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2011年7月 4日 (月)

平成22年度相談事例集

6月22日に、「独占禁止法に関する相談事例集(平成22年度)」が公表されましたので、気がついたことをメモしておきます。

事例1は、見込み違いで大量の売れ残りが出た商品を原価割れで販売しても不当廉売にならないか、という相談ですが、いつもの公取委の運用どおり、こういう場合は、

「正当な理由」(独禁法2条2項3号)

に該当するので、不当廉売にあたらない、と回答しています。

結論はそれで構わないのですが、不当廉売ガイドラインの(事例集にも引用されています)、

「商品の市況に対応して低い価格を設定したときは、『正当な理由』がある」

という法律構成は、私にはしっくりきません。

コスト割れ要件は行為要件で、市場価格割れは対市場効果要件(公正競争阻害性)で判断する、と分かれるのが、分かりにくい気がするのです。

端的に、「コスト割れ」の、「コスト」というのを、仕入価格(歴史上のコスト)ではなく、販売時点での再調達価格(将来コスト)であるとか、考えられないものでしょうか(そうすれば、基準の「コスト」のほうも下がっているので、不当廉売にならない)。

事例2は、国内繊維メーカーが外国繊維メーカーの総代理店になることが問題ないとされた事例ですが、

X社〔外国メーカー〕とY社〔国内メーカー〕が競合する関係になった場合は、独占禁止法上の判断が変わり得る。

というのは大事な点だと思います。

こういう事案に限らず、実務で相談を受けていると、「今はシェアが低いから問題ないけど将来30%超えるくらいになったら危ないですよ」というようなケースがけっこうあります。

将来のことを見越してアドバイスする必要があるのが独禁法の特徴です(金融の世界の意見書みたいに、山ほど前提事実を書いて意見書を出すのでは、意味がない)。気をつけましょう。

事例3は、競合するメーカーから全量OEM供給を受けるのが不当な取引制限にあたらない、とした事例です。

結論は問題ないと思うのですが、

「本件OEM供給によってX社の製品ラインナップが充実すれば、2社間の販売競争が活発化することが期待されること」

っていう認識は、ちょっと甘いのではないでしょうか。

もしそうなら、OEM供給するY社は、競争が活発化することによって割を食うのを見越して、高い値段でX社にOEM供給するのではないでしょうか。

また、X社にとってはフルラインナップを揃えることが重要なようで、そうすると、X社には、相当高い価格(当該商品だけを見れば原価割れ販売になるか、ほとんど利益の出ない仕入価格)でもOEM供給を受けるインセンティブがあります。

だからといって、本件が独禁法上問題ありとされる可能性は無いことに変わりはないのですが、理由付けはきちんとしたいものです。

OEMの独禁法の問題点については、以前このブログで書いたことがありますので、ご覧いただければと思います。

ポイントは、OEMは競合社間というヨコの関係で行われることが多いので不当な取引制限に該当するように見えるけど、OEMという取引自体はタテの関係である、ということです。

事例4は、複数の映像コンテンツメーカーが法人ユーザー向け営業活動(もちろん価格交渉も)を一括して行わせることが不当な取引制限に該当しうるとした事例です。

これは、ほとんど露骨なカルテルですね。ダメでも仕方ないでしょう。

相談事例集に、

「販売価格の下落を避けるため」

と書かれていますが、当事者がこのとおり言っていたとしたら、正直ですね。

正直なことは大切ですし、私も正直を旨としていますが、公取委に相談にいくときには、理論武装もしてから行きましょう。

事例5は、広告の媒体複数社が、1つの広告内に2種以上の商品を扱う広告を引き受けることを制限する基準を共同で定めることが、不当な取引制限にあたりうる、とされた事例です。

これも、違法と言われても仕方ないでしょうね。

「複数の商品が1つの広告に載っていると消費者の誤解を招く」という相談者の主張も、弱いですね。

「消費者の誤解を招く」というのは、競争を避けたい事業者の常套文句です。

「ガソリンの価格を店頭で表示したら、消費者の誤解を招く。」

というので、地域のスタンド共同で店頭表示をしないことにした、という例を昔ニュースで見たことがありますが、さっぱり意味が分かりませんでした。

本件は、「2種類以上の商品が載った広告の掲載」という役務を提供しないことを合意した数量制限カルテルと構成してもよいし、より端的に言えば、広告主にとってよりコストが安くより効果の高いサービスの提供をしないことを共同で合意した、ということでしょう。

事例6は、1人住まいの学生向けに新聞を割引販売しても、定価からの割引を禁止した新聞特殊指定に違反しない、としたものです。

学生であれば、新聞に支払ってもよいと思う価格(留保価格)は低いでしょうし、一人暮らしというのも、留保価格が低いことを伺わせる要素です(他に読む人がいないので)。

私は、差別対価は一般的に競争促進的なので、新聞特殊指定自体が競争制限的だと思いますので、本件が問題なしとされたのも、当然だと思います。

特殊指定があるために、学生の活字離れとか、いろいろ理屈をこねないといけなくなるとうのは、そもそもの政策が間違っているときには辻褄合わせで余計な議論をしないといけなくなる、という例ですね。

事例7は、電子コンテンツ著作権者の団体が、コンテンツの許諾料の算定基準となる標準掛け率を表明することが、不当な取引制限にあたるおそれがある、とした事例です。

目安を示すだけで、強制するわけではないのに、独禁法違反とするのは厳しいと感じる方もいるでしょうが、仕方ないのでしょう。

単に目安なら良いとか、一括りにはできない問題があり、実は意外と難しい問題です。

我々弁護士の業界も、昔は報酬基準というものが各弁護士会から出ていましたが、独禁法違反のおそれがあるのではないかということで、今は存在しません。

でも、弁護士報酬基準の場合は、実態としても目安に過ぎなかったので、とことん詰めて考えれば、独禁法上問題なし、という主張も可能だったかもしれません。

その一方で、弁護士業務の中にもコモディティ化したサービスがあり、そのようなものについては価格安定効果があるではないか、といわれれば、そのような気もします。

本件の「電子コンテンツA」というのも、きっとそのような価格安定効果が見込まれる商品だったのでしょう。

事例11は、事業者団体による高額なポイント付与自粛要請が独禁法違反になるおそれがあるとした事例です。

ポイント付与というのは実質的な値引ですから、本件は値引の禁止を要請したに等しく、違法となっても仕方ないのでしょう。

ところが本件で興味深いのは、ポイント対象商品(商品A)が、「法令によって定められた対価を顧客から受領することが義務づけられている」商品だった、という点です。

そうすると、ポイント付与は、脱法行為だったのではないのか?そいういう脱法行為の自粛要請を独禁法違反とすると、脱法行為を独禁法が推奨することにならないか?という疑問が湧いてきます。

本件のいきさつも、商品Aの専売業者を会員とするY協会が、日用品も含めて売る業者を会員とするX協会に苦情を申し入れて、X協会が公取委に相談した、というものです。

要するに、専売業者はポイントをつけて商品Aに還元することが、法律違反のおそれがあるためできないのに、日用品販売業者は、商品A以外にポイントを還元することで、実質的に商品Aの値引を行っている、という構図です。

こういう構図を見ると、そもそも商品Aの小売価格が法律で決まっているというのが、矛盾の根本的な原因でないかという気がします。

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