお店からお客さんに移転する前提で)、
代金先払いであれば、運送前に所有権はお客さんに移転しているので役務提供委託ではなく、
後払い(あるいは着払い)であれば、運送時の所有権はまだお店にあるので役務提供委託になる、
という、わけの分からないことになってしまいます。
やはりここは、お客さんはあくまで物を買うのが主な目的だったのであって、お店は運送役務を受注したわけではない(配達は、あくまでおまけ)、したがって配達を運送業者に委託しても役務提供委託ではない、と説明すべきだと考えます。
いずれにせよ、理屈はともあれ、上記設問からは、例えばアマゾンで本を買う場合に、アマゾンが運送を他の業者に委託しても、「役務提供委託」には該当しない、というのが公取委の見解であろう、ということは言えます。
(実際には、運送会社も大手でしょうから、資本金要件のために下請法が適用されないことが多いのでしょうけれど。)
さらに微妙なQ&Aに、
「Q21 医療法人が患者の検査を行い,検査結果の解析を外部に委託する取引は,役務提供委託に該当しますか。」
というのがあります。
回答は、
「A. 治療行為の参考とするために行われる検査は,医療法人が自ら用いる役務であるので,役務提供委託に該当しませんが,
人間ドック,健康診断等の委託を受けて行う検査の場合には,その検査結果の解析を委託することは下請法の対象となる役務提供委託に該当します。 」
とされています。
前半の、
「治療行為の参考とするために行われる検査」
の場合には、あくまでお医者さんが患者さんから受注(この文脈にはそぐわない言葉ですが、ご容赦を)したのは、病気を治すとかいった治療サービスであって、検査を受注したわけではない、検査はあくまで、治療サービスに必要になるから行われたのだ、ということなのでしょう。
(ここでも、「自ら用いる役務であるので」という説明がされていますが、「親事業者がお客さんから受注した役務」であるか否かが決定的です。)
これに対して後半の、
「人間ドック,健康診断等の委託を受けて行う検査の場合」
には、まさに検査自体を患者さんから受注しているので、これを外注すれば、役務提供委託に該当する、という理屈です。
こうみていくと、
「親事業者がお客さんから受注した役務」
なのか、
「『親事業者がお客さんから受注した役務』に必要な役務」
なのか、微妙な場合はけっこうありそうです。
ところで、今ちょっとウェブで検索したら、
「専門商社に勤めています。・・・
カタログ製品の売買が主ですが、客先に販売した装置・設備の定期点検、検査、保守を業者に発注して行うことがあります。・・・
定期点検や検査、保守などは、役務委託に該当するのでしょうか?」
という質問に対して、
「・・・自社の販売した製品の定期点検や検査、保守など顧客へのサービスを下請事業者に委託するものなので役務提供委託に該当します。」
と回答されているのがありました。
これも、結論は合っていますが、理由が変ですね。
「自社の販売した製品」かどうかは、問題ではありません。
「お客さんから受注した役務」なのかどうかが問題なのです。
この質問の文脈では、当然、定期点検や検査、保守のサービスも、「お客さんから受注」しているのでしょう。
ですが、もし他社が販売した製品の保守、点検を依頼されて、それを外注した場合でも、やはり「お客さんから受注」したことには変わりはないので、役務提供委託に該当することは明らかです。
やはり、法律の問題は、専門家に尋ねた方が良いと思います。
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